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映画『幸福城市』

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【2018年/台湾・中国・アメリカ・フランス/107min.】
2049年冬のある晩。
初老の張冬陵は、医師に成りすまし、病院内で、政治家・石志偉が入院する個室に潜入。
目を覚ました石志偉は、見知らぬ男がベッド脇に立っていることに困惑。
それが、あの張冬陵だと気付いても、時すでに遅し。
張冬陵は、枕で石志偉の顔を押さえ付け、息の根を止める。
病院をあとにした張冬陵は、続いて妻・玉芳の交際相手を殺害し、帰宅すると、
玉芳はすでにその事を知っており、二人は口論に。
感情を抑えきれなくなった張冬陵は、玉芳の首にあてた手を緩めず、彼女はそのまま息絶える…。

遡ること30年。
警察官の張冬陵は、気を利かせた同僚の勧めで、巡回を抜け出し、
妻・玉芳を驚かせようと、自宅に立ち寄ったがばかりに、彼女の浮気現場を目撃してしまう。
あろう事か、浮気の相手は、張冬陵の上司・石巡査部長であった…。



第19回東京フィルメックスのコンペティション部門で上映された何蔚庭(ホー・ウイディン)監督最新作。
原題は『幸福城市〜Cities Of Last Things』 。

1971年生まれの何蔚庭は、ニューヨーク大学で映画を学んだ後、ニューヨークとシンガポールで働き、
2001年からは台湾を拠点に活動するマレーシア出身の華人映画監督。
これまで、日本で監督作品が正式に公開されたことは多分無いはず。
私自身、NHKアジア・フィルム・フェスティバルで『ピノイ・サンデー』(2010年)を一本観たことがあるだけ。

この新作の『幸福城市』は、今年、第55回金馬獎にて、4部門にノミネートされ、
内、最佳女配角(最優秀助演女優賞)を受賞。(→参照
その授賞式から間も無く開催のフィルメックスの上映には、
何蔚庭監督が来日して、Q&Aを行ったので、私も観に行ってきた。




本作品は、張冬陵という男性の人生の転機を、3ツの時代に分け、
2049年から遡り、3部構成で描く愛憎の人間ドラマ

幕開けは、2049年の近未来。
初老の張冬陵は、このパートで、3人の女性と関わる。
一人は水商売の白人女性、一人は娘、そして一人は妻。

張冬陵は、病院に潜入し、どういう事情でか、入院中の政治家・石志偉を殺害。
風俗店で指名した若い白人女性には、“アラ”という女性を重ね、過去を偲び、肉体関係を持とうとしない。
さらに、海外移住前で忙しい娘を、勤務先まで訪ね、
「落ち着いたら一緒に暮らしましょう。もうお母さんと離婚してあげて」と諭されるも、
妻の恋人を殺し、帰宅すると、妻・玉芳と口論になり、結局玉芳のことも手にかけてしまう。

作品は、この初老の張冬陵を、、働き盛りの青年期、18歳の学生時代と遡っていくことで、
彼がなぜあの政治家を殺害し、妻・玉芳にどういう感情を抱き、どのように白人女性アラと出逢い、
後年あのような張冬陵になったのかを紐解いていく。

ただ、張冬陵の人生観や女性観に最も強く影響したであろう女性は、
妻でも娘でもアラでもなく、最後のパートに登場する王秋霞であろう。
何かしらの事情があり、まだ幼かった張冬陵を置いて、家を出て、それっきりになっていた彼の実母である。
人生で数多くの女性と関わっても、男性にとっての原点は、良くも悪くも母になる。
この映画は、人生で、母をはじめとする数人の女性に複雑な感情を抱き、執着し続け、
結果、破滅していった男の物語とも言える。


タイトルの『幸福城市』とは程遠い悲惨なお話。
何蔚庭監督は、台湾の広告に溢れかえる“幸福〇〇”というキャッチコピーを皮肉って、
この作品を『幸福城市』と名付けたようだ。
確かに、『幸福城市(=幸福な街)』というタイトルが白々しく、虚しくカラ回りして感じられる悲惨な物語…。

ちなみに、『ピノイ・サンデー』の中には、台湾のド派手な選挙戦の模様がチラリと描かれているのだが、
あれは、マレーシア人・何蔚庭監督の目に奇怪に映った台湾の光景として、作品に取り入れたみたい。
広告の“幸福〇〇”もだけれど、
何蔚庭監督の作品には、生粋の台湾人監督が撮る台湾映画とはちょっと違った
異邦人目線の台湾がやはり少し取り込まれているのかも。
私自身が台湾人ではなく、何蔚庭監督と同じように、異邦人目線で台湾を傍観しているわけだから、
何蔚庭監督描く台湾は、より“台湾らしい台湾”に感じられることがある。



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舞台となる街は、台湾の街だと感じさせるが、敢えて特定はしていない。
(南国台湾らしからぬ、雪も降っているし。)
この映画、英語のお題は『Cities Of Last Things』。
単数の“City”ではなく、複数の“Cities”であることからも、
映画の中で描かれているような話は、ある街限定ではなく、
いたる所で起こり得る普遍的な悲劇であることを意味しているのかなぁ〜と想像。
ちなみに、撮影は、高雄などで行った模様。


作中、印象的に使われている歌は、
劉文正(リウ・ウェンジェン)、80年代のヒット曲愛不要給太多〜Don't Give Me Too Much Love>。


何蔚庭監督は、タイトルが物語の内容に合うと感じ、この曲を採用。
ほのぼのとした懐メロの旋律が、悲惨な物語に素っ頓狂に響き渡り、
タイトルの『幸福城市』同様、とてもシニカルに感じられる。





主人公・張冬陵を演じる3人は(↓)こちら。

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第1部・初老の張冬陵に高捷(ガオ・ジェ)、第2部・働き盛りの警官・張冬陵に李鴻其(リー・ホンチー)
そして、第3部・18歳の張冬陵に謝章穎(シエ・ジャンイン)

一人の人物を3人の俳優が演じているわけだが、それら3人は、正直言って、あまり似ていない。
(強いて言えば、李鴻其と謝章穎の二人は、なんとなく感じが似ているかも…。)
首の後ろのアザで、3人が同一人物だと、観衆に分からせる。
何蔚庭監督は、似ている/似ていないより、自分好みの俳優をキャスティングしたのでは。

高捷に関しては、「台湾で、タフガイと言ったら、高捷しか居ない!」という事で起用。
確かにね、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督など全盛期の台湾映画が好きな世代にとって(私を含む)、
黙して背中で語る“不器用ですからぁ”系台湾人俳優と言ったら、高捷である。
人生で幾度となく裏切られ、内面に色んなオリを溜め込んで生きている本作品の孤独な張冬陵も、
高捷の個性に合っている。


2番目の李鴻其は、張作驥(チャン・ツォーチ)監督の『酔生夢死』(2015年)でデビューし、
その年の金馬獎で新人賞を受賞し、注目されるようになった俳優。
お世辞にも美男とは言い難いため、
“台湾の文芸作品の脇で重宝される俳優”くらいに納まってしまうのかと思いきや、
その後、大陸の事務所とマネージメント契約を結び、畢贛(ビー・ガン)監督の
『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト〜地球最後的夜晚』のようなアート系話題作から、
中国版『ナミヤ雑貨店の奇蹟』のようなエンタメ作にまで幅広く起用され、
半端にルックスの良い台湾アイドル俳優たちより、余程良い仕事を得て、着々とキャリアを積んでいる。
本作品では、“裏切られパート”を担当。
警察官になり、“良き人”であろうとする張冬陵だが、妻・玉芳に浮気され、
しかも、その相手が自分の上司・石志偉で、石志偉から仕事でも理不尽な目に遭わされ、
心をズタズタに打ちのめされてしまう。
1990年生まれ、現在28歳の李鴻其が、実年齢よりずっと若く見えてしまうのは、
良いのか悪いのか、よく分からなかった。
李鴻其に、踏みにじられた青年役は、とても合うのだけれど、妻帯者の雰囲気には、やや欠けるかも。


3番目の謝章穎は、本作品が銀幕デビューの若手。
第55回金馬獎では、3年前に李鴻其が受賞した最佳新演員(最優秀新人賞)にノミネート。
本作品では、“憤りパート”を担当。心の中に抱えているのは、若者らしい鬱憤。
幼かった自分を捨てた“瞼の母”に対し、恋い慕う気持ちと怒りの入り混じった複雑な感情を抱いた18歳。
新人・謝章穎に関する情報は、今のところあまり出回っていないのだが、
今年20歳で、撮影当時は、役の張冬陵と同じ高校生。
これまた役と同じで、謝章穎はまだ1〜2歳の頃に両親が離婚しており、
祖父母のもとで育てられたのですって。
自分の状況と重ね、張冬陵を演じ易かったかもね。
ちなみに、謝章穎が目標とする俳優は、彭于晏(エディ・ポン)と黃渤(ホアン・ボー)なのだと。
この二人の共通点が、私には分からない。
時には、彭于晏のように、肉体を駆使して動ける二枚目を演じられ、
時には、黃渤のように、コメディ対応できる実力派でいたい、…って事??



他には、(↓)このような俳優が出演。

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警察官の張冬陵が、ひょんな事から出逢い、一時を共に過ごす白人女性アラにルイーズ・グリンベルク
張冬陵の妻・玉芳に劉瑞(リュウ・ルイチー)
張冬陵の上司である巡査部長・石志偉に“石頭(ストーン)”こと石錦航(シー・チンハン)
張冬陵の実母“王姐”こと王秋霞に丁寧(ディン・ニン)等々…。


ルイーズ・グリンベルクは、青年期の張冬陵が出逢うアラと、初老の張冬陵が会う風俗嬢の一人二役。
物語や役の質は全然違うのだけれど、
台湾人の男の子とフランス人の女の子が一緒の画面に映っているというただ一点だけで…

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楊昌(エドワード・ヤン)監督作品『カップルズ』(1996年)を重ねてしまった。
ちなみに、『カップルズ』の男女は、柯宇綸(クー・ユールン)&ヴィルジニー・ルドワイヤン。


劉瑞は、近年、台湾偶像劇の母親役に重宝されちゃって、実はあまり映画には出ていないのだが、
久し振りにスクリーンで見たら、上品な美しさと凄みに、香港の惠英紅(カラ・ワイ)に近いニオイを感じた。

この劉瑞扮する玉芳の交際相手は…

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どうも当初、張國柱(チャン・グォチュウ)が演じるはずで、クランクインの時には居たのに(画像右端)…

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いつの間にか選手交代して、林明森(リン・ミンセン)になっていた。
それにしても張冬陵の女房は、熟年になっても、ヒョウ柄のボディコン着て濃密社交ダンスとは、
なんともホットな女性ですねー。


イメージを覆す役に挑んでいるのは、五月天(メイデイ)の石頭。
演じてる石志偉は、部下・張冬陵の妻を寝取り、バレたところで、焦りも畏縮もせず、
それどころか、追い打ちをかけて張冬陵をズタズタにするクズ中のクズ。
ベッドの上で、お尻も丸出しにしております。
ミュージシャン石頭は、出演作こそまだ少ないけれど、
映画に出演する度に、それまでのイメージを覆す難しい役に挑んでいる。
今後は、演技のお仕事の比重も徐々に増やし、任賢齊(リッチー・レン)のような道を歩んで行くのだろうか。
任賢齊には、ずっと“良き家庭人”のイメージがあり、
悪役をするようになったのは、俳優業を始めてから、かなり経ってからだったが、
その点、石頭は、イメージをかなぐり捨てるのが早いですね。


そして、丁寧。
“ていねい”と書いて、“ディン・ニン”と読む。“丁”が苗字で、“寧”が名前。
中国の有名卓球選手にも、同姓同名の女性がいますよね。
この丁寧が、本作品の王姐役で認められ、
第55回金馬獎にて、最佳女配角(最優秀助演女優賞)を受賞。(→参照

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おめでとうございます!
映画を観て、丁寧の受賞に納得した。
私、“台湾社会の底辺で這うように生きる女”を演じさせるなら、
柯淑勤(コー・シューチン)の右に出る者は居ないと思っていたけれど、
丁寧のウラブレッぷり、スレッ枯らしっぷりも、かなりのものであった。





本作品の一番の特徴である、時間を遡って描く手法に関しては、
正直なところ、まったく目新しさは感じなかったし、最後にハッとさせられることも無かった。
何蔚庭監督自身、この手法を“自分があみ出した斬新な手法”などとは言っておらず、
フィルメックスのQ&Aでも、「最初にこの手法が使われた作品は、
恐らくジェーン・カンピオン監督の『ルイーズとケリー〜Two Friends』(1986年)。
私はギャスパー・ノエ監督の『アレックス』(2002年)が好きで、
自分もこの手法で撮ってみたかった」と語っている。

目新しさも驚きも無いから、つまらなかったかというと、そんな事もなく、
作品が醸す雰囲気は、結構私好みであった。
生粋の台湾人監督が撮る昨今の台湾映画より
台灣新電影(台湾ニューシネマ)の頃のニオイを感じたのは、
前述のように、何蔚庭監督が台湾の異邦人で、
非台湾人目線で、台湾映画に触れてきた人だからなのかも知れないと感じる。



第19回東京フィルメックス
『幸福城市』上映終了後に行われた何蔚庭監督のQ&Aについては、こちらから。

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