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[らくだ]
「まったく馬鹿なやつだな。人にばっかり頼ってるからそうなるんだよ。最初っから他人の善意なんて期待しなけりゃいいんだ。そうすりゃ傷つきもしないだろ。」
らくだの目をした男が言う。
なんだよ。らくだのくせに。
わかったようなこといって。
聞いたことあるぞ。らくだって砂漠で、それもサハラ砂漠とかの大きな砂漠でさ、乗せた旅人を振り落として、遠くからじっと様子を伺ってさ、で、乗ろうと近づくと、ひょいと逃げて、また離れたところから様子を伺ってるの。
で苦しむ旅人をみて、歯茎をみせて笑うんだって。
そういうやつなんだよ。
臆病者で、無能で、自分からは何もしないくせに批評だけは一人前の卑劣なニヒリスト。
ひとこぶだかふたこぶだか知らないが、最悪だ。
砂漠じゃ人は生きられないことを知ってるくせに。
その点俺たちは違う、人は人を尊重して、愛して、
名も知らない誰かのために、命を張ることさえあるんだぜ。
なんだよ。らくだのくせに。らくだのくせに。
「まあ、優しく見える人ってのは結局最後は自分に一番優しい人のことなんだからな。
と、らくだの目をした男は突然神妙な顔でそう言って、
その後、くさい息を吐きながら、歯茎を見せて笑った。
そんな表情を見ていると、確かにらくだのいうことにも一理ある気がしてくる。
俺も、「まあそうかもな」とつぶやき、
同じようにニターっと笑って見せる。
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[チェニジアの犬]
チェニジア風の犬が歩いている。
ふわふわとして、どこかとらえどころの無いような。
気難しいような、それでいて、従順なような。
白い、小さな犬だ。
チェニジアのことは良く知らないし、
行ったこともないけれど、
あれはきっと
スペインからの船団が地中海を渡り、チェニジアの港に入るときに、
一番最初にはためかせた先頭の
船の旗のような気高さをまとった、
チェニジアの犬だ。
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