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スペイン旅行の最終訪問地は,バルセロナである。
この街には,歴史的な建築物や美術館が目白押しで,それらを観たい
のは勿論であるが,予てから,チャンスがあれば是非お会いしたいと
思っていた人がいる。手作りの豆腐屋さん "TOFU CATALAN" を開業
している清水建宇さんである。
http://www.tofu.gr.jp/
私の妻は清水さんの大ファンで,テレビ朝日の 『ニュースステーション』
のコメンテーターであった時代から,その笑顔と温和な話しぶりに魅せ
られていた。
私自身は,大学の事務局で働いていたため,清水さんが朝日新聞の
発行する 『大学ランキング』 の編集長であった時代から,お名前は良く
存じ上げていた。
最近は,清水さんは,TBSラジオで毎週土曜日の午後に放送されて
いる 『久米宏 ラジオなんですけど』 に電話出演して,スペイン事情を
リポートされることがあり,いつも興味深く拝聴していた。
というわけで,今回,清水さんとの面会が実現して,感無量である。
お店でレジを担当されている奥様に,『久米さんの番組を聴いて,訪ねて
きました』 と申し上げると,インターホンで 『お父さ〜ん,久米さんの番組を
聴いてくださった方が見えましたよ』 と連絡する。
すると,お店の奥から,あの笑顔の清水さんが,白いゴム長靴と作業着姿で
現れた。きょうの豆腐作りが一段落して,製造機器の掃除と明日の準備を
されていたのであろう。
清水さんは,思っていた通りの気さくな方で,千客万来でお忙しい中,色々な
お話を聴かせてくださった。
取材で訪れたバルセロナの街の魅力に惹かれて,第二の人生はこの街で
生きようと決心したこと,異国での苦労は警視庁記者時代の苦労に比べれ
ば何でもないこと,子供には早く自立せよと言い聞かせてきたこと,などなど。
そして,極め付きの一言 ―
『私は,豆腐とがんもがあれば,何も要らない!』
なるほど,それじぁ,異国に住むならば,自分で豆腐を作るより他あるまい。
しかし,だからといって,そんなことは簡単にできることではない。
これだけのお店を構える,店主のあの笑顔は,並々ならぬ苦労と努力の
結晶なのだと思われた。
お店は,それほど広くはないが,ショーケースに陳列されている品々は
日本の食品で一杯で,種類も多様である。何れも,清水さんが自ら品定め
して,厳選したものばかりである。その中で目を惹くのは,手作りの豆腐と
弁当である。
夕食用に,とんかつ弁当,豆腐の照り焼き弁当と一緒に,木綿豆腐一丁と
油揚げ数枚を買って帰り,ホテルで食べた。これらは,みんな清水さんの
手作りである。
豆腐は,持参して行った醤油とワサビで食べたが,いやぁ,絶品である。
久しく忘れかけていた,大豆の風味を想い出させてくれた。
油揚げは,残念ながらオーブントースターがないため焼き目をつけることは
出来なかったが,電子レンジで温め,醤油をたらして食べた。これも実に
美味しかった。
バルセロナのワインとともに,日本食の神髄を堪能した。
東京の拙宅の近くにも,老夫婦が開業している手作り豆腐屋さんがあり,
そこの豆腐は,スーパーマーケットで売っている豆腐とは全く別物と言って
良いほど,大豆の味と風味があった。
その豆腐屋さんも後継ぎがいないようで,1年ほど前に閉店してしまい,
淋しい想いでいたが,まさかスペインのバルセロナで,手作りの豆腐に
出会えるとは,信じられないことだった。
バルセロナの街を離れる前の日,あいさつにお店を訪ねると,奥様は
『バルセロナは如何でしたか』 と笑顔で迎えてくださり,『ここ,バルセロナで
3年は頑張らないと・・・』 と仰る。
遥かスペインでの豆腐作りには,困難なことが多いと思われるが,あの
豆腐の味は,在留邦人だけではなく,現地のスペインの人々からも絶大な
支持を得ること,間違いない。
清水さんご自身は,現役時代に仕事でバルセロナを訪ね,この街の魅力から
離れられなくなり,2回か3回,奥様を現地に案内して,この街で豆腐屋さんを
開くことに理解を求めたのだと言う。
奥様は,ご主人の熱い想いに抗することができなかったのであろう。
否,自らの夢の実現に向けて,着々と準備を進めるご主人の姿に感動し,
そして信頼し,共に生きようと決心したのであろう。
バルセロナの佇まいと空気には独特のものがある。
清水さんによれば,それは,この街が位置している 『カタルニア』 の歴史が
醸し出すものだと言う。私は,初めてこの街を訪れたが,清水さんの熱い
想いが分かるような気がした。
1週間ほどの滞在で見たものは,この街の限られた一部分であることは
十分に承知しているが,国の財政危機が叫ばれながらも,歴史に裏打ち
された人々の自信が醸し出すのであろうか,この街では時間が悠然と
流れているように感じられた。
人々は日々の生活を楽しんでいるように見えた。
ところで,"TOFU CATALAN" の入口の暖簾に,『とうふ』 の文字が入って
いるのは当たり前だが,左下に 『東風』 の二文字が入っている。
『東風』 を何と読ませるのか,伺うのをすっかり忘れていた。
『とうふう』 と読ませて,『とうふ』 と並べて,頭で韻を踏むのか。
それとも,読み方はともかく,東からの風 『こち』 に乗せて,遥か日本から
スペインに旨いものを運んできたと言う清水さんの想いを表したのか。
帰国後,いろいろ思い巡らしている中,中国国際放送のサイトで,次の
ような説に接した。
南宋の詩人・眞山民が詠んだ漢詩の中に,『東風厚薄無く 例に随いて
衡門に至る』 という一節があり,この場合の 『東風』 は 『とうふう』 と
読ませて,『春の風』 を意味しているという。
http://japanese.cri.cn/781/2012/03/30/Zt163s189886.htm
春のように温暖な気候のバルセロナの街に惚れ込んだ清水さんは,その
心情を春の風 − 『東風』 の二文字に託して吐露したのかも知れない。
手作りの豆腐屋 『TOFU CATALAN』 は,バルセロナの街に良く似合う。
清水さんご夫妻の健康と益々の繁盛を祈っている。
( 『スペイン旅行記』 タイトル一覧 )
http://blogs.yahoo.co.jp/swl_information/folder/1045214.html?m=l
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