Batman: The Ultimate Review

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Batman and Psychology

Travis Langleyという、Handerson State Universityで心理学の教授をしている方が書いたこの本。コミックファンであり、サンディエゴなどのComic Conでもパネリストとして参加して、スーパーヒーローの心理学のレクチャーをしている。
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映画ダークナイトライジングの公開に合わせ、2012年に発売。この本は様々な媒体を通じて描かれているバットマン(映画、コミックがメインで、アニメや、また一回だけArkham Cityにも触れている)を、心理学的見地から比較・分析している。どちらかというと、コミックとノーラン版ダークナイトトリロジーに偏っている部分もあるが、バットマンの精神分析をはじめ、彼の恋愛事情、ロビンの存在、それぞれのヴィランの分析等、とてもためになる。バットマンを客観的に読みたい方におすすめしたい。

参考までに目次を。
1. Beneath the Cowl: Who is Batman?
2. Which Batman?
Case File 2-1: King Tut
Case File 2-2: Mr. Freeze
3. The Trauma
4. Why the Mask?
5. Why the Bat?
Case File 5-1: Scarecrow
Case File 5-2: Hugo Strange
6. The "Superstitious, Cowardly Lot": Criminal Nature
Case File 6-1: Bane
7. The Halloween Party: Why all the Costumed Crooks?
Case File 7-1: The Riddler
Case File 7-2: The Penguin
Case File 7-3: Poison Ivy
8. The Madhouse: What Insanity?
Case File 8-1: The Mad Hatter
Case File 8-2: Harley Quinn
Case File 8-3: The Joker
9. The Psychodynamic Duo: Freud and Jung on Batman and Robin
10. The Kids: Why Robin?
Case File 10-1: Red Hood
Case File 10-2: Dr. Fredric Wertham
11.The Women: Why the Cat?
Case File 11-1: Catwoman
12. The Fathers: Why Do We Fall?
Case File 12-1: Ra's al Ghul
13. Why So Serious?
14. The Assessment: Bats in his Belfry?

面白いのは、13章、Why So Serious?で、著者が周りの人に、こういう本を書いているんだけど、と言ったとき、多くの人がCool!と言ってくれたのに対し、スーパーヒーローを分析すること自体に価値があるの?と言った人もいた、というエピソードを書いている。確かにこういう分野はエンターテイメントの域を出ないし、芸術、ましてや文学のカテゴリーには入らないため学術的価値も低い、と思われてしまうこともある。

でもそうだろうか。バットマンコミックを常々読んでいて思うのだが、「ああ、面白かった」の一言で片づけられないような作品が多いのだ。コミックはもちろんエンターテイメントだ。面白ければそれでいいと思うし、日常に刺激を与えるものであってほしい。でもたとえばKilling Jokeを読んで「面白かったね」だけではもったいないような気がする。コミックを読むたび、バットマンの新しい視点を発見するし、ヴィランとの、ただの善悪の戦いだけにとどまらない関係性、果ては他の文学や芸術などとも比較できる部分もあるのだ。そして、バットマンという存在そのものがはっきりとは定義できるものではないし、そしてそれがひとつだけの答えを出すものでもない。だからこそさまざまな議論を生み、そして分析される価値はある。バットマン=エンターテイメント=単純=価値が低い、ではないと思う。

この本のメインテーマは、(言うまでもないかもしれないが)バットマンはクレイジーか?精神異常なのか?ということである。バットマンはヴィラン同様精神異常だ、と考えている人には、おそらくこの本を読んで少しがっかりする要素もあるかもしれない。(とりあえず結論をはっきり言わないでおこう・・・)あくまでも心理学的見地なので、しょうがないかなという気はする。まあ、現実世界にバットマンが存在したら、確かに精神病院行きでしょうけど。

ブルースは、あの両親殺害事件という悲劇をばねにして、犯人への復讐という個人的欲望を優先することなく、恐ろしい犯罪を抑止するために自分から社会そのものを変える活動に残りの人生を捧げることを8歳で決断した。そのことに関しては、確かに精神異常とまでは言えないだろう。子供時代を犯罪によって奪われ、それがために他の子どもより成熟が早かったとも言えるのかもしれない。例えば警察や裁判官などの選択肢を一切選ばなかったのは、ブルースがゴッサム社会が崩壊目前であり、その中で公的な職業で社会の枠にはめられてしまえば、彼の活動はなおさら不可能に近くなるし、おそらく早々にやめざるをえないと思ったからだろう。アウトローなら、まだ社会を自分の力で変えられる。たとえ少々暴力的ととらえられても、正義のために戦い続けるのである。マスクはその活動を手助けする、強力なツールであるのだ。

私自身は、もともとバットマンは精神異常と正気の間にいるのではないかとは思っていた。彼の正義と蝙蝠への執着は異常な感じはするからである。事件に取り組むと解決するまで何日も寝ない。そして、身の回りは蝙蝠で囲まれている。私のイメージは、常に彼は崖っぷちに立ち、その崖から自分の闇をのぞき込む・・・A Little Pushで彼は狂気の深い闇へと落ちる、そのような存在である。狂気に近いが、だが自分の強い信頼と意志のために絶対に堕ちることはない精神を持つ者、と考えている。

バットマンがヴィランへの一定の理解を示すのは、ヴィランがそれぞれ自分の影の存在(自分の闇の部分を強調した存在)でもあるからで、どこまで自分が狂気に近いか、ヴィランとの戦いで自身への理解を深めているともいえるかもしれない。ヴィランとの戦いは、自身との心の会話ともとらえられる。(Arkham Asylumはそのプロセスを詳細に描いた、名作といえる) だから殺せないし、殺してもいけない。誰にでも陽と陰の部分があるが、片方がなくなれば、二つの断続的な戦いがなくなり、常に一方に支配された行動になり均衡が失われるはずだからである。

バットマンがヴィランに属すべき、というのも強ち間違いではない、と私は思う。バットマンの影がヴィランと考えると、バットマンがヴィランを生み出す、という説にもたどりつくからである。ヴィランは父親であるバットマンの注目をひきたいがために犯罪を起こすということもありうる。もちろんヴィランの誕生がバットマンのみに起因するということはないし、(だいたい貧困、身体的障害、社会的抑圧など複数の原因による)バットマンが悪となれば、また魅力的なヴィランになるとは思うが、行動の目的の違いがヴィランとの境界線ではないかと考えている。自分のためか、社会のためか。ブルースが8歳のとき、もし自分の復讐のために戦うと決断していたら、彼はヴィランへと変身していたに違いない。

バットマンが長き戦いの中で慰めを求める対象は、アルフレッド、そしてロビン「たち」である。アルフレッドはずっと父親代わりであった。バットマンの活動をずっと支え、「マスター」にアドバイスや批判を惜しみなく与え続けるアルフレッドは、ブルースの中では執事以上の存在である。ロビンたちはバットマンがずっともつことがなかった「家族」の形成ともいえる。この本ではロビンの存在は、ブルースが経験することのなかった「充実した子供時代」をブルースがロビンたちに提供することで、自分の夢をロビンを通じて叶えていると解釈している。ディックは確かに、(Long Halloweenのあのコマも思い出すが)ブルースと重なる部分が多くある。両親を目の前で失うという経験もしている。しかし、バットマンの助けで犯人を見つけることもでき、自分を支えてくれる「家族」もいることから、ブルースよりも恵まれた環境ともいえる。ディックを筆頭に数々のロビンたちがいるが、やはりロビンがいないことはバットマンにとってマイナスなのだろう。ロビンはいつの時代にもいなくてはならない存在となっているのだ。バットマンの身を守るためにも。(A Lonely Place of Dyingとか)

バットマンとは何か、そしてヴィランとは、彼の人間関係とは…?彼に関しては疑問は尽きない。この本はその疑問に関して答えてはくれる。しかし、それは一部であり、あくまでも彼の意見である。この本がバットマンのさまざまな疑問に対する最終的な答えではない。その最終的な答えは、読者一人ひとりが導き出すものである。

バットマンは実際には存在しない。確かにそうだ。でも今この瞬間にも夜のゴッサムでマントを広げて飛んでいることだろう。私がもしバットマンに会うことができたら、一回尋ねてみたい。「実際、蝙蝠の格好を自分ではどう思っているのか?」きっと、面白い答えが返ってくるはずだ。

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