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●あくまでスタンダードは変えない
 我が家のレファレンス・スピーカー。またまた策を弄してみました。さまざまなハイレゾ音源を再生すると、まあいろんな録音があるんですよね。近接マイクで楽器の音をダイレクトにとらえたもの、逆に空間の響きをたっぷりと取り込んだもの、マイクロフォンの数もさまざま、またミキシングの段階でさまざな効果を狙ったもの……など、それぞれの録音の意図や特徴を素直に再現できるように自分自身のスタンダードをつくりあげるわけですが、とはいえノイズっぽい録音をそのまま聴くのも辛い話ですし、「もう少しこうだったらいいな」とか「ちょっとこの録音はヴァイオリンがチリチリで、さすがに高音域は抑えたいよね」といった場合もあるんです。
 ただし、スタンダードを大幅に変えて別のスピーカーを作ろうというつもりでは、もちろんありません。スタンダードを大きく動かしたら、レファレンスの意味がなくなってしまいます。ほんの少しのことなんです。今回は3箇所にスイッチを付けて微妙な音質のコントロールができるにようにしました。


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●トゥイターの合成インピーダンスの変化を利用する
 SW1とSW2はトゥイターのアッテネータの切り換えです。ネットワーク図で分かるように、もともとは5.1Ωと8.2Ωの固定抵抗でアッテネータを構成しており、トゥイターの減衰量は計算上約−7dBになります。これが私のスタンダードです。この固定抵抗にそれぞれ13Ωと12.1Ωをパラってやると、減衰量はほとんど変わりませんが、合成インピーダンスが変わります。それによって12dB/octのハイパスフィルタが効いてくる周波数が変化します。
 SW1とSW2をON/ONにすると、OFF/OFFにした場合に比べ合成インピーダンスが約2Ω程度下がり、トゥイターの下降する周波数が約1kHz程度低いほうへ移ります。それにより5〜8kHzあたりでトゥイーターの存在感が高まります。私のスタンダードはOFF/OFFですが、減衰量を変えずに楽器の色彩感に影響を与える帯域にちょっとだけ張りを出したいときに使おう……そう思って設定したのです。ところが、予想した以上に音色が変化します。録音が良ければ効果ありなのですが、逆にこの帯域にクセがあったりザラつきがあったりするといけません。

●トゥイターの減衰量だけをアップダウンさせる
 次に、SW1とSW2のどちらかをONかOFFで違えるとどうなるでしょうか。この場合、どちらにしても合成インピーダンス約8Ωでほとんど同です。SW1をON、SW2をOFFにすると、ハイパスフィルターが7kHzで減衰量は−5.5dB。SW1をOFF、SW2をONにするとハイパスフィルターは同じ7kHzで減衰量が−8.5dBとなります。
 これも録音で高域が素直に伸びているという前提ですが、ジャズなどでシンバルやトランペットを生々しく再現したときにキュッと高音域をブーストしてやるといいですね。逆に古めのオケ録音でヴァイオリンがジリジリするときなどにちょっとお化粧する感じでダウンさせると聴きやすくなります。スタンダードが−7dBですから、これを基準にすれば±1.5dBの調整ということになりますね。

●太い響きとクリアさを両立させたい
 SW3はミッドのハイパスフィルターのコンデンサーの容量を可変するのが目的です。私はここを意図的に6dB/octという緩やかなスロープにしています。それは、ミッドバスの幅のある音色を活かしたくて1kHz以上まで引っ張っているんですが、その分フォーカスが甘くなるのを、そこにミッドの波面を合わせこむことで音像の輪郭を少しだけ強調したいからなんです。
 15μFをパラってやると周波数上では1kHz前後がオーバーラップします。たとえばハイエンド・カーオーディオコンテストの課題曲になった井筒香奈江「リンデンバウムより」の「Stay My Blue  君が恋しくて」を例にすれば、声がすっとクリアで音像の輪郭が明確になり、そのことで音場空間がリアルに感じられ、彼女の表現力がより強く聴き手に伝わってきます。
 また、オーケストラの弦合奏でヴィオラやチェロの内声部の動きが聴こえてくるようになります。合奏の密度感がグンと増します。ちょうど水面にさざ波が立って、その波頭が少しだけはっきりしてくる……映像で説明すると、圧縮率を上げていくと水面がのっぺりしますが、非圧縮に近づけると細かい波頭がクッキリと見えてきます。あるいは森や草原の写真で、少しだけアンシャープマスクをかけると効果的ですが、やり過ぎると遠近感や空気感が失われてあざとくなってしまいます。わずかなことなんですが、そんな感じです。
 ということで15μFのパラがスタンダードになりました。もちろん近接マイクで空間より音像で押してくる録音ならOFFにしたほうがいいですよね。

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●小さなマルチダクトのエンクロージャー
 ヤフオクを見ていたら12cm口径用のマルチダクトのエンクロージャが出品されていて「これいいな」と思ってポチッ。フォステクスの12cm口径フルレンジを取り付けました。F-120Aという強力なアルニコマグネットのユニットですが、もう10年以上もダイニングの壁に埋め込んでテレビ用として使ってきたので、ウレタンエッジがボロボロ。これを張り替えて鳴らしてみたのですが、結果は予想通り。力強くて活気があって、低音も12cm口径とはとても思えない。でも適度に吸音をしてユニットを取り付けて、ケーブルを半田付けしただけ……音はいいんだけれど作り屋としてはちょっと物足りない。

●思いつきの第一弾

 そこで思いつきました。F-120Aにはテレビ用に戻ってもらいましょう。じつは張り替え作業中のスペアとしてパイオニア製の古いスコーカーをゲットしていたのです。多分CS-77という3ウェイスピーカーについていたユニットだと思われます。バックチャンバーに12-6F3-1と印刷されていましたから、e-bayで検索したらけっこう出品されていますね。もしかすると1960年代?? 半世紀前のレトロ、いやいやヴィンテージです。
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バックチャンバーは処分してしまったので、
e-bayに掲載されていた写真を借用しました。

 どうせテレビの音声だからスコーカーで十分と思ったのです。ペーパーコーンで布製のロールエッジ。しっかりしている。コーン紙にも痛みなし。バックチャンバーを外したらマグネットはアルニコじゃないですか。見ているうちに「これをフルレンジにしたら面白そう!」と思いついてしまったのです。
 高域は10kHz以上を補強するくらいでいいかもしれない。ケンウッド製の小口径ドームがあるから、これを使おう。さっそくトゥイータの穴開け。初めはコンデンサ1本で繋ごうとしたのですが、そう簡単にはいきませんでした。このスコーカは活気があって解像度も高いのですが、どうも6〜10kHzが盛り上がっているようで、それがトゥイータとぶつかって倍音が粗くなってしまう感じなんです。
 いろいろ試した結果、スコーカを6.5kHzあたりからなだらかに下降させ、トゥイータを8kHzあたりからクロスさせる。これで波面がうまく合ってくれたら……。狙いはピタリ。中音域の感度が抜群で音離れがいいので、聴いていてストレスがない。音色もクセがなく素直に出てきます。トゥイータはほんの少しだけシズル感を加えるといった感じで繋ぎました。

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●ヴァイオリンがのこぎりの目立てみたいな録音って意外と多いんです
 ただし、困ったことに再生する音源が高域を素直に作ってくれていればいいのですが、どうもミキシングで持ち上げてしまったり、もともとヴァイオリンがギスギスで録音されていたりすると耳障り。エンジニアでも気にしない人も少なくないのか、意外とのこぎりの目立て的な録音って多いんです。おまけに最近では「ハイレゾなんだから高域が伸びていないとね」なんて、無理に10kHz近辺を強調したり……余計なお世話です。その対応策として、トゥイータと抵抗によるアッテネータの合成インピーダンスを工夫して、トゥイータを高域側へ移してレベルも少し下げるスイッチを付けました。

●思いつきの第二弾

 これで低音の分厚さが出たらもっといいのになー。そんな無理言ったって12cmでっせ。これ以上要求するなんて……。でも鳴りがいいと欲が出てしまう。で、考えたのが先日作った20cm2ウェイをバラして、ウーファボックスにして組み合わせること。トゥイータを外して穴を板で塞ぎ、エンクロージャを逆さまにして、その上に12cm2ウェイをのっける。二階建ての3ウェイにしようというわけです。
 さて、この20cmウーファをどう使うか。12cmユニットの音が気に入っているので、できれば低域はスルーのままで使いたい。まずウーファに7mHのコイルを直列に入れて鳴らしてみる。200Hz辺りからだら下がりになっているはずですが、思いの外効果がない。4〜500Hzまで引っ張らないとダメかな……と、部品のストックから33μFを探し出して半田付け。これでいい。500Hz 12dB/octくらいになっているはずです。
 ただ、どうも密閉型のままだと低音が詰まった感じでつながりが良くない。というわけで今度は木の端材のストックを探します。すると三角形の端材が4枚揃うじゃないですか。これを組み合わせて斜めのスリットを作ろう。スリットの幅はどれくらい? そこは勘でエイヤッと4mm程度。ウーファの音離れがずっと良くなって、ああスッキリした!
 ネットワークはそれぞれのエンクロージャ内に組み込んであるので、2ウェイ単体でも鳴らせるし、ウーファをパラで繋げば3ウェイになります。2ウェイとウーファボックスそれぞれにパワーアンプを繋いでバイアンプにしてもいいですね。
 二階建てなので、上部を前後に動かしたり向きを変えたり、いろいろ実験できますし、波面がピタッと合うと立体的な空間が再現できるというそんな感覚が味わえますよ。

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お疲れさまでした! これぞカーオーディオの醍醐味!!
 7月22〜23日、ツインメッセ静岡で第3回ハイエンド・カーオーディオ・コンテストが開催されました。パイオニア・カーサウンド・コンテストから数えれば21回目になるはずです。何しろ日本でナンバーワンのカーサウンドを決めるコンテストですから、200台を超える猛者たちが全国から静岡に集結。私も審査員の一員として熱い闘いに参加させてもらいました。
 閉会の挨拶では、壇上で長話をするのもどうかと思い、簡単に済ませてしまいましたが、それだけでは参加された皆さんに失礼だろうと追加で書くことにしました。

今年の課題は難しかった……!?
 今年の課題は、井筒香奈江「リンデンバウムより」から「Stay My Blue〜君が恋しくて〜」と、チョ・ソンジンのピアノソロ、ジャナンドレア・ノセダ指揮ロンドン響によるショパンのピアノ協奏曲第1番第3楽章でした。まったく録音のコンセプトが違うので難しかったのではないかと思います。

井筒香奈江の声質とニュアンスの表現が決め手
 初日の夕方は井筒さんのライブ。翌日は会場で何台もの車を試聴されていましたので、井筒さんの声質や表現、今回の録音について、私の方から「こんなふうに再生したいんですよね」などとお話しすることができました。

井筒さん「いろんな音があるんですね」「とっても若くって可愛らしい声にしてくださって……」
長谷川 「あっ、そんなに可愛らしくなったら減点ですよ」
 2人で笑っちゃいました。

長谷川 「井筒さんの声って、低い方に表情があって素敵ですよね」
井筒さん「私って砂声なんですよ」
 そうなんです。彼女低い声を出すときに、わずかにザラッとした感触があって、そのフッと囁くような声が、哀しさだったり、憧れだったり、懐かしさだったり、いろんな表情を聴かせてくれる。このニュアンスが出ないと井筒香奈江じゃない。

親密で日常的な空間を描き出す

 今回の録音は「時のまにまに」シリーズとはかなり違っていて、これまではボーカルを主役にしていましたが、「リンデンバウムより」ではボーカルとピアノ、ベースの3人が互いにイマジネーションを交感しながら音楽を創り出している。そんな親しみのある雰囲気がポイントですね。だからボーカルがステージ上で「主役は私!」みたいに朗々と歌っちゃいかんのです。
 井筒さんは地下のスタジオでノイマンのU67(ポップガードあり)を前に歌います。距離は近いですが、スタジオ内の空間情報はかなり入っています。ピアノとベースはケーブルで引き込んで同録しています。でも、ステレオ音場はそれほど広くはとられていません。ですからピアノの高音域が右へ左へと散らばったら「違う」と感じてしまいます。キーンと金属的な音になってもいけないでしょう。
 このピアノはヤマハのアップライトですから、コンサートグランドのように堂々として輝かしく鳴ったら変ですよね。高音域にはアップライトならではのコツコツッという質感があって、それがステージとは違う日常的で親密感のある空間を創り出しています。
 曲はベースからスタートしますが、音像はほとんど中央です。これはあくまでウッドベースです。まるでエレキベースのように硬質感のある単調な低音を出していた車や、ブンブンとベースが自己主張してボーカルが負けてしまった車もありました。また、ブーンと鳴ったまま響きが止まらない車も……明らかに制動不足です。芯のある音色にボディ感をともなった温かみのある響きが出せたらOKです。
 ピアノの音像は中央からわずかに右へ広がるでしょうか。このベースとピアノで描かれた音空間にスッとボーカルが浮いてくるわけです。そのゾクッとするような実在感が決め手です。いわゆる物理的な意味での定位とは違って、リアルな音像として聴き手に伝わってきてほしいのです。もちろんボーカルが奥に引っ込んだり、膨らんでぼやけてしまってはいけません。空間情報をしっかりと描いていないと、この実在感が出てきません。
 空間情報とか空間の描写などと言うと、何となく音場をボカせばいい……そんな印象を持つかもしれませんが、それは間違いです。空間情報が描ければ、音場の立体感や奥行き感が自然に出てきます。ボーカルの輪郭を無理に誇張する必要もありません。

ショパン国際ピアノ・コンクールの話
 チョ・ソンジンは2015年の第17回ショパン国際ピアノコンクールで優勝した韓国の若手です。5年ごとにポーランドのワルシャワで開催されるショパン・コンクールでは、これまでアルゲリッチ、ポリーニ、ツィメルマンといった最高峰のピアニストを輩出しています。東洋人で最初に優勝したのはベトナム戦争の最中でも練習を続けたというダン・タイソン、そして中国のユンディ・リ、韓国のチョ・ソンジンと続きます。日本人の優勝者はまだ出ていません。
 面白いのは優勝したピアニストでもその後伸びなかった人もいれば、入賞者でも素晴らしいピアニストに成長した人もいることです。第8回で2位になった内田光子。1位のオールソンより大きく成長しましたよね。第5回では、何とアシュケナージが2位だなんて、そりゃないでしょ。このときの1位はポーランドのハラシェヴィッチ。ウーン……と考え込んでしまいます。第10回ではユーゴスラヴィアのポゴレリチの評価をめぐって大騒動。第3次予選の後、彼の演奏に対し複数の審査員が最低点を与え本選に進めなかったことで、「私は承服しかねる」「彼こそ天才よ!」と言ってワルシャワを去ったというエピソードはあまりに有名です。才能と異才、欠点のなさと将来性など、判断することがいかに難しいかを思い知らされます。

弦合奏のバランスが最初の関門
 さて、チョ・ソンジンの弾く協奏曲ですが、若々しさや勢いがある演奏ですね。ただし、同じアルバムの後半に収録されている「バラード」を聴くとよく分かりますが、彼はとにかく情感たっぷりに歌いたがります。テンポは動かすし、思い切った弱音も使います。表情の幅を必要以上に拡げようとします。それがコンクールではフレッシュで表現豊かだと評価されたのでしょう。でも、そのまま協奏曲にもってくるとちょっと困ります。ところが、さすがにベテラン指揮者です。協奏曲としてのフォルムを大切にし、音楽的な完成度を高めようと、自由に弾かせているようで肝心なツボは決して外さない。若者の才能を生かしながら見事にコントロールしています。
 第3楽章の冒頭。弦楽合奏による「ド・レ・ソ」の音型。第1、第2ヴァイオリンは全く同じ音。ヴィオラも同じ高さです。チェロは1オクターブ下、さらに1オクターブ下のコントラバス。ユニゾンですね。数十人の奏者が同じ音型を弾くのですから、その響きの分厚さは想像に難くないでしょう。このフォルテッシモが最初の関門です。低音域は十分に鳴っているでしょうし、ヴァイオリンとヴィオラによる強靱で厚みのある響きが不可欠です。

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倍音がどれくらい出ているか
 そこでヴァイオリンの「ソ」ですが、これは一番低いG線の開放弦です。いったいどれくらい低いかって? 200Hzよりも少し下ですが、ざっと200Hzということにしましょう。チェロは1オクターブ下ですから100Hz、コントラバスは50Hzになります。この響きでステレオ音場の幅がバシッと決まるわけですから、おろそかにはできません。思いの外低いと思いませんか。ここで「ワッ鳴ってるー!」と感じさせたいのです。貧弱な響きはアウトです。
 もちろん基音に加え倍音も出ますから、響きは複雑です。iPoneのアプリで周波数を見てみました。FFTで表示させると、ヴァイオリンではボディが小さいこともあって、基音の200Hz以上に倍音が猛烈に出ています。400Hz、800Hz、1600Hz……。300Hz、600Hzもかなり強く出ています。いちばん低い音程を弾いても3kHzを超える倍音が出るわけですから、高音域を弾いたら軽くハイレゾの領域に入ってしまうのはすぐにも理解できるでしょう。一方のチェロではボディが大きいこともあり、基音の100Hzがぐんと高くて、やはり1kHz以上まで倍音が出ることがわかります。

ヴァイオリンのG線の開放弦を弾くと

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チェロのG線を弾くと
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基音の支えがないと実在感のある響きにならない
 早い話、ヴァイオリンなら倍音だけでもそれらしく鳴ってくれるかもしれませんが、チェロやコントラバスではごまかしが効きません。実際、今回審査した車でもヴァイオリンの響きが薄っぺらだったり、サブウーファは鳴っているのに肝心の100Hzから500Hzあたりが欠落して「これっ、倍音しか聴こえない」という車もありました。基音の支えがない響きには実在感がありません。
 車室内なので、ある帯域が打ち消しあうことはあり得ますが、そこは何とかクリアしてほしいところです。また、測定すると音圧は十分なのに音楽信号として聴こえないという現象も起こり得ます。測定してフラットだ……と言い張っても、それは単一周波数の正弦波を入力していったときの音圧値であって、あくまで目安にすぎません。その音圧の中身が問題なのであって、無数の音が入り混じって同時に鳴ったときどう再現されるかが大切です、いくら音圧値が正しくても、音楽として解像できていなければ、無いも同然です。

ピアノの質感と音像感を大切にしたい
 冒頭から7秒ほどでチェロとコントラバスのピチカートが柔らかく入って、「さあ、出番ですよ!」と……そこで鮮やかなピアノが鳴り出すのです。このコントラスト感が指揮者の狙いです。巧いですね。ピアノの音色はとてもフレッシュで高音域まで輝いていますが、決して細身ではありません。
 ここで落とし穴。審査した車の中には思い切りハイ上がりでキンキンさせたり、無理にピアノを鮮烈に聴かせようとやり過ぎたものもありました。そのほうが躍動感があって若々しいと意図したのかもしれません。残念ながらその狙いはハズレです。
 昔の貧弱な録音だったら、巨匠たちのソロを際立たせるほうが効果的だったでしょうが、現代の演奏スタイルではソロとオケは対等に扱いますし、録音も解像度が圧倒的に向上しており、ソロだけを無理に際立たせる必要もありません。そんなミックスをしたら「今どきそんな古い感覚じゃね」などと揶揄されてしまいます。セッション録音であってもコンサートホールでのバランスを意識するはずです。
 映像で考えてみましょう。解像度が4Kや8Kにもなると、ハイビジョンの見え方とかなり違って、二次元なのに3Dであるかのような奥行きや立体感が出てきます。同時に建物や人物などの被写体の輪郭がどんどん細くなっていきます。こういう映像で被写体の輪郭を強調するためには周辺情報をぼかす、あるいは消すしかありません。その結果非常に違和感のある映像になってしまいます。それが非日常を意図した表現であるなら別ですが……。
 音の場合も同じで、解像度の高い音源なのに昔ながらの定位優先にこだわって、音像の輪郭を際立たせようと絞っていくと、空間情報が消されてピアノの音色が鉄琴のようになってしまうかもしれなせん。ピアノは固く巻いたフェルトのハンマーで響板に張ったピアノ線を叩いて音を出します。ですから、どんなに鋭角的な打鍵でも金属音とは違います。極端な比較かもしれませんが、マリンバがヴィブラフォンに聴こえたらアウトなんです。鉄琴になっちゃいけないのです。どこかにフォーカスを合わせると、どこかの情報が消えてしまう。メリハリ感は出るかもしれないけれど、それが微小レベルを消すことで生じたものだとすれば、ハイレゾ時代の感覚ではないと思います。
 チョ・ソンジンはショパン・コンクールでもヤマハ、カワイ、ファツィオリ、スタインウェイの中からスタンウェイを選びましたし、今回もスタインウェイのはずです。スタインウェイの音色は華麗ですが、どこか円やかな質感があるんです。ぜひ音色を大切にしてください。それにしてもショパン・コンクールをサポートするピアノメーカー4社のうち2社が日本のメーカーだというもの凄い話ですね。

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トゥイータに丸型のグリルを付けて落ち着いた感じになった。小音量でも輪郭は明瞭。

●トゥイータのユニットを交換

 先日から手を入れていた2wayスピーカー。一応このユニットならこのあたりかな……と納得したつもりだったのですが、もう少し良くしたいなーと、欲が出てきてしまいました。このトゥイータはコーン型のセンターキャップを金属(多分アルミ)にして高域を伸ばそうとしたもので、安価なユニットでは良くあるタイプです。先鋭さがあってジャズのトランペットやサックスが生々しいのはいいのですが、弦楽合奏でヴァイオリンが高音域を出すとジリジリと荒れた音になってしまいます。これを何とかしようとセンターキャップをダンプしたり、いろいろと試みたのですが、収拾がつかなくなってユニットを交換しました。

●ネットワークは6dB/octと12dB/octの合わせ技

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2Wayのネットワーク図。
シンプルそのものの回路で
苦労の跡など微塵も感じられない。

ウーファのローパス12dB/oct、
トゥイータのハイパス6dB/oct
−6.5dBの固定アッテネータ
トゥイータは逆相接続
クロスポイントはだいたい3kHz



 でも、ここで高価なヤツを使ったらつまらないので、同じタイプのパイオニア製(ただしセンターキャップは樹脂製?)にしました。もちろんレトロな中古品です。ネットワークは流用しますが、大幅にアレンジしました。トゥイータは3kHzあたりから6dB/octで下降させ、それにウーファをうまくブレンドさせる。ウーファの3kHz以上は12dB/octで切ってしまうという作戦。「言うは易く行うは難し」ではありますが……。
 まずトゥイータの接続を正相にするか逆相にするかですが、こればかりは繋いでみないとわからないですね。スロープの特性だけでなく、クロスのポイントや使用パーツの容量などでも違ってきます。繋いでみて良い方をとるしかありません。今回は、正相だと音が濁ってしまい周波数特性にも大きなうねりが出てしまったので、逆相で接続しました。

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正相接続にすると、左図のような感じで周波数特性がうねってしまった。音はかなりキツく雑味が出た。明らかに合っていない。





●うまいことブレンドさせたい

 6dB/octによる下降のカーブは思いのほか緩やかですから、当然ウーファの音とかぶります。ウーファのいくぶん幅のある音色と、トゥイータによる細身の音をうまくブレンドさせたい……。固定アッテネータの定数と合成インピーダンスを探ります。3.3Ωと4.7Ωでアッテネータを構成すると、ユニットのインピーダンスが8Ωであれば合成インピーダンスが6.3Ω程度になって約−6.5dB減衰することになります。それを受けてコンデンサの値を探ります。7.5μFに1μFを足して8.5μFとしました。
 こうなるとウーファの高域を下降させるポイントが決め手になります。出しすぎるとうるさくなり、解像度もダウン。逆に落としすぎるとトゥイータの鋭さが際立って、全体に細身になってしまいます。ここは3.3μFで決めました……と書くと、いかにも簡単そうに思われますが、「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤を繰り返してユニットの性格がかなり分かってきたので、もう「エイヤッ」です。

●ユニットの性格を見つけ出してやる

 このトゥイータの場合はアッテネータを入れたときの合成インピーダンスが、アンプに負荷をかけない程度に低くなるように定数を選んだほうが素直に鳴るとか、ウーファに入れた1Ωの巻線抵抗が思いのほか効いていて、多分3.3μFと組み合わせればうまくブレンドしてくれるはず……などなど。
 さあ音出しです。目の前にスーッと音場が現れて、音像が立体的に並んでくれる。そう、これが「鳴ったという感覚ですよね。すべては耳で聴いての判断です。決して音圧合わせだけをやっているわけではありません。ユニットの波面がどうやると合ってくれるのかが問題で、そのプロセスで音色ができ上がっていくわけです。もう少し高域に柔軟さがあればいいなと思いますが、このユニットにそこまでの質感を求めるのは過大すぎる要求でしょう。

●鳴ったな……と思ったところでF特を測ってみる

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  一応試聴位置での周波 数特性を測ってみました が、図のようになりまし た。500Hz以下は部屋の 反射の影響で少々凸凹が 出ます。100Hz以下の急 峻な下降はiPhoneマイク のローカットです。聴感 では60Hzまでが実用範囲 でしょうか。50Hzではさ すがに音圧レベルが下が ります。10kHz以上は精 度が落ちます。高域にかけてだら下がりで、1.5kHz、3.5kHzあたりにちょっとしたアクセントがある……これがクセと言うべきか、味付けになっています。これ、魅力度アップの大事なポイント。いかにも2wayだなと感じます。広帯域ではないし、解像度もそこそこ。でも輪郭がバチンと出て音像も明確です。何と言ったって活気がある!
 ブライアン・ブロンバーグの「ウッド」でも冒頭からブンブン。これが20cmウーファか?というほどの鳴りの良さ。私はマンハッタン・ジャズ・クインテットをよく聴きますが、かなり鮮烈で音が飛んできます。クラシックでは、とくにピアノが聴き映えします。マーラーみたいな規模の大きいオケになるとさすがに解像度が追いつかない。でも、ボケた覇気のない鳴り方よりずっと愉しい。
 さてさて、これで裏板を開けることはもうないでしょう。



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たかが0.5dB、されど0.5dB

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スピーカーがズラリと勢ぞろい。白っぽいキャビネットが新顔の2way。デーンと鎮座していますが、メインスピーカーを聴くときやマルチchで再生するときは退いてもらいます。メインスピーカーの脚元にある箱が外付けの4wayネットワーク。手前のワンコはお邪魔虫のヒビキです。

●聴き込むと、やっぱり直したいところが出てきてしまう

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 12月の始めに一応OKを出した2wayスピーカーですが、それで終わったわけではありませんでした。いつものことですが、むしろここからがたいへんで、いろんなソースを再生していると必ず「もうちょっと……」とか「コンデンサの値を…」とか「アッテネータを…」などと悩み事が出てきます。
 今回も出てきました。たとえばジャズで「マンハッタン・ジャズ・クインテット」の「AUTUMN LEAVES」などを再生すると、トランペットがもの凄くリアルで、サックスもかなり生々しい。ピアノもクッキリと出るしドラムスも明瞭でシンバルのヌケもいい。ベースのしなるような低音感も痛快。「これ、いいじゃないか」と思うのですが、その一方で弦楽合奏やオーケストラを再生すると「ウーン、やっぱりブレンド感がイマイチだよなー」。どうも3kHzから4kHzあたりのざらつきが気に入らない。
 そこでトゥイータとアッテネータの合成インピーダンスを算出してみると10Ωくらいになります。そうなるとハイパスフィルタに入れているコンデンサの値が5.5μFですから、2.9kHzあたりから下降することになります。どうやらハイパスの周波数を見直すこととトゥイータの出力レベルを微調整する、この2つの課題があるようです。

●周波数特性では0.5dBによる音質の差は分からない

 まずコンデンサは3.3μFと2.2μFのパラになっていますが、この2.2μFを1μFに交換して4.3μFとしてみました。これでハイパスの周波数は3.7kHzくらいに上がるはずです。いくぶんブレンド感は改善されましたが、トゥイータのレベルがまだ少し高いようです。とはいえ下げすぎれば覇気のない音になってしまいます。まあ1dB以内だろうな。ということで、アッテネータの4.3Ωの抵抗を4.7Ωに変更。これで0.5dBほどダウンするでしょう。効果はありましたが、まだトゥイータの音色が勝ってしまいます。このときの合成インピーダンス10.5Ωくらいですから、ハイパスの周波数は3.5kHzくらい。
 トゥイータのレベルもハイパスの周波数ももう一息ですね。さあ、どうするか。あっちこっちと動かすと蟻地獄に嵌まってしまいますから、ここまで来たらもう一発で決めたいですよね。たとえば4.7Ωの値を上げることで出力レベルは下げられますが、合成インピーダンスが上がってハイパスの周波数も下がってしまう。それじゃ元の木阿弥ですね。そこで部品ケースを漁ってみると30Ωの抵抗があるじゃありませんか。「おっ、これを20Ωにパラってみるとどうなるかな?」と。20Ωと30Ωのパラですから抵抗値は12Ω。これでレベルは0.5dB下がります。合成インピーダンスは約9.5Ωになりますからパイパスの周波数は3.8kHzくらいでしょうか。いい線行ってるかも……。もう裏板の開け閉めは何度目になるでしょうか。でも、最後の踏ん張りどころです。
 パーツを半田づけし、吸音材を元通りにセットし、裏板の木ねじ10本を締め直し……ようやく納得できるところに落ち着きました。これ以上の要求は、ユニットの能力の限界です。こうして2016年も0.5dBの攻防を繰り返してきたわけです。


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