|
「雨夜の品定め」の続きです。左馬頭(さまのかみ)の話が続きます。
ここからが本文です。
左馬頭はさらに話を続けました。
「本来の階級と、世間の信望がうまく釣り合っている、高貴な方々の家に生まれた
娘でありながら、立ち居振る舞いや雰囲気が劣ってしまっているならば、
それは改めて言うまでもなく、
『どうしてこのように成長してしまったのか』
と、情けないことに思われますね。その家の家柄に釣り合って優れている娘がいても、
それは当然なことで、
『このような女性こそ、この家にふさわしい方だ』
と思われて、
『滅多にない、素晴らしいことだ』
と、世間の人が驚くことはないでしょう。私のような者の手の届くところでは
ありませんので、上の階級の中のさらに上の方々の話は、脇へ置いておきましょう。
一方で、
『ある所にこれこれの家がある』
と、世間に知られることもなく、ひっそりと荒れ果てた葎(むぐら)の蔓草が
生い茂る家の一族に、思いもかけずいかにも可憐な娘が生まれている、
そんな話こそが、世間の人にはこの上なく珍しいことと思われることでしょうね。
『それにしても、どんな事情で、このような女性がいるのだろうか』
と、その女性を見て、想像と食い違っていることで、不思議に思って
世間で後々まで印象に残る出来事になるのです。
その家の父親が年老いて、薄気味悪く太りすぎて、兄は顔立ちが醜く、
世間の評判も格別に素晴らしいとは思われない家の奥に、
とても美しく気位の高い娘がいて、ほんのちょっとした仕草や芸事も、
趣がありそうに見える様子は、例えその芸がわずかな取り柄であったとしても、
どうしたことか、案外に興味が惹かれるものです。
そのような女性は、ひときわ優れていてわずかな欠点もないという女性には
選ばれないものの、大した家の生まれではないからと捨てておけるものでもないですね 」
と言って、式部丞の方を見ると、
「左馬頭殿は、私の妹たちがまずまずの評判であることを思って、
このようにおっしゃったのだろうか 」
と、式部丞は思ったのでしょうか、何も口に出しては言いませんでした。
「さてさて、上の階級と思われる女性でさえも、そのような方に出会うのは
難しい世の中であるのに (それより下の階級で、そのようなことがあるのだろうか) 」
と、源氏は思っているようでした。
源氏は白く柔らかい着物を重ねて着ている上に、直衣(のうし: 貴人の普段着)だけを
くつろいだ様子で着ていて、結ぶ紐なども投げ出して、肘掛けに寄りかかって
寝転んでいる姿が灯火に照らされた様子は、とても見事なもので、
源氏を女性と見ても良さそうに思われました。
この源氏の君の相手には、上の階級の中でもさらに上の女性を選び出しても、
やはり満足させることは出来ないように思われました。
ここまでが本文です。
身分の低い家から、気品と美しさを持つ娘が生まれてくる、
そんな話が上の身分の男たちの噂話に出てくるというところに、
紫式部の希望のようなものも感じました。
当初の家の身分が低いという悪い情報から、後に美人の娘がいるという
良い情報が手にはいると、格別によい印象を与えるということになるのだろうと思いました。
訂正(2008/11/1):
「雨夜の品定め」が「雨後の品定め」となっていたので訂正します。
僕は長い間勘違いをして使っていました。すみません。
|
現代の男性は品定めの条件の中に家柄などはほとんど問題にしないと思いますが、女性の家の資産関係は気になると思いますが・・・。
2008/10/28(火) 午後 4:07
はせさん、コメントありがとうございます。
現代では家柄が問題になることはあまりないと僕も思います。
ただ親類の家などに大きな借金があるかどうかは、
問題になることが時にありますね。
往々にしてこのようなことは結婚してからわかったりして、
もめることがあるのを知り合いの話で聞いていました。
2008/10/28(火) 午後 4:17
こんにちは。
30年前には、片親は敬遠されました。
その後は親のいない男性が好かれました。その後は学歴、一流会社、
そして現在は財産ですか!(この辺はわかりません)( 笑)
2008/10/28(火) 午後 4:34
身分というところは、現代に生きる私たちには、やはりピンと来ないものがあります。女性、あるいは
男性の品定め・・・う〜ん、品定めという言葉も、
ちょっと抵抗がありますね。やはり、その人の品格は、その人の身につけた教養からでしょうね。
そんな感じがします。ポチです。
2008/10/28(火) 午後 4:36
このお話を読んでいて、
私は、もうひとり好きな女性「玉鬘」を思い出してしまいました。
彼女は苦労の多い境遇の中で育ちながらも、
凛として気高く、光源氏の色香にも惑わされず、(笑)
偶然とはいえ、髭黒の大将と結ばれて、
最後は穏やかな一生を送りましたよね。
無骨ですが、髭黒の大将って、
結構私の好きなタイプの男性です。
結局、光源氏は女性を幸せにはできない男性なのかな?
などと、つい男性の品定めもしたくなってしまいます。(笑)
2008/10/28(火) 午後 6:27 [ - ]
源氏の理想の女を求める
姿勢がよく表現されていますね。
上を上を見ても満足できないが
下層を見ることも大切ですね。
シンデレラの物語とダブりました。
傑作のぽち!
2008/10/31(金) 午後 0:31
ほしさん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
その時々の時代によって、縁談で敬遠されることが変わっていますね。
高校の頃の体育教師だった方も、片親で育っていたので
相手の両親を説得するのに苦労していたという話をしていました。
今の時代はあまりうるさく言われることは少ないように思います。
それでも身近に聞くところでは、離婚になってしまうことは多いですね。
うまくいくのは難しいなと、よく思います。
2008/10/31(金) 午後 5:13
Ruri さん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
身分というのは、現代の我々からすると、もう物語の中の世界ですね。
品格は身分ではなくて教養なのですね。僕もそう思います。
高い品格(教養)を持っている方は本当に尊敬しますね。
僕ももっともっと精進しなければという気持ちになります。
2008/10/31(金) 午後 5:14
Primavera さん、コメントありがとうございます。
「玉鬘」が好きな女性なのですね。
僕はもう一度、「玉鬘」〜「真木柱」の巻を読み直してみました。
源氏は真の父(内大臣)に会わせることなく、恋人として扱うなど、
結構酷なことをすると思いながら見ていました。
いろんな男の裏側を見てきた中で、凛とした女性に
育っていったのがすごいなと思います。
髭黒の大将は、自分の欲望にまっすぐなところが
さっぱりしていると思いました。
「真木柱」の巻では、恋を成就させるのは強引さも時には必要かな、
などといろいろと考えさせられました。
2008/10/31(金) 午後 5:15
吉祥天さん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
当時の理想の女性がどのようなものか、垣間見ることが出来たのは
この部分を訳している中で面白いところでした。
下層の中にも良い人はいるという、紫式部の願いが見えるようです。
後々の「玉鬘」の巻も、シンデレラの話とダブりますね。
いろんな物語と重ね合わせてみると、源氏物語がもっと楽しくなりますね。
いつもありがとうございます。感謝しています。
2008/10/31(金) 午後 5:16
この時代、身分が低い女性の中にこそ、素敵なひとがいる。
そんな女性を探そうという源氏たち、色好みの面目躍如ですね。
2008/11/2(日) 午後 4:01
ウィルさん、コメントありがとうございます。
身分が低い中にいる美しい女性を捜し当てる、
そんな男性たちの話が後に続いていきますね。
源氏もこのような男性の話に興味が動かされて、
後の恋人達の話になっていったのかなと、そう思えてきますね。
2008/11/3(月) 午後 2:45
女性を論じる男性を描きながらも、紫式部は、その男性の心理をあぶり出していますね。
この巻は、紫式部による男性論という風にも読めるような、そんな気がして来ました。
2008/11/4(火) 午前 7:52
ろすまりんさん、コメントありがとうございます。
女性を論じているようでいて、実は当時の男の本音を衝いている、
紫式部という方の巧妙なわざのようなものを感じますね。
身分が低い女性を男はどう見ているか、という左馬頭の話のくだりにも、
どんなところに男性が興味を持っているかをあぶり出そうという、
そんな試みをしているように思いました。
2008/11/4(火) 午後 3:10