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『日本外史』の三回目は、藤原氏が権力を握った後に、
財産を持った民衆の中から武士が登場してくる部分です。
●原文
及藤原氏以外戚世執政權。卿相之位。非其族人不擬。官論品流。
因習成俗。庶僚百揆。概世其職。而將帥之任。毎委源平二家。
於是乎。始有武門之稱焉。
光仁桓武之朝。疆埸多事。寶龜中。廷議汰冗兵。殷富百姓。
才堪弓馬者。専習武藝。以應徴發。其羸弱者。皆就農業而兵農全分。
至貞觀延喜之後。百度弛廢。上下隔絶。奥羽關東之豪民。以軍功。
六衞舎人者。或坐制郷曲。不勤宿衞。而守令莫之能制。
清行所謂非六軍貙虎。而爲諸國豺狼者。所在皆是。平居藏甲蓄馬。
儼然自稱武士。於是乎。始有武士之稱焉。
●書き下し文
藤原氏に及びて、外戚を以て世々政権を執る。
卿相の位、其の族人に非ざれば擬せず。
官は品流を論じ、因習は俗を成す。
庶僚百揆、概ね其の職を世々とす。
而して将帥の任は、毎に源平二家に委ぬる。
是に於いてか、始めて武門の称有り。
光仁桓武の朝、疆埸(きょうえき)は事多し。
宝亀の中、廷議は冗兵を汰す。
殷富の百姓、才の弓馬に堪うる者、専ら武芸を習い、以て徴発に応ず。
其の羸弱なる者、皆な農業に就きて、而して兵・農は全く分かる。
貞観・延喜に至りての後、百度は弛廃し、上下は隔絶す。
奥羽・関東の豪民、軍功を以て六衛舎人に至る者あり。
或は坐して郷曲を制し、宿衛に勤めず。
而して守令は之を能く制する莫し。
清行の所謂六軍の貙虎(ちゅこ)に非ずして、
而して諸国の豺狼たる者、所在は皆な是れなり。
平居に甲を蔵し馬を蓄(やしな)い、儼然として自ら武士を称す。
是に於てか、始めて武士の称有り。
●現代語訳
藤原氏の時代になって、藤原氏が皇后の一族や、天皇の母の一族となって、
代々政権を執るようになりました。
それで当時はその一族の人間でなければ大臣の位につくことができませんでした。
それ以来、役人たちは家柄のことだけを問題にするようになり、
普段の問題を解決するには古くからの習わしに従うことだけが
世間の常識になってきました。
多くの役人たちはほとんどが代々同じ官職について、
軍隊を率いる任務については、
常に源氏・平氏の二氏に委任されていました。
このときになって、初めて武士の一門を自称する者たちが出てきたのです。
光仁天皇・桓武天皇の頃には、国境では紛争が絶えませんでした。
宝亀年間(770 〜 780)の頃には、朝廷で議論を行い、
余分な兵士を減らすことにしました。
その後には栄えて豊かになった民衆で、武芸の能力がある者は、
ひたすらに武芸だけを磨いて、そして徴兵に応じていきました。
一方で勢力が衰えていったそれ以外の者たちは、
すべて農業に従事するようになりました。
こうして兵士と農民が完全に分かれていったのです。
貞観年間(859 〜 877)から延喜年間(901 〜 923)になってから後は、
いろいろな法律や制度が弛んだり廃れたりして行われなくなり、
上下(武士・農民)の身分は遠く隔たってきました。
奥羽(東北地方)や関東の民衆の中で、勢力を持っている者は、
軍事で功績を立てて、天皇の護衛をする六衛府(りくえふ)の兵士や
宿直をして警備をする舎人(とねり)に出世する者までおりました。
しかしその者たちは、ある者はなにもせずに郷里や地方を支配し、
ある者は宿直をして警備を勤めることはないという状況でした。
しかしながら地方の長官である国司(こくし)や郡司(ぐんじ)たちは、
そのような勝手な振る舞いを抑えることはできませんでした。
三善清行(みよし きよつら)の言っていた、天子の軍を支える猛獣ではなく、
諸国で山犬やオオカミのようになっている者すべての居場所は、
ここにあるのです。
その者達は普段はよろいかぶとを貯えて軍馬を育てていて、
いかめしい態度で武士を自称しているのです。
この時以来、初めて武士という呼び名が出て来ました。
●語注
※外戚(がいせき): 皇后の身内、または、天皇の母の身内のことです。
※品流(ひんりゅう): 家の格式や家柄のことです。
※庶僚百揆(しょりょうひゃっき): 多くの役人のことです。
※疆埸(きょうえき): ここでは国境のことです。
※廷議(ていぎ): 政治について、朝廷で行う議論のことです。
※殷富(いんぷ): 豊かに栄えることです。
※羸弱(るいじゃく): 疲れて力が弱っている様子を指します。
※百度(ひゃくど): いろいろな法律や制度のことです。
※弛廃(しはい): ゆるみすたれて、行われなくなることです。
※豪民(ごうみん): 民衆の中で勢力のある者のことです。
※六衛(りくえ): 六衛府(りくえふ)のことです。
※六衛府(りくえふ): それぞれ左右の「近衛府(このえふ)」
「兵衛府(ひょうえふ)」「衛門府(えもんふ)」の
六つの武官の役所のことです。それぞれ分担して天皇身辺の警固や
宮城の警備に当たります。「ろくえふ」とも言います。
※舎人(とねり): 宮中で宿直をして警護をする役人のことです。
※郷曲(きょうきょく): 辺鄙な田舎、または、郷里のことです。
※守令(しゅれい): ここでは国司(こくし)と郡司(ぐんじ)のことです。
共に地方を治めるために中央から遣わした役人のことです。
それぞれ国の長官と郡の長官のことです。
※三善清行(みよし きよつら): (847〜919)平安時代中期の漢学者で、
従四位上・参議にまでなった人です。
※六軍(りくぐん): 天子(天皇)の軍隊のことです。
※貙虎(ちゅこ): 犬ぐらいの大きさで、毛並みの模様は狸に似ている
という猛獣のことです。ここでは勇猛な武士のたとえに使っています。
最も古い辞書の『爾雅(じが)』に載っている言葉です。
※豺狼(さいろう): やまいぬとおおかみのことです。貪欲で残酷な人のたとえです。
※平居(へいきょ): 普段、平生のことです。
●解説
財産と体力のある者が、やがて軍で功績を挙げて成り上がっていって、
武士になっていく部分ですね。
このときの武士・農民の上下関係が次第に大きくなっていくのがわかります。
ちょっとした小さな違いが、年月を経るたびに大きくなって、
やがては遠く隔たって絶対的な差になっていくという部分を読んで、
格差社会もこのような変化によって作られていくものかななどと考えていました。
次は源氏・平氏の二氏の一族が、次第に大きくなっていく部分です。
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とても興味深いですね^^ぽち
2009/10/25(日) 午後 6:25
こんばんは〜♪
いまの時代に
照らし合わせて
興味深く読ませていただきました^^
いまの混迷する社会には
こうした歴史の再認識が必要ですね^^^
それをいまの政治家はどれだけ解かった人がいるんでしょうね。。。
明日も素敵な日を。。。。。
ぽち。
2009/10/25(日) 午後 6:31
なるほど、だから今の官僚たちは地方分権を許さないのか…やはり中央集権がいちばん国をコントロールしやすいのか、そのために泣くひとは多いけど。
でも高級官僚は利権を手放したくないほうが大きいかな。
いずれにせよ権力-統治というのはなかなか難しいものですね。ポチ。
2009/10/25(日) 午後 7:52
こんばんは。
今の政治とくらべながら読ませて頂きました。ポチ
金持の政治家でお金があっても騙して集める。
官僚は駄目と良いながら、何とか言い逃ればかりする政治家にあきれました。
2009/10/25(日) 午後 9:05
まいさん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
歴史の流れを理解するのは興味深いです。
これからも出来る限りわかりやすく訳していきます。
2009/10/26(月) 午前 10:28
吉祥天さん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
昔のことを探っていくと、現在にもつながることが結構見つかりますね。
先が読めない中でも、過去を見つめることは出来るということですね。
そういう視点を、僕も大切にしていきたいです。
今日もこつこつと学んでいこうと思います。
2009/10/26(月) 午前 10:31
ひろちんさん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
いったん手放した権限は、二度と戻ってこない、そんな風に思いました。
国と地方の綱引きも、こういうところが問題になってくるのかなと思いました。
統治の仕組みを考えるのも難しいなと僕も思います。
この本の中からでも少しでも読み取れるものがあればいいなと思います。
これからもしっかり訳していきます。
2009/10/26(月) 午前 10:36
ほしさん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
僕も昔の本を読んでいても、今現在のことを思い浮かべています。
政治家が当初言っていたことと、少しずつずれが出て来ているようにも思います。
来年の今頃にはきちんとなっているのかどうかというところまで、
注視していきたいです。
2009/10/26(月) 午前 10:44