玄齋詩歌日誌

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淮南子

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故宮(こきゅう)の交泰殿(こうたいでん)
Photo by (c) Tomo.Yun
http://www.yunphoto.net
 
 
 
 これから時折、『淮南子(えなんじ)』という漢文の書物を訳していきます。
 
 これは前漢(ぜんかん)の時代の王族である淮南王(わいなんおう)劉安(りゅうあん)が多くの学者を招いて編纂した百科辞典的な書物です。『日本書紀(にほんしょき)』もこの書物から引用された文章がいくつかあります。老子(ろうし)や荘子(そうし)などの道家(どうか)の思想を中心に、儒家(じゅか)や他の諸子百家(しょしひゃっか)の思想についても書かれています。
 
 この書物が編纂された頃の、前漢(ぜんかん)の高祖(こうそ)劉邦(りゅうほう)が即位してから武帝(ぶてい)の前の時代は儒家よりも道家の思想の方が中心的で、そういう部分も見られて興味深いのではないかと思います。
 
 百科辞典的な部分も含めて、訳していくとお相手の方への日々の漢詩にもいろいろと役に立つことがあると思いましたので、これから少しずつ訳していきます。
 
 
 まずは第一巻の原道訓(げんどうくん)を訳していきます。
 
 原道(げんどう)、つまり「道を原(たず)ねる」ということですから、道についての抽象的な内容が中心です。
 
 
 
●原道訓 其の一
 
 
原文:
 
 
 夫道者、覆天載地、廓四方、柝八極、高不可際、深不可測、包裹天地、稟授無形;原流泉浡、沖而徐盈;混混滑滑、濁而徐清。故植之而塞於天地、横之而弥于四海;施之無窮、而無所朝夕。舒之幎冥於六合、巻之不盈於一握。約而能張、幽而能明、弱而能強、柔而能剛、横四維而含陰陽、紘宇宙而章三光。甚淖而滒、甚繊而微。山以之高、淵以之深、獣以之走、鳥以之飛、日月以之明、星暦以之行、麟以之遊、鳳以之翔。
 
 
 
書き下し文:
 
 
 夫(そ)れ道とは、天を覆いて地を載せ、四方に廓(ひろ)がり、八極(はっきょく)を柝(ひら)き、高きこと際(きわ)むるべからず、深きこと測るべからず、天地を包裹(ほうか)し、無形(むけい)に稟授(ひんじゅ)す;原流の泉は浡(わ)き、沖(むな)しくして徐(おもむ)ろに盈(み)つ;混混(こんこん)滑滑(こつこつ)として、濁りて徐ろに清(きよ)し。故に之を植えれば天地に塞がり、之を横たえれば四海(しかい)に弥(あまね)し;之を施せば窮まり無く、朝夕(ちょうせき)に所無し。之を舒(の)ぶれば六合(りくごう)に幎冥(べきめい)し、之を巻けば一握(いちあく)をも盈(み)たさず。約して能く張り、幽にして能く明に、弱くして能く強く、柔にして能く剛に、四維(しい)に横たわりて陰陽(いんよう)を含み、宇宙(うちゅう)に紘(ひろ)くして三光に章(あき)らかなり。甚だ淖(ぬかる)みて滒(ねば)つき、甚だ繊にして微なり。山は之を以て高く、淵は之を以て深く、獣は之を以て走り、鳥は之を以て飛び、日月は之を以て明らかに、星暦(せいれき)は之を以て行ない、麟(りん)は之を以て遊び、鳳(ほう)は之を以て翔(か)ける。
 
 
 
現代語訳:
 
 
 そもそも道というものは、天を上に覆って大地を上にのせ、四方に広がって八方の世界の果てまでも押し開いていき、その高い様子はその果てを見ることができないほどであり、その深い様子はその深さを測ることができないほどです。天地をすっぽりと包んで、それを形のないものに施すのです。
 
 そのもとの流れから泉の水が湧くようにして、虚しい状況から緩やかに満ちていきます。その泉から盛んに水がわき出るようにして、濁っている状況から緩やかに澄んでいきます。
 
 ですからこの道を植えると天地に隙間無く広がり、この道を横たえると四方の海の間にある天下の中の隅々まで行き渡っているのです。
 
 この道を施しても最後まで行き詰まることはなく、朝も夕も、とどまるところを知らないのです。これを伸ばすとあらゆる方向に広がって世界を暗い幕で覆ってしまうほど長いのです。それでいてこの道を身体に巻いても握りこぶし一握り分ほども満たすことができないほど短いのです。一点に引き締められていながらうまく大きく開くことができ、薄暗いけれどもうまく明るくすることができ、弱いけれどもよく強くなることができ、柔らかいけれどもよく固く強くすることができ、四方の隅々にまで横たわって、天地の間にある万物を生成させる陰と陽の気を含んで、あらゆる時間と空間に広がっていて、太陽や月や星のようにはっきりと見えるものなのです。とても泥のようにぬかるんで粘つくもので、とても繊細で微かなものなのです。
 
 山はこの道に従って高くなり、海や川の淵はこの道に従って深くなり、獣たちはこの道に従って走るようになり、鳥たちはこの道に従って飛ぶようになり、太陽や月はこの道に従って明るくなり、暦(こよみ)はこの道に従って行われて、伝説の生き物である麒麟(きりん)のメスはこの道に従って遊び、想像上のめでたい鳥である鳳凰(ほうおう)のオスはこの道に従って空を翔けていくのです。
 
 
 
語注:
 
 
※八極(はっきょく): 八方の果てのことです。すべての世界を指します。
 
※包裹(ほうか): 包むこと、くるむことを示します。
 
※稟授(ひんじゅ): 「稟受(ひんじゅ)」と同じです。天から受けることです。
   あるいは「天性(てんせい)」を指します。
 
※原流(げんりゅう): 流れの元のことです。
 
※混混(こんこん):水が盛んにわき出る様子を示す言葉です。
   「滑滑(こつこつ)」も同じです。
 
※四海(しかい): 四方の海に囲まれた世界、つまり天下を指します。
 
※六合(りくごう):六方のことです。東西南北上下の六つの方角を
   さします。そこから天下や世界を指す言葉でもあります。
 
※幎冥(べきめい): 暗い幕で覆うことです。
 
※一握(いちあく):ひとにぎりほどの少しの量。
 
※四維(しい):四方のすみのことです。
 
※陰陽(いんよう):天地の間にあって、万物を発生させる
   陰(いん)と陽(よう)の気のことです。
 
※宇宙(うちゅう): 「宇(う)」は空間的な広がりを表し、
   「宙(ちゅう)」は時間的な広がりを表していて、二つを合わせて
   あらゆる空間と時間、天地と古今、世界全体を表します。
 
※三光(さんこう): 三つの天体の光のことです。つまり、
   太陽と月と星です。
 
※星暦(せいれき): 天体の動きを考えて暦(こよみ)をつくることを
   指します。「星歴(せいれき)」とも言います。
 
※麒麟(きりん):中国の想像上の動物のことで、めでたいしるしや
   聖人のあらわれるしるしとされていました。からだは鹿で
   尾は牛の形で蹄(ひづめ)と鬣(たてがみ)は馬に似ていて、
   身体は五色に輝くといわれています「麒(き)」は
   模様のきれいなオスで、「麟(りん)」はオスに連なって歩く
   メスのことです。そしてこの動物は、聖人や優れた才能の人の
   たとえにも使われています。
 
※鳳凰(ほうおう):中国の想像上のめでたい鳥のことです。
   おおとり。徳の高い天子(こうてい)が世の中に出たときに
   あらわれるといわれています。オスを「鳳(ほう)」、
   メスを「凰(おう)」といいます。孔雀(くじゃく)のような形で
   表現されています。
 
 
 
解説:
 
 
 道についての抽象的で一見矛盾に満ちた文章が続いています。道はどんなところにも存在するのだということを述べているというところが分かればいいのではないかと思います。
 
 
 「弱いけれども強い」とか「負けて勝つ」とか、そういう言葉が『老子(ろうし)』などにもよく見かけますが、こういう文章は安易にとらえてしまうととんでもないことになります。
 
 例えば、誰かと論争になって全く言い返すことができずに終わってしまった後で、相手がいなくなったところで「私は負けたんじゃない、負けて勝ったんだ」などという負け惜しみにもならないことを言ったとすれば、それは全くもって、この手の書物の言葉を間違えて解釈してしまったことの何よりの証拠なのです。中途半端にこの手の学問をかじるとこういう勘違いを正しいと誤解してしまうことがあるので、注意が必要です。
 
 
 「山は之を以て高く〜」以降もよく出てくる言葉ですね。儒学の経典の『周易』(しゅうえき: 古代中国の周の時代から伝わった易(えき))または『易経(えききょう)』の中の哲学的で抽象的なな内容をまとめた「繋辞伝(けいじでん)」の文章の中にも、
 
「仁者(じんしゃ)は之を見て之を仁と謂(い)い、知者(ちしゃ)は之を見て之を知と謂う」
 
(私訳)仁徳を備えた人は道を見ると「これは仁徳です」と言い、知恵のある人は道を見ると「これは知恵です」と言うのです。
 

 つまり人はその人の能力、その人の状況に合わせて道というものを見いだしていく、ということだと思います。社会人としての道、詩人としての道、上司としての道、部下としての道、親としての道、子としての道。こういうものが無限大にあって、それぞれの人がそれぞれの人生の中で見いだしていくということですね。どの道も大切だと思います。
 
 
 こういう文章を少しずつ訳していこうと思います。僕の勉強のためであり、お相手の方への漢詩の参考にするためです。

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今晩はいつも嬉しいコメントありがとうございます。この記事に応援の☆ポチですよ!中国は大陸なのですね!

2011/10/26(水) 午後 5:55 [ 清水太郎の部屋 ]

清水太郎さん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
こういう漢文も訳していこうと思います。これからもがんばります。

2011/10/26(水) 午後 6:19 白川 玄齋

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こういう抽象的表現は全体を捉えないと理解し難い部分がありますね。
苦しいときでも道は手元にある、と読んでおきます。傑作。

2011/10/27(木) 午前 0:25 ひろちん。

ひろちんさん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
この書物は細かい話を集めたものが多いので、
そのまとまりごとに訳していけば分かりやすくなるかなと思います。
僕もきちんと自分の人生に従った道を身につけたいなと思います。
お相手の方のためにも、きちんとがんばっていこうと思います。

2011/10/27(木) 午前 7:50 白川 玄齋

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進むべき自分の道・・・。
難しいですが、無理せずにしかしながら
より良い道をさがしつつ 生きて行きたいとおもいました。
ありがとうのポチ。

2011/10/27(木) 午後 1:58 ある おかん

ある おかんさん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
僕も自分の身近にある道をきちんと自覚しながら、
お相手の方のためにも日々努力していこうと思います。
今回のような勉強も、きちんとしていきます。

2011/10/27(木) 午後 2:20 白川 玄齋

淮南子。。遠い大学時代、読もうと思って挫折しました。壮大で美しい言葉が、並んでますね。
老荘思想に近いんですね。中国の南方は、絵画などの芸術もふくめて、どことなく道家的なんでしょうか。
、中国で、「南のほうの出身です」っていう女性は、美女が多かったですよ。(服などセンスも良かった。ボクの主観ですが。。)まあ、「お相手の方」がいらっしゃる今の玄さんには、蛇足の情報かな。。。失礼しました!

2011/10/27(木) 午後 2:59 ピン太郎

ピンパパさん、コメントありがとうございます。
僕も「淮南子」は若い頃からの憧れの書物でした。
日本語訳の出ているものはとても高いのです。
今なら自分で訳せるかもと思って挑戦しています。
南方は道家、北方は儒家というところなのだと思います。
こういう書物もきちんと学んで、お相手の方への漢詩作りに
きちんと活かしていこうと思います。これからもがんばります。

2011/10/27(木) 午後 9:18 白川 玄齋

*道はどんなところにも存在する*ということが
読んでいてふんわりと浮かんできました。

*天地をすっぽりと包んで、それを形のないものに施すのです*
*濁っている状況から緩やかに澄んでいきます*
*薄暗いけれどもうまく明るくすることができ、弱いけれどもよく強くなることができ、柔らかいけれどもよく固く強くすることができ、四方の隅々にまで横たわって、天地の間にある万物を生成させる陰と陽の気を含んで、あらゆる時間と空間に広がっていて…*
臨機応変に形を変え、柔軟な心を持つ。
人間においても通じるところがあると思いました✿

訳していただいて、とてもわかりやすく
スッと入っていく感じです。
色々なことを知ることができてとても楽しいです✿
傑作ポチッ♫☆✽。+*✽ +*✽ +*✽ '・:☆*゜・+♬*゜・+✿

2011/10/30(日) 午前 1:21 ゆーみん♪

ゆーみんさん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
いろんなところに存在する道、それを身につけていこうと常に自覚しながら、
日々過ごしていければいいなと思います。
この手の老子(ろうし)や荘子(そうし)の系統の書物は、
物語やたとえ話を元にいろんな事を想像することができます。
そんな話を読んでいく中で、道という物の柔軟性、
そして僕自身の心の柔軟性を養っていければいいなと思っています。
そうしていってあなたを想う漢詩や、あなたを想って過ごす日々の中で、
僕もそれを発揮していければいいなと思います。
あなたを想う漢詩を作るための勉強の一環です。
読んでもらえて嬉しいです。これからもわかりやすく訳していこうと思います。
これからもきちんとがんばっていきます。

2011/10/30(日) 午前 6:55 白川 玄齋

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玄さんに教わらなければ、読むこともできませんです。
解説が解りやすくて、深い意味も伝わってきます。
それぞれの人にとってのその道・・・
私も自分の道から外れないようにしてこれからも歩んでいきたいです。 玄さん、ありがとうございます。 ポチです。

2011/10/30(日) 午後 10:33 風花

y5812y さん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
お相手の方に読んでもらおうということを常に念頭に置いていますので、
できる限りわかりやすく丁寧に訳していくことを常に心掛けています。
僕も日々の生活の中で「道」を自覚して、きちんと努力していこうと思っています。
お相手の方のためにも、僕のためにも、がんばっていきます。

2011/10/31(月) 午前 7:25 白川 玄齋


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