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兵馬俑(へいばよう)一号坑(中国・西安)
Photo by (c) Tomo.Yun
http://www.yunphoto.net この『韓非子(かんぴし)』の一節は Yahoo! 知恵袋で質問された内容です。数行ずつに小分けにして質問をしてきたので、それに逐一回答をすると、かえって説明が煩雑なくりかえしになるので、ここにまとめて訳してみました。
この漢文は『韓非子(かんぴし)』の五十四篇めの「心度(しんたく)篇」です。この一節は民衆の心と法律の適用についての内容です。
こちらは原文と書き下し文と語注になります。
現代語訳と解説は以下を参照して下さい。三つの記事でセットになっていますので、コメント欄は解説の記事のみに設けています。この点もよろしくお願いいたします。
現代語訳の記事
解説の記事(コメント欄はこちらに設けてあります)
●原文
『韓非子』 心度 第五十四
聖人之治民、度於本、不從其欲、期於利民而已。故其與之刑、非所以惡民、愛之本也。刑勝而民靜、賞繁而姦生。故治民者、刑勝、治之首也。賞繁、亂之本也。夫民之性、喜其亂而不親其法。故明主之治國也、明賞則民勸功、嚴刑則民親法。勸功則公事不犯、親法則姦無所萌。故治民者、禁姦於未萌、而用兵者、服戰於民心。禁先其本者治、兵戰其心者勝。聖人之治民也、先治者強、先戰者勝。夫國事、務先而一民心、專舉公而私不從、賞告而姦不生、明法而治不煩。能用四者強、不能用四者弱。夫國之所以強者政也。主之所以尊者權也。故明君有權有政。亂君亦有權有政、積而不同。其所以立異也。故明君操權而上重、一政而國治。故法者王之本也、刑者愛之自也。
夫民之性、惡労而樂佚。佚則荒、荒則不治、不治則亂、而賞刑不行於天下者必塞。故欲舉大功、而難致而力者、大功不可幾而舉也。欲治其法、而難變其故者、民亂不可幾而治也。故治民無常、唯治為法。法與時轉則治、治與世宜則有功。故民樸、而禁之以名則治、世知、維之以刑則從。時移而治不易者亂、能治衆而禁不變者削。故聖人之治民也、法與時移、而禁與能變。能越力於地者富、能起力於敵者強。強不塞者王。故王道在所開、在所塞。塞其姦者必王。故王術不恃外之不亂也、恃其不可亂也。恃外不亂、而治立者削、恃其不可亂、而行法者興。故賢君之治國也、適於不亂之術、貴爵則上重、故賞功爵任、而邪無所關。好力者其爵貴、爵貴則上尊。上尊則必王。國不事力、而恃私學者、其爵賤。爵賤則上卑、上卑者必削。故立國用民之道也、能閉外塞私、而上自恃者王可致也。
●書き下し文
聖人(せいじん)の民(たみ)を治(おさ)むるは、本(もと)を度(はか)り、
其(そ)の欲(ほっ)するに従(したが)わず、
民に利(り)するを期(き)せんとするのみ。
故(ゆえ)に其の之(これ)に刑(けい)を与(あた)うるや、
民を悪(にく)む所以(ゆえん)に非(あら)ざるなり。
愛(あい)の本(もと)なり。
刑(けい) 勝てば民 静まり、賞(しょう) 繁(はん)なれば
姦(かん)生(しょう)ず。
故に民を治むるに、刑 勝つは、治(ち)の首(はじめ)なり。
賞(しょう)繁(はん)なるは、乱(らん)の本(もと)なり。
夫(そ)れ民の性(せい)は、其の乱(みだ)るるを喜びて
其の法(ほう)に親しまず。
故に明主(めいしゅ)の国を治むるには、賞(しょう)を
明(あき)らかにすれば則ち民は功(こう)を勧(すす)め、
刑を厳(げん)にすれば則ち民は法(ほう)に親(した)しむ。
功(こう)を勧(すす)めれば則ち公事(こうじ)は犯(おか)されず、
法に親しめば則ち姦(かん)の萌(きざ)す所(ところ)無(な)し。
故に民を治むるには、姦(かん)を未(いま)だ
萌(きざ)さざるに禁(きん)じ、而(しこ)うして兵(へい)に用(もち)うれば、
戦(いくさ)に民心(みんしん)を服(ふく)せしむ。
先(ま)ず其の本(もと)を禁ずれば治まり、
兵に其の心を戦(たたか)わしむれば勝つ。
聖人(せいじん)の民(たみ)を治(おさ)むるや、
先(ま)ず治(おさ)むれば強く、先ず戦(たたか)わしむれば勝つ。
夫(そ)れ国事(こくじ)は、
先(さき)を務(つと)めて民心(みんしん)を一にし、
専(もっぱ)ら公(おおやけ)を挙(あ)げて私(わたくし)に従(したが)わず、
告(つ)げるを賞(しょう)して姦(かん)は生(しょう)ぜしめず、
法を明らかにして治(ち)は煩(わずら)わせず。
能(よ)く四者(よんしゃ)を用いる者は強く、
能く四者を用いざる者は弱し。
夫れ国の強き所以(ゆえん)は政(まつりごと)なり。
主(あるじ)の尊(とうと)き所以は権(けん)なり。
故に明君(めいくん)は権(けん)有(あ)り政(まつりごと)有(あ)り。
乱君(らんくん)も亦(ま)た権有り政有るも、
積(つ)むところは同(おな)じからず。其の立つの異なる所以なり。
故に明君は権を操りて上重く、政を一にして国治まる。
故に法(ほう)は王の本(もと)なり、
刑は之(これ)を愛(あい)する自(よ)りするなり。
夫(そ)れ民(たみ)の性(せい)は、労(ろう)を悪(にく)みて
佚(いつ)を楽(たの)しむ。佚なれば則(すなわ)ち荒(あ)れ、
荒れれば則ち治(おさ)まらず、治まらざれば則ち乱(みだ)れ、
而(しか)るに賞刑(しょうけい)の天下(てんか)に 行われずして必ず塞(ふさ)がる。
故(ゆえ)に大功(たいこう)を挙(あ)げんと欲(ほっ)すれば、
大功は、致(いた)し難(がた)くして力(つと)むれば、
大功は幾(のぞ)むべからずして挙ぐるなり。
其(そ)の法(ほう)を治(おさ)めんと欲すれば、
其(そ)の故(ふる)きを変(へん)じ難(がた)くすれば、
民の乱(みだ)れは幾(のぞ)むべからずして治まるなり。
故に民の常(つね)無(な)きを治むるには、
唯(た)だ治まるを法と為(な)すのみ。
法は時と与(とも)に転(てん)じて則ち治まり、
治むるには世(よ)と与(とも)に宜(よろ)しくして則ち功(こう)あり。
故に民の樸(ぼく)なれば、而(しこ)うして之を禁(きん)ずるに
名(な)を以(もっ)てすれば則ち治まり、
世知(せち)、之を維(つな)ぐに刑(けい)を以てすれば則ち従(したが)う。
時の移りて治まり易(やす)からざれば乱(みだ)れ、
能(よ)く衆(しゅう)を治むるに禁(きん)変(か)わらざれば削(けず)らる。 故に聖人の民を治むるや、法(ほう)は時と与(とも)に移り、
而(しこ)うして禁(きん)は能(のう)と与(とも)に変(へん)ず。
能(のう)の力(ちから)を地(ち)に越(こ)せば富(と)み、
能(のう)の力を敵(てき)に起(お)こせば強(つよ)し。
強くして塞(ふさが)らざれば王(おう)なり。
故に王道(おうどう)は開(ひら)く所(ところ)在(あ)り、
塞(ふさ)ぐ所(ところ)在(あ)り、
其(そ)の姦(かん)を塞(ふさ)げば必(かならず)ず王なり。
故に王術(おうじゅつ)は之(これ)を外(そと)に
恃(たの)まずして乱(みだ)れず、
其の乱(みだ)るべからざるを恃(たの)むなり。
外に乱れざるを恃(たの)み、
而(しこ)うして治(ち)立(た)つれば削られ、
其の乱るべからざるを恃みて、
而うして法(ほう)を行(おこな)えば興(おこ)る。
故に賢君(けんくん)の国を治むるや、
乱れざるの術(じゅつ)に適(かな)い、
爵(しゃく)を貴(たっと)くして則ち上(しょう)重(おも)く、
故に功(こう)を賞(しょう)して爵(しゃく)に任(にん)ずるも、
而(しこ)うして邪(じゃ)の関(かん)する所(ところ)無(な)し。
力(つと)むるを好(この)む者は其(そ)の爵(しゃく)は貴(たっと)く、
爵(しゃく)貴(たっと)ければ則ち上(しょう)尊(たっと)し。
上(しょう)尊(たっと)ければ則ち必ず王(おう)なり。
国(くに)に力(つと)むるを事(こと)とせず、
而(しこ)うして私学(しがく)を恃(たの)む者は、
其の爵(しゃく)賤(いや)し。
爵(しゃく)賤(いや)しければ則ち上(しょう)卑(いや)し、
上(しょう)卑(いや)しければ必ず削(けず)らる。
故に国(くに)を立(た)てて民(たみ)を用(もち)いるの道(みち)たるや、
能(よ)く外(そと)を閉(し)めて私(わたくし)を塞(ふさ)ぎ、
而(しこ)うして上(しょう)自(みずか)ら恃(たの)む者は
王(おう)致(いた)すべきなり。
●語注
※聖人(せいじん): 最も高い人徳と知恵を身につけた人のことです。
※明主(めいしゅ): 「明君(めいくん)」のことです。立派な君主のことです。
※国事(こくじ): 国の政治に関する事柄のことです。
※世知(せち):悪だくみにすぐれたずる賢い者のことです。
※王道(おうどう): 権力による強制力にたよらずに、
道徳によって国を治める政治のしかたの事です。
※王術(おうじゅつ): 王者が天下を統治するための
はかりごとのことです。
※私学(しがく): 個人的に学んだ学問のことです。
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その他の漢文
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