玄齋詩歌日誌

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小田代ヶ原の朝の空(栃木・日光)
Photo by (c) Tomo.Yun
http://www.yunphoto.net
 
 
 
 『淮南子(えなんじ)』の原道訓(げんどうくん)の続きです。
 今回で三回目になります。
 
 道を体得して、自由自在の境地に立ってあらゆることを
 把握できるようになる、その時の様子を仙人の世界を
 たとえ話にしながら述べています。
 
 こちらは原文と書き下し文と語注の記事になります。 
 
 今回の記事は現代語訳の記事と解説の記事との
 三つでセットですので、 こちらにはコメント欄を設けていません。
 
 コメント欄は解説の記事のところに設けてあります。
 この点をご了承下さい。よろしくお願いいたします。
 
 
 ブログ記事: (三)『淮南子』・巻一・原道訓・其の三(現代語訳です)
 
 
 ブログ記事: (三)『淮南子』・巻一・原道訓・其の三
 (解説です)(コメント欄はこちらに設けてあります)
 
 
 
●原文
 
 
昔者馮夷、大丙之禦也、乘雲車、入雲蜺、遊微霧、騖怳忽、
 
暦遠彌高以極往。經霜雪而無跡、照日光而無景。扶搖抮抱羊角而上、
 
經紀山川、蹈騰昆侖、排閶闔、淪天門。
 
 
末世之禦、雖有輕車良馬、勁策利鍛、不能與之爭先。
 
 
是故大丈夫恬然無思、澹然無慮、以天爲蓋、以地爲輿、四時爲馬、
 
陰陽爲禦、乘雲陵霄、與造化者俱。縱志舒節、以馳大區。可以歩而歩、
 
可以驟而驟。令雨師灑道、使風伯掃塵;電以爲鞭策、雷以爲車輪。
 
上游於霄雿之野、下出於無垠之門、劉覧偏照、複守以全。経営四隅、
 
還反於樞。故以天為蓋、則無不覆也;以地爲輿、則無不載也;四時爲馬、
 
則無不使也;陰陽爲禦、則無不備也。是故疾而不搖、遠而不勞、
 
四支不動、聰明不損、而知八紘九野之形埒者、何也?
 
執道要之柄、而游於無窮之地。是故天下之事、不可爲也、
 
因其自然而推之;萬物之變、不可究也、秉其要歸之趣。
 
夫鏡水之與形接也、不設智故、而方圓曲直弗能逃也。
 
 
 是故響不肆應、景不一設、叫呼仿佛、默然自得。
 
 
 
●書き下し文
 
 
昔は馮夷(ひょうい)、大丙(たいへい)の禦(ぎょ)、
雲車(うんしゃ)に乗り、雲蜺(うんげい)に入り、
微霧(びむ)に遊び、怳忽(こうこつ)に騖(は)せて、
遠きを歴(へ)て弥々(いよいよ)高くして以て往(おう)を極む。
 
霜雪(そうせつ)を経て跡 無く、日光に照らされて景(かげ) 無し。
扶揺(ふよう) 羊角(ようかく)を抮抱(てんほう)して上り、
山川(さんせん)を経紀(けいき)し、昆侖(こんろん)を蹈騰(とうとう)し、
閶闔(しょうこう)を排し、天門(てんもん)を淪(めぐ)る。
 
 
末世(まっせ)の禦(ぎょ)、軽車(けいしゃ)・良馬(りょうば)
有りと雖(いえど)も、策(むち)を勁(つよ)くして利(よ)く鍛(きた)うるも、
之(これ)と与(とも)に先を争う能わず。
 
是の故に大丈夫(だいじょうぶ)は恬然(てんねん)として思うこと無く
澹然(たんねん)として慮(おもんぱか)る無く、
天を以て蓋(がい)と為し、地を以て輿(よ)と為し、
四時(しじ)を馬と為し、陰陽(いんよう)を禦(ぎょ)と為し、
雲に乗りて霄(そら)を陵(のぼ)り、造化者(ぞうかしゃ)と俱にする。
 
志を縦(ほしいまま)にして節を舒べ、以て大区(だいく)を馳す。
以て歩くべくして歩き、以て驟(はし)るべくして驟(はし)る。
 
雨師(うし)をして道を灑(そそ)がしめて、
風伯(ふうはく)をして塵(ちり)を掃(はら)わしむ;
電(いなずま)を以て鞭策(べんさく)と為し、
雷を以て車輪(しゃりん)と為す。
 
上りて霄雿(しょうちょう)の野に游び、
下りて無垠(むぎん)の門に出で、
劉覧(りゅうらん) 偏く照らし、複た守るに全きを以てす。
四隅(しぐう)を経営(けいえい)し、還(ま)た枢(すう)に反(かえ)る。
 
故に天を以て蓋と為し、則ち覆わざる無きなり;
地を以て輿と為し、則ち載せざる無きなり;
四時(しじ) 馬と為し、則ち使わざる無きなり;
陰陽(いんよう) 禦(ぎょ)と為し、則ち備わらざる無きなり。
 
の故に疾くして揺らがず、遠くして労せず、
四支(しし) 動かず、聡明(そうめい) 損せず、
而(しこう)して八紘(はっこう)九野(きゅうや)の
形埒(けいらつ)なる者を知るは、何ぞや?
 
道要(どうよう)の柄(へい)を執(と)り、
而(しこう)して無窮(むきゅう)の地に游(あそ)べばなり。
 
是の故に天下の事は、為すべからざるなり、
其の自然に因(よ)りて之を推さん;
万物の変は、究(きわ)むべからざるなり、
其の要帰(ようき)の趣を秉(と)らん。
 
夫(そ)れ鏡水(きょうすい)の与(とも)に形の接するや、
智(ち)を設(もう)けざるの故(ゆえ)に、
而うしてに方円(ほうえん)・曲直(きょくちょく)
逃(に)ぐる能(あた)わざるなり。
 
 
是(こ)の故(ゆえ)に響きても肆(ほしいまま)には応ぜず、
景(さかい)は一には設(もう)けず、
仿佛(ほうふつ)たるに叫呼(きょうこ)し、
黙然(もくねん)として自得(じとく)す。
 
 
 
●語注
 
 
※馮夷(ひょうい): 「河伯(かはく)」、つまり川の神を指します。
 
※大丙(たいへい): 伝説の仙人の名前です。
 
※雲車(うんしゃ): 仙人の乗る雲の車のことです。
 
※雲蜺(うんげい): 雲と虹のことです。
 
※怳忽(こうこつ): ぼんやりとして見定めにくい様子を示しています。
 
※扶揺(ふよう): つむじ風のことです。
 
※羊角(ようかく): 羊の角のように曲がって、物を巻き上げて吹く風、
   つまり、つむじ風のことです。
 
※抮抱(てんほう): 互いにもつれ合って転がり回ることです。
 
※経紀(けいき): ここでは、通り過ぎることです。
 
※昆侖(こんろん): 「崑崙山(こんろんさん)」、
   つまりウィグルとチベットの間にある山で、
   古代の神話では仙人の住む所とされています。
 
※蹈騰(とうとう): 地面を踏みしめて上ることです。
 
※閶闔(しょうこう): 天地の西方にあるという門のことです。
 
※天門(てんもん): 天の支配者の天帝(てんてい)がいる
   紫微宮(しびきゅう)の宮殿の門のことです。
 
※末世(まっせ): 政治や道徳が衰えた、末(すえ)の世のことです。
 
※軽車(けいしゃ): 動作が軽くて素早い馬車のことです。
 
※大丈夫(だいじょうぶ): 堂々とした立派な男性のことです。
 
※恬然(てんねん): 物事に動じないで安らかでのんびりと
    していることです。
 
※澹然(たんねん): 静かで安らかであることです。
 
※四時(しじ): 春夏秋冬のことです。
 
※陰陽(いんよう): 天と地の間に存在する、万物を生み出す
   陰と陽の気のことです。
 
※造化者(ぞうかしゃ): 天地や自然を作り出す存在、
   つまり神(かみ)のことです。
 
※大区(だいく): 「天空(てんくう)」、つまり大空のことです。
 
※雨師(うし): 雨の神のことです。現代風にいえば、
   雨乞いの儀式をするシャーマンのことです。
 
※風伯(ふうはく): 風の神のことです。
 
※霄雿(しょうちょう): 静かで奥深い所です。
 
※無垠(むぎん): 果てがないことです。
 
※劉覧(りゅうらん):あまねく見ることです。
 
※四隅(しぐう): 「四方(しほう)」のことです。
 
※経営(けいえい): ここでは「往来(おうらい)」、
   つまり行き来することを指します。
 
※四支(しし): 「四肢(しし)」と同じで、手足のことですが、
   ここでは身体のことを指しています。
 
※聡明(そうめい): 視覚と聴覚がきちんとしていることです。
 
※八紘(はっこう): 天地の八方の隅(すみ)のことで、
   転じて全世界のことを指します。
 
※九野(きゅうや): 「九天(きゅうてん)」、つまり天の八方向と
   中央を含めた、天の全体のことを指します。
 
※形埒(けいらつ): 「界域(かいいき)」、つまり境界のことです。
 
※道要(どうよう): 物事の道理の要点のことです。あるいは
   道家の教えの奥義を指します。
 
※無窮(むきゅう): 無限であること、永遠であることです。
 
※要帰(ようき): 「要旨(ようし)」、つまり述べられた内容の中で
   主なポイントをまとめたものです。
 
※鏡水(きょうすい): 鏡の表面のように、静かで澄んでいる
   水面のことです。
 
※方円(ほうえん): 四角と丸のことです。
 
※曲直(きょくちょく) : 曲がったこととまっすぐなこと、
   あるいは正しいことと間違ったことのことです。
 
※肆応(しおう、ほしいままにおうず): 「饗応(きょうおう)」、
   つまり人の呼びかけに反応してすばやく行動をすることです。
 
※叫呼(きょうこ): 叫び声を上げることです。または、
    金切り声で叫ぶことです。
 
※仿佛(ほうふつ): ぼんやりとしてはっきりしない姿のことです。
 
※黙然(もくねん): 口を閉じてものを言わない様子を指します。
 
※自得(じとく): 自分の心身や体験を通じて理解することです。
 

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