玄齋詩歌日誌

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竹林の七賢

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朱家角鎮(しゅけかくちん)の城皇廟(じょうこうびょう)の本殿(中国・上海)
朱家角は宋(そう)の時代に水路の要所にできた水の街です。
Photo by (c) Tomo.Yun
http://www.yunphoto.net
 
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「竹林の七賢(ちくりんのしちけん)」の一人、嵇康(けいこう)の
詩である『幽憤詩(ゆうふんし)』の翻訳の二回目です。
 
老荘を学ぶ嵇康自身の人生を詠みながら「幽憤(ゆうふん)」、つまり
当時の世の中への人知れぬ憤りの気持ちを込めた詩です。
 
 このページは原文・書き下し文・現代語訳・語注の記事です。
 
 解説については以下の記事を見て下さい。
 
 解説の前半の記事
 
 解説の後半の記事
 
 コメント欄は解説の後半の記事に設けてあります。
 この点について、ご了承願います。
 
 あと、解説は前半から読むことをおすすめします。
 いきなり解説の後半から読むと何の話かわかりづらいですので。
 
 
●原文:
 
 
 幽憤詩(其の二) (晋)嵇康
 
大 人 含 弘, 藏 垢 懷 恥。 民 之 多 僻, 政 不 由 己。
 
惟 此 褊 心, 顯 明 臧 否。 感 悟 思 愆, 怛 若 創 痏。
 
欲 寡 其 過, 謗 議 沸 騰。 性 不 傷 物, 頻 致 怨 憎。
 
昔 慚 柳 惠, 今 愧 孫 登。 内 負 宿 心, 外 恧 良 朋。
 
仰 慕 嚴 鄭, 樂 道 閑 居。 與 世 無 營, 神 氣 晏 如。
 
 
 
●書き下し文:
 
 
大人(たいじん) 含弘(がんこう)し、
垢(あか)を蔵(ぞう)して恥(はじ)を懐(いだ)く。
 
民(たみ)の僻(かたよ)ること多(おお)く、
政(まつりごと)は己(おのれ)に由(よ)らず。
 
惟(た)だ此(こ)の褊心(へんしん)のみにて、
臧否(ぞうひ)を顕明(けんめい)す。
 
感悟(かんご)して愆(あやま)ちを思(おも)い、
怛(いた)むこと創痏(そうゆう)の若(ごと)し。
 
其(そ)の過(あやま)ちの寡(すく)なからんと欲(ほっ)し、
謗議(ぼうぎ) 沸騰(ふっとう)す。
 
性(せい)は物(もの)を傷(やぶ)らず、
頻(しき)りに怨憎(えんぞう)を致(いた)す。
 
昔(むかし)は柳恵(りゅうけい)に慚(は)じ、
今(いま)は孫登(そんとう)に愧(は)ず。
 
内(うち)は宿心(しゅくしん)に負(そむ)き、
外(そと)は良朋(りょうほう)に恧(は)ず。
 
厳鄭(げんてい)を仰慕(ぎょうぼ)し、
道(みち)を楽(たの)しみて閑居(かんきょ)す。
 
世(よ)と与(とも)に営(いとな)む無(な)く、
神気(しんき) 晏如(あんじょ)たり。
 
 
 
●現代語訳:
 
 
大人(たいじん)、つまり徳のある人たちは、
心を広く持ち、人の意見を大きな度量で受け入れて、
寛大な気持ちで人の欠点や過ちを許して、心の中におさめて、
ひたすらに相手の意見を聞くことに力を注いでいました。
 
民衆たちは世の中の正しい道理を外れて公平ではない人が
多かったのですがそれでも政治をするときには自分の能力に
のみ頼って人の意見を聞かず、自分一人で政治を進めていくような、
そんなやり方は取りませんでした。
 
ただひたすらに、このせっかちで狭い心を持った民衆たちの意見から、
物事の善し悪しをはっきりとさせることに力を注いでいました。
 
いろんな物事を悟りながら、それでも自分が過ちを
犯すのではないかと思って、心配する様子は、
自分の怪我を心配して療養するような位なのです。
 
民衆たちも、彼が過ちを犯すことができる限り少ないようにと願いながら、
相手への悪口まで飛び出すような、激しい議論が起こっていました。
 
民衆たちのもともとのよい性質を保って、心を傷つけることは
なかったのですが、しまいにはひたすらに恨み憎むような
(白熱した)議論が展開されていたのです、
 
昔の人は悪い君主に仕えたり、つまらない官職もいとわない、
という一見すると節操のないような魯(ろ)の国の家臣の
柳下恵(りゅうかけい)を恥ずかしく思ったわけだけれども、
 
今の私は、隠者(いんじゃ: 世間を離れて暮らしている賢人)の
孫登(そんとう)に言われた、
「あなたは才能は豊かだが学ぶことが少ないので、
世の中で災難に遭うでしょう」
という言葉を思い出して、今から処刑されようとしている
私の身の上を恥ずかしく思っています。
 
私の心の中は以前から持っていた志(こころざし)から遠ざかってしまい、
世の中との関係では、よい友人に恥じるようなことになってしまいました。
 
漢(ぜんかん)の時代の二人の隠者である厳君平(げんくんへい)と
鄭子真(ていししん)の二人のように、成帝(せいてい)の大伯父にあたる
王鳳(おうほう)から仕官の招きを受けても最後まで応じなかった
志の高い生き方を尊敬して慕い、
 
世の中の道理に従って生きることを楽しんで、
世間を離れて一人で過ごしていました。
 
世の中の人たちと一緒になって仕事をするようなこともなく、
心は安らかで落ち着いていました。
 
 
●語注:
 
 
※大人(たいじん): 徳のある人、あるいは目上の人のことです。
 
※含弘(がんこう): 「包容博厚(博厚(はくこう)に包容(ほうよう)す)」、
  つまり心を広く持って、大きな度量で人の意見を受け入れることです。
  『易経』(または『周易』)の坤(こん)の卦を説明する、
  彖伝(たんでん)に、「含弘光大、品物咸亨。」
  (弘(ひろ)く光(おお)いに大なるを含み、
  品物(ひんぶつ)咸(ことごと)く亨(とお)る)
 
  (訳)
  (大地は)広く盛大であるもの(天から受ける力)を含んで、
  あらゆる物事が順調に行われます。
 
  とあるのが語源です。(この訳は、北宋の程頤(ていい)の
  『周易程氏伝(しゅうえきていしでん)』と、魏の王弼(おうひつ)の
  『周易正義(しゅうえきせいぎ)』の彖伝への注釈をもとにしています)
 
※蔵垢(ぞうこう、あかをぞうす): 寛大な心で人の欠点や過ちを許して、
  心の中におさめておくことです。
  「懐恥(かいち、はじをいだく)」も同じ意味です。
 
※僻(かたよる): 「邪僻(じゃへき)」、つまり世の中の正しい道から
  外れて、公平ではないことです。
 
※感悟(かんご): 感じて気がつくこと、または、悟らせることです。
 
※褊心(へんしん) : せっかちで狭い心のことです。
 
※臧否(ぞうひ):物事の善し悪しのことです。
 
※顕明(けんめい): はっきりさせることです。
 
※創痏(そうゆう): 傷を負うことです。
 
※謗議(ぼうぎ): 悪口や、相手をそしるようなことを言うことです。
 
※沸騰(ふっとう): ここでは、議論がやかましくおこることです。
 
※怨憎(えんぞう): うらんで憎むことです。
 
※柳恵(りゅうけい): 「柳下恵(りゅうかけい)」のことです。
 
※柳下恵(りゅうかけい): (前 720 年 - 前 621 年)実際の名前は
  展禽(てんきん)です。「柳下(りゅうか)」は主君からもらった
  領地の名前で、「恵(けい)」は諡(おくりな: 死後に功績をたたえて
  付けられる名前)です。秦の始皇帝が中国を統一する前の
  春秋戦国(しゅんじゅうせんごく)時代の魯(ろ)の国の賢人です。
  悪い君主の下にいても運命を憎むことなく仕え、つまらない官職を
  与えられても辞退せずにその官職をやり遂げていきました。と
  『孟子(もうし)』の中で登場するなど、その功績や人徳を
  高く評価されている人で、後世の「柳」姓の人たちの
  祖先とされています。
 
※孫登(そんとう): 嵇康(けいこう)が出会った隠者です。
  隠者(いんじゃ)とは、俗世間を離れて住んでいる立派な人のことです。
  『三国志』魏書(ぎしょ)の第二十一巻の嵇康(けいこう)の注釈に
  出てくる人物です。
 
※宿心(しゅくしん): 「宿志(しゅくし)」、つまり以前から
  持っていた考えや希望のことです。
 
※良朋(りょうほう): よい友達のことです。
 
※恧(はじる): 「恥じる」と同じ意味です。
 
※厳鄭(げんてい): 漢(前漢)の時代の隠者である
  厳君平(げんくんへい)と鄭子真(ていししん)の二人です。
  『漢書』巻七十二・王貢両龔鮑伝第四十二の一節に出て来ます。
 
※仰慕(ぎょうぼ): 尊敬して慕うことです。
 
※楽道(らくどう): 人間として行うべき道を、楽しみながら行うことです。
 
※閑居(かんきょ): 人里を離れて一人で暮らすことです。
 
※晏如(あんじょ): 安らかで落ち着いていることです。
 
※神気(しんき): 「精神(せいしん)」、つまり心のことです。

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