玄齋詩歌日誌

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老子

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チェスの駒
Photo by : clef

 
 
今回は『老子(ろうし)』の次の章の翻訳に入る前に、
『老子』の本文によく出てくる「無為(むい)」について
まとめてみようと思います。
 
 
『老子』によく出てくる「無為(むい)」という言葉は
かなり誤解されている部分があると思います。
 
たとえば「無為の政治」と言った場合、まるで上に立つ人が何もしなくても、
ひとりでに部下たちが成果を上げて天下泰平がなされるように
思ってしまうかもしれませんが、
 
これはむしろ「無為徒食(むいとしょく)」、
「何もなすべきことをしないでただ遊んで暮らす」こと、のような際に
使われる「無為」のことで、無為というよりは「拱手(きょうしゅ)」、
つまり手をこまねいて何もできないのと同じようなものなのです。
 
老子はこういうものを説いているのではないのです。
 
 
ものの本によると、「無為は究極の有為(ゆうい)」などと言われています。
とても良い表現なのですが、もう少し例を挙げて説明しないと
いけないのではと思います。
 
そこで、今回はこれをもう少しわかりやすく説明しようと思います。
 
 
兵法書の『孫子(そんし)』を例にして説明してみようと思います。
 
『孫子』では、戦争が起きることを強く戒めています。
 
戦争は政治の手段としては下策で、多くの被害と莫大な費用が
かかってしまうので、戦争というものは極力避けなければならない、
という内容で説かれています。
 
 
それでも世の中の情勢から、どうしても戦争が避けられない、
そんなときには事前に綿密で周到な準備を行って、
戦争になれば当たり前のような形で勝利しないといけない、とあります。
 
作戦はきわめて綿密に練られていて、
どのようにして勝利するかというのは司令官や参謀たちの胸三寸に
収められていて、末端の兵士たちや民衆たちなど状況の展開していく
結果だけを見る人々には、当たり前のように勝利に向けて
戦況が展開されていくのを目にするだけなのです。
 
 
このような形で当たり前のように勝利すれば、
兵士たちは格別には司令官を尊敬することもなく、
「自分たちはよく頑張ったなあ」と納得するわけです。
 
この戦争を見守っていた多くの民衆たちも、
とくに司令官を称賛することもなく、ただ戦争の被害が少なかったことに
安心する、そんな風になると思います。
 
こうして民衆も兵士たちも、自分たちががんばったと思うけれども、
政府や軍の上層部は格別何もしていないように感じることになります。
この、何もしていないように見えることが「無為の政治」なのです。
 
 
では、老子が批判している「有為(ゆうい)」とは何かと言いますと、
この場合、伝説の司令官や名参謀が奇策を繰り出して、
勝てるはずのない戦いに勝利することです。
 
勝てるはずのない戦況が、まるで魔術でも見るように一変し、
不思議で、まるで奇跡のような勝利を手にするとします。すると、
兵士たちは、「この司令官のおかげで助かった」となり、
民衆たちは、「この方々のおかげでわが国が安泰になった」
となるわけです。
 
国内は勝利の凱歌を上げて、愛国心が沸き立つようになります。
 
これは一見するととても良いことのように思えますが、
実際にはものすごく有害なのです。
 
 
スポーツで名選手の活躍を目にした子どもたちは、
その活躍をする選手に憧れて、その選手は実際にそのスポーツを
する際の目標になり、そのスポーツ自体への興味も
ふくらんでくるわけです。
 
これは世の中を動かす原動力としても素晴らしいことだと思います。
 
 
しかし、その憧れの対象が軍隊の司令官であればどうなるでしょうか。
 
そういう奇跡の勝利によって国内が沸き立ち、
大人たちがこぞって司令官を尊敬し、
子どもたちもその話を毎日のように大人たちから聞かされ、
聞こえてくる中で、軍隊への憧れが強くなって、
大人になったときに軍隊に志願をする人が増えていきます。
 
軍隊ももちろん定員がありますが、その定員に漏れた者たちも
好戦的な気質が養われていて、軍隊への信頼感に
あふれているわけです。
 
そんな中でどこかの国と問題を引き起こしたとき、
国中がその国への非難の声を上げて、
本来は手段としては下策であるはずの軍隊を動かして、
事を解決することを望むようになります。
 
そして戦争へ向かっていって、さらに国内の物資や人命が
費やされて国が疲弊し、こうして国が壊滅の方向に
向かっていってしまうのです。
 
これこそ『老子』に書かれている、
「得難きの貨を尊ぶ(えがたきのかをたっとぶ)」というものです。
 
奇跡のような権謀策術によって解決することが珍しいお宝のように
称揚され、それを目の当たりにしていると、
それを使って事を解決することを望むようになり、
結果として戦争に反対とは誰も言わなくなるのです。
 
 
こういう事を将来にわたって防止するためにも、
軍を動かせば当たり前のように勝利しなければならない。
これを「無為」というのです。無為というのは極めて高い理想なのです。
 
この無為こそが、天地を生み出す自然の道理である、
道にかなったやり方だとしているのです。
 
 

以上が「無為は究極の有為」の説明の一例です。
このような説明で「無為」というものを
少しは説明できていればいいなと思います。
 
これからもがんばって『老子』を訳していきます。

閉じる コメント(18)

2012/1/16(月) 午後 4:05 の鍵つきの内緒さん、コメントありがとうございます。
その部分については、僕も漢詩をしている関係上、慎重になることが多いです。
高校の頃、日本史の先生を通じて、その時期の残酷な有様を写真付きで教えてくれました。
正直、目を覆うような写真もありました。
当時の指導者が国の舵取りを誤っていたことだけは確実に言えると思います

正直、僕のような若造が大きな事を言うのは憚られますが、
僕個人としては、国としてすべきことは、そのことを理解し、
その人たちが簡単に納得する答えを安易に思い付くとはしないながらも、
日本政府が過去にどのような経緯で謝罪等を行ってきたかをきちんと説明し、
その国家が軍事的な恫喝等に出てくることだけは重々警戒しつつ、
その上でその国の人たちに丁寧に接することではないかと思っています。

(続く)

2012/1/16(月) 午後 5:09 白川 玄齋

(続き)

これは単に道義的なことだけを述べているのではなくて、
国際社会で生き延びるための戦略として行う必要があるように思います。
日本人がどういう国民性であるかを目の当たりにし、
現在の日本では軍国主義的な考え方は主流では全くないということを
相手の国の国民レベルできちんと理解してもらえれば、
相手から自分は絶対的に正しいと思ってこちらを攻撃してくることだけは
避けられると思っています。

正直、この部分を述べるには、僕はまだまだ十分でないところがあります。
こういう部分については僕ももっともっと真剣に学んでいかないとと思っています。

2012/1/16(月) 午後 5:11 白川 玄齋

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無為無策とは意味が全く違うわけですね。

2012/1/16(月) 午後 5:40 水無瀬より

みなせさん、コメントありがとうございます。
はい。無為無策とは対極にある考え方で、
理想の上のさらに理想のようなものが、本当の「無為」だと思っています。
もし高祖劉邦を安易に真似るようなことをすると、それこそ本当の
無為無策になってしまいます。『老子』を読む際の危険なところです。
今回はこういうところを説明していきたいなと思いました。
これからもきちんと勉強していきます。そちらのブログにも訪問いたします。

2012/1/16(月) 午後 5:46 白川 玄齋

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『何もしていないように見えることが「無為の政治」なのです。』


孫子の兵法を例に出しての御説明、すばらしいです。ポチ☆ポチ☆ポチ☆

今の日本は、政治主導とかいう目立ちたがりでいっぱいです(^^ゞ

2012/1/16(月) 午後 7:13 [ 56rinyahoo ]

56rinyahoo さん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
『老子』『論語』『孫子』は漢文がほとんどわからない頃から読んできました。
最近、『孫子』に曹操が註釈をつけたものを読んで懐かしく思っていました。
その頃にまとめていた内容を、今回、『老子』の説明のために使ってみました。
政治主導もそうですが、今の世の中の、「アピールしなければ損」
のような状況の中で、『老子』をどう考えていくか、
それを慎重に考えながら、きちんと訳していければいいなと思います。

2012/1/16(月) 午後 7:59 白川 玄齋

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政治家は何をしたかという事を、気にし過ぎているように思います。
それで言わなくてもいい事を失言という形で出してしまうように
見える。
選挙に当選する事が目標となっていると、本来の政治家の仕事が
見失ってしまう。
政治家には原点に戻り、無為の精神で政治を行って欲しいと
思います。
纏まらない内容でスミマセン。

2012/1/16(月) 午後 9:46 [ 栗の木童子 ]

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はじめまして、
ブログをよく訪問させていただいています。
老子の無為自然、
言葉どおりではわかりにくかったことが、
孫子の引用とともに目から鱗のように納得できました。

司馬遷の史記の時代が好きで、
当時の老荘思想に興味があります。
漢統一後に張良が隠遁したのも納得がいくような気がしました。

2012/1/17(火) 午前 1:14 [ tan*ta*i2*11 ]

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やたらパフォーマンスとスローガンで盛り上げて民の人気取りをしようとすると、結果的に痛い目に合うのですね。
でも、この国は無為無策のまま放置されすぎました、そろそろ内科から外科に移動なのかな、いずれにせよ痛みを伴う難しい手術だ。傑作。

2012/1/17(火) 午前 1:45 ひろちん。

無為こそ老子の肝心 要の骨子だと思います無為の説明に五千言を費やしているとさえ思われます
ボクは無為こそ浄土真宗の絶対他力と同義だと確信しています
ニンゲンの可能性の最高峰
最高の幸せの境地だと思います
人に言うと必ず笑われますが…

2012/1/17(火) 午前 2:26 [ guutaratei ]

栗の木童子さん、コメントありがとうございます。
失言は何かしなければ、何か言わなければという
焦りがそうさせたのかなと時折思います。
やるべき事だけきっちりやって主張は控えめに、
というのも今の時代は難しいのかなと改めて思いました。

2012/1/17(火) 午前 8:49 白川 玄齋

tanitani2011 さん、初めまして。コメントありがとうございます。
僕が一番くり返し読んだ『孫子』で説明をしてみました。
兵法書というのも読み込んでいくと役に立ちそうだと改めて思いました。
その時代の老荘でしたら、漢の武帝の手前までが特に面白いですね。
張良は朱子学の大成者である朱熹も、『朱子語類』という語録の中で
『老子』の考え方を本当に身につけた人と高く評価していますね。
張良はおそらく韓信の末路を考えて、自分も危ない状況にあることを
理解していたのだと思います。あれほどの功績を立てておいて、
なかなか出来ることではないなと思います。

2012/1/17(火) 午前 8:57 白川 玄齋

ひろちんさん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
僕の住んでいる自治体のことを考えると、滅多なことは言えないですが、
今の世の中は謙譲や謙虚をくみ取る情緒に乏しい人も多いですから、
下手に謙虚な態度を取ると、謙虚と気づかずにそのまま受け取られたり、
とたんに大きな態度になって接してくる人も結構います。
そんな中でどのように『老子』を考えていくかを工夫していこうと思います。
僕の住んでいる自治体も、この先かなり厳しい状況になるのではないかと
内心覚悟しながら、冷静に見ていこうと思います。

2012/1/17(火) 午前 10:11 白川 玄齋

guutaratei さん、コメントありがとうございます。
この先を訳していきながらも無為が何であるかを考えていこうと思います。
無為は絶対他力ですか。どちらも究極の境地ですね。
親鸞の『教行信証』を読むと、『歎異抄』で考えていたよりも、
悪人が成仏する事への厳しさを説いているように思いました。
相当な覚悟を持って行うというところは、僕もどちらも同じように思いました。
今後も無為に関するいろんな註釈も見ていきたいなと思っています。
これからもきちんと学びながら訳していきます。

2012/1/17(火) 午前 10:20 白川 玄齋

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今日は特に嬉しいコメントありがとうございます。参考になりました!応援の☆ポチですよ!

2012/1/17(火) 午後 3:09 [ 清水太郎の部屋 ]

清水太郎さん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
第二章の翻訳を進めています。これからもがんばっていきます。

2012/1/17(火) 午後 8:22 白川 玄齋

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こんばんは
「善行無轍迹」と一脈通じるものがあると思いますが・・・

2012/1/19(木) 午前 0:35 testpilot

テストパイロットさん、コメントありがとうございます。
「善行(ぜんこう)轍迹(てっせき)無し」、
まさしくそういう感じだと僕も思います。
目覚ましい成果で誰がそれをしたという明確な痕跡が残ると、
後々の悪影響があるという意味で、老子は「有為」を批判している、
そのように思います。
今後の訳でも「無為」が出てくる際には、その時の意味に気をつけて、
きちんと訳していこうと思います。

2012/1/19(木) 午前 9:40 白川 玄齋


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