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●原文:
詠懷詩 (其一) (魏) 阮籍
夜 中 不 能 寐, 起 坐 彈 鳴 琴。
薄 帷 鑒 明 月, 清 風 吹 我 衿。
孤 鴻 號 外 野, 朔 鳥 鳴 北 林。
徘 徊 將 何 見, 憂 思 獨 傷 心。
●書き下し文:
題: 「詠懐詩(えいかいし)(其の一)」
夜中(やちゅう) 寐(ね)る能(あた)わず、
起坐(きざ) 鳴琴(めいきん)を弾(だん)ず。
薄帷(はくい) 明月(めいげつ)に鑑(あき)らかに、
清風(せいふう) 我が衿(えり)を吹く。
孤鴻(ここう) 外野(がいや)に号(さけ)び、
朔鳥(さくちょう) 北林(ほくりん)に鳴く。
徘徊(はいかい)して 将(まさ)に何(なに)をか見(み)んとするや、
憂思(ゆうし) 独(ひと)り傷心(しょうしん)す。
●現代語訳:
題: 「阮籍(げんせき)が心に思っていることを詠んだ詩の、
その一です。」
真夜中に寝ることができずに、
起き上がって坐(すわ)り、琴を弾いていました。
薄い部屋の仕切り布は明るい月の光に鏡のように照らされていて、
爽やかな風が、私の襟元(えりもと)に吹いていました。
屋外では一羽でいる白鳥が叫ぶように鳴いていて、
北へと飛んでいく渡り鳥は北にある林の方で鳴いていました。
そんな鳥たちは行ったり来たりとさまよい歩いて、
一体何を見ようとしていたのでしょうか。
心配する気持ちに駆られて、私は一人で悲しい思いをしていたのです。
●語注:
※詠懐(えいかい): 心に思っている事柄を詩歌にすることです。
※夜中(やちゅう): 真夜中のことです。
※起坐(きざ): 起き上がって坐ることです。
※鳴琴(めいきん): 琴を弾くこと、あるいは鳴っている琴のことです。
※薄帷(はくい): 薄い絹の帷(とばり: 部屋を仕切る布)のことです。
※清風(せいふう): 爽やかな風のことです。
※孤鴻(ここう): 一羽でいる白鳥のことです。
※外野(がいや): 屋外のことです。
※朔鳥(さくちょう): 北の方へ飛んでいく渡り鳥のことです。
※北林(ほくりん): 北にある林のことです。
※徘徊(はいかい): 行ったり来たりと、さまよい歩くことです。
※憂思(ゆうし): 心配する気持ちのことです。
※傷心(しょうしん、心を痛める): 心を痛めて非常に悲しむことです。
●解説:
久しぶりに漢詩の翻訳をしてみました。
嵇康(けいこう)と並んで竹林の七賢の中心人物の一人、
阮籍(げんせき)の詠んだ八十二首の連作の漢詩の一首目です。
彼も三国時代の魏の終わりごろの人です。
父親は、当時の文学を支えた七人である、
建安の七子(けんあんのしちし)の一人の、阮瑀(げんう)で、
彼も詩が得意で、琴を弾くのが好きな人物でした。
権力争いがさかんになった魏の朝廷に嫌気がさして、
老荘思想を尊んで俗世間を離れ、大酒を飲んで過ごしていました。
俗世間と離れた暮らしをしている一端として、
彼は気に入らない人物には白眼(はくがん: 白目)で応対し、
気に入った人物には青眼(せいがん: 黒目)で応対していました。
ここから、気に入らない人物を冷たく扱うという意味の
白眼視(はくがんし)という言葉が生まれたのです。
彼は世の中を渡ることに関しては慎重だったようです。
親友の嵇康(けいこう)が鍾会(しょうかい)という魏の武将に
非礼を行って鍾会の恨みを買って讒言されて処刑された後も、
彼はただ酒浸りになって、世の中との接触を避けて、
人の恨みを買うことの無いように振る舞っていました。
慎重な人物であったことがうかがえます。
そんな阮籍(げんせき)が詠んだ、八十二首の連作の
長編の漢詩が「詠懐詩(えいかいし)」です。
詠懐(えいかい)とは心に思っている事柄を詩歌にすることです。
悲しみの気持ちを綴った詩です。
今回の一首目は、
阮籍(げんせき)は、夜も眠れない中、
起きて一人で琴を弾いていて、
月の光が明るく、爽やかな風が吹く中で、
悲しい泣き声で鳴く白鳥や北に向かう渡り鳥、
そんな中でさらに悲しい思いを強くした、
そういう詩だと思います。
昔のこうしたしみじみと悲しい詩も、訳して味わっていきながら、
僕自身の作る漢詩にも役立たせていこうと思います。
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竹林の七賢
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今日はいつも特に嬉しいコメントありがとうございます。この嬉しい漢訳に応援の☆ポチですよ!白眼視よく分かりました!
2012/2/4(土) 午後 4:26 [ 清水太郎の部屋 ]
鳥のこころはひとには判らないでしょう。
この詩では鳥というのは彷徨うひとの置き換えでもあるようですね。
傑作。
2012/2/4(土) 午後 4:35
清水太郎さん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
第一回目なので作者の阮籍(げんせき)の解説もつけようと思います。
これからもきちんとがんばっていきます。
2012/2/4(土) 午後 5:01
ひろちんさん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
そうですね。鳥が悲しく鳴いているというよりは、
悲しい気持ちを持った阮籍(げんせき)が、その鳴き声を
「悲しい」と感じた、と、そう解釈する方が自然だと僕も思いました。
阮籍(げんせき)のさまよう心の反映のように思いました。
こういう詩も学んでいって、作詩に役立っていこうと思います。
2012/2/4(土) 午後 5:04
こんばんは〜♪
今日は立春ですね^^
悲しいけれど、
未来感を感じる素敵な詩ですね^^
玄さんの心情と重ね合わせて拝読いたしました。
「玄斎流解釈」を漢詩のベースにしたいですね。
わたしもいずれ「源氏物語」の現代訳をしてみたいです^^
寒さが続きます。御身ご自愛を。。。。。。
ぽち。
2012/2/4(土) 午後 6:01
吉祥天さん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
一年で一番寒い時期が立春なのかなと思いました。
未来のことを思い悩むような、そんな漢詩にも思いました。
僕なりに訳を考えていって、わかりやすく説明していければ
いいなと思っています。
源氏物語もいいですね。人間関係や親子関係も
考えさせられる作品だと思います。
これからも身体に気をつけてがんばっていきます。
2012/2/4(土) 午後 8:48
こういう人の詩は一筋縄では理解出来ないかも知れまへんな^^
あの時代はまともに国家を憂いて物を言えば首がとぶからね^^
どうせ貴族でしょうから、狂人を装って隠れ住んでたのでしょう^^
其れでも酒喰らって生きて行けたんだからネ^^
今日でもそんな国が有るから怖いですね^^今の日本人で良かったね^^
2012/2/5(日) 午前 0:04 [ f u k o ]
とても良く解釈下さり有難うございます。恩の方から生まれた言葉が未だに生きているのですね。
良い学びとなりありがとうございました。
ぼち☆〜〜〜
2012/2/5(日) 午前 7:25 [ - ]
不孤さん、コメントありがとうございます。
阮籍(げんせき)が内面でいろんな事を考えていたように思いました。
竹林の七賢は、それぞれ殺されたか、おとなしく官職に就いたか、
あるいは阮籍(げんせき)のように狂人を装ったりとか、
かなりひどい時代だなと思いました。
でもお酒を飲んで遊び暮らせていたということは、
やはり名家の出身なのだなと改めて思いました。
まだそんな国が日本の近くにあるのも怖いなと思います。
僕も日本に生まれてきてよかったなと改めて思いました。
2012/2/5(日) 午前 8:39
みなよさん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
当初は亡き叔父の供養のつもりで始めていましたが、
今はすっかり楽しくなって、どんどん勉強が進んできています。
説明もわかりやすくしていこうと常に工夫していきます。
2012/2/5(日) 午前 8:41