玄齋詩歌日誌

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ヴァイオリン
Photo by : clef
http://street34.mond.jp/clef
 
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今回の漢文は、この話は、知音(ちいん)という言葉のもとになった、
『呂氏春秋(りょししゅんじゅう)』の一節の翻訳です。
 
前回の耶律楚材(やりつそざい)の漢詩の中にあった故事の一つです。
 
 
 
●原文:
 
 
 『呂氏春秋』 孝行覧・本味
 
伯牙鼓琴、鍾子期聽之。方鼓琴而志在太山、
 
鍾子期曰、「善哉乎鼓琴、巍巍乎若太山」
 
少選之間、而志在流水、鍾子期又曰、「善哉乎鼓琴、湯湯乎若流水」
 
鍾子期死、伯牙破琴絶弦、終身不復鼓琴、以爲世無足復爲鼓琴者。
 
非獨琴若此也、賢者亦然。雖有賢者、而無禮以接之、賢奚由盡忠。
 
猶御之不善、驥不自千里也。
 
 
 
●書き下し文:
 
 
伯牙(はくが) 善(よ)く琴(こと)を鼓(こ)し、
鍾子期(しょうしき) 之(これ)を聴く。
 
琴を鼓するに方(あた)りて志の太山(たいざん)に在(あ)れば、
 
鍾子期 曰く、「善いかな琴を鼓すること、巍巍乎(ぎぎこ)として
太山(たいざん)の若(ごと)し」と。
 
少選(しばらく)の間、志は流水に在れば、
 
鍾子期 又 曰く、「善いかな琴を鼓すること、
湯湯乎(とうとうこ)として流水の若(ごと)し」と。
 
 
鍾子期 死して、伯牙 琴を破(やぶ)りて弦(げん)を絶(た)ち、
終身(しゅうしん) 復(ま)た琴を鼓せず、
以て世に復(ま)た琴を鼓するを為すに足ること無しと為す。
 
独り琴のみ此(かく)の若(ごと)きに非(あら)ざるなり、賢者も亦た然り。
 
賢(けん)有る者と雖(いえど)も、
礼(れい)無くして以て之(これ)に接(せっ)せば、
賢(けん)は奚(なん)ぞ忠(ちゅう)を尽(つ)くすに由(よし)あらんや。
 
猶(なお) 御(ぎょ)の善からずして、
驥(き)の自(みずか)ら千里(せんり)ならざるがごとくなり。
 
 
 
●現代語訳:
 
 
伯牙(はくが)は琴を演奏することに優れていて、
伯牙の親友の鍾子期(しょうしき)は彼の演奏を聴くことに優れていました。
 
琴を演奏するときに、そのねらいが太山(たいざん: 泰山)の
大きく神聖な山をイメージして演奏をしたときには、
 
鍾子期は、
「素晴らしい琴の演奏だね。
 大きく盛り上がるようなその音は、
 まるで泰山(たいざん)を思わせるようだね」
と言いました。
 
しばらく経った後に、琴の演奏で流れる水を
イメージして演奏をしたときには、
鍾子期はまた言いました。
 
 「素晴らしい琴の演奏だね。
 沸き立つような流れを思わせるその音色には、
 まるで流れる水のようだね」
と。
 
 
ある時に鍾子期が死んでしまったあとは、
伯牙は、琴を壊して弦を切ってしまい、
 
それから死ぬまで、二度と琴を演奏することはありませんでした。
 
世の中には私の音を聞いて、きちんと私の気持ちまでも
くみ取ってくれるような人間はもういないのだと、
伯牙は思っていたからです。
 
 
これはただ単に琴に関して言われるものではありません。
徳と知恵の優れた賢者(けんじゃ)も、これと同じなのです。
 
たとえ徳と知恵があると言っても、君主が礼儀に合わず
ぶしつけな態度で賢者に接したとすれば、
その賢者は真心を尽くして職務に励んだり
する理由が、果たしてあるでしょうか。そんなものはないのです。
 
これは馬を操る御者(ぎょしゃ)の能力が良くないのに、
驥(き)という一日に千里を走る名馬が、
自分で千里の長い距離を走ることがないのと同じなのです。
 
 
(君主が賢者を迎え入れる場合には、君主は礼を尽くして
 迎え入れなければならないのです)
 
 
 
●語注:
 
※太山(たいざん): 「泰山(たいざん)」のことです。
 
※泰山(たいざん): 山東(さんとう)省にある山です。
  昔から、天子(てんし: 皇帝)が即位するときに天地の神をまつる
  封禅(ほうぜん)の儀式が行われた神聖な山です。
 
※巍巍乎(ぎぎこ): 高く大きく盛り上がることです。「乎(こ)」は
  発音の調子を整えるための助辞(じょじ)です。
 
※湯湯乎(とうとうこ): 沸き立つような勢いで流れることです。
  「乎(こ)」は発音の調子を整えるための助辞(じょじ)です。
 
※少選(しばらく): 一時、という意味です。
 
※驥(き): 一日に千里を走るという優れた馬のことです。
 
 
 
●解説:
 
 
この話は、知音(ちいん)という言葉のもとになったお話です。
 
知音(ちいん)とは、「音楽を理解する者」、という意味から転じて、
「心をよく理解しあった親友」という意味の言葉です。
 
 
その話はこの老荘系の書物の一つである『列子(れっし)』の
湯問(とうもん)篇という所に載っているとあるのですが、
その後の後日談となっている後半部分がぷっつり切れていました。
 
その後半部分も含めて載っているのは、中国の戦国時代の末期に、
秦(しん)の政治家の呂不韋(りょふい)が食客(しょっかく)と言われる
特別な技術・才能によって客人として召し抱えられた人たちを集めて
編纂させた戦国時代の百科辞典的著作である、
 
『呂氏春秋(りょししゅんじゅう)』の、
孝行覧(こうこうらん)の本味(ほんみ)という篇に載っています。
 
この『呂氏春秋』は諸子百家のあらゆる学説が載っていますが、
主に儒家と道家の学説が多いですので、
今回のように教訓的なものが結構見られます。
 
 
呂不韋(りょふい)という人は、もともと商人で、
当時、趙(ちょう)という国に人質となっていた
秦の公子に趙の都の邯鄲(かんたん)ですれ違ったときに
その姿に憐れんで、
 
「此奇貨可居」「此(こ)の奇貨(きか)、居(お)くべし」
 
(訳)
「この珍しいお宝を自分のもとに蓄えておこう」
 
 
と言って、あなたに投資するようにすると、公子と約束をしました。
 
 
その後、呂不韋が秦の国の太子(たいし: 世継ぎ)であった
安国君(あんこくくん)の后の華陽夫人(かようふじん)に
子どもがいないことに目を付けて、公子を太子の世継ぎに
することに成功しました。
 
その後、秦の王とその太子が王となって、これもすぐに亡くなった後、
この公子(子楚(しそ))は王となり、
 
呂不韋は丞相(じょうしょう: 宰相のことです)になり、
新しい王からは仲父(ちゅうほ: 父親の次に尊ぶべき人)
と呼ばれました。
 
その丞相のころに編纂させたのが、別名を『呂覧(りょらん)』という
この『呂氏春秋』です。
 
この本が完成した後に、一文字でも文字を増減できたものには
千金を与えるというおふれまで出したそうです。
 
これが、とても優れた文章や筆跡のことを意味する
「一字千金(いちじせんきん)」の由来だそうです。
 
 
この人物は、実はこの子楚(しそ)の子どもである、
政(せい)、つまり後に秦の始皇帝(しこうてい)となる人物の
実の父親ではないかとまで言われています。
 
このように、呂不韋自身は相当うさんくさい人物ですが、
この書物はすぐれたものだと思います。
 
 
今回訳した本文は、琴の名人の伯牙(はくが)が弾いた琴に対して、
彼の親友である鍾子期(しょうしき)がその琴の音色を聴くと、
伯牙が内心ねらいとしていたことまで見事に当てて、
まさに友人の演奏の音を知る知音(ちいん)というのに
ふさわしい人でした。
 
しかしその後、鍾子期が死んでしまうと、伯牙はとても悲しんで、
「このようにはもう私の音を知るような人は居ないのだ」
と思って、琴の弦を断ち切って、二度と琴の演奏をしなくなりました。
 
そのあと、この話と同じように、君主が賢者を招くときは
きちんとした礼儀を持って接しないと、働いてくれないよという
教訓を付けて、この一節をしめくくっています。
 
 
これが、友人の死を悲しむという意味の
「伯牙断弦(はくがだんげん)」という故事の全文です。
その中で、「知音(ちいん)」という言葉の由来もあるわけです。
 
 
私はそこまで自分を理解してくれる友人がいるのは
とてもすごいなと思う反面、果たして私の現在の友人たちに
そこまでの理解を示すことができているのかと、考えさせられました。
 
まずは僕自身がもっと友人たちを大切にしていこうと思いました。

閉じる コメント(19)

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今晩はいつも嬉しいコメントありがとうございます。この素晴らしい漢訳に応援の☆ポチですよ!

2012/2/25(土) 午後 6:49 [ 清水太郎の部屋 ]

清水太郎さん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
これからもきちんと分かりやすく訳していきます。

2012/2/25(土) 午後 9:36 白川 玄齋

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楽器は丁寧に扱えば強い音のときもよく応えてくれます。
よい楽器はピアニシモ(小さな音)でも遠くまでよく届きます。
長く触れ合うことでお互いが理解しあうように感じますね。傑作。

2012/2/26(日) 午前 3:47 ひろちん。

ひろちんさん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
良い楽器というのはまさしく「打てば響く」ものなのですね。
一つの物事に集中していくのが大切なように思いました。
人や物をじっくりと理解していければいいなと思います。
これからもがんばっていこうと思います。

2012/2/26(日) 午前 7:23 白川 玄齋

こんにちは〜♪
いいですね、
知音は好きな言葉です^^
いい仕事です。。。。

ぽち。

2012/2/26(日) 午後 0:40 -

私にはとてもおこがましくて、コメントなど出来ない気がしますが、沢山の学びをなさって居る貴方様に対し、私なりに感じた事だけ一言云わせていただきます・・・・・。
自分の琴の音をここまでまで理解してくれる友人、
私は多くの友はつくれませんが、本当に自分を理解してくれる人とは、死ぬまで付き合おうと思っています。又友の意見で己の生き方まで変えてくれる人も居ます。ともかく友人は大切にして行こうと思っています・・・・・。ぼち☆〜〜〜

2012/2/26(日) 午後 2:34 [ - ]

吉祥天さん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
知音という言葉にこんな物語があったのは感動的です。
いろんな方が理解できるような訳をこれからも心掛けていきます。
これからもしっかりとがんばっていきます。

2012/2/26(日) 午後 4:10 白川 玄齋

みなよさん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
僕もここまでの友人は得難いものだと思います。
それに相当する人が何人かいて、その人たちをきちんと大切にしていこうと思っています。
お相手の方とともに、そういう方々を大切にしていくことは、
僕の使命だと思っています。これからもきちんと過ごしていこうと思います。

2012/2/26(日) 午後 4:28 白川 玄齋

心を知る事は難しいですね。
音を知るのも、難しい・・・。
ポチ☆

2012/2/26(日) 午後 10:06 [ 澤木淳枝 ]

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知音の意味は知らなかった。

自分は相手の理解もしてないし、自分もあまり理解されていないように感じられます。
もっと、他の人のことも理解出来るようにしたいですね。

2012/2/26(日) 午後 11:24 [ - ]

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私でしたら知画か知書でしょうかねー・・・
家族の皆さんで喜んでくれてほっとしました
玄さんの分は大分先になりそうです

記事にポチ

2012/2/27(月) 午前 9:22 [ 夢想miraishouta ]

こんにちは。
先ほどまで取りかかっていた作業が終わり、今から体調を保つためにお昼寝です。
リコメは夕食後に行います。リコメが遅れてすみません。
よろしくお願いいたします。

2012/2/27(月) 午後 5:20 白川 玄齋

澤木淳枝さん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
「知る」という立場から考えても、とても難しいことだと改めて思いました。
この点はきちんと理解して学んでいこうと思います。

2012/2/27(月) 午後 8:15 白川 玄齋

都会の蟷螂さん、コメントありがとうございます。
お久しぶりです。これからもよろしくお願いいたします。
本当に理解し、理解される友人関係というのは難しくても、
それを理想としてきちんと理解していこうと僕も思いました。
きちんとがんばっていこうと思います。

2012/2/27(月) 午後 8:31 白川 玄齋

夢想miraishouta さん、コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
僕の場合は「知詩」で、理想としては「知道」ですね。
どちらにせよ僕自身がもっともっと学んでいかなければと思いました。
おせんべいは甥姪にも食べてもらいました。おいしそうに食べていました。
ありがとうございます。それからの経過をまた後ほど連絡いたします。

2012/2/27(月) 午後 8:34 白川 玄齋

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伝えたい多くの事が、伝わる人がいるっていうのは、しあわせな事ですよね。^^

2012/2/28(火) 午前 1:05 [ Kapok ]

Kapok さん、コメントありがとうございます。
あまり完全なものを求めなければ、いろんな人にも多くのことが
伝えられるということが最近分かってきました。
これからもこういう気持ちと、そういう話の受け手の方々を、
きちんと大切にしていこうと思います。

2012/2/28(火) 午前 8:57 白川 玄齋

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玄さん
もっと送れればよかったのですが・・・
1袋しか残っていなかったのです・・
また機会があればいいですけどねー・・・

2012/2/29(水) 午前 8:40 [ 夢想miraishouta ]

夢想miraishouta さん、コメントありがとうございます。
夢想さんにはとても感謝しています。とても嬉しいです。
その気持ちを漢詩にして、先日送りましたものを、
ブログに UP いたしました。本当にありがとうございます。
これからも日々がんばっていきます。

2012/2/29(水) 午後 0:18 白川 玄齋


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