玄齋詩歌日誌

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老子

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ケルト十字
Photo by : clef
http://street34.mond.jp/clef
 
 
 
 
『老子』の三十三章の一節に次のようなものがあるという話がありました。
 
「死而不亡者、壽。」
 
書き下し文は、「死して亡(ほろ)びざる者は、寿(いのちなが)し。」
 
(「壽」は「寿」の旧字体です。)
 
となりまして、何人かの学者の解釈によりますと、
 
「死んでも朽ち果てることのない功績を打ち立てれば、
 (その功績は)永遠に残るのです」
 
あるいは
 
「死んでも人の心の中に存在し続けるような人は、
 長く生きることができます。」
 
となっていましたが、どうにも引っかかるものがありました。
 
 
『老子』の第二章には、「為而不恃、功成而不居。」
「為(な)して恃(たの)まず、功(こう)成(な)りて居(お)らず。」とあります。
 
ここの訳は、
 
「物事を行ってもそれを誇りとすることもなく、物事が成功しても、
 その場に自分の成果を認めさせようと居座ることもないのです。」
 
とあるわけです。功績に居座ることがなく、すぐに退く、
記念碑などとんでもない、こちらがむしろ老子の本意だと思っています。
 
 
以前、兵法書の『孫子』をもとに「無為」という言葉を説明した際に、
記念碑が建つような輝かしい功績が、
どれほど有害なものであるかという一例を示しました。
 
 ブログ記事: 『老子』の本文に出てくる「無為」についてまとめてみました
 
http://blogs.yahoo.co.jp/syou_gensai/66054589.html
 
 
あまりに輝かしい功績があると、その後に国の政治が
行き詰まったときに、「あの時代よもう一度」ということになって、
破滅の方向へ突き進む、そういうことになりかねないのです。
 
こういう事を老子は述べているのではない、僕はそう思っています。
 
 
そこでいろんな注釈を当たってみました。明らかに禅語などを援用して
訳しているものを除いて、納得のいくものを探っていきました。
 
そして、ここは北宋の学者の陸佃(りくでん)(号は農師(のうし))の
注釈を取りました。
 
以下、注釈の全文を示します。
 
 
(注釈の原文)
 
死而不亡何也。蓋聖人之于時随之而已。
 
時之所当行、聖人不強避。時之所当止、聖人不強為。視天而已。
 
故有能之、而能不為之。是以有生而不死有死而不亡者也。
 
 
(注釈の書き下し文)
 
死して亡(ほろ)びざるは何ぞや。
蓋(けだ)し聖人(せいじん)の時において之に随うのみなり。
 
時の当(まさ)に行うべき所、聖人は強(し)いて避けず。
時の当に止(とど)まるべき所、聖人は強いて為さず。
天を視(み)るのみ。
 
故(ゆえ)に之を能(よ)くする有りて、
而(しか)も能く之(これ)を為さず。
 
是(これ)を以(もっ)て生(せい)有りて死せず、
死(し)有りて亡(ほろ)びざる者なり。
 

(注釈の現代語訳)
 
「死して亡(ほろ)びず」、つまり「死んでも滅びることがない」
というのはどういうことなのでしょうか。
 
要するに、聖人がその時その時の状況が要求する道理に従って、
それにふさわしい行動を取っていることを指しているだけなのです。
 
その時の状況でしなければならないことを
聖人は無理に避けるようなことをせず、
 
その時の状況でするべきでないことを
聖人は無理にするようなことはないのです。
 
ただ天の道理、簡単に言えばその時その時の状況が
要求する道理を注意して見て、それに従って行動しているだけなのです。
 
 
だからこそ、するべき事をうまく行うことができて、
すべきでないことをうまく行なわないでいることもできるのです。
 
 
このことから、
生きている途中で死ぬような目に遭うことはなく、
死にそうな状況になっても判断を誤って自分の身を滅ぼすことがない、
 
ということが言えるのです。
 
 
(ここまでが注釈の現代語訳です)
 
 
ここから、
 
「死而不亡者、壽。」「死して亡(ほろ)びざる者は、寿(いのちなが)し。」
 
は、以下のような現代語訳(意訳)になります。
 
 
(今回の現代語訳です)
 
 
「聖人がその時その時の状況が要求する道理に従って、
 それにふさわしい行動を取っているのです。ですから、

 その時の状況でしなければならないことを無理に避けず、
 その時の状況でするべきでないことを無理にせず、
 
 ただ天の道理、簡単に言えばその時その時の状況が要求する道理を
 注意して見て、それをもとに行動しているのです。
 
 だからこそ聖人は、するべき事をうまく行うことができ、
 すべきでないことはきちんとしないでいられるのです。
 
 
 このことから、知恵と徳にすぐれた聖人は、
 生きている途中で死ぬような目に遭うことはなく、
 死にそうな状況になっても判断を誤って自分の身を滅ぼすことがない、
 ということが言えるのです。」
 
 
(ここまでが今回の現代語訳です)
 

私はこのように解釈しました。
 
納得するまで考えて、きちんとした訳をしていこうと、
改めてそう思いました。これからもきちんとがんばっていきます。
 

閉じる コメント(38)

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≪何人かの学者の解釈によりますと、
「死んでも朽ち果てることのない功績を打ち立てれば、(その功績は)永遠に残るのです」
あるいは
「死んでも人の心の中に存在し続けるような人は、長く生きることができます。」
となっていましたが、どうにも引っかかるものがありました。≫



こんばんは。
玄齋さんの問題提起に、まず拍手させてください(^^)。ポチ☆ポチ☆ポチ☆

2012/4/11(水) 午後 9:40 [ 56rinyahoo ]

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≪功績に居座ることがなく、すぐに退く、記念碑などとんでもない、こちらがむしろ老子の本意だと思っています。≫



そのとおりです。老子に続く思想家も名前を残していません(^^)。

2012/4/11(水) 午後 9:43 [ 56rinyahoo ]

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≪そこでいろんな注釈を当たってみました。明らかに禅語などを援用して訳しているものを除いて、納得のいくものを探っていきました。
そして、ここは北宋の学者の陸佃(りくでん)(号は農師(のうし))の注釈を取りました。≫



教えていただき、ありがとうございます。とても勉強になります。

2012/4/11(水) 午後 9:46 [ 56rinyahoo ]

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≪このことから、知恵と徳にすぐれた聖人は、生きている途中で死ぬような目に遭うことはなく、死にそうな状況になっても判断を誤って自分の身を滅ぼすことがない、ということが言えるのです。」≫



老子の全文をふまえての解釈ですね。常に、文脈の関連を重視しておられる玄齋さんだから可能な論説でしょう。

もし、冒頭の通説的な解釈をとるのであれば、老子の言葉とは関係がないという考え方もできないでしょうか。老子が仙人に祀り上げられたりしているので、後世の挿入かなと思ったりしています(^^ゞ

2012/4/11(水) 午後 9:55 [ 56rinyahoo ]

(感謝)

昨夜に guutaratei さんに、「計らいを捨てる」の意味を
どのように解釈されているかを尋ねますと、

> 自分だけが地位や権勢を得るために他を顧みず
> 権謀術策をくわだてたり財貨資産を得るために
> 他を顧みず陰謀を計ったりするようなことは止めて

という風に解釈されているということでした。とても安心しました。
この「計らい」という言葉をどう解釈するかは
とてもデリケートな問題ですので、そのことを guutaratei さんが
きちんと受け止めておられたことを再確認できて、とても嬉しいです。
老子は古今東西、いろんな人がいろんな訳をしていますが、
だからこそ自分なりの翻訳をするときには相応の根拠を持って
挑まなければならないと思っています。
今後もきちんといろんな注釈に当たりながら、
きちんと考えて訳していきます。

ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。

2012/4/12(木) 午前 7:27 白川 玄齋

56rinyahoo さん、おはようございます。
コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
いつも丁寧なコメントを頂いて、とても嬉しいです。感謝します。

>> 何人かの学者の解釈によりますと、
>> 「死んでも朽ち果てることのない功績を打ち立てれば、
>> (その功績は)永遠に残るのです」
>> あるいは
>> 「死んでも人の心の中に存在し続けるような人は、
>> 長く生きることができます。」
>> となっていましたが、どうにも引っかかるものがありました。

僕はこの何人かの学者の訳に困惑していました。
老子の本意だろうかと、きちんと確認したいなと思いました。

一つめの訳は結構見かけますが、そんなことはないだろうと、
いつも思っていました。

(その2へ続く)

2012/4/12(木) 午前 7:44 白川 玄齋

(その2)

>> 功績に居座ることがなく、すぐに退く、記念碑などとんでもない、
>> こちらがむしろ老子の本意だと思っています。
> ↑
> そのとおりです。老子に続く思想家も名前を残していません(^^)。

記念碑的な訳の典型的な例としては、儒学の四書五経の五経の一つで、
歴史書の『春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)』の、
襄公(じょうこう)二十四年の年の、魯の国の貴族の叔孫豹(しゅくそんひょう)という人物の言葉の中の、次の一節を引用したものです。

●原文:

豹聞之、大上有立徳、其次有立功、其次有立言。雖久不廃、此之謂不朽。

●書き下し文:

豹(ひょう)は之を聞く、大上(たいじょう)は徳(とく)を立つる有りて、
其(そ)の次は功(こう)を立つる有りて、其の次は言(げん)を立つる有り。
久しきと雖(いえど)も廃せず、此れを之れ不朽(ふきゅう)と謂(い)う。

(その3へ続く)

2012/4/12(木) 午前 8:18 白川 玄齋

(その3)

●現代語訳:

「私はこのようなことを聞いております。最も優れているのは徳によって人民を導くことで、その次は功績を上げること、そしてその次は後の世まで残る立派な言葉を残すことだと。このように長い間も廃れるようなことがないことを、『不朽(ふきゅう)』、つまり『大変すぐれていて、永遠に滅びない』ということなのです」

(ここまでが現代語訳です)

この部分を引用する訳を、結構新しい人でも述べていて、
ちょっと驚いています。明らかに儒学的な考えです。

(その4へ続く)

2012/4/12(木) 午前 8:31 白川 玄齋

(その4)

>> ここは北宋の学者の陸佃(りくでん)(号は農師(のうし))
>> の注釈を取りました。

王安石に肩入れして、それで左遷された人物だそうです。
その関連で、後世の儒学者からもあまり良くいわれていなかったようです。
儒学者は王安石の改革に反対の姿勢を取っています。

平和な時代にこういう派閥争いがあったので国が弱体化して、
北方から騎馬民族の女真族の国の金が攻めてきたのではと思います。

(その5へ続く)

2012/4/12(木) 午前 9:29 白川 玄齋

(その5)

>> このことから、知恵と徳にすぐれた聖人は、生きている途中で
>> 死ぬような目に遭うことはなく、死にそうな状況になっても
>> 判断を誤って自分の身を滅ぼすことがない、
>> ということが言えるのです。
> ↑
> 老子の全文をふまえての解釈ですね。

これも、「無為」という言葉の意味を解説している陸佃の注釈が、
一番僕が考えているものに近い、という判断から来ています。

「やるべきことをきちんとやり、すべきでないことはしないでいられる」、
もう少しきちんと言えば、
「目的を達成するために必要な行動のみをきちんと取る」
これを究極まで突き詰めたものを「無為」と解釈しています。

(その6に続く)

2012/4/12(木) 午前 9:37 白川 玄齋

(その6)

> もし、冒頭の通説的な解釈をとるのであれば、老子の言葉とは関係がない
> という考え方もできないでしょうか。老子が仙人に祀り上げられたり
> しているので、後世の挿入かなと思ったりしています(^^ゞ

とても良い質問ですね。ありがとうございます。とても嬉しいです。
この文章の古いものとしては、1973 年の冬に湖南省の長沙市の
馬王堆(ばおうたい)という前漢の初期の時代の墳墓の
第三号漢墓から、絹の布に書かれた二種類の『老子』の
テキストが出土されたもので、
「馬王堆帛書(ばおうたいはくしょ)」の
甲本と乙本と呼ばれているものの中にもあります。

もし後世の挿入だとしても、前漢の初期の時代まではさかのぼれるのですから、
もともとあった文章である可能性は高いですね。

(その7へ続く)

2012/4/12(木) 午前 9:52 白川 玄齋

(その7)

甲本では「死不忘者、壽也。」
乙本では「死而不忘者、壽也。」
とあります。

ここで注意すべきなのは「忘」をそのまま訳してはいけないということです。
魏の老荘の学者である王弼(おうひつ)は「亡」になっていること等を勘案しますと、
「忘」は「亡」の音を借りた字で、「亡」つまり「ほろびる」の意味で解釈するのが
正しいと思っています。これは二つ目の訳を採用しなかった理由でもあります。

今までのテキストより古いものだからと言って、
そのまま古いものを訳して良いかどうかは
さらに考えなければならないのです。
ここが難しいところで、面白いところでもありますね。

(その8に続く)

2012/4/12(木) 午前 10:13 白川 玄齋

(その8)

56rinyahoo さんにはいつも丁寧なコメントを頂いて、
とても感謝しています。
疑問に思う点をさらに点検できるのも嬉しいです。

これからもよろしくお願いいたします。
僕もさらにがんばっていきます。

2012/4/12(木) 午前 10:16 白川 玄齋

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玄さん
死んでものこす者は、なあんもないような自分ですが
故に 生きてる今こそ 人との交わりのうれしさを大事にしていきたく思います。
これからもよろしくお願いします

2012/4/24(火) 午後 7:48 [ taiyo ]

taiyo さん、こんばんは。コメントありがとうございます。
私も日々、 taiyo さんがお元気でいることがとても励みになっています。
私も身体に気をつけて、きちんとがんばっていこうと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。 taiyo さんもお元気でいて下さいね。

2012/4/24(火) 午後 9:39 白川 玄齋

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玄さんの解釈が正しいと信じます・・・
さすがです
金正日、日成の銅像を見れば分りますよね・・・
功績なんて話にもなりません
ポチ

2012/4/29(日) 午後 5:13 [ 夢想miraishouta ]

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玄さん
ブログを更新しました
写真を見てください
漢詩に通じる心を感じるように思います

2012/4/29(日) 午後 5:14 [ 夢想miraishouta ]

夢想miraishouta さん、こんにちは。
コメント + 傑作ポチ、ありがとうございます。
戦争とか、そういう中での英雄は歴史をゆがめますが、一方で、
一般の人や自衛官の方々が、被災地で懸命に頑張っている姿は、
きちんと評価して忘れないようにすべきだと僕も思います。
この二つをきちんと区別しなければ、これも秩序を壊してしまう、
きちんとこう言うところも考えていきたいなと思います。

ブログを拝見しました。二枚の写真はどちらも全く異なる意味で
とても感動的ですね。後ほどコメントいたします。

2012/4/29(日) 午後 5:23 白川 玄齋

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玄さん
作られた英雄はいけませんよね・・

2012/4/29(日) 午後 7:07 [ 夢想miraishouta ]

夢想miraishouta さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
軍事に関する英雄など、偶像というのがどれほど害のあるものかという
そういう例が近くの国に見られるように僕も思います。
そういう偶像が日本でも作られないようには、
注意していきたいなと僕も思います。

2012/4/30(月) 午後 0:50 白川 玄齋


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