玄齋詩歌日誌

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人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道に惑ひぬるかな    藤原兼輔(『後撰集』 雑一 1102)

鈴虫の声の限りを尽くしても長き夜あかずふる涙かな   命婦

いとどしく虫の音しげき浅茅生に露置き添ふる雲の上人   桐壺更衣の母


解説

帝のもとへと一度帰ろうとする命婦に、桐壺更衣の母君が言葉をかける場面です。


ここからが本文です。



母君は次のように命婦に言葉をかけました。

「『暮れ惑う心の闇』も、堪えることができない気持ちの一部分だけでも晴らせるように
 お話ししたいものですから、また公事ではなく私事ででも、気楽にお越し下さい。


  (注)『暮れ惑う心の闇』は、以下の短歌の引用です(一首目)。

   人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道に惑ひぬるかな    藤原兼輔(『後撰集』 雑一 1102)

   訳: 子を持つ親の心は闇ではないけれども、子供のことを思うときには、
    闇夜に迷うように、(我が子のことを思うあまりに)理性を失って
    何もわからなくなってしまうものだなあ。

   藤原兼輔(ふじわらのかねすけ)は紫式部の曾祖父にあたる方なので、
   この短歌の引用は各所に出て来ます。


 以前までは嬉しく光栄に思う出来事のおりに、お立ち寄りになっておりましたね。
 このようなお便りでお会いしますのは、ほんとうにまあ、ままならない私の命ですね。
 私の娘(桐壺更衣)は生まれたときから、(宮廷内での出世の)望みをかけていた子で、
 私の亡き夫の大納言は、臨終となるまでひたすらに、

 『娘を宮仕えに出すという私の本来の願いを、ぜひとも成し遂げてくれ。私が亡くなったから
  といって、情けなく思って気落ちしないでくれ』

 と、繰り返し繰り返し忠告しておりましたが、

 『しっかりとした後援者がいない中での宮仕えは、かえってしない方がよいのですが』

 と、私は存じながらも、ただひたすらに、

 『この夫の遺言を違えることはするまい』

 とだけ考えて、娘を宮中に出しましたら、娘には身に余るほどの帝のご寵愛が、
 万事においてもったいなく思って、(他の女官たちから)人並みに扱われない
 恥ずかしさを隠しながら、(他の女御・更衣たちと)つきあっていたのですが、
 人の嫉妬は深く、心穏やかではないことが多く身に加わってきたところで、
 自然でないかたちで、とうとうこのように亡くなってしまったので、
 かえって辛いことになってしまったと、帝の畏れ多いご寵愛のことをそのように
 存じております。これも、(娘を愛するあまりの)私のままならない心の闇だと存じます」


などと、すべて言い終わらないうちに、(桐壺更衣の)母君はむせ返っていました。
それで更に夜が更けていきました。


「帝もそのように仰せになっておりました。


 『私自身の心でありながら、(桐壺更衣に)あまりに甚だしく、周囲が驚くほどに思いをかけたのも、

   『長く続くことのできない運命だったのだ』

  と思って、今はただ辛い(桐壺更衣との)前世の宿縁に思っている。

   『決して、ほんの少しも人の心を損なったことはあるまい』

  と思っているけれども、ただ、この人との縁が原因で、数多くの恨みを買うべきでない人々の
  恨みを買った果てに、このように私を残して先立たれてしまって、心を静める術もなくなって
  しまって、私がひどく体裁も悪く、偏屈になってしまうことに対しても、前世の宿縁が
  どのようなものであったのか、知りたいものだ』


 と、帝は繰り返されながら、ただ涙で袖を濡らしておいでになっておられます」


と命婦は語って、話に尽きるところがありませんでした。命婦は泣く泣く、

「夜がとても更けて参りましたので、今夜の内に、帝のもとへお返事を届けに参ります」

と言って、急いで帰参することにしました。


月が沈む頃で、空が清らかに澄み渡っていて、風はとても涼しく吹いて、草むらからの
虫たちの声が、涙を催すように聞こえていました。とても立ち去りにくい、草むらの風景でした。

命婦は次のような歌を詠みました(二首目)。


鈴虫の声の限りを尽くしても長き夜あかずふる涙かな   命婦

訳: この鈴虫のように声の限りを尽して泣いても、秋の夜長に飽きることなく涙が流れます。
 (桐壺更衣の母君様が長い人生を満ち足りることなく暮らしてきたことに涙が流れます)


命婦も(悲しみで)なかなか車に乗ることができませんでした。

母君は女房を遣わせて、命婦に次のように伝えました(三首目)。


「いとどしく虫の音しげき浅茅生に露置き添ふる雲の上人   桐壺更衣の母

 訳: ただでさえも虫の声がしきりに響く茅萱の荒れ果てたところに、更に露(悲しみ)を
  添えるような雲の上(帝)からの使いの方ですね。


 恨み言も、あなたに申し上げてしまいそうです」


このような折には、風情のある贈り物をするときではないので、ただ、

「これは娘の形見です。このようなときもあるかと存じまして。(帝にお渡し下さい)」

などと母君は言伝をして、今まで手元にとっていた娘の衣服の一式や、
御髪上げの時の調度などを添えて、命婦に渡しました。


若い女房たちが、桐壺更衣の死を悲しむことは言うまでもないことですが、
宮中の生活を朝夕に慣れ親しんでいて、とても心細く、帝のご様子などを
思い出していたので、若宮(源氏)を早く参内なさるようにと
(桐壺更衣の)母君に促していましたが、母君は、

「このように忌まわしい身でありながら、若宮に連れ立って参内しますことは、
 とても世間体が憚られます。一方で、若宮に会うことのできない時が少しでもありますのは、
 とても気がかりに存じます」

などと御自身の思いを話して、若宮を簡単には宮中に参内させることはありませんでした。



ここまでが本文です。


夫の大納言が亡くなっていた頃から、娘の桐壺更衣が宮中でどのような扱いを受けるか
ということに気づいていながらも宮中に上げてしまったことを後悔し、格別な寵愛さえも
恨めしいと帝に文句をぶつける母君の言葉には、とても切ないものを感じました。


次回は命婦が帝に若君や母君の様子を伝える場面です。

帝の悲しみと、弘徽殿の女御の勝ち誇ったような態度が対照的に描かれます。

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