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詠裁判員制度 玄齋 (古詩・換韻格)
民 衆 判 事 自 今 年 民衆の判事 今年よりす
温 情 恤 刑 欲 無 偏 温情ある恤刑 偏なからんと欲す
未 破 内 賊 一 貧 者 未だ内賊を破らざる一貧者にて
應 知 大 辟 慄 慄 然 応に大辟の慄慄然たるを知るべし
仲 尼 聽 訟 爲 難 矣 仲尼 訟を聴くこと難しと為せり
昔 者 衆 議 纔 賜 死 昔者 衆議して纔かに死を賜う
厳 刑 寛 刑 要 細 論 厳刑 寛刑 細論するを要す
惟 負 重 責 堪 任 爾 惟だ重責を負うて任に堪うるのみ
押韻:
一句目〜四句目: 下平声一先韻(年・偏・然)
五句目〜八句目: 上声四紙韻(矣・死・爾)
現代語訳:
詩題: 「裁判員制度を詠ず」
民衆が裁判員になる制度は、今年から始まる。
温情をもって慎重に刑罰を行って、判決に偏りがないようにと願っている。
私はまだ、雑念や欲望などの心の中の賊を破ることができない
一人の貧乏人であり、
きっと死刑の恐ろしさに、身が震えるのを知ることになるだろう。
孔子は人の訴えを聞いて裁判を行うことを、とても難しいとしており、
大昔は君主が部下に死を命じるときも、大勢で話し合って初めて行ったものだ。
厳しい刑罰も寛大な刑罰も、細かく論じることが必要だ。
私はただ重い責任を背負って、この任務に堪え忍ぶだけだ。
語注:
※判事(はんじ): 裁判官のことです。裁判員のことを含めて指しているつもりです。
※恤刑(じゅつけい): よく気を配って慎重に刑罰を行うことです。
※内賊(ないぞく): 雑念や欲望を、心の中の賊と表現した言葉です。
『菜根譚』に用例があります。
※大辟(たいへき): 死刑のことです。
※慄慄然(りつりつぜん): おそれてふるえる様を示しています。
※仲尼(ちゅうじ): 孔子の字(あざな)です。
※聴訟(しょうをきく): 人の訴えを聞いて裁判を行うことです。
※矣(い): 意味を強めるときや断定の時に使われる助字です。
訓読ではこの字を読んでいません。
※昔者(いにしえ): むかしのことです。
※衆議(しゅうぎ): 大勢で話し合うことです。
※纔(わずかに): 「〜して初めて〜する」という意味です。
※賜死(しをたまう): 君主が部下に自殺を命じることです。
※厳刑(げんけい): 厳しい刑罰のことです。
※寛刑(かんけい): 寛大な刑罰のことです。
※細論(さいろん): 細かいところまで論ずることです。
※惟〜爾(ただ〜のみ): 「ただ〜するばかりである」という意味です。
解説:
写真は大阪地方裁判所の建物です。
裁判員制度による裁判の法律が五月二十一日に施行され、
実際の裁判が今年の七月から始まりますね。
僕のところには通知が来ていませんので、今年は裁判員にならないようです。
もしかすると一生裁判員に選ばれないかもしれませんが、
覚悟だけは今からでもしておこうと思って、漢詩を書いてみました。
この制度のもとでの裁判では、血の通った偏りのない裁判に
なって欲しいなと思います。
しかし、裁判員が選ばれるのは重大な刑事事件のときであり、
被告人に対して死刑を僕も決めるかもしれないと思うと、
正直恐ろしい気持ちになります。
五句目は『論語』顔淵篇の一節です。
子曰、聽訟吾猶人也。必也使無訟乎。
子曰く、「訟(うったえ)を聴くこと吾れ猶お人のごとし。必ずや訟なからしめんか」
訳: 孔子はこうおっしゃった。「人の訴えを聞いて裁判をすることは、
私は普通の人と変わらないようにしかできない。だから私は必ず
民衆の生活を安泰にし、民衆を教化して争いや訴えのない安定した
世の中にしようと思う」
裁判が起らない平和な世の中にすることが何より第一ですが、
孔子が難しいと言った訴訟のことを、裁判員は今は行わなければならない、
そう考えるととても慎重に行わなければと思います。
古代の中国では、大臣や多くの重臣たちに問いただして議論させた後に、
初めて君主は死刑を決めたとあります。
唐の二代目の皇帝、太宗(李世民)の言行を記した『貞観政要』には、
太宗がこの古来の制度を実施したことが記されており、制度を初めて
四年の間に死刑になった者は、わずかに二十九人であったそうです。
刑罰を定めるには、慎重の上にも慎重を期さなければと、そのように思います。
人を裁くという大きな重責に、僕はすでに大変頭を悩ませています。
これからももっともっと考えていこうと思います。
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