玄齋詩歌日誌

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『日本外史』の四回目は、源氏と平氏が武家の頭領として台頭してくる部分です。


●原文

自從天慶。馴致寛治。源平二氏。數鎭東邉。毎用此輩。以奏功効。
而各有所習用。以相隷屬。因襲之久。如君臣然。

自是其後。苟有事輙命之二氏。二氏各發其隷屬赴之。如探物於囊。
不復煩選將徴兵。而討伐勦誅。莫不立辨。

廟堂之上。務取恬熈。不憂其勢之積重不囘。方且延爲爪牙。
以相傾排而已。鳥羽之下此令也。如察其弊者焉。
而不窮弊之所由。於救之之術。蓋已疎矣。

當是之時。源氏有梗命者。勅平氏討之。平氏有難制者。令源氏誅之。
更相箝制。以爲得控馭之術。而不知異日搏噬攘奪之禍。又基於此。
敗壞古制。苟婾一時。皆足以自取困蹶也。


●書き下し文

天慶より寛治に馴致し、源・平二氏、しばしば東辺を鎮めるに、
毎に此の輩を用い、以て功効を奏す。
而して各々習用する所有り、以て相隷属す。
因襲の久しきは、君臣の如く然り。

是より其の後、苟も事有らば、輙ち之を二氏に命じ、
二氏は各々其の隷属に発して之に赴かしむ。
物を嚢に探るが如くにして、復た将を選び兵を徴するを煩わさず。
而して討伐勦誅、立ちどころに弁ぜざること莫し。

廟堂の上、務むるに恬熈に取り、其の勢の積重の回らざるを憂えず。
方且に延きて爪牙を為し、以て相傾排するのみ。
鳥羽の此の令を下すや、其の弊を察する者の如し。
而して弊の由る所を窮めず。之を救うの術に於いて、蓋し疎なるのみ。

是の時に当たり、源氏に命を梗(ふさ)ぐ者有れば、
平氏に勅して之を討たしめ、平氏に制し難きの者有れば、
源氏に令して之を誅せしむ。
更々相箝制し、以て控馭の術を得たりと為せり。
而して異日の搏噬攘奪の禍、又た此に基づくを知らず。
古制を敗壊して、一時を苟婾するは、皆な以て自ら困蹶を取るに足るなり。


●現代語訳

天慶年間(938 〜 947)から寛治年間(1087 〜 1094)にかけての間に、
武士の呼び名に次第に慣れて馴染んでいき、源氏・平氏の二氏は、
何度も起こる東方での戦乱を鎮圧するために、常にこの武士の連中を使って、
戦の手柄を上げてきました。

一方でこの武士達もそれぞれ長い間にこの両家のどちらかに
用いられることが多くなって、そこからその家に従うようになっていきました。
このような習慣が長い間続くことによって、
この両者の関係はまるで君主と臣下のようになっていきました。


この後には、何か軍隊を動かす必要のある出来事が起こった際には、
朝廷はすぐにこれを源氏・平氏の二氏に命じて、
二氏はそれぞれ自分たちに従う武士たちに命令を発して戦地に赴かせました。
まるで袋の中のものを探るような風にして、
事が起こるたびにまた大将を選び兵を集めるという煩わしいことはなくなりました。
それでいて敵を討伐して攻め滅ぼすことは、
たちまちのうちに行われるようになりました。


この頃の朝廷は世の中を平和に治めることだけを第一に考えるようになり、
武士の勢力がどんどんと積み重なっていくことを憂慮することをしなかったのです。
今のところうまくいっている現状をそのままにして彼らを手下として使い、
お互いを争わせて勢力を弱らせようと考えるだけでした。

実際、鳥羽天皇がこのようにお互いを争わせるような命令を出していたのは、
武士を使うという弊害を察していたからこそなのでしょう。
しかしながらその弊害の原因を究明していたわけではなかったのです。
それにそもそもこの現状を救う方法としては、十分ではありませんでした。


この時以来、源氏の一族に朝廷の命令を妨げる者が出てくると、
平氏に勅令(ちょくれい: 天皇の命令)を出してその者を討伐させ、
一方で平氏の一族に朝廷がその力を抑えるのが難しくなった者が出てくると、
源氏に勅令を出してこれを攻め滅ぼすようにさせました。
お互いにかわるがわる相手を力で押さえつけるようにさせて、
そうさせることでうまく相手を馬のように御する手段を得たとしていたのです。

しかしながら別の日に権力が力で強引に奪い取られるという
災難に陥ってしまうのは、まさしくこれが原因であることを知らなかったのです。
昔からの制度をすっかり駄目にしてしまって、
一時しのぎの安逸をむさぼってしまうことが、
すべて後日の自分自身の行き詰まりを招いてしまうのです。


●語注

※隷属(れいぞく): 相手に従って言いなりになる家来のことです。

※勦誅(そうちゅう): 敵を討ち滅ぼすことです。

※廟堂(びょうどう): ここでは朝廷(ちょうてい: 天子(天皇)が政治を行う場所)
  のことです。昔は祖先の霊を祭るところで軍事などの国の大事なことを
  決めていたところから、政治の事務の行われている場所、
  つまり朝廷を指す言葉になっていきました。

※恬熈(てんき): 世の中がとても平和に治まっていることです。

※積重(せきじゅう): 物事が積み重なって蓄積されていくことです。

※方且(ほうしょ): 今のところ、という意味です。

※爪牙(そうが): 部下や手先のことです。

※箝制(かんせい): 力で押さえつけて自由にさせないことです。

※控馭(こうぎょ): 馬を御するように、相手を勝手にさせずに
  うまく取り締まることです。

※搏噬攘奪(はくぜいじょうだつ): つかまれて噛みつかれ、
  盗んで奪われることです。権力が力で強引に奪われることの例えです。

※敗壊(はいえ): 物事をすっかりだめにしてしまうことです。

※苟婾(こうゆ): 一時の安心をむさぼることです。

※困蹶(こんけつ): 物事につまずいて行き詰まってしまうことです。


●解説

源氏・平氏の台頭の裏には、武士の台頭に対処できなかった、
当時の朝廷の一時逃れの姿があったということがわかります。

根本の原因を取り除かなければ、姑息な方法で一時しのぎをしていても、
いつかは大きな災難に見舞われるというところには、
現在までの日本の政治情勢を重ね合わせて読んでいました。
正しい方向に政治が動いて欲しいなと切に思います。


次回は『日本外史』の著者の頼山陽(らい さんよう)が、
これまでの武家の台頭の部分への感想を述べている部分です。

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