玄齋詩歌日誌

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月の写真
(Photo by (c)Tomo.Yun)
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  秋夜所懷  玄齋  (上平声二冬韻)
 
 秋 宵 欲 動 汝 愁 容
 
 恰 似 參 商 奈 未 逢
 
 檠 下 陳 辭 願 長 久
 
 遠 同 山 月 思 千 重
 
 
 
書き下し文:
 
   「秋夜所懐」  玄齋  (上平声二冬韻)
 
 秋宵 汝が愁容を動かさんと欲するも
 
 恰も参商に似たり 未だ逢わざるを奈んせん
 
 檠下 辞を陳ねて長久なるを願い
 
 遠く山月を同にすれば 思い千重ならん
 

現代語訳:

 題「秋の夜に思うこと」

 秋の夜に、あなたの悲しく愁いている表情を動かそうと思っていますが、
 
 まるで参星(しんせい)と商星(しょうせい)の二種類の星が
同時に夜空に上がらないように、お互いに遠く離れてしまっていて、
まだ会えない状況を、どうすればいいのかと考えています。
 
 机の灯りの下で手紙の文章をつらねて、
いつまでもお互いが健康で長生きができるようにと願いながら、
 
 遠くの山の上にかかる月を、遠くにいるあなたとともに眺めていると、
想いがいくつも重なってくるように思います。
 

語注:

 ※秋宵(しゅうしょう): 秋の夜のことです。
 
 ※愁容(しゅうよう): 物思いをしている愁いの表情のことです。
 
 ※恰(あたかも): まるで、という意味です。
 
 ※参商(しんしょう): 参星(しんせい: オリオン座の三つ星)と
商星(さそり座のアンタレスを含む三つ星)のことで、
この両者が西と東に遠く離れていて、同時に天にあらわれないところから、
親しい人と遠く離れてあわないでいることをたとえて言います。
 
 ※奈(〜をいかんせん): 「〜をどうすればいいのか」という意味です。
 
 ※檠下(けいか): 机の灯りの下のことです。
 
 ※陳(つらねる): 言葉を連ねてのべることです。
 
 ※長久(ちょうきゅう): 永久にかわりなくいつまでも続くことです。
ここでは、「いつまでもお互いが健康で長生きができるように」
  という意味です。
 
 ※同(ともに): 一緒に、という意味です。
お互いが離れていても同じ月を見ていることを示しています。
 
 ※山月(さんげつ): 山の上にかかる月のことです。
 
 ※千重(せんちょう): いくつも重なっていくことを示す言葉です。
 
 

解説:
 
 当時の遠くの人を思っての秋の夜の物思い、
 そんな光景を詠んでみました。

 高校の頃天文部に所属していましたので、
星に関する言葉をいろいろと覚えていこうと思いました。
 
 承句は遠く離れていて同時には空に上がらない星座、
それをお互いが遠くにいる状況にたとえてみました。
 

 転結は宋の詩人の蘇東坡(そとうは)の、
水調歌頭(すいちょうかとう)という詞の最後の句を参考にしました。
 

 但 願 人 長 久,但だ願わくは 人の長久にして,
千 里 共 嬋 娟。千里に嬋娟(せんけん)を共にせんことを。
 
 (私訳)遠くにいる君(弟)には会うことができなくても、
せめてお互いがずっと健康で長生きをして、
この名月の日には千里も離れた君と、
この美しい月をともに眺めようじゃないか。
 

 もとの詞は弟を思うものですが、人を思う気持ちは共通だと思いました。
その句を韻を変えてアレンジしてみました。
 

 いろんな詩句を研究しながら、
僕自身の心の中も深めていきたいなと思います。
日付を見ると、二年近く放り出していたことが分かります。
そこで、簡単に『夜航詩話』のことを説明いたします。
 
『夜航詩話(やこうしわ)』は、江戸時代の津藩の儒学者、
津阪孝綽(ちさかもとひろ)という方の書いた詩話(しわ)のことです。
 
「詩話(しわ)」とは、辞書には「詩、詩人、詩の作法や逸話などについて
述べた話。また、それらを記した随筆ふうの書物」と載っています。
 
この詩話に載っている作法や逸話を、漢詩を作る際の参考にするために
読んで訳していくことが、僕の課題の一つです。
 

では、続きを訳していきます。
 
 
 
●原文
 
 謝茂秦云、凡作詩、誦之行雲流水、聽之金聲玉振、觀之明霞散綺、
 講之獨繭抽絲、此詩家四關、使一關未透、則非佳句矣、洵知言哉。
 
 

●書き下し文
 
 謝茂秦(しゃもしん)云わく、凡(およ)そ詩を作るに、
 之を誦すれば、行雲流水(こううんりゅうすい)、
 之を聴けば、金声玉振(きんせいぎょくしん)、
 之を観れば明霞(めいか)の綺(あや)を散じ、
 之を講ずれば独り繭(まゆ)の糸を抽(ぬ)く。
 此れ詩家の四関(しかん)、
 一つの関をして未だ透らざらしめば、則ち佳句に非ずと。
 洵(まこと)に知言なるかな。
 
 
 
●現代語訳
 
 
明の民間の詩人の謝榛(しゃしん)は言いました。
 

 「全体的に言うと、詩を作るならば、 
 次のような詩でなければならないのです。
 
 その詩を節を付けて詠むと、行く雲と流れる水のようにとどこおりなく、
 
 その詩を聴くと、音楽を合奏するとき、初めに鐘を鳴らしてもりあげ、
 終わりに磬(けい)という石で作った楽器を打ってしめくくる、というように、
 きちんと詩の中の構成が整って、知恵と道徳が整っており、
 
 その詩を見ると、明るい夕焼けの光がきらびやかに輝くように美しく、
 
 その詩を説明すると、一人で繭の糸を抜いていくように
 細かい所まで整っている、
 
 これは詩人の四つの関門であり、その関門の一つでも
 通ることができないの であれば、良い詩句とは言えない」と。
 

これは本当に詩の本質をとらえた言葉です。
 
 

●語注
 

 ※謝茂秦(しゃもしん): 謝榛(しゃしん)の字(あざな)です。
 
 ※謝榛(しゃしん): 明の時代の官僚ではない民間の詩人です。
  号は四溟山人(しめいさんじん)、又は脱屣山人(だっしさんじん)
  といいます。李攀龍(りはんりょう)や王世貞(おうせいてい)などの
  当時の有名な詩人たちとともに、
  後七子(ごしちし: 明代の嘉靖年間の有名な詩人の七人です。
  少し前の時代の七人と区別して、そのように呼ばれます)
  の一人に数えられています。後に李攀龍と詩論で対立した挙げ句、
  その後七子から名前を外されてしまい、その後はずっと民間の人として
  一生を終えました。後世の人には律詩と絶句がすぐれている
  との評価を受けました。著書に『四溟集(しめいしゅう)』や
  『四溟詩話(しめいしわ)』があります。
 
 ※行雲流水(こううんりゅうすい): 行く雲と流れる水のことです。
  一定の形がなく、様々な状態に移り変わることのたとえです。
  また、物に応じ、事に従って、自然のままでとどこおらぬ態度を
  指すこともあります。
 
 ※金声玉振(きんせいぎょくしん): むかし、中国で音楽を合奏するとき、
  初めに鐘を鳴らしてもりあげ、終わりに磬(けい: 石で作った楽器)を
  打ってしめくくる。転じて、知恵と道徳がじゅうぶんに備わることを
  意味しています。もと、孔子が徳を集大成したのをたたえたことばです。
 
 ※詩家(しか): 詩を作る人、つまり、詩人のことです。
 
 ※知言(ちげん): 物事の本質をとらえた内容の言葉のことです。あるいは、  真理を伝えることばのことです。
 

●解説
 
 
 この一節を二年ほども放り出してあったのは、謝榛(しゃしん)という
 明の時代の詩人のことを理解するのに時間がかかったからです。
 この人名は Wikipedia には載っていないのです。
 吉川幸次郎の『元明詩概説』にも、人名しか載っていなかったのです。
 
 あるとき、中国で出版されたこの詩人の全集を 3,000 円ほどで
 買うことができましたので、そこからようやく手がかりを
 得ることができました。
 
 あとは、簡体字でこの詩人を検索するといろいろと出て来ました。
 これからは簡体字でもいろいろと調べていこうと思います。

 
 作者の津阪孝綽がこの詩人を取り上げたのも、
 この詩人が李攀龍と対立したことが理由ではないかと思います。
 吉川幸次郎著の『元明詩概説』によると、李攀龍は昔の詩文を
 引き写して詩を作っていたことや、常に同じ詩句を常套句のように
 使っていたことなどが批判されていたと書かれています。
 
 それに対してこの謝榛という詩人は、李白や杜甫のすぐれた詩を熟読し、
 声に出して読み、そうやって詩を味わうことで、声の調子や精神を
 自分の中に取り込んで、その上で詩を作る、ということを主張していました。
 
 今の時代からするとどちらが良いかはよく分かりますね。
 

 「学ぶことは模倣だ」とは言っても、漢詩の場合では、
 それはその人の詩句や形式をまるごと借用することではなく、
 その詩を読んで詩句の意味を調べていくことで、
 詩にでてくる考えや感情などをくみ取って、
 その上でまったく言葉も形式も違う、自分なりの言葉に組み立てて
 表現してみる、ということだと思います。
 
 僕も漢詩を作る際はそういうところに気をつけていきたいなと思います。

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