玄齋詩歌日誌

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豫園(よえん)の池(中国・上海)
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 前回の曹操の息子の曹植(そうしょく)の有名な詩である、『洛神賦(らくしんふ)』の翻訳の六回目です。これが『洛神賦』の翻訳のラストです。
 
 
 神様や仙人が乗る乗り物に乗ってドライブに出かけた、曹植と洛水(らくすい)の川の女神である宓妃(ふくひ)の二人が話をしています。さて、この二人の恋の結末は・・・
 
 
 
●原文:
 
 
於 是 越 北 沚,  過 南 岡,
 
紆 素 領,  回 清 揚。
 
動 朱 唇 以 徐 言,  陳 交 接 之 大 綱。
 
恨 人 神 之 道 殊 兮,  怨 盛 年 之 莫 當。
 
抗 羅 袂 以 掩 涕 兮,  涙 流 襟 之 浪 浪。
 
悼 良 會 之 永 絶 兮,  哀 一 逝 而 異 郷。
 
無 微 情 以 效 愛 兮,  獻 江 南 之 明 璫。
 
雖 潛 處 於 太 陰,  長 寄 心 於 君 王。
 
忽 不 悟 其 所 舍,  悵 神 霄 而 蔽 光。
 
 ●
 
於 是 背 下 陵 高,  足 往 神 留。
 
遺 情 想 像,  顧 望 懷 愁。
 
冀 靈 体 之 複 形,  禦 輕 舟 而 上 溯。
 
浮 長 川 而 忘 反,  思 綿 綿 而 増 慕。
 
夜 耿 耿 而 不 寐,  沾 繁 霜 而 至 曙。
 
命 僕 夫 而 就 駕,  吾 将 歸 乎 東 路。
 
攬 騑 轡 以 抗 策,  悵 盤 桓 而 不 能 去。
 
 
 
●書き下し文:
 
 
是(ここ)に於(おい)て北沚(ほくし)を越えて、
 
南岡(なんこう)を過ぎ、
 
素領(そりょう)を紆(めぐ)らし、
 
清揚(せいよう)を回(めぐ)らす。
 
朱唇(しゅしん)を動かして以(もっ)て徐(おもむろ)に言い、
 
交接(こうせつ)の大綱(たいこう)を陳(の)ぶ。
 
人神(じんしん)の道の殊(こと)なるを恨(うら)み、
 
盛年(せいねん)の当(あ)たる莫(な)きを怨(うら)む。
 
羅袂(らべい)を抗(あ)げて以(もっ)て涕(なみだ)を掩(おお)い、
 
涙(なみだ)は襟(えり)の浪々(ろうろう)たるに流る。
 
良会(りょうかい)の永(なが)く絶(た)ゆるを悼(いた)み、
 
一(ひと)たび逝(ゆ)きて郷(きょう)を異(こと)にするを哀(かな)しむ。
 
微情(びじょう)の以(もっ)て愛を效(しめ)すこと無ければ、
 
江南(こうなん)の明璫(めいとう)を献(けん)ぜん。
 
潜(ひそ)みて太陰(たいいん)に処(お)ると雖(いえど)も、
 
長く心を君王(くんのう)に寄(よ)す。
 
忽(こつ)として其(そ)の舎(お)る所(ところ)を悟(さと)らず、
 
神霄(しんしょう)の光を蔽(おお)うを悵(うら)む。
 
 ●
 
是(ここ)に於(おい)て下(ひく)きを背にして高きに陵(のぼ)り、
 
足は往(ゆ)きて神(しん)は留(とど)まる。
 
情(じょう)を遺(とど)めて想像(そうぞう)すれば、
 
顧望(こぼう) 愁(うれ)いを懐(いだ)く。
 
冀(こいねが)わくは霊体(れいたい)の形を複(かえ)さんと、
 
舟(けいしゅう)を禦(ぎょ)して上溯(じょうさく)す。
 
長川(ちょうせん)に浮(う)かびて反(かえ)るを忘(わす)れ、
 
思(おも)いは綿々(めんめん)として増々(ますます)慕(した)う。
 
夜は耿々(こうこう)として寐(ね)られず、
 
繁霜(はんそう)の曙(あけぼの)に至りて沾(うるお)う。
 
僕夫(ぼくふ)に命(めい)じて駕(が)に就(つ)き、
 
吾(われ)は将(まさ)に東路(とうろ)に帰らんとす。
 
騑轡(ひけい)を攬(と)りて以(もっ)て策(むち)を抗(あ)ぐるも、
 
悵(ちょう)として盤桓(ばんかん)として去る能(あた)わず。
 
 
 
●現代語訳
 
 
このとき、川の北にある中洲(なかす)を越えて、
南の山の尾根を過ぎていった時に、
 
その女神のうなじが白く滑らかであるのが見え、
明るく澄んだ黒目を、いろんな風景を見るために回らしていました。
 
その赤い唇を動かして、ゆっくりとした口調で話しかけてきて、
交際の時の重要な点について述べていました。
 
その時、私は人と神の生きる道が異なることを恨めしく思い、
私が元気の盛んな壮年(そうねん)の時ではないことを
恨めしく思っていました。
 
薄絹で出来た袂(たもと)を持ち上げながら、涙を流す顔を隠し、
流した涙は襟元をさかんに流れていました。
 
この良い集まりが、永久に絶えてしまうことを悲しく思い、
一度離れてしまうとお互いに遠く離れてしまうことを悲しく思いました。
 
別れてしまうとほんの少しの愛の気持ちを示すこともできなく
なってしまうということで、
洛水(らくすい)の南で取れた、明るい玉でできた耳飾りを
私に贈り物として丁寧に渡してくれました。
 
この先ひっそりと仙人の住む月の宮殿に過ごしていくとしても、
長く私に想いを寄せてくれると言ってくれました。
 
するといつの間にか、今どこにいるかがわからなくなり、
輝くような女神の姿が急に消えて二度と見えなくなったことを
とても残念に思っていました。
 
 ●
 
その後、私は今までいた川の低い場所を背にして、
高いところへと登っていきました。
足は前へ進んでいっても、心は女神のいる川に留まったままでした。
 
自分の気持ちをまだ川に留めていた私は、今まで逢っていた
女神の姿を思い浮かべて、
振り返ってみては愁いの気持ちにとらわれていました。
 
もしできることならば、女神のたましいのような身体を
元に戻したいと思いながら、船足の速い舟を操って、
川の流れをさかのぼっていきました。
 
舟が長い川の流れに浮かんでいる頃には私は自分の領地に
帰っている途中であることも忘れて、
女神への想いはいつまでも続いていて、
さらに恋い慕う気持ちが強くなっていました。
 
夜には神経が過敏になって寝ることができず、
たくさんの霜が夜明けに溶けて露になっていました。
 
私は御者(ぎょしゃ)に命じて自分で馬車を操るようにして、
これから東の自分の領地まで戻ろうとしているところです。
 
手綱を取って策(むち)を持ち上げてみましたが、
恨めしい気持ちからぐずぐずとためらって、
なかなかここを去る決心ができないのです。
 
 
 
●語注
 
 
※北沚(ほくし): 川の北にある中洲(なかす)のことです。
 
※南岡(なんこう): 南の山の尾根のことです。
 
※素領(そりょう): 白く滑らかな女性の美しいうなじのことです。
 
※清揚(せいよう): 明るく澄み切った黒い目のことです。
 
※交接(こうせつ): 「交際(こうさい)」のことです。
 
※大綱(たいこう): 重要なポイントのことです。
 
※盛年(せいねん): 元気で盛んな年頃、つまり壮年(そうねん)の
   ことです。
 
※羅袂(らべい): 薄絹で出来た袂(たもと)のことです。
 
※浪々(ろうろう): 涙がさかんに流れる様子を表す言葉です。
 
※良会(りょうかい): 良い集まり、良い寄り合いのことです。
 
※微情(びじょう): ほんのわずかな気持ちのことです。
 
※明璫(めいとう): 明るい玉でできた耳飾りのことです。
 
※太陰(たいいん): 月にある仙人の住む宮殿のことです。
 
※君王(くんのう): 「君主(くんしゅ)」のことですが、ここでは
  曹植のことを指します。
 
※神霄(しんしょう): 神の姿が消えて二度と見えなくなることです。
 
※遺情(いじょう、じょうをとどめる): 気持ちを留めておくことです。
 
※想像(そうぞう): ここでは「以前あったことを思い浮かべること」です。
 
※霊体(れいたい): 神の魂のような身体のことです。
 
※軽舟(けいしゅう): 船足の速い舟のことです。
 
※上溯(じょうさく): 川の流れをさかのぼっていくことです。
 
※長川(ちょうせん): 長い川の流れのことです。
 
※綿々(めんめん): 長く続いてとぎれない様子を指しています。
 
※耿々(こうこう): 神経過敏になって寝られない様子を示しています。
 
※繁霜(はんそう): たくさんの霜のことです。
 
※僕夫(ぼくふ): 馬車の御者(ぎょしゃ)のことです。
 
※東路(とうろ): 東方(とうほう)、東部の地区を表します。
 
※騑轡(ひけい): 馬車の手綱(たづな)のことです。
 
※盤桓(ばんかん): ぐずぐずとためらって決心がつかない様子を
  指しています。
 
 
 
●解説
 
 
 前回の曹操の息子の曹植(そうしょく)の有名な詩である、『洛神賦(らくしんふ)』の翻訳の六回目です。これが『洛神賦』の翻訳のラストです。
 
 
 曹植と洛水(らくすい)の川の女神である宓妃(ふくひ)の二人は、人間の世界と仙人の住む世界に離ればなれになって、曹植は馬車を進める手綱(たづな)や鞭(むち)も手につかなくて、いつまでもそこに止まっていた、というラストです。
 
 
 この『洛神賦』の詩は切ない余韻の中で終わりを迎えましたが、僕はこの漢詩によっていろんな言葉を学ぶことができました。そして次に学ぶべき漢詩や漢文もわかってきました。それをどんどん学んでいって、お相手の方を想う幸せな漢詩を作っていければいいなと思います。
 
 
 日々の勉強も楽しくなってきました。これからもがんばります。

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