首藤剛志のふらふらファイル箱

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 ミュージカル台本「リトルクリスマス」のブログ掲載は終わりました。
 この作品は、もともとは、昔、テレビアニメで、「戦国魔神ゴーショーグン」や「魔法のプリンセス・ミンキーモモ」を書いていた頃、声優の小山茉美さんと古谷徹氏のリサイタル・イベント用に、小山さんから依頼され作ったものです。
 ほぼ、上演時間は一時間ほどで、上演時間を二時間ほどに延ばした作品は、劇団「NLT」で、
 後に別のキャストで上演されました。
 第一回目の表題にも書きましたが、このミュージカルは短編作家オー・ヘンリーの「賢者の贈り物」という短編をベースにしています。
 文庫本のオー・ヘンリー短編集などには、「最後の一葉」などと一緒に必ずといっていいほど収録されている有名な短編なので、ご存知の方も多いでしょうし、ミュージカル化した僕の台本と読み比べて見るのも面白いでしょう。
 登場人物の設定が、ずいぶん違うので、驚かれるかも知れません。
 パート1は、男性の独り芝居、パート2は女性の独り芝居、パート3が、二人の芝居になっていますが、この構成は、男女の俳優の演技力と歌唱力の差が、どうしても比較されてしまうので、実力差のあまりない男女の俳優が演じる必要があります。
 片方が上手で、片方が下手な俳優さんだと、二人の差が目立って、目も当てられないミュージカルになります。
 出演者は、ふたりだけですが、かなり、演じるのは難しいミュージカルだと思います。
 ミュージカル俳優を目指す方は、力試しと云うか、演技の練習用に、やってみてもいいかと思います。
 演出もかなり工夫出来る作品です。
 なにぶん、上演時間が短いので、この作品単体で、劇場で上演するのは難しいかもしれませんので、学園祭やちょっとした余興で上演するのにむいているかもしれません。
 著作権などは、こちらにありますが、入場料などを取らないで、無料で上演するような場合は、こちらに連絡していただければ、台本等、無料で自由に使っていただいて構いません。
 このミュージカルで歌われている曲のデモテープや楽譜も、必要とあればお貸しします。
 ご自由にどうぞという作曲家の了解もとれています。
 ミュージカルとしては、もっとも小規模で予算もかからず上演できる作品のひとつだと思います。
 やって見る気のある方は、ご自由に上演してください。
 こちらとしても、いろいろなカップルが演じる「リトルクリスマス」を、見て見たい気がしています。
 僕にとっては、気楽に楽しく書けた台本でした。
 
 なお、このブログには、未発表作品以外にも、発表した作品の中でも、あまりめだたなかった珍品やら変ったものをいろいろ載せようと思っていますので、たまにのぞいて見てください。
 
 
 
 

    プティ ミュージカル「リトルクリスマス」最終回                                        
                                        
                  P A R T 3             
                                        
                                        
                                        
      「ラブ イズ イリュージョン」を歌い終ったデラの前にジムが来る。
ジ ム 「デラ」
デ ラ 「ジム」
ジ ム 「メリー・クリスマス」
デ ラ 「メリー・クリスマス」
ジ ム 「デラ、話したいことがある」
デ ラ 「私も……」
ジ ム 「僕が先に……早く言って気持を軽くしたい」
デ ラ 「いえ、私が先に」
ジ ム 「いや、僕達」
デ ラ 「いえ、私達」
二 人 (同時に)「別れましょう」
      ……間………                            
ジ ム 「そか……久し振りだね。二人の意見が合ったのは…」
デ ラ 「エエ、ほんとに久し振り」
ジ ム 「別れのクリスマスに、プレゼントしたいものがある」
デ ラ 「ジム……もう、夢物語はいらないわ……私もあなたにプレゼントがあるの」
ジ ム 「君からもらう仕事は、いらないよ」
デ ラ 「仕事じゃないわ。これを」
      金の鎖をだす。
ジ ム 「……」
デ ラ 「酒落てるでしょ? 街中、探して見つけてきたの。あなたの大切な時計に付け
    てもらおうと思って……」
ジ ム 「時計……?」
デ ラ 「あなたが、あの時計を払い戻すために、一生懸命に働いているのって、格好よ
    かったもん。だから、お別れの記念に……」
      ジムは受け取る。                          
ジ ム 「でも。どうしてこんな高いものを……」
デ ラ 「気分を変えただけ……」
      デラはスカーフをとる。
      長かった髪がザックリとショートカットになっている。         
デ ラ 「けっこう高く売れたの。私の髪……」
ジ ム 「なんてこった。……ふふふ……」
デ ラ 「どうしたの?」
ジ ム 「ボクは、君の長い髪に夢を見ていた。だから、別れの記念に髪飾りを……」
      デラ、受けとる。
デ ラ 「でも、どうしてこんな高いものを?……時計を質屋さんに入れたぐらいじゃ、
    買えない筈だわ」
ジ ム 「ちょっと気分を変えたくてね……あの時計は売った」
     ……間……
デ ラ 「髪のない髪飾り……」
ジ ム 「時計のないくさり……」
デ ラ 「だめね、私達」
ジ ム 「ああ、おろかというか、アホというか」
      二人は笑う。
デ ラ 「うまくいかないのよね」
ジ ム 「ああ、折角の別れさえね」
      二人、歌いだす。
                                        
         「愚かな二人」
(デ ラ) いつも こうよね 私達 
      かみあわない チャックみたい
      缶詰 買えば 缶切りがない
      お湯を沸かせば コーヒーがない
      愚かというのも 愚かしい
      フフフ ホホホ (ハモッて)ウフフフフ ホホホ 
      あきらめ笑いのハーモニー
      背中合わせのハーモニー
                                        
(ジ ム) いつも こうだね 僕達は
      かみあわない チャックみたい
      缶詰 買えば 缶切りがない
      お湯を沸かせば コーヒーがない
      愚かというのも 愚かしい
      フフフ ホホホ (ハモッて)ウフフフフ ホホホ 
      しらけあきれてハーモニー
      背中合わせのハーモニー
                                        
(二 人) あきらめ笑いのハーモニー
      背中合わせのハーモニー
                                        
デ ラ 「お別れね……」
ジ ム 「ああ」
デ ラ 「大事にするわ これ」
ジ ム 「僕もさ……」
デ ラ 「さよなら……」
      デラ、駈け去る。
      ジムは、ふっと息を吐き、ベンチに坐る。
      鐘の音……。
      雪が降ってくる。
ジ ム 「クリスマスか……クリスマスには、いつもデラがいた……フン、せいせいした
    ぜ……一人だけのクリスマス……三年振りか……フン、さっぱりしたもんさ……
    でも、クリスマスには、デラがいた……長い髪のデラが……仕事、仕事ってうる
    さいデラが……クリスマスにはデラがいたんだよな……」
      ジムは、口づさむように歌う。
                                        
        「オープン ユア マインド」                  
    (2)                                 
      ほら、目を閉じて 見えるだろう
      こころの扉を 開いてごらん
      見えない 何かが見えてくる
      オープン ユア マインド
      ユー キャン ダンス サムワン
      そっと手をとり ささえるように
      きみをやさしく エスコートする
      ユー キャン ダンス だれかと……
      (ラストのフレーズで、デラと、デュエットになる)          
                                        
      ジムの背後にデラが現れる。
      ジムは、振り返らずに……
ジ ム 「デラ、忘れものかい?」
デ ラ 「ええ、時計のくさりを買った残りで、フライドチキンを四本買ったわ……
    二本づつ……これで、私の髪がのびるまで、お腹がもつかしら……」
ジ ム 「さあ……僕は、髪飾りを買った残りで、ビックマックが二個……一個づつ……
    テレビのシナリオとやらで、金時計が買えるようになるまで、もつかな……」
デ ラ 「さあ……でも、アパートには、ネスカフェがスプーン二杯分は、確かに残って
    いるわ」
ジ ム 「ああ……クリスマスだね」
デ ラ 「ええ……クリスマスよね」
      デラはベンチに坐る。
      ジムと背中合わせである。
      二人、夜空を見上げる。
      雪が夢の世界のように舞って、遠くで鐘の音が聞こえる。
      舞台は、ぐんぐん暗くなり、雪だけが踊っている。
                                        
                                        
                          幕 (一九八三年十二月初演)

  プティミュージカル「リトルクリスマス」その4
                      脚本 首藤剛志 作曲久保田育子

その3からつづく……
デ ラ 「私、それ聞いて、飛び上ったわ。作家……ほら、TVや映画でよくあるでしょ
    う……若くて、売れない作家と若い女優のお話……やがて、作家は有名になり、
    女優はスターになる。
    これだっ! これっきゃない!……
    甘かったのよね。でも、その時、私、若かったし、これこそ、神様がくださった
    クリスマスプレゼントだと思ったわ。
    それに、彼が言うには、マクドナルドのビッグマックも、三本あるフライドチキ
    ンの内の二本もくれるって言うし……あの人、自分は一本でいいって……彼、優
    しいでしょ?……それだけでも、歩く力が出てきたの。
    でも、どうせ食べるなら、ほら、温かい方がいいもんね。だから、聞いたの。
    あの……その、ビッグマック、さめていません?」
男の声〔ジムの声〕「大丈夫ですよ。うちの近くのスーパーの電子レンジで温めてもらい
    ますから……」
デ ラ 「はあ? だったら、そのスーパーでハンバーガーを買えばいいのに」
男の声〔ジムの声〕「いえ、今日、三丁目のマクドナルドは、バーゲンでスーパーより五
    セント、安いんです。安い方がいいでしょ?」
デ ラ 「五セント……五セント安い……三丁目は、ここから二キロは離れています。五
    セントの為の二キロ……それ聞いたら、なんか不安……でもね、彼の暖かいアパ
    ートの中で、お腹が一杯になれば、そんな不安は、遠くの遥か……退屈なおとぎ
    話には参っちゃったけれど、その夜は、久し振りに幸福なクリスマスでした。…
    …うん!                                
    ……そして、私、ジムと同じアパートに暮らすようになりました。
    私は、アルバイトをしながら劇団に通い、ジムは、部屋に篭りっきりで、おとぎ
    話を書いていました。
    貧しかったけれど、けっこう楽しかった……
    それに、いよいよお金に困ると、ジムの金時計が出番です。
    あの金時計……質屋さんに持って行くと、かなりのお金を貸してくれるんです。
    彼、いつも言っていました」                       
男の声〔ジムの声〕「親父が僕に残してくれたのは、僕の才能と、この金時計だけ。
    まだ、僕の才能は役に立たないけれど、この金時計は、僕達の為に、十分、働い
    てくれるよね」
デ ラ 「そして、質屋さんに金時計を預けてからは、ジム、しっちゃかめっちゃかに働
    きだすんです。
    地下鉄の工事から、道路工事、お金になりそうな事ならなんでも……そして質屋
    さんから金時計を払い戻してくると、また、部屋に閉じ篭って、おとぎ話を書き
    始めるんです。
    私、ジムの才能はともかく、金時計を質屋さんから戻す為に、メチャンコ働いて
    いるジムのことを見ていると、なんとなく、やっぱり、頼りになるのかなあ……
    なんて思ったりしたりして……そんな感じで一年がすぎました」
      デラは歌う。 
                                        
         「時は流れて」
                                        
      静かに 静かに 時は流れる
      なんにも 変らず
      積もる 砂時計       時は流れる 時は流れる
      なにも変らず ただ おぼろげに
      なにかが見える
      かすかに かすかに 時は流れる
      変るものなど ないはずなのに
      なにかが 確かに 見えてくる
                                        
デ ラ 「一年目のクリスマスが来ました。
    私は、売れない役者。ジムは原稿が一枚も印刷されたことのない作家……
    でも、私、ジムに頑張ってもらおうと、今はスターになった劇団の友達を通じて
    ジムの仕事を見つけてきました。
    私にしてみれば、精一杯のクリスマス・プレゼントでした。
    ……ねえ、テレビのシナリオのお仕事なの。
    ストーリーはね、野球が好きな親子がいて、そのお父さんが、息子をガンガンし
    ごいて、ニューヨーク・メッツのエースに育てる話なの。
    スター・オブ・ニューヨーク・メッツ……トッチャン、俺は、メッツの星になる
    んだ!」
男の声〔ジムの声〕「僕には書けないよ。僕が書きたいのは、心の安らぐおとぎ話さ。
    根性物とは縁のない世界……さ」
デ ラ 「でも……でも、お金にはなるわ」
男の声〔ジムの声〕「いまさら、お金の為なんかで書きたくない。許してくれ、デラ」
デ ラ 「そう……そうかもね……」
      デラ、溜め息……。                         
                                        
         「時は流れて」
                                        
      静かに 静かに 時は流れる
      なんにも 変らず
      積もる 砂時計 
      時は流れる 時は流れる
      なにも変らず ただ おぼろげに                   
      なにかが見える                           

                                        
デ ラ 「ジムの金時計は、質屋さんとジムの間を何度も行ったりきたりしました。その
    度にジムはメチャメチャに働き、金時計を払い戻してきました。私達の暮しは、
    ジムの金時計で支えられていたのかもしれません。
    ジムは、ジムのパパから渡された才能よりも、金時計の方を信じているようでし
    た。そして、二年目のクリスマス……私、それこそ、人に言えないぐらい頑張っ
    て、ジムの仕事を見つけてきました。
    自分がまだ売れもしない役者なのによくやるよ……人に笑われもしました。
    でも、ジムに目一杯のクリスマス・プレセントをしたかったんです。
    ……ねえ、こんどは、テレビSFのシナリオなの。二つの星が戦って、結局、両
    方とも全滅する話……暗いけど、それが、今のはやりなんですって……」   
男の声〔ジムの声〕「僕には書けないよ。戦いで人が死ぬ話なんて」
デ ラ 「でも、なぜか、主人公だけは行き残るそうよ」
男の声〔ジムの声〕「主人公も脇役も、敵も味方も同じ人間だろ。なぜ、殺し合わなけり
    ゃならないんだ。僕は、もっと優しい世界を作りたいんだ」
デ ラ 「……だめだこりゃ……」
      デラは、深い溜息を洩らす。                     
      デラは、歌う。                           
                                        
         「時は流れて」
      かすかに かすかに 時は流れる
      変るものなど ないはずなのに
      なにかが 確かに 見えてくる
                                        
                                        
デ ラ 「それから又、一年がたちました。
    相変らず金時計は、質屋さんとジムの間をいききしていました。けれど、私達は
    もう、耐えられませんでした……疲れ果てたのです。ジムの夢と、私の夢は、違
    うのです。
    私の夢は、役者になること。それは、現実の世界で幸福になること。
    でも、彼の夢は違う。誰の手にも届かない、雲の向こうの現実にない世界……
    いつまでたっても夢でしかない世界……
    私は、そんな世界では生きられない。ジムと私は違う」  
      デラは、歌う。                           
                                        
       「ラブ イズ イリュージョン」                  
   (1)                                  
      雨にうたれ 風にさらされ 
      化石になった日々が
      ぽろぽろと くずれおちていきます
      あれが夢なら さめないでほしかった
      あれがうそなら ほんとなんかいらない
      ラブ イズ イリュージョン
      愛は まぼろし
      ラブ イズ イリュージョン
      愛は錯覚 
      でも 知ってしまった 今はもう
      あなたの後姿 イリュージョン
      もう ふりむかないで
   (2)                                  
      夢があった 希望があった
      二人でつむいだ日々が
      ほころび みせてつくろえません
      あれが夢なら さめないでほしかった
      あれがうそなら ほんとなんかいらない
      ラブ イズ イリュージョン
      愛はまぼろし
      ラブ イズ イリュージョン
      愛は錯覚
      でも とりもどせない 今はもう
      去りゆく足音 イリュージョン 
      もう 帰らないで
                                        
                                        
  (最終へつづく)

ジ ム 「それから、又、一年がたちました。
    相変らず、デラの長い髪は美しかった。でも、相変らず暮しは貧しく、相変らず
    デラは売れない役者で、僕は更に売れない童話作家でした。
    そして、クリスマス……ボクはまた、彼女に新しいおとぎ話をプレゼントしまし
    た。
    名もない、金もない僕には、それしかプレゼントできるものがなかったんです」
女の声〔デラの声〕「……ジム、今年のクリスマスも七面鳥は無理みたいね……」   
ジ ム 「ああ……うん……でも、聞いてくれ、君に贈る僕のプレゼントを……昔々、ま
    だ、この国にインデアンしかいなかった頃、セントラル・パークのあたりに、妖
    精達の住む世界があったんだ。
    ところが、白人達が住みだし、レンガとコンクリートで、造られた街が広がり、
    人々の心が、煤まみれになりだすと、妖精達の世界は、だんだん小さくなってい
    った。そして、今はもう、ほんのわずかの、限られた人にしか、妖精の姿は、見
    えなくなってしまった」
女の声〔デラの声〕「そこで、ピーターパンのような男の子が…… 」
ジ ム 「いや、僕のは女の子さ」
女の声〔デラの声〕「(溜息)……どっちでもいいわ……ともかく、その子が、人々のす
    さんだ心をたちなおらせて、再び、妖精の国が、みんなと一緒に住んでいけるよ
    うにと、この大都会にやってきた……のよね」
ジ ム 「あん? なぜ知っているの?」
女の声〔デラの声〕「似た様なストーリー、テレビでやっているもの……ただし、テレビ
    は、もっと過激……その妖精の国の子は、魔法のマシンガンで、すさんだ心の連
    中をバリバリ、やっつけちゃう。
    名ずけて、〔妖精戦士ピーター・ポピンズ〕……
    これもアニメでね、私の友達が声の主役をやっているわ……私も出るはずだった
    の。ピーター・ポピンズの魔法を見て、ウッソー!って一言、言う役……でも、
    アフレコスタジオに行ったら、その台詞、カットされていて、あったま来ちゃっ
    たからスタジオのコーヒー、十三杯、タダ飲みして帰ってきたわ。
    でも、十三って数字がまずかったのよね。その日から次の金曜日まで、お腹が、
    ローラー・コースター……悲鳴も出やしなかったわ……
    あ、そうそう、その主役の女の子、実は同棲しているんだけどね、ほら、今、売
    れっ子の作家で、ピート・サイモンってペンネームの……」
ジ ム 「ピート・サイモン?……ピート・ハミルにニール・サイモン……そか……すい
    ませんね!……僕の名がジム・ヤングで……」
      大きく溜息………
                                        
         「時は流れて」
      かすかに かすかに 時は流れる
      変るものなど ないはずなのに
      なにかが 確かに 見えてくる
    ………スポットライトにジムの姿がぽつんと浮び上がって……        
ジ ム 「それから又、一年がたった。
    デラの長い髪は、変わらなかった。
    デラが売れない役者であることも、僕が売れない作家であることも、変わらなか
    った。
    しかし、僕らは、変わらないことの貧しさに、もう耐えられなかった。
    お互いに、自分の才能のなさに失望し、いらつき、口喧嘩が絶えなくなり……そ
    の喧嘩の中身ときたら、口で言い様も無いほど、そう、極限までおぞましく、た
    だでさえ、少ない食器や家具が、宙を飛び、砕け散った…… 
    そして、それにも疲れ果てて……」
      かすかに、クリスマス・ソングが聞こえてくる。
ジ ム 「又、クリスマスがやってきた……
    僕は、決心した。これ以上、お互いを縛りあうのは沢山だ。
    彼女には、彼女の……そして、僕には僕の行き方がある。
    もう、僕は彼女に、僕のおとぎ話は贈れない……」
      ジムは、すべてをふっきるように、ダッと駈け去る。
                                        
                                        
                                        
                     暗 転                
                                        
                  P A R T 2             
                                        
      クリスマス・ソングが、かすかに聞こえている。
      その曲を口づさみながら、コートの襟をたて、髪をスカーフで覆った女……
      デラが来る。
デ ラ 「クリスマス……クリスマス……メリー・クリスマス。
    子供達にとっては、クリスマスから新年にかけて、いちばん、お楽しみの時期で
    すね。でも、私は、はたちをすこしばっか通りすぎちゃって、年の暮れって、な
    んとなくヤバイなあって感じ……わしゃ、まだ、おばんじゃな〜い!……   
    (苦笑)……あ、申し遅れましたが、わたくし、デラ・マイルズ。
    ふる里は、カウボーイの国、テキサス。ヒャッホー!……でも、私は女の子。
    カウボーイは似合わない。なに?……けっこう、様になる? ノンノンノン……
    私はやっぱり、ブロードウェイのミュージカル!
    スポットライトを浴びて大スター。なりたい、なりたい一心で、親の勧める結婚
    を、とっと、さっさと蹴っとばし、家出して来てグリニッチ、やって来ましたビ
    レッヂへ……と、こうきちゃう。
    この街に来た時はもう、なんだか、足が震えちゃって、来た〜って感じ。やった
    〜って感じ!」                             
                                        
         「グローイング アップ ドリーミング」            
    (2)                                 
      さあ いま 幕があく
      広がる世界 マイステージ
      あの街角に 夢がころがり
      この横町で つかむサクセス
      グローイング アップ ドリーミング
      グローイング アップ ドリーミング
                                        
      スポットライトが照しだし
      フル オーケストレーションがかなでる 独り芝居
      私だけの舞台
      グローイング アップ ドリーミング
      グローイング アップ ドリーミング
                                        
デ ラ 「でも、女の子一人、こんな都会で生きていくのは楽じゃなかった。
    どうにかこうにか、小さな劇団にもぐり込んだけれど、ライバルはいっぱい。
    とっても、役なんて貰えそうになかったの。
    その内、貯金も使い果し、アパートも追い出され、いまさら、国にも帰れず、田
    舎者の私には、友達もいなくて、どうしたらいいのか分んなくって……そう、あ
    れは、三年前のクリスマスだったわ。
    私は、街のショーウインドーを見つめながら、フラフラ歩いてた……
    三日も、なにも食べていなくて、ウインドーの中のクリスマス・ケーキが羨まし
    くって、プレゼント用のオモチャも羨ましくって、なにもかも羨ましくって……
    マッチ、買って下さい。マッチ、買って下さい。まるで、マッチ売りの少女……
    でも、マッチ売りの少女の方がまだまし……だって、私には、買ってもらうマッ
    チもなかったもの……                          
    そして気が付いたら、この公園に来ていたの。
    もう、一歩も歩けなかった。私、倒れ込むように、そこのベンチに坐ったの。
    そして、いつの間にか、時間がたっていた。もしかしたら、お腹がすきすぎて、
    気を失っていたのかもしれないわ。
    そして…… 気が付いたら、後のベンチに、男がいたわ。それも、なんだか知ら
    ないけどブツブツ喋っているの。私、ゾーッとして、早く逃げなきゃって思った
    わ。でも……駄目……お腹が減ってて、足が動かないの。
    仕方ないから、じ〜っとしていた。どうせ、どうなったって、なくすものなんて
    もうなんにもないんだし、私、ようするに、いなおっちゃったのよね。
    そしたら、後のベンチの男が何を話しているのか分ったの……子供っぽい、いえ
    今の子供だっら、ダサイ! の一言で言いきられちゃいそうな、古いタイプのお
    とぎ話……それを、公園のハトに向って一生懸命、話しているの。
    退屈だったけど、お腹減ってて動けないし、仕方がないから聞いていたわ。
    一時間も二時間も、ず〜っと……そして、あたりが暗くなった頃」
男の声〔ジムの声〕「あの、あの、どうして、ず〜っと、ここに坐っているんですか?」
デ ラ 「来た、来た。しかと、しかと、知らんぷり。でも、よく考えてみれば、、他の
    ベンチには誰もいないし、わざわざここに何時間も坐っているなんて、変に思う
    のが当然よね。
    まさか、お腹、減ってて動けませんなんて、可愛い女の子の台詞じゃないし、だ
    いち、こんなスタイルのいい……ダメ! 反論は許しません……ともかく、そん
    な私が、三日も何も食べていないなんて言ったって、誰も信じてくれないでしょ
    ……だから、もう一度、あの人が……」
男の声〔ジムの声〕「どうして、ず〜っとここに坐っているんですか?」
デ ラ 「私、答えたの。ちょっと気取って、あの……あなたのお話しているおとぎ話、
    素敵で……聞いていたかったんです。そうしたら、彼、なんかやたら感激するの
    よね。単純と言うのか、かわいいとゆ〜か……」
男の声〔ジムの声〕「あの……今日、御予定は?」                 
デ ラ 「ある訳ないじゃん。(ハッとして、あわてて気取る)いいえ……うふっ……そ
    う言ったらあの人、私を、アパートに誘ったわ。
    危ない、危ない……相手の身元を確めなくっちゃ……あの、あなたは?……」
男の声〔ジムの声〕「あ、すいません。僕、ジム・ヤング。作家してます……」
        
                            (つづく)

注)このミュージカルは、上演時間が一時間ほどの小品です。劇団NLTで上演した時には、いろいろエピソードを付け加えて強引に一時間半程度にのばしましたが、やっぱり間延びした出来になってしまいました。一時間足らずのこの脚本が、ベストのようです。
 劇場で上演するには、最低二時間近くは必要です。したがって、それ以後は、上演されず今に至ってしまいました。

     プティミュージカル「リトルクリスマス」その2
                          作 首藤剛志 作曲 久保田育子

ジ ム 「でも、飲んだくれの親父が残していってくれた僕の才能とやらは、どうやら、
    あてにならなかったようです。
    最初の一年……どこの本屋さんも、僕のおとぎ話を買ってはくれませんでした。
    あてになったのは、なんと、この古びた金時計だったんです。        
    でもこれ、スイスのロンジン製とかで、骨董品としてえらく値打があるらしいん
    ですね。
    そこで、お金がなくなると質屋さんに入たり出したり……いつも困った時に、こ
    の金時計は、僕を助けてくれました。
    そう、三年前のクリスマスの日も、この金時計を質屋さんに入れて、僅かなお金
    で、三丁目のマクドナルドで、サービス期間中のビッグマック二個と、四丁目の
    ケンタッキー フライドチキンで三ピースのチキンを買って、この公園に通りか
    かったんです。 
    夕食の時間までは、まだ間があったから、このベンチに坐って、エサをついばん
    でいる鳩に、おとぎ話を聞かせてあげました。
    これ、僕の日課のようなものだったんです。だって、僕のおとぎ話を聞いてくれ
    る人なんて、公園の鳩ぐらいしかいなかったんですよね……フフフン……(苦笑
    して)しばらく、鳩を相手に話していると、ふと、後のベンチに人が坐っている
    のに気付いたんです」
      スポットがベンチに当る。
ジ ム 「それは、若い女の人のようでした。後をのぞくのは、失礼な気がしたので止め
    て、なんだか、とっても気になったんだけど、ヘイ、ね〜ちゃん、おちゃ、しな
    い?……なんて度胸ないし、だいち、カフェに入るお金もない。
    だから、又、鳩を相手に、おとぎ話を始めました。
    一時間たちました。……二時間たっても、その人は動きませんでした。
    だから、そこで、たまらず、僕、後を向いて言ったんです。
    あのう、あの、あの、どうしてず〜っとここに坐っているんですか?……女の人
    は黙っていました。
    僕も、思わず言葉を失って黙っちゃいました。なぜって、驚いたんです。僕……
    その人は、とっても長くて美しい髪をしていたんです。そう、僕がいつも書いて
    いた、おとぎ話のヒロインそのままでした。
    僕は、もう一度、聞きました。……どうして、ず〜っと、ここに坐っているんで
    すか? ……彼女は、弱々しく答えました」
女の声 〔デラの声〕「あの……あなたのお話していたおとぎ話、素敵で……聞いていた
    かったんです。」
ジ ム 「ぼ、ぼくのおとぎ話を!……」
女の声 〔デラの声〕「ええ……」
ジ ム 「そ、そんな……僕は自分の頬を、何度も何度も叩きました。……だって、グリ
    ニッチビレッジに来てからというもの、僕のおとぎ話を聞きたいって言ってくれ
    たのは、これが、あとにもさきにも、初めてだったんです。
    僕は、うろたえ呆れ……嬉しくて、やった! ってなもんで……あれ?……」 
      ジムは空を見上げる。
      雪が、かすかに降ってくる。
ジ ム 「気が付くと、チラチラ雪が降ってきて、街灯に灯がともり、もう、夕暮れでし
    た。そこで、僕は聞きました。
    あのう、今日、御予定は?……」
女の声 〔デラの声〕「いいえ……」
ジ ム 「あの、そろそろ、夜がおいでになりましたし、寒いですし、よろしかったら、
    僕のアパートで、話の続きを聞いていただけませんか?」
女の声 〔デラの声〕「え?……あの……あなたは?……」
ジ ム 「あ、あの、すいません。ジム。……ジム ヤング。作家してます」
女の声 〔デラの声〕「さっ……作家って、あの、お芝居やテレビの?」
ジ ム 「え、ええ、田舎では芝居の作家もやっていました。あ、あ、でも、無理ですよ
    ね。若い女の人が、会っていきなり僕のアパートなんか……」
女の声 〔デラの声〕「いいえ、あなたのお話、もっと聞かせて……ね」
ジ ム 「え! え、ほんと? ええ、アパートに行けば、コーヒーだってあります。ネ
    スカフェのレギュラーですけど、それから、ビッグマックも二つ、フライドチキ
    ンも三本、あの……二本、食べていただいても構いません……
    それから、あの……僕と彼女は、僕のアパートへ……。
    その夜は、二十四年の人生の中で、最高の、本当に最高のクリスマスでした。
    そして、その日から、彼女と僕は、同じアパートで暮すようになりました。  
    彼女の名前はデラ。売れない役者志望の女の子でした。
    僕のおとぎ話のヒロインというよりは、どっちかっていうと、シンデレラ……
    と、言っても、ガラスの靴を使用後のシンデレラと言うより、使用前のシンデレ
    ラ……よく言って、マイ・フェア・レディになる前のイライザ……
    ま、今後に、期待が持てるといえば、持てるような、持てないような……その…
    …」       
女の声 〔デラの声〕「ちょっと、あなた、それな〜に? はっきりしなさいよ、はっき
    り!」
ジ ム 「え?、あの、その……でも、彼女の、あの長い髪だけは、確かに、僕のヒロイ
    ンそのものでした。
    彼女の長い髪を見つめるだけで、心がなごんだのです」
      イメージ……流れるような、長い髪。                 
            やがて、それが砂時計の流れに変わって……
ジ ム 「小さなアパートでの暮らし、毎日の食事にも困る貧しさ……それでも最初の一
    年は楽しく過ぎていきました」
      ジムは歌う。                            
                                        
         「時は流れて」
                                        
      静かに 静かに 時は流れる
      なんにも 変らず
      積もる 砂時計
      時は流れる 時は流れる
      なにも変らず ただ おぼろげに
      なにかが見える
      かすかに かすかに 時は流れる
      変るものなど なんにもないが
      時は流れる 時は流れる
      変るものなど ないはずなのに
      なにかが 確かに 見えてくる
                                        
ジ ム 「そして、暮らし始めて一年目のクリスマス……
    デラは相変わらず売れない役者……。僕は、更に売れない童話作家でした。
    でも、僕は、デラを励まそうと、ささやかなクリスマスプレゼントを、送りま
    した。
    僕が買いた新作のおとぎ話です。                     
    デラ、聞いておくれ。僕が君の為に書いた新しい話だよ。
    ある男の子の話なんだ。
    その子はね……うん……風や雲、雨や雪、そして、普通の人達には見ることの 
    できない妖精達と話のできる少年だった。
    そこまで言うと、デラは、淋しそうに言いました」
女の声〔デラの声〕「わたし達も、その子のように、なにもおしゃべりしなくても、お互
    いの気持が分かりあえるといいんだけど……」
ジ ム 「えっ?……思わず、僕は、言葉に詰まりました」
女の声〔デラの声〕うううん……なんでもない……でも、あなたのそのお話、最近、テレ
    ビのアニメでマンネリ気味だわ……もち、おとぎ話としてじゃなくて、超能力と
    か、オカルトとか、サイコチックとか……この前も、わたし、そのアニメのアフ
    レコに出してもらったわ。当然、主役じゃなくて、一回、十ドルのちょい役……
    台詞はね……ギャー!……の一言。
    悪役の超能力でバラバラにされる、名もない通りすがりのオバサンの役……
    でも、私、一生懸命やったわ。うん!一生懸命やって、あまりの、ギャー!で 
    マイクが、壊れて、私、クビになっちゃった……ふふん……(苦笑)」
ジ ム 「そ……そう……」
      ジム、溜め息が、ポッと出た。                    
                                        
         「時は流れて」
                                        
      静かに 静かに 時は流れる
      なんにも 変らず
      積もる 砂時計 
      時は流れる 時は流れる
      なにも変らず ただ おぼろげに
      なにかが見える
                                        
                             (つづく)

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