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紫陽花が萎れ、朝顔が幾つも花を咲かせ、向日葵の花が、陽射しに挨拶をする夏が訪れました。かなかなと蜩が鳴き、負けじとみんみんみんとアブラゼミが鳴いている。そして青い空に浮かぶ入道雲がソフトクリームに見えれば、夏休みはもうそこまで来ていました。そして夏休み前日には、西宮神社の夏祭りがあります。西宮神社と瑞龍寺は塀を隔てて隣り合わせでした。祭りの日は神社の敷地に、水飴・お面・氺ようようの店が並び、櫓が組み立てられ、神社の社には、太鼓が並べられ、いつもと違って、活気があり華やかな感じがしました。陽が沈み夜になるとまた違った表情を見せ、アセチレンに灯りがともり、笛や太鼓の祭り囃子が街の中を駆け巡っていきます。
いつもは静かな神社だがこの夜ばかりは活気づくのです。子供達にとって、夜は魅力的だが、お神楽などに興味を持つはずなどなく、隆、チャボ、かんぴょう、ほおずきは塀の上に座り、水飴についている割り箸をぐるぐると回していました。透明な水飴は次第に白く濁っていきます。
「あ、洋子ちゃんだ。」
かんぴょうが、朝顔模様の浴衣を着て、金魚が入ったビニールを手にしておかぁさんと一緒に神社の鳥居を出て行く長い髪の少女の後ろ姿を見ていました。洋子ちゃんは、つくり酒屋の娘で、4人の少年が仄かに想いを抱いていました。この造り酒屋は、由緒があって緒絶川の辺に瓦葺きの屋根に白い壁の蔵が並び、赤い橋の傍には柳の木がうな垂れていて、大正浪漫を感じさせる風情がありました。どことなく大人びていてそれでいて笑うと可愛らしく、お嬢さんという感じがして4人の少年には手の届かない存在でした。
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