かすみ荘にて

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心はハードボイルド

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事件から1ヶ月後、修一とへろふみと文は、高田馬場にあるミャンマー国際会館でパーティを開いた。ミャンマーの楽器の調べは、天界に続くような気がした。そして今回の立役者である上沼裕樹が照れくさそうにやってきた。マリンナが、民族衣装を身に纏って竪琴を奏でていた。
「結局の所、正義って何なんだろうねぇ。俺たちって目に見えない何かに支配されているのか」
修一は、ミャンマービールを飲みながら呟いた。
「何に支配されているか判らないけれど、不幸にする何かには戦わないといけないのよ。口だけの政治家に任せられないもの」
文が、少し酔ったのか顔を赤らめてお酒を口にした。
「でも、文さ、以外と胸大きいんだな。Dカップ?」
「ばか」
「先輩、本当に、何を言い出すかと思えば」
へろふみが、呆れかえって修一を見た。裕樹は、うっとりした表情でマリンナを見つめている。恋の予感、そんな感じがした。

裕樹とマリンナの結婚を知らせる葉書が文のもとに届いたのは、銀杏が舞う秋の午後だった。急な展開に文は驚いていた。

 修一とへろふみは、以前より少しはましな生活になったが、相変わらず貧乏である。この日非番だった文は、
裕樹とマリンナの結婚を知らせる葉書を持って下北沢の修一の探偵事務所に向かっていた。
ミャンマーの黄色のパゴダをバックに幸せそうな裕樹とマリンナの幸せそうな笑顔が眩しかった。
“文さん、あのとき自殺しなくて良かったです。文さんが言うように、未来で誰かが待っているんですね”
裕樹の癖のある文字がほほえましかった。

 修一とへろふみは、珈琲を飲みながら煙草をふかしている。穏やかな午後。
「文、遅いなぁ。今日は豪華なランチなはずなんだがなぁ」
修一が、ぼそっと言った。
「もしかして、厄介な事件をもってきたりして」
へろふみの一言に修一は、珈琲を吹き出した。
「ばかやろう、もう厄介な事件は嫌だぜ」
修一は、へろふみを睨んだ。
隣の部屋では、佐野元春の「SOMEDAY」が流れている。いつもと同じところで針が飛ぶ。いつもと変わらない秋の午後……。

甘く危険な香り 14

「さて、ここで、この女警官を痛めつけるか。公開処刑だ」
オールバックの男は、ゆっくりとブルーのブラウスを破った。
「やめなさい、やめて」
文は、抵抗したが屈強な男達に叶うはずはなかった。
「ふざけんな!!へろふみ、長谷川を押さえておけよ」
修一は、果敢に黒スーツの男に向かっていったがあっけなく倒された。シナリオは崩れ、最悪の状況を迎えようとしたとき、マスターがテーブルに近づいた。
「もう、ゲームは終わりですよ。」
マスターは、口髭と丸めがねを外した。驚いたのは、文と長谷川、そしてブラックスーツの男二人である。マスターは、上沼裕樹だったのである。
「上沼君?」
文は、きょとんとした表情で裕樹を見た。

「いや、親爺に、喫茶店のマスターでもやって世間を勉強しろと言われて喫茶店任せられたんですよ。まさかこんな事件に巻き込まれるとは。それに文さんが近くの派出所勤務と知って変装していたんですよ。だから文さんが店に来るから、ばれないように変装していたんですよ」
ブラックスーツの男は、上沼裕樹を見て固まっていた。上沼の正体を知っていたらしい。長谷川は、銀バッチの件で相談したこともあり、その時裕樹と会っているのだから忘れるはずがない。闇組織にも序列があり、龍神会はトップクラスでブラックスーツの男達は末端に過ぎないのである。

「それじゃ、ここにマリンナを連れてきて。」
文は、はだけた肌を両手で隠しながら男二人を見た。 
「わかったよ、連れてくるよ。」
角刈りの男が文を睨みつけた。
「ちがうでしょ、判りましたでしょ」
裕樹が、ブラウスを破られたのでそれを隠すようにとムーミンが描かれたエプロンを持ってきて言うと、角刈りの男とオールバックの男は、目配りして忌々しそうに唇を噛んだ。
 深夜の扉が開き始める22時、マリンナとシンジゲートで人身売買されようとしていた女性4人が、喫茶店の中に入ってきた。

「アヤ」とマリンナは涙ぐんで文に抱きついた。文は、マリンナを強く抱きしめた。言葉はいらなかった。そこに文の連絡で捜部が入ってきた。
「赤沢特捜課課長 こいつらの罠にはまってこの有様だ。あなたも知っているとおり私は不正のデパートの都知事と戦っているし、都民のために戦っているのは知ってるでしょう。こいつらの悪事を暴いてくれ」
「長谷川都議、残念ながらあなたを捕まえるために来たんですよ。こんな結果になって残念です。」
赤沢特捜課課長が残念そうに言った。
「そんな……、証拠はあるのか」
長谷川が、断末魔のような声で叫んだ。
「ここでの会話は、すべてこのボイスレコーダーに記録されていたのさ」
修一は、文の珈琲カップの底に設置したボイスレコーダーを見せた。長谷川は、真っ青な表情で体を震わせていた。すべては終わろうとしていた。しかし、結局の所問題の核心は遙か彼方の手の届かない所にあるような気がした。
 翌日の新聞に、「ミャンマー大使芹沢啓 都会議員谷川浩二 横領で逮捕 ミャンマー政府は関係を完全否定」と1面を飾った。シンジゲートについては、何処か巨大な圧力が掛かったのか闇の中に葬られた。

甘く危険な香り 13

修一は、紫色の煙がゆらゆら揺れている煙草を揉み消して徐に立ち上がった。合図である。シナリオは、一応予定通りに進んでいく。

「なんだ、おまえは?」
長谷川が、驚いた表情でテーブルに近づいて来た修一を見た。
「マリンナという言葉に聞き覚えがあってね。マリンナって外国大学で知り合ったミャンマーの女性で、一昨日から行方不明になってしまってね。高田馬場のとある団体と一緒に探しているんだよ。そして背後には、政治家も絡んでいるらしくてね。あれ、あなた、都議会銀の長谷川さんじゃないですか。俺、あなたに清き一票を入れたんですよ。力になってくださいよ」
「私は、知らん。マリンナ、何者だ?」
「本当は知っているくせに。」
修一は、悪戯ぽく長谷川を見た。
「テーブルの上にある議員バッチ、どうしたんです?」
「知らん!!何だ、おまえは!!」
「お取り込み中、失礼します。私、消えた議員バッチというテーマでルポを書いている者ですけれど、先日面白い写真が撮れたんですよ。数人の男が異国の女性を拉致している写真を。このカメラにすべてが入っているんですけどね」
絶妙なタイミングでへろふみが会話に入ってきた。シナリオとはちょっと違うが、うまくいっているのかもしれない。長谷川は、もともと腹が据わっている男ではなく、意外な展開に我を忘れて動揺していた。

「俺は、何も知らない。すべては、ミャンマー大使の、鴨沢啓の指示でやったことだ」
長谷川が、保身のために叫ぶと、黒いスーツの男がしまったという表情でテーブルに向かった。緊張感は、沸点まで到達しようとしていた。
「ここで遭ったことは他言するな。約束できない時は、この女もシンジゲートに送るぞ」 一人の男が文にナイフを突きつけた。
「墓穴を掘ったわね。シンジゲートに女性を送っていたのね。そして黒幕は、鴨沢慎ミャンマー大使。そうよね。」
文は、隙を見て一本背負いで男を投げ飛ばそうとした時、もう一人の男が文の下腹部をもの凄いスピードで拳を入れた。瞬殺である。水色のブラウスのボタンが飛び、文は悔しそうな表情を浮かべて倒れた。修一とへろふみは、倒れていく文をみて長谷川を押さえつけた。
「文を離せ、この男がどうなってもいいのか?」
「やっぱり、おまえら、知り合いか。その男なら好きなようにしていい。」
オールバックの男が冷ややかに言った。
「鴨沢先生に、その男を始末しろと言われていたんだ。ドジな男だからなぁ。生かしておくと足で纏だからな。」
短髪の男がどすを効かせて低い声で言った。
「おまえら、裏切ったな」
修一とへろふみに押さえられた長谷川が、悔しそうに吐き捨てるように言った。ここにきて修一のシナリオは完全に崩れた。

甘く危険な香り 12

7月7日、七夕もしくは星祭り。天の川に輝く琴座のベガが織姫(織女星)で、鷲座のアルタイルが彦星(牽牛星)。そして二人の橋渡し役となるのが白鳥座のカササギである。 白鳥座、重要な役の割にはあまり知られていない地味な存在。そしてこの日を愛逢月ともいう。まぁ、とにかくこの夜はある意味ロマンチックな夜とも言える。そんな夜に事件に巻き込まれる3人は不幸のなにものでもない。

修一とへろふみと文は、原宿竹下通りのオープンカフェで打ち合わせをした。昼間の喧噪と違って夕暮れ時のこの街は本来の落ち着きを取り戻し大人びた表情になる。
さて作戦2が、始まろうとしていた。修一とへろふみと文は、大塚の喫茶店に向かった。計画とは違って長谷川のガードが手薄な時間を見計らって修一は店に入った。店の中は、薄暗く煙草の香りと珈琲の香り。ジョンレノンを気取った風の長髪に丸眼鏡にもじゃもじゃ髭のマスター。アビーロードの頃のジョンレノンを意識しているのは誰の目から見ても明らかだった。マスターといってもよく見ると若い。“自分とさほど変わらない年代だろう”と修一は思った。壁には、サックスを吹く黒人の色あせたポスター。奥にも空間があり、一段高くなっていてテーブルには木切れで創られたリザーブドつまり予約席という表示が置いてあった。カウンターには、黒いスーツでオールバックの男。オーラが何処か暗く殺気を漂わせている。たぶん長谷川都議のボディガードなのだろう。

“文は、この店を訪れるのだろうか”
修一は、煙草に火をつけてジャズに耳を傾けた。文と大人びた雰囲気のこの店とがミスマッチの様な気がした。時計が5時を告げた。時間が、重りをつけたようにゆっくり進んでいく。
18時30分、ブラックスーツに短髪に紫色のサングラスをした男が、カウンターに座った。19時、ちょっと前に文が入ってきてマスターとちょっと話をしてから奥のリザーブ席に通された。マスターは、時間が気になるようだった。ボンボンと緊張感を裂くように柱時計が鳴った。余韻が静寂に飲み込まれていった。暫くして、長谷川が店の中に入ってきた。へろふみは、店の前のいすに座って煙草で煙の輪を描いて遊んでいる。

 文と長谷川が、難しそうな表情で言葉を探していた。
「マリンナは、生きているの?死んでいるの?大丈夫なの?」
カウンターの男にマスターが、文の方を見た。誰もが冷静さを装っていた。

甘く危険な香り 11

「それじゃ、長谷川に電話をかけるわ。何か緊張するなぁ」
文の表情は、珍しく強ばっていた。珈琲のせいではないだろうが、胃がきりきりと痛んだ。当然秘書が電話に出たが、中沢文と聞いて、すぐに長谷川に通じた。たぶん中沢文の身元は徹底的にリサーチされ、電話があった場合はすぐに繋ぐようにという指示があったのは明白だ。
「警視庁特捜課の中沢さんですか?電話が来る頃だと思っていましたよ」
長谷川の声は、思ったよりも低い声だった。
「それなら、話が早いわ。あなたが落としていった議員バッチは手元にあるわ。あなたが自ら襲うというのは普通に考えたら、あり得ない。きっとあなたは巨大な力に試されたのよね。そしてあなたは、不覚にも銀バッチを落とした、私の推理はどう?」

文の声は、緊張のため掠れていた。しかし相手に弱みを見せたら負けだと自分に言い聞かせて気丈に振る舞った。

「なかなか、面白い推理だね。コメントは差し控えさせて貰うよ。当然取引の話になるんだろう?」
「そう。取引よ。その前にマリンナは大丈夫なんでしょうね?」
「あなたから、何らかのアクションがあると思っていたから、マリンナはある場所に手厚く監禁しているよ」
「それを聞いて安心したわ。議員バッチとマリンナの交換と言うことでどう?この議員バッチをマスコミに公表したら大変なことになりますものね」
「判った。それでは、私の事務所で取引というのはどうだ?」
「それは、私にとって危険だわ。大塚派出所の前にある喫茶店“異魔人”でどうかしら?私に有利だけど」
「場所ならどこでも構わないよ。それでは、あなたの要望通りと言うことで。時間は19時でどうですか?」
「19時でいいわ。明日会えるのを楽しみにしています」
「こちらこそ」

文は、受話器を置くとへなへなと座り込んだ。かなり緊張していたのかも知れない。
「すげぇ、度胸あるなぁ。女優できるよ」と修一。
「文さん、尊敬しますよ。」とへろふみ。

挙げ句の果て、二人とも拍手をするもんだから、緊迫感が何処かにぶっ飛んでしまう。
こうして、計画の1段階は終了したのである。3人は、とりあえず文が買ってきたバドワイザーで乾杯したのだった。隣の部屋から、相変わらず佐野元春の“SOMEDAY”が流れてくる。そして同じ箇所で針が飛ぶ。3人は、顔を見合わせ笑いをこらえるので必死だった。

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