かすみ荘にて

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パステル色の恋(小説)

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「そうね、あなたのお父さんだね。あなたのご主人、よく見ているわね。でも、剛、けちんぼうじゃないけどね。でも自分の思いをうまく伝えられないのは、剛、あなたのお父さんね。本当は仲直りしたいんだよね。知ってたんでしょ、何も言わず手助けをしていたのを。ま、咲子ちゃんも不器用だけどね」
綾は、何度も書き直しをした原稿用紙を読んだ後、咲子を見た。咲子が、「父」と呼んでいることに父と娘の壁を感じていた。
「………………」
咲子は、何も言えず唇を噛みしめた。涙がとめどもなく溢れていた。

「明日、7時から卒業式の二次会するから、この店に来てね」
咲子は、こくりと頷いた。
 3月1日、梅の花が月の明かりに照らされ、なごり雪が幻想的に舞っている。
「囲炉裏」には、祐二と強ばった表情の剛、そして綾の提案で実の遺影をカウンターに置いた。柱時計が19時10分を指していた。
「咲子ちゃん、よく来たわね」
綾が、ちょっと頭に雪をかぶった咲子を見た。咲子は、息子の駿の手を握っていた。
「咲ちゃん、カウンターに座って」
綾に促されて、咲子は駿を抱きかかえてカウンターに座った。

「それじゃ、剛、娘に手紙を読むんだよね。」
綾に促されて、剛は照れた表情をした。
「ああ、読むよ」
剛は、深く息を吸って、後ろのポケットからよれよれになった便箋を取り出した。

祐二と剛と綾、3人がかりで親父から娘に送る手紙を書いた。
東北の人間にとって2月と3月は大きな差があった。2月は雪と闇の冬という色彩が強いが、3月は暖かな陽射しと梅が戯れる春という感じがして、全然印象が違うのである。²2月最後の昼下がり、咲子が学校に行く前に、店に呼び出していた。
「咲子ちゃん、久しぶりだね。何年ぶりだろう。いい女になったね。街で見かけたとき、革ジャンに金髪で、大人なんて誰も信じねぇぞって顔をしてたもんね。座ったら」

「ありがとうございます。ずっと、あのまま荒れて一生終わると思ってたけど、人間ってわからないものですね」
セミロングで、水色のセーターにジーンズ姿の咲子が、昔ぐれていたようには思えなかった。そして、綾は、剛から咲子のことを聴いていたので、気持ちは手に取るようにわかった。

「本当は飲みたいんだけど咲子ちゃん、学校だからノンアルのカクテルでいいわね」
綾は、苺のカクテルをグラスに注いだ。
「で、本題にはいるかぁ」
「父のこと だよね?」
「察しがいいね!!」
綾は、笑いながら咲子を見た。
「あのさぁ、お父さん、まだ許せないの?」
「………………」
「今だから、言えるんだけどさ、というより、私とあなたのお父さんだけしか知らない話するわね。」
「………………」
「私、高校生の頃、担任の先生に襲われたんだ。その時、助けてくれたのがあなたのお父さん、剛なんだ。剛は、その先生を殴って私を助けてくれたんだ。でもその担任をかばって、自分がかっとなって殴ったと言って退学になったの。どうしてその先生を守ったか判る?本当ならその先生が私を襲ったことを言うわよね。剛、言わなかったんだ。」
「………………」

「俺たちが演奏している写真、残っていたんだぁ」
純が、感慨深げに写真を見た。1枚の写真に思春期の想いが凝縮されている様な気がした。
「誰かに貰ったんだ。あ、マスターかも」
水塚が、煙草に火をつけながら写真を見た。幾つの季節を過ごしてきたのだろう。今、またあの時と同じように演奏しようとしている。綾が、ステックを宙に投げてドラムのセットを確認した。綾の様子を見て、純と水塚は、顔を見合わせた。臼田が、いつもステックを宙に放っていたのを思い出したのである。純と水塚もギターとベースを持って、アンプのスイッチを入れた。曲は、臼田がいつもボーカルをとっていた十八番の“恋に落ちたら”
「昔、みんなでこの歌を歌ったわよね。なんかあの想い出、鮮明に残っているんだ。今だから話せるけど、あの頃、本当は臼田君の想い、気づいていたんだ。でも純粋すぎて重すぎたの、あの頃の私にとって。そして臼田君の想いからずっと逃げてきた気がしたんだ。でもやっと受け止められるようになったの。もう遅いけどね」
「想いが重いか。うまいこというね。俺も綾ちゃん好きだったんだぜ」
水塚が口を挟んだ。
「氺塚君のそういところ鼻につくんだよなぁ」
綾が、悪戯ぽく笑った。昔だったら言えなかった言葉である。
「遅くなんかないよ。臼田、今頃苦笑いをしているよ」
純が、ギターをチューニングしながら言うと、氺塚と綾がうなずいた。そして綾はドラムセットに水塚はバイオリンベースを持って持ち場に行った。ボーカルは綾、そしてコーラスは純と水塚が受け持つことにした。演奏が始まって、 サビに入った瞬間、純と水塚は、ドラムの方を観た。綾は、臼田と同じようなリズムを刻んでいた。演奏を終えると二人は綾の元に行った。
「臼田君、歌ってたわよね。あの声、臼田君だったわ。だから二人ともサビに入ったときふりかえったんじゃない?」
綾が、純と水口に言った。
「綾ちゃんの言うとおり、あの時臼田のコーラスが聴こえた気がしたんだ」
純は、ギターの弦を指でつまみながら言った。
「霊とかそういうの信じないけど、俺たちの演奏に臼田、加わっているんだよ」
水塚が少し興奮気味に言った。
不思議な夜のセッションだった。誰もが臼田の気配を感じたのである。遠くから花火の音がした。
「今夜、花火大会か。観てみるか」
水塚が、純と綾に声をかけ、蔵を出ると夏の夜空に大きな花が幾つも咲いていた。もしかすると日常という夜空に3人は花を咲かせようとしているのかもしれない。同級会での演奏、ジャズフェスへの道。何時になるか判らないが未来に続く扉は開くのかも知れない。3人は、臼田の気配を感じながら花火が舞って、闇に消えていく夜空を見上げていた。「STAND BY ME」のメロディを綾が口ずさんでいる。緒絶川の畔で薄紫色の宵待草の花と月の灯りが戯れていた。

名画座で観たモノクロの恋愛映画
記憶の中では なぜか 淡い色の色彩
 恋に恋をして 背伸びしていた あの頃
 君は いつも 手の届かない  物語のヒロイン

 あの頃は 色褪せていき
月灯りに照らされるセピア色の1枚の絵
想い出は想い出だから美しい
 薄紫の待宵草の哀しい呟き


想い出が淡い色彩に包まれて
 新しい物語が生まれることもあると
教えてくれたのは 星屑の囁き

 思春期と思秋期が織りなす
ジグソーパズルは時の悪戯
 何処を探しても一つの欠片が足りない

 行き止まりだった想い出通りに
 抜け道があることを教えてくれたのは
 青く幻想的な月の光

君との再会で 想い出通りの扉が開いた
想い出の物語は終わりがないことを教えてくれたのは  
思秋期の季節に舞う 
黄色く色づいたポプラの葉 

「俺もおまえから電話が来るまで信じてたからなぁ」
「まじかぁ、何を言われているか判ったもんじゃない。綾ちゃん、一緒に出て演奏しよう。」 綾は、純と水塚に促されて同窓会で演奏することにした。
“過去を否定して生きてきた、格好のいいことを言って過去から逃げていたのかも……”
「そうね、臼田君の分も頑張って演奏するわ。」
綾は、初めて笑った。もう屈託はなかった。
 「本当に久しぶりだな。“あの頃”と変わっていないなぁ」
純は、きょろきょろしながら蔵の中を見渡した。ドラムがあり、アンプが幾つか無造作に置いてあり、煙草と珈琲の混じった香りもあの日のままだった。なんか「あの頃」にタイムスリップしたようだった。」

「へぇ、ここが、坂本君や水塚君や臼田君の青春の舞台だったんだ」
綾は、何かに感動したらしく、ドラムのステックをバックから取り出し、ドラムでエイトビートを刻んだ。
 バンド名は、「死んでれら」は、臼田がいたから笑えるネーミングだったが、綾の加入で雰囲気がちょっと、いや大きく変わったので「しんでれら」にしたのである。大きく名前を変えると臼田の足音が消えるし。意外とバンド名が難航した。しかしバンド名を考えているとき綾の知らない世界が、ジグソーパズルの様にワンピースずつ埋まっていく気がして楽しかった。もし自分があの時「死んでれら」のメンバーになっていたら人生が変わっていただろうなと綾は、蔵の中での青春を羨ましく思ったりした。バンド名が、決まってから曲目を選んだ。20分のステージということもあってビートルズ、カーペンターズ、懐かしいところでベィシティローラーズを演奏することにした。そして3人でオリジナル曲を創ることになり、詩を純が担当することにした。

「懐かしい写真ね」
綾が、めざとくコルクボードに貼ってある色褪せた写真を見つけた。リッケンバッカーのコピーモデルを抱えた純とやっぱりコピーモデルのヘフナーを持った水塚がボーカルをとり、臼田が笑顔でドラムを叩いている写真だった。

「よう、久しぶりだな。臼田の葬式以来か?すぐにおまえだと判ったよ」
ロマンスグレーの男が、純に近づいて来た。水塚である。水塚は、グレーのスラックスに薄いブルーのシャツで、ピンクのダンガリーシャツにジーンズの純とはどこか対照的だった。
「まぁ、何かをしたいと思っていたからちょうど良かったよ。あ、そうだ、10月に同窓会やるんだけど、俺たちで演奏しないか?」
「同窓会?」
純は、驚いた表情で水塚を見た。
「俺、成り行きで幹事をやっていてさ、何か出し物をやることになってさ。ちょうどいいや、俺たちで演奏しよう」
水塚は、勝手に盛り上がってしまった。だいたいバンドは、まだ1度も演奏をしていないのに10月に、それも同窓会で演奏しようとしているのだから、見切り発車もいいところである。
「で、綾ちゃんは、まだ?」
向かいのお菓子屋の前に立てかけてあった七夕飾りの薄紫色の吹き流しがとても上品な感じがした。暫くして、ショートカットで紺のポロシャツに白いガウチョパンツの女性が手を振って近づいて来た。笹倉綾である。あの頃のイメージのまま年を重ねてきた感じである。純も水塚も綾だとすぐに判った。綾も純と水塚をすぐに判ったようである。

「突然、変なお願いをしてごめんね。」
綾が、神妙な表情で純と水塚に頭を下げた。
「いいんだよ。同窓会で、何か出し物を探していたんだから」
水塚が、全く昔と変わらず調子のいいことを言った。
「同窓会?」
綾が、怪訝そうな表情で水塚を見た。綾は20歳の時の同窓会に出席していないから初めての同窓会になるのだ。それに過去を否定して生きてきたので,同窓会という言葉に過敏に反応したのかもしれない。
「そうなんだ、今度案内状が届くと思うんだけど。成人式以来だからなぁ。」
「私、成人式の時の同窓会に出ていないから初めてかなぁ。なんか緊張するなぁ」
綾が、笑いながら言ったが、瞳には微かな不安があった。
「綾ちゃん、臼田が生きていたら率先して同窓会に出たと思うぜ。あいつなんだかんだいって中学時代が好きだったから。20歳の時綾ちゃんのことずっと待っていたんだよ。俺もさ、過去を否定することがかっこいいと思っていたけれど、結局過去に支えられているのかも」
ずっと綾と水塚の会話には入れなかった純が口を挟んだ。
「そうだよ。みんな綾ちゃんがどうしているか話題になっていたぜ。坂本なんか、リストラされて離婚したってことになっているし」
「本当に、そんな話になっているのか?」
純が、驚いた表情で水塚を見た。

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