|
「どうしたんだい、ホームズ君。朝から難しい顔をしているじゃないか。何か事件かい?」 「ああワトソン君か、実はこんな手紙が届いたのさ。差出人はロンドン・レキップ新聞社となっている。 君もきっと関心がある内容だから、見てみたまえ。」 「ふむ、無人島に持って行きたいアルバム5枚、とあるね。どういうことだい?」 「要するに、僕が愛好するポップ・アルバムを5枚選べ、ってことさ。 君はよく知っているだろうがこう見えても僕はちょっとした研究家だからね。 先日もレキップ紙には『60年代中期の高音ベース・ラインの特性についての考察』という小論文を寄 稿したばかりさ。そんな縁で、僕にこのような依頼を寄越したんだよ。」 「なるほどね。でも、数あるポップスの名作の中から5枚だけを選ぶだなんて、至難の業だと言わざるを 得ないよ。」 「確かにそうだが、幸いな事に、選考の基準に明確なルールが定められていないようだ。 だからねワトスン君、僕は今現在の気分で、頭に思いついたものを順に5枚、挙げる事にしたんだ よ。」 「それが一番手っ取り早いだろうね。でも僕はホームズ君の嗜好は良く知っているつもりだよ。 君の選考は大体推理できる。」 「ほう、今朝のワトスン君は随分自信家だねえ。では早速お手並み拝見といこうじゃないか。」 「まずはビートルズ、君にとっては外せないだろう? 君は音楽論を語るときはいつだってビートルズを基準にするからね。」 「うむ、その通りだよ。中でも僕としては『ラバー・ソウル』は外せない。 あの作品に一遍して流れている落ち着いた雰囲気、グルーヴィなリズム解釈、美しいメロディはどれも 忘れがたいよ。ビートルズといえば、僕はこの作品だね。」 「そしてそれと並んで常に高評価なのは、『ラバー・ソウル』に影響を受けた・・」 「ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』になるね。僕にとっては唯一無二の作品さ。 あの作品のような境地に達したアルバムを、他に僕はまだ知らない。 人間の持つ感情が全て詰まっている、と言っても言い過ぎではないと思うよ。」 「それからモータウンだろう?君は常々リズム・トラックの重要性に着目しているようだからねえ。」 「もちろんそうだが、モータウンの偉大なところは、その卓越したリズムを下地として、親しみやすいメ ロディをうまく乗せて良質な化学反応を起こしたところにもあるのさ。 そこからあえて一枚選ぶとすれば、少し狡猾かもしれないが、マーヴィン・ゲイ&タミー・テレルのデ ュエットから『グレイテスト・ヒッツ』になるだろう。このベスト盤は本当に外れがない。 メロディの良さもさることながら、マーヴィンとタミーの歌声には、親しみと、他を寄せ付けない緊張 の二面性を孕んでいて惹きつけられるんだ。」 「さて後は、衝撃的な音を持つ、あの作品だろう? つい先日も君は夜中に鑑賞して僕の眠りを妨げたんだからね。」 「ジミ・ヘンドリクスだね。彼のデビューアルバム『アーユー・エクスペリエンスト?』は挙げて おきたい。まさに君が言ったとおりの衝撃さ。一曲目の最初の音から刺激を与えてくれる。 この作品の持つリアルな手触りは、他所では経験できないよ。 ジミの内的衝動を充分に堪能できる一枚だね。」 「後一枚は、そうだな、ストーンズ辺りかい??」 「ワトスン君も詰めが甘いねえ。確かにストーンズも捨てがたいし、他にもクリーム、ツェッペリン、キ ンクス、フー、スティーヴィー、カーペンターズ、CCR、バーズ等、挙げていったらきりが無い。 でもね、ワトスン君、今回はアルバムというフォーマットの指定があるんだから、それに則って考えれ ば自ずともう一枚は決まってくるものなんだよ。」 「何だろうな、君の事だから予想もつかないよ。」 「歴史に残る大名作があるじゃないか。キャロル・キングの『つづれおり』だよ。 この一枚で文句はあるまい?」 「確かにそうだが、僕としては少し意外だな。 もう少し時代性を持つ作品を選ぶものだと思っていたよ。」 「僕はねワトスン君、名作という概念は、時代性を超越した普遍性であると考えているんだ。 つまりだね、時代性に傾きすぎるあまりに、独りよがりな結果に終わる作品がある。 ポップスはその時代を写す鏡のようなものだよ。でもね、そればかりに頼るのは二流の仕事なんだよ。 真の名作は、時代性も作品の中の一つのスパイスとして使用するに過ぎない。 そこに自らの想像力を加えてゆき、新しくも普遍性を兼ね備えるものを作り上げるのさ。」 「難しいものだね。」 「でもそんな作品は聴き手にとっては難しい音楽ではないだろう? 永遠に親しむ事のできる音楽なんだよ ―今朝は早くから頭を使って大変だね、ワトスン君? ハドソン夫人を呼びたまえ、こんなときは苦味の強いワインで舌を潤すに限ると言うものだからね」 ※約一ヶ月前、tchnr862さんからミュージック・バトンを頂いたために、今更ですが記事化しました。
|

- >
- エンターテインメント
- >
- 音楽
- >
- 洋楽






