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〜たとえ彼女の妹が社会主義者と結婚していようとも、
彼女の儚く、美しく、そして可憐な姿は、
彼にとって、自分の任務のつらさを忘れられるかけがえのない存在であった。〜
彼女の最後の一言。
「私は、あなたの背中をいつも拝見しておりました。」
この言葉は、彼女の控えめな気持ちを語っていた。
こんな時代でなければ、堂々と「私もあなたのことが好きです。」と言えるだろう。
しかし、彼女からその言葉は言ってはならないもの。
彼の胸の勲章が嫌でも目に入る場所にあるから。
それからというもの、お互いの気持ちはわかっているのに、
口には出せない、もどかしい関係が続いた。
そして、3ヶ月が経とうとしていたある日、彼は上官に呼ばれた。
「あの女性は、止めなさい。」
ただ、その一言。
彼は、逆らえるはずがなかった。
「はっ!!」
ただ敬礼の姿勢を取ることしかできない彼。
気持ちは抑えることができないものの、口は動かない。
彼女を愛している
どんなに心で叫んでも、口は動かない。
彼は、敬礼をしたまま、硬直した。
「なにか、あったのか!?」
立場の割には、軽い空気を匂わせ、東条英機が現れた。
「実は…」
上官が東条に言いにくそうに説明する。
東条のお気に入りの部下である彼の失態、東条の耳には入れたくなかったのだろう。
「私もだいたいの噂は聞いていたんだがね…。
ところで、君は、どう思っているんだね?」
おおよその報告を受けた後、東条は彼に問いかけた。
この数十年後に伝えられている厳しい顔ではなく、にっこり笑って。
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