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魔の刻  車中にて

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 誰か 排除してくれ。

せめて大型の幹線道路からは排除してくれ。

明らかに考え無しで、危機管理不足を否めない 実直さを欠片も感じられない

そんな現況国家の浅はかさを体現する様な新法を 【錦の御旗】 と掲げ 我が物顔で駆け抜ける

自転車運転手を排除してくれ。

 せめて 私が殺意を抱く前に・・・。

                        魔の刻はいつも そこにある。

                                        終

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 9月1日からこっち、毎日、睡眠時間3時間弱で頑張ってきたフリをして来ましたが、どうにも

体に力が入らなくなって参りました。忙し過ぎて、どこか投げ遣りになって、失敗を幾つか重ねて

周りの方々に沢山迷惑もかけました。信用も失ったかもしれません。

 今、通っている現場以外の仕事も、分かってはいるけれど疎かにしてました。

疲れが全く取れないのは本当なんだけれど、疲れと年齢をいい訳にして、どこかで逃げてました。

 今日はいつもより早く逃げ帰りました。限界、限界・・・無理、無理、もう無理・・・。

自己限定はしてはならない。限界なんて無い。人間はどこまでも強くなれる。

 かつて、一世を風靡した俳優さんが、火事に見舞われ、顔を焼かれ、どん底まで沈み、しかし、

全てをあきらめず、立ち直って言った言葉。

この方も、言葉も好きなんだけどね・・・もう、とにかく疲れたんだからアンタにはなれんよ、俺。

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 普通に仕事してたら、見もしなかった現場の掲示板に貼られていた言葉。

妙に身に沁みました。

 今日は逃げた。疲れを言い訳にした。限界だと思った。どうせ信頼も無くした。そう思った。

だから今日はもう寝る。頑張って寝る。眠れなくても横になる。疲れを取る。寝る。

 だから明日からは、もう一度真剣に立ち向かう。信頼を取り戻す。

愚痴も言い訳もしない。年齢のせいにはしない。魔が差しただけ!!

 おやすみなさい。

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 「だぁあ!!蹴一、虫だ!虫!!」  「いるだろ、虫くらい」
「なぁんだ?!この臭い!!あの巨大な生物は!!」  「ダチョウだな…」
「何故、牛、羊に混じってダチョウがいる?!」
無論、混じってはいない。家畜達は広大な敷地内、それぞれ別々、各々の柵に囲まれた牧草地に放牧されている。
「おお!!」  時折、思い出した様に走り出す居丈高なダチョウの群れは雄壮で、鼻を押さえ、家畜
特有の臭気に文句タラタラの才蔵でさえ目を見張った。
「しかしデカいなぁ!!え?アレに乗っかって走ってみたいね!!」
 「先生方、こちらでしたか?」  乾才蔵、天方蹴一の二人が振り返ると、ニコニコと笑みを浮かべた老人が麦わら帽子を取って頭を下げた。
「あんたは?」  才蔵が訊ねた。
「蛇執(だとり)家の下男、七郎太でございます」  「下男?…ているの?今でも?」
才蔵は七郎太老人を珍獣でも見る様な表情でねめまわす。
「失礼だろ」  小柄な方の蹴一が才蔵の胸を叩いた。  ハッハ!老人は高笑い。
「いいんですよ。余所様はどうか知りませんが我が蛇執家には下男がおります。ホレこの通り」
老人はクルンと一回転して見せた…ついでにすっ転んだ。今度は才蔵がガハハと笑う。
「ノリのいい爺様だ」  二人に助け起こされた老人は腰を押さえ、今度は恥ずかしそうに照れ笑いした。

 「儂がこの蛇執家、及び島の頭首である、蛇執壮介でございます」  昔ながらの日本家屋、巨大な
畳の間に通された才蔵と蹴一は齢八十五になろうと言う壮介翁の眼光の鋭さにたじろいだ。昔気質のおっかない爺様、才蔵は嫌いではなかった。
「では蛇執さん、お話、伺いましょうか」
 東京都中野区に事務所を持つ二人の探偵、乾才蔵と天方蹴一が訪れたのは、日本海海域、佐渡島の南西にポッカリと浮かぶ孤島【墨土野島】。江戸時代には死罪に価する人間を収容する所謂、島流しで知られていた。この島に送られたら二度と生きて本土に戻る事は叶わない。入れ墨者(罪人)が土塊と化し野に帰る島。島の名は、その名残を今も残している。ただし、この周囲8キロメートル程の小島は地下水脈と河川が豊富で、緑の野山には小動物が棲息している事から、当然いたであろう脱獄囚も長らえる事ができたと言う。明治の新政府発足に伴い、この島への流刑は廃止され、役場も放棄された。島の住民は、この当時の罪人の子孫であるとの真しやかな噂もあるが、これは映画化もされヒットした、とある探偵小説の影響であると住民は一貫して否定している。
 「我が蛇執家は、代々公家の家系でな…明治の大君御即位の後、直々にこの地を賜ったのだ」
壮介翁の言葉に、はあ…と頷く才蔵。
「ふふん…流刑の島を賜るなんてまるで島流し…そう思ったろ?」  「いやあ…」
「いいんだ。実はそうなんだから。ワッハッハ」  豪快に笑う壮介翁、釣られて笑い出す才蔵。
「まあ…武士の世の終焉に伴うゴタゴタの最中に玉座に据わられたのだ…様々な思惑、陰謀があって当然さ」  「なるほど」
「とにもかくにも我が蛇執家はこうして歴史の表舞台から降ろされた訳だ…ま、儂は良かったと思ってるがね」  「それはまたどうして?」
「生まれてこのかた、この歳まで金に困った事が無い。一応、陛下より島を預かる身分でな、未だに毎年、結構な額の恩給が下りるんだ」  「…明治の頃から変わらず、ですか?」  翁は頷いた。
「は、はあ…」  それって税金?!間違ってないか?日本国!
「ダチョウは見たかね?」  「見ました。デカイもんですね」  壮介翁は身体を乗り出す。
「いいだろ?ダチョウは蛇執家の護り神なんだ」  才蔵は目を丸くした。  
「ダチョウが?」  ダチョウって日本の鳥だっけ?
「ふふ、驚いた様だな」  「驚くと言うか呆れ…いやなんでも」
ワハハハ!壮介翁はまたまた嬉しそうに笑った。
「元々日本には八百万の神か棲まわれている。明治政府の意向で仏教へと先導されたに過ぎぬのだ。一国の宗教がバラバラなのは海外に対し体裁が悪いからな」  「なるほど」
「何故ダチョウが神なのか分かるかい?」  「さあ…見当も」  壮介翁はニヤリと笑みを浮かべる。「シャレだよ、シャレ…先々代は流石に公家さんだ。遊び心いっぱいだな」
「シャレ?…はぁ?!」  才蔵は大口を開けて壮介翁を見た。  「分かったようだな?」
「いや…まさか…護り神ですよね?」  「言ってみな」
「…じゃあ…蛇執家の執りを鳥と読んで駝鳥…なんてね!」  「当たりだ」
「当たりなの?!蹴一、何とか言えよ!」  「まあ…護ってくれてるんなら問題は…」
壮介翁はポン!と手を叩いた。  「いい事を言う!その通りだ。要は何でもいいんだよ」
「明治の時代からダチョウを飼われていたんですか?」
蹴一の問いに壮介翁はいやいやと手を振った。
「昭和になってからだ。儂がまだガキの時分に何頭か届いてな。儂の親父ってのがまたシャレのキツイ狸親父で、アフリカから密輸入したんだ。初めて見た時は驚いたよ、大きくてな、この世の物とは思えなんだ…」  往時を懐かしんでいるのか翁は目を細めた。  「でしょうね…」  ってか密輸かよ!!「増えるんだよ、ダチョウってのはさ、ボロボロボロボロ卵産みやがって。既に牛や羊がいたからな、牧場を広げるのは一苦労だったよ。ダチョウってのは石を飲み込むんだが、デカイのを飲んで死にかけたり、妙な病気になったり、なあ七郎太」
広間の片隅で控えていた下男の七郎太老人は、はいと頷いた。
「ところで先生方、澄渡牛はご存知か?」  今度は牛かよ?  
「知りません」  即座に才蔵は答えたが蹴一は、聞いた事ありますと顎を撫でた。
「確か…一握りの超高級料亭にしか出回らない幻の食肉と言われる…澄渡牛?…え?まさか?」
「何だよ、蹴一?」  「澄渡牛、こちらの牛なんですか?」
「その通り。墨土野島の牛だから澄渡牛…ちょっとだけ字面がよろしくないからいじったが分かり易いだろ?」  そーか?
「幻って…そんなに旨い肉なんすか?蹴一、食った事あんの?」  才蔵が言うと蹴一は首を横に振る。「しかし…この島でしか生産してない牛なら、幻なのも頷けます」
「旨いぞ〜、適度に霜が降っててな、降りまくりも悪くはないが、油っこいだろ?その点わが澄渡牛は濃厚さと淡白さが絶妙に絡み合い、何処を取ってもプリンプリンの食感…たまらんぞ〜」
うー、才蔵の目が据わっている。蹴一も口の中に唾液が分泌されているのを感じた。
「何故、こんな素晴らしい牛が育つと思う?水だよ、水、この島の水が極上だからだよ…聞いてるか?」特に才蔵は物欲しそうな顔になり、落ち着きをなくしていた。
「喰いたいか?」  才蔵は身を乗り出した。  「そりゃあもう!」
壮介翁は卓上の呼鈴を鳴らす。すると障子がスイと開いて、若い女中が入って来た。両手で持った盆の上には二つの大きな器。
「待ってました!」  喜び勇む才蔵の前に音も無く置かれる怪し気なダチョウ模様の入った陶磁器と箸。
「って、壮介さん?!」  器の中には凡そ1センチ角のステーキ肉らしき物がポツネンと。
「腹いっぱい喰わせてやるよ。儂の依頼を引き受け、見事解決してくれたらな…」
「そーゆー事?あっそー!」  才蔵と蹴一は当然一口で平らげたが、確かに旨い。絶妙に旨い。口の減らない才蔵ですら絶句させる味わいであった。
「牛を奢る為に先生方を呼んだ訳じゃねぇからな」
散々、脱線しまくりだったのはジジイじゃねーか!!
「しかし先生方、やる気が出たろ?」  才蔵は、うーと唸る。
「この島は水がいい。…それで?」  蹴一が訊ねた。
「これを見てくれ」  壮介翁は傍らの文箱から一通の封書を取り出して卓上に置いた。
「拝見します」  蹴一が手にすると才蔵も脇から覗き込む。
 『牛を皆殺し、羊も駝鳥も皆殺し。水を汚染して島民を皆殺し。島を放棄せよ。出て行け』
ありがちな雑誌や新聞紙の活字を張り合わせた書面であるが、内容はかなり危険を孕んでいる。
才蔵、蹴一の表情が変わった。
「いつ届きました?」  蹴一は封筒に宛名も消印も無い事に気付いた。
「丁度一週間前だ。女中のマサが朝方玄関先で見つけたらしい」  
「玄関で…しかし、これは…」
壮介翁は大きく頷いた。  「分かっておる。一週間前に島にいた者の仕業」
はい。蹴一は他に手掛かりは見つからないか、丁寧に便箋を検分しながら返事を返す。
「警察には届けたのかい?」  才蔵が尋ねると壮介翁は鼻で笑った。
「警察は当てにはならん。だから先生方を呼んだんだ」  「そりゃまたどうして?」
「以前、何度か本土まで足を運び相談を持ち掛けた事がある。が、連中はこの島を無人島だとでも思ってるらしい。全く相手にされなんだ」  「以前?以前にもこんな事が?」
「いや…実は犯人は分かってるんだ。Q国の人間だ」  「Q国?何でまた?」
「水だよ、水。この島の極上の水が奴等の狙いさ。これ迄、何度となく島を売ってくれと言って来た。無論、儂は断り続けているがな」
「売ってくれと…それだけだったのなら、警察は相手にしなかったでしょうね。外務省には相談しました?」  ふはは…。壮介翁は力無く笑った。
「尖閣だ竹島だ北方領土だ…話題性のある領土ですら弱腰の連中に何ができる。ここは殆ど知られていないからな、真面目な話、住民が儂の使用人のみ、五十人に満たない島なんぞに肩入れする訳がない」
「しかし、陛下から賜った土地なんでしょ?稀少な牛の産地なんでしょ?」  ふん、翁は鼻を鳴らす。「儂の爺さんは明治の大君に憎まれていた。嫌われていたから島に飛ばされたんだ。そう言っただろ?」 そうだっけ?
「無論、現在の陛下は預かり知らん話だろう。宮内庁ですらもはや把握してはいまい」
「でも恩給はくれるんだ?」  才蔵が言うと壮介翁は多少声を潜めた。
「儂が思うに…戦争か何かで分からなくなってるんじゃないか?しかし昔からの慣例だから従ってる。そんな所だろ。…あんた方、黙ってろよ。守秘義務だ」  守秘義務ねぇ…。
「話を戻しますが、だから、この島は優遇される事は無い。しかし、牛は?いくら高級過ぎて知られていないとは言っても澄渡牛の愛好家は政府高官にも大勢いるのでは?」  「狂牛病だ…」
「狂牛病?!」  才蔵、蹴一共に口元を押さえ目を剥いた。食っちまったぞ!!
「…と言う噂が広まった。牛は全頭処分された事になっている」
「処分しとけよ!!」  才蔵が怒鳴ると更に大きな怒号が背後から飛んだ!
「冗談じゃねぇ!!心血注いで育ててんだ!簡単に言わねぇでくれ!!」
「七郎太…」  壮介翁に諭す様に名を呼ばれた七郎太老人は畏まって頭を下げた。
「七郎太の気持ち、察してやってくれ。儂らにとって澄渡牛は子供も同然なのだ」
「分かるけど食わすなよ!!」
「才蔵、あれ位ならどうと言う事はないよ、多分…」  蹴一も狂牛病の知識は持ち合わせていない。

                                   (続く)

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【facebook】の怪 後編

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 不意に胃の辺りが重くなる。嫌な予感がした。
「一旦、私、実家帰る。当面は面接と勉強だけになるから…もう会えない」
はっ?!どんな理屈だ?私の口は上手く動かない。ち、ちょっ、ちょっ…。
「優しくしてくれて…ありがとう。ごめんなさい」
「ちょっと待ってよ、意味分からないよ、何でよ?どうしてだよ?」
「勉強…しないと」  高校生か?受験生か?!
「邪魔はしないよ、今までだって待ったんだし、まだまだ待てるよ。だからたまに会う位…」
「邪魔になるのよ!!」   血の気が引いた。
私の表情を見て、彼女は慌てて謝った。  「ごめんなさい…」
 俺が…何をしたってんだ?!  
私は彼女を抱きすくめ!!…ようとしたのだが、スイッと腰を落として彼女は逃げた。
 結果、私は自分で自分の肩を抱く格好で立ち尽くしていた。まるで漫画だ。ウキウキふわふわと喜び
勇んでやって来た結果が漫画かよ。100万使った結果が漫画かよ!こんなに好きになっても俺は漫画かよ!!
 消えてなくなりたかった。生きてる事が恥ずかしかった。
彼女が何か話し掛けた。私はコンクリートの壁を思い切り殴った。彼女はひっと声を上げる。そして、
私は逃げる様にしてその場を立ち去った。一秒でも早く、彼女から離れたかった。
 酒屋でウィスキーボトルを買い、ラッパ飲みをしながらフラフラと歩き回った。部屋に帰るのも嫌であったし、飲み屋に入り、店の人間と口をきくのも煩わしかった。
 邪魔か…邪魔なのか…邪魔になるんだ、俺…。
多分、嫌われてはいなかったろう。多分、好かれてはいただろう。しかし、愛情を、彼女の女の部分を
揺さぶる事はできなかった。不甲斐ない話。人に話せば最初から飲み屋の女と客に過ぎなかったと言われて終る話なのだろう。それだけではなかった、せめてそう思いたい…。
 一つだけ分かった事がある。どれだけ一生懸命になっても、どんなに頑張っても、思いや願いを叶える事、私にはできないと言う事だ。何がどうあっても不可能。無理。私は目先の事をコツコツとこなすだけの人間。つまらない人生、夢の無い生き方しかできない人間。
馬鹿みたいだ。三十過ぎる迄そんな事に気付かなかったなんて!!

 兄ちゃん、風邪ひくよ!
誰かの声で目が覚めた。明け方、私は路上に転がっていた。新聞配達の自転車が過ぎ去って行く。
見た事がある様な風景。どうやら駅三つ分くらい歩いたらしい。頭が割れそうに痛い。吐き気もする。
 邪魔者か…私は呟き、アスファルトにボロボロと涙と吐瀉物を落とした。

 ブライダルコンサルタント。 今、こうしてfacebookを見ると、彼女は間違い無く結果を出した事にな
る。その職を辞した理由は分からないが、とにかく描いた夢を現実にしたのだ。頭が下がる思いである。     「私がストーカー体質じゃなかった事に感謝するといい」
彼女の画像に向かい言ってやった。そしてもう一言。  「…本当、偉かったな」
 ついつい思いを馳せてしまう。あれから彼女はどんな風に夢を、願いを軌道に乗せて進んだのだろう…。話をしてみたい。無論、私は15年間、彼女を想い、泣き暮らしていた訳ではない。そこまで純情ではない。結婚していないのは、あの後、好きになれる女が現れなかったから、それだけの事である。
そして当然今は、彼女に対し余計な感情は無い。ただ、話をしてみたい。
 …って、ぇえ!!私は大声を上げてしまった!!
『友達リクエストを送信します。』  突然モニターに現れた文字。
しかしそれは瞬時に消えた。友達…リクエスト?!彼女のfacebook上の画像やら記事やらプロフィール
やら、マウスを動かしながら行ったり来たりしていたのだが、私は間違って右上の【友達になる】を
クリックしていたのだ。
違う、クリック等していない!カーソルがたまたまその上にいた時に人差し指の力が弛んだだけだ!!
嘘だろ…。せめて、送信しますか?位は聞けよ、facebook!!
 しばし呆然。もし…私の名前を憶えていたら…とてもキモいだろう。忘れていたなら…それはそれで
恐い…だろうな、やはり。
何か、高揚しかけていた気持ちが一気に萎えた。そしてアワアワとうろたえている自身が滑稽に思えた。冷静に考えてみれば、そんな滅茶苦茶悪い事したとも思えない。私は間違っただけなのだ。
 パソコンに表示される時刻は午前0時を回っていた。明日、考えよう。40を過ぎてからコッチ、最低6時間は寝ないと仕事が辛くなると感じている。私は飲み掛けのウーロン割りを飲み干した。

 翌日、私は考えた。(仕事中に…)要は、私が名前だけしか登録していない怪しい人間だからいけないのだ。一応、まともに仕事してるし、役職にだって就いているのだ。恥じ入る理由は何も無い筈。きちんとプロフィールも入力して、メールでも何でもいい、只、話をしてみたいと伝えよう。
 帰りがけ、私は書店に寄り、facebookの入門書を買った。知識も無く登録なんてするから間違いが起こるのだ。
 家に戻ると、取るものも取り敢えずパソコンを立ち上げる。facebookを開き、彼女の名前を入力、
エンターキーを押す。               

 …無い。

 昨夜、一発で見つけられた彼女の姿、何度見ても見つけられなかった。彼女はfacebook上から完全に姿を消していた。
 言葉も無い…。もし仮に私が彼女の友人若しくは恋人で、相談を受けたとしたら。
こんな人から…友達になりたいってメッセージが来たの、どうしよう?  そう聞かれたら。
私は即座に答えるだろう。今すぐfacebookのデータは全部消して、暫くはやめておいた方がいいよ。
…さもありなん、だ。何故、私は昨夜の内に、せめてプロフィールだけでも打ち込まなかったのか?
何故、その労を惜しんだのか?そうした所で何が変わった訳でも無いのだろうが。しかし、やるべきだった。
 デスクに投げ出したfacebookの入門書がとても恥ずかしいモノに見えた。
あ…。帯に書かれた一節が私の目に飛び込んで来た。  
『facebookは夢を広げるビジネスツールだ!!』
何処かで誰かに聞いた様な謳い文句ではあったが、私はハタと気が付いた。
彼女には何か新たな夢ができたのではないだろうか?だからブライダルサロンを辞して転職し、夢を叶える為の第一歩としてfacebookを始めたのではないか。
…だとしたら私は…私のせいでfacebookから消えたのだとしたら…ふふ…今度こそ完全に彼女の夢を邪魔した?! ふふふ…。
「はい、駄目押し来ました」 はははは。 ま、こんなもんだろ…。 私は私を笑うしかなかった。
はははは…。

                                 (終)

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【facebook】の怪 中編

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 …って、いた!!  あれこれ理屈をコネながら私は検索していた。
そして何十と並ぶ小さな写真の中から、ほぼ一発で彼女を発見した。嘘だろ?!と声に出していた。
ウーロン割をグイと飲み干し、私は彼女の写真をクリックした。勘違いに違いない。そんな筈はない。
だが、彼女はそこにいた。画像の彼女の笑顔は想像以上に美しかった。私の頭の中で、20代から30代、40代、加齢の過程の補填が充分に可能な程度の、落ち着きを持った女性がそこにいた。
 こんな事もあるんだな。阿呆丸出しだが、私は気分が浮き立つのを感じていた。取り敢えず、差し当り彼女もまた(恐らくは)独身である事が嬉しかった。無論、バツ一の可能性もあるが。
 記事や友人とのやり取りはさして目を引くモノは無かった。どちらかと言えば、とりとめが無く、仮に私が友人だとしてもコメントに困るだろう。そんな感想を持った。サッカーのファンらしい。あの頃にはそんな話出なかったから、私の知らない誰かの影響を受けたのだろう。律儀に書かれた彼女の職歴を見て、思わず胃の辺りがキュッと絞られる。ブライダルサロン○○にてブライダルコンサルタントとして
6年間勤務。退職後、現在、△△電気勤務。
 そうか…頑張ったんだな。夢を、とにかく夢を叶えたんだ。偉かったなあと私は言ってあげたかった。

 15年前、あの頃の彼女の真剣な眼差しが私の胸いっぱいに広がった。
私は三十を過ぎたばかり、彼女は二十代半ばに差し掛かる頃。私は、恋に落ちた。私達、ではない。
私限定の話である。工場の仕事も面白くなり始めたあの頃。それなりの仕事を任され、アイディア、
プランが採用、そこそこの成果を上げた事でクライアントから飲みに誘われ、一軒二軒と渡り歩き、
終電が終わる頃、入ったのがあの店であった。そして隣に掛けたのが彼女であった。
まあ、何の事は無いキャバクラである。0の桁が違うよ!なんて高級店ではない、普通の店であった。
彼女は余り話さなかった。大人しいね。と言うとそんな事ありませんとキチンと答えた。しかし、只の人見知りなのだと言う事はすぐに分かった。慣れて来ると結構な饒舌。回転が早く頭がいい事は見てとれた。少しばかり持ち上げてやると本気で照れている様に見えた。
 トイレに行こうと言われた。別に行きたくないと言うと、私が行きたいから付き合えと言われ、
ちょっとエロい妄想が過った…が、トイレに一人押し込まれて彼女の意図が見えた。鏡に映った私の右目には恥ずかしい目ヤニが沢山付いていた。席に戻り礼を言うと、何の事?等と誤魔化してはいたが、嬉しそうに笑っていた。

 こうして今、四十になる彼女の画像を見ているだけで様々な記憶が蘇って来る。
あれから私はあの店に一人で通う様になり、常連と呼ばれる様になり、やがて店の女の子よりも出勤率が高い等と言われる様になっていた。
「そんなに私を好きになったの?」
冗談めかして言う彼女は、場を盛り上げる為、頭に乗るなよ的な私の答えを期待していたのだろう。
しかし私は、素直にうん、好きになったと答えた。あの時の彼女の驚いた様な、戸惑った様な表情は忘れられない。(困っていただけかもしれないが)
 彼女に会いたかった。会えば会う程、また会いたくなった。好きな小説、好きなスポーツ、好きな
映画、好きな歌、好きな歌手、好きなアニメ、話は尽きなかった。家族の事…彼女は常に父親が嫌いだと言っていたが、本当は大好きで、姉よりも愛されたいと願っている。私はそんな風に感じた。普段、実年令よりも大人びて見える彼女が、この時ばかりは上目遣いで何かに怯える小さな少女の様に見えた。そのギャップがまたいとおしく、可愛いと思った。
 可愛いとは言ってくれるけど綺麗だとは言ってくれないね。少しだけ不満気に言われた事がある。
無論、綺麗であると思っていた。只、一度催促されてから口にするのは嘘臭い気がして言えなかった。
 店のシステム上、他の席で指名されれば彼女はそちらへ行く。私の席には代わりの女の子が付く。
その店で既に私は有名人だったから、他の女の子も気楽に接してくれた。私も下心が無いので、ある意味、彼女と話すより楽な場合もある。別の子と大いに盛り上がり、わはははと高笑いしていたら何か視線を感じた。他所の席についた彼女が私を見ていた。何となく、私は口をつむってしまった。
 別な時、他の子が一応ね、と置いて行った名刺を手に取り、彼女は私を睨んだ。
「電話番号書いてあるね?」 私が頷くと 「彼女、顔小さくて可愛いもんね」 と、明らかに嫉妬している様な発言。
「どーせ私は顔、小さくないですよ」 何だか怒り始めた。しまいには名刺を両手で引き裂く仕草。
私が、どうぞ、と言うと彼女は本当に名刺を粉々に破り捨てた。何だか怖い気もしたが、少しずつ手応えを感じ始めた頃だった。
 しかし、である、そんな態度も見せるくせに、店外デートは断られ、帰りに送ると誘っても断られ。苛々してしまう事もあった。私の苛々を敏感に感じ取る度、彼女は嫌な顔をした。
「そーゆートコ、うちのお父さんみたい」  私はその表情を見る度、反省し思い直す。
こんなに好きになれた女は生まれて初めてであったし、キスすらしていないのに気の早い話だが、結婚するなら彼女しかいない。そう思い始めていた。30も過ぎ、仕事も軌道に乗り始めた。私は結婚したかった。時間はかかっても彼女を射止める、私はそうなる事を願い、信じていた。
 ところで、彼女の夢は結婚アドバイザーになる事であった。その為に心理学や結婚式そのもの、結婚
生活についての勉強をしていた。
 今はお金を貯めて、自由に動ける時間を作りたいの。  伝はあるのかと聞くと無いよと答えた。
その伝を作る為にもお金を貯めなきゃ。だから今は人の結婚の事で頭がいっぱい、自分の結婚なんてまるで考えられないや。  20代半ばで伝も無く、独学だけでなれるモノなのだろうか?結婚アドバイザーって。私には疑問であったが応援するよと答えておいた。
結婚するなら彼女しかいない、私は常にそう考えていたから二人の温度差は歴然としていたが、一年後、二年後には考え方も変わるだろう。特に女性の場合は。私は彼女の真摯な思いを軽く考え過ぎていた。
 夏の終わりが彼女の誕生日だった。私は結構頑張った。近所の店で可愛いケーキを買い、事前にキャバクラの店長に渡し、彼女が席に付いてから1時間後に出して貰う様頼んだ。ケーキで祝うのに二人きりと言うのも淋しいから、私をその店に連れて来てくれたクライアントに頼んで来て貰った。彼とは何度か店で鉢合わせしていたから頼みやすかった。彼と彼の指名する女の子、そして彼女と私、4人でワイワイと馬鹿話をしていると、突然照明が落とされ、店のBGMがハッピーバースデーに変わった。私はそこまで頼まなかったから店長が気を利かせてくれたのだろう。続いてローソクに火の灯ったケーキ入場。真っ直ぐ私達のテーブルへと向かって来る。彼女は恐らくは眉根を潜めて私を見ていただろう。照れ臭いので私はソッポを向きながらローソクの火、消してと言った。彼女は一つ頷いて、灯りを吹き消した。
照明が戻ると店中から拍手が起こった。
 彼女は、恥ずかしいなぁ!もう!!と私を睨みながら、でも、とても嬉しそうに見えた。
「泣いちゃった?泣いたでしょ?」  クライアントの彼が彼女をからかう。
泣かないよ!これ位じゃ!彼女はムキになって反論したが、私は気が付いていた。ローソクの灯りが消えた一瞬、彼女が瞼を拭う仕草をした事を。

 「今日、俺、いない方が良かったんじゃない?」 
帰りのタクシーの中でクライアントの彼が言った。
「二人だったら、あの流れならいけたでしょ」  私は首を横に振った。
「こっちから追っても逃げるだけなんですよ、彼女。一度だけ店外デートもしたんですけどね。超盛り
下がりましたよ。彼女、殆ど喋らなくて」  「へえ、店じゃ結構話すよね?」 
「慣れた人とだけです」  「慣れてるでしょ?君は。間違いなく」  「ええ、店の中じゃ」 
「どう違うのかな?」
「さあ…でも焦ると逃げてくんですよ、きっと。時間かかる面倒な子なんです」
「はは、お父さんみたいだな。でも、ケーキと、プレゼントのネックレス、手製のカード?本当に嬉しそうだったよ」  お父さんみたい、は引っ掛ったが私は頷いた。カードには彼女の似顔絵を描いた。
とても美人に。喜んで貰えたと言う確信はあった。
「ま、果報は寝て待ちますよ」  「余裕だね」  私は笑った。…が、本当は余裕など無かった。
丸で無かったから、実はこの誕生日に賭けていた。あの店に通い始めて約半年間、私はなけなしの貯金
100万と少しを完全に使い果たしていた。今後も同じペースで彼女に会う為にはサラ金にでも手を出すしかなかった。私の給料では、月に一度か二度がやっとだろう。それから睡眠不足。早朝よりの工場勤務に加え深夜のキャバクラ通い。まだ仕事に支障を来す迄には至っていないが、正直、心身ともに限界だった。
 翌々日、珍しく彼女から電話が来た。店に出る前に会いたいと言ってきた。誕生日のお礼もちゃんと言いたいからと。向こうからの誘いは初めての事。
やった!私は喜び勇んだが…その日の夕方はどうしても外せない打ち合わせがあり…昔からこうだった。本当に望む事の場合、タイミングの外し方や運の悪さは絶妙だった。どうでもいい自動販売機のクジの
ジュースなんかはやたらと当たったりするのに。
 その日の夜、私は当然店に行った、期待感で胸はいっぱいであった。だが、金曜日の夜であったせいか、客が一杯で入れない。顔見知りの店員が済まなそうに謝った。
まあ…どこまでもツイてない。が、彼は彼女を店の前に呼んでくれた。私は親切に感謝した。
現れた彼女は口をモゴモゴと動かしていた。何を食べてるの?笑いながら訊ねたが彼女は答えず、口の中のモノを飲み込む。
「悪かったね、仕事あってさ。何かあった?」
彼女は目を臥せていたが、やがて、思い切る様に顔を上げ、私を真っ直ぐに見た。
「どうしたの?」  「私、今月でここ辞める事にしたの。で、それで…」  彼女は口ごもった。
「夢があるって言ったでしょ?」  「結婚アドバイザー?」
「うん、私、夢に賭けてみる事にしたの」
「そうか。やってみるんだ?いいね、あ、男の意見聞きたかったらいつでも言って」
「…」  彼女は黙ってしまう。  不意に胃の辺りが重くなる。  嫌な予感がした。

(後編に続く)

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