されど調布の日々〜昭和とともに燃えつきた青春

上京後住み着いた調布の下宿はお化け屋敷で最期は火事で全焼した。でもこれはホラーじゃない。昭和後期の空気漂うアホな青春の記録です。

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その事件は初っ端の日に起こった。
一夜の宿として利用させてもらうために
従兄弟の家に向かう途中の出来事だった。

従兄弟の家は東海道本線の米原駅近くのS駅が最寄り駅。
ただ駅からは距離があるため、
通常はそこからバスを使って行く必要があった。

ところがその日はあいにく駅に到着したときは
バスは出発したばかり。
東京のようにバスが頻繁に往来するわけじゃない。
時刻表で確認すると、次のバスは1時間後だった。

「あちゃ〜」

肩を落としているTABOに
コースケ先生は涼しい顔でこう宣った。

「待っているのは時間のムダというものです。
歩いて行きましょ。バス代も助かるし、一石二鳥でしょ」

「え、歩いてく?」

S駅から従兄弟の家に続く道は坂道の連続。
何分、目指すところは山深い場所だった。「

「バスでも30分くらいかかると聞いてます。
ムリっすよ、絶対!」

TABOが異を唱えると、コースケ先生はため息を漏らす。

「また、先生、贅沢なこと仰る」

と言ってこう続けるのだった。

「歩いていくうちに途中どこかでバスが追いついてくるでしょ。
そこで乗ればいじゃないですか。
それだけバス代も節約できるってもんでしょ」

「マジですか」

「オラ、オラ、早く行かないと日が暮れちゃいますよ」

そんなやりとりのあと、結局、田舎道をテクテクと歩くことに。
その日は朝早くから動き出し、
鳥羽→伊勢神宮と回り、3時間かけてS駅に降り立ったのだ。

TABOは疲れがたまり、足取りも重かった。
が、コースケ先生は平気の平左。
ケロッとした表情でスタスタ歩いていく。
そのタフさには恐れいったものだ。

「あ、ちょっと待っててください。
ガンバって歩てるからご褒美を上げましょう」

30分ほど歩いた当たりだろうか、
通り道に駄菓子屋を認めるや、
コースケ先生は店の中に入っていった。
出てきたときにはアイスキャンディーを2つ手にしていた。

「ホラ、冷えてますよ。
早く食べないと溶けちゃいますよ」

そう言ってムッツリ顔のTABOに一本差し出すのだった。
アイスキャンディーに罪はない。受け取って早速いただく。

昔懐かしのソーダ味(当時でも郷愁をそそる味だった)。
確かによく冷えていた。
歩きながら食べてたらあっという間になくなる。
ちょっと人心地つく。

何気に隣を歩くコースケ先生に目が行った。
まだアイスを手にしている。
大事そうにひと舐め、ひと舐めしていた。
何ともイジマしい。

こちらの視線に気づいたのか、横目でジロリ。

「もう、食べちゃたんですか。もったいない。
もっと味わって食べないといけないでしょうが」

そんな調子で、その後もコースケ先生は
しばらくアイスを舐めながら歩いていた。

そんなコースケ先生が
唐突に叫び声を上げたのは日も暮れかかった頃。

TABO先生、アタリですよ」

ニンマリ顔で食べ尽くしたあとに残ったアイス棒を差し出す。
確かにそこにはアタリの印字が。

思えばこれが悲喜劇の始まりだった。

<続く>

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