よくよく見直してみたら我輩、書き損じていた物が有った。
今年の初めの頃に起きた 『ピナクル騒動』である。
主人がアル・ディメオラなる御仁の演奏が好きで、その影響からオベーションのギターを欲しがっていると言う事は以前書いた。 とうとう手に入れたものの、それはタイプの違う物であると言う事も書いた。
すなわち主人は、 オベーションのワンホール・タイプの物を諦めては居なかったのである。
僅かにもらえたボーナスの予算で、主人はシェクターのギターを買い、そして年が明けたらアイバニーズのセミアコを買うつもりであった。 ところがそれが売れてしまったのでその分の予算が浮いてしまった。
とは言っても、元々大した金額でもないのだが、世の中何が幸いするかわからない。 逃した魚は大きいなどと言うが、 小物を逃したお陰て大物にぶち当たると言う事もあるのだと言う事を、我輩初めて知った。 買う予定であったギターを買い損ねたお陰で主人、長年欲しがっていたギターを手にする事が出来たのである。
主人、すっかりネットで中古ギターなどの検索をする事に味を占め、幾つかの良いサイトも発見した。 そしてそれらを巡るのが日課となっていた。
当時のターゲットは実はストラトであった。 初めて買ったギターがストラトで、中古屋でど派手のコピーを買ったものの、いまひとつ満足出来ないので、なんとかちゃんとした物が欲しいと思っているのである。
しかし、当然の事ながら本物をそのまま買うほどの予算はない。 テレキャスターの時の様な事が起こりはしないかと言う甘い考えなのである。
1月の下旬の頃、そうやっていつものように楽器店の情報を見ていた主人、とんでもない物を見つけてしまった。
【オベーション 386T 59,800円】
とある。 写真を見ると、それがまさにワン・ホールのオベーションであった。
色も渋めのサンバースト。 見た目は申し分がない。 しかし、そこにはそれ以上の情報が全くなかったので、ギターの正体がわからない。
色々検索してみて、ようやくそれが 『ピナクル』と言うシリーズであることがわかった。 確かに386Tと言う型番がかつて存在していたらしい。
更に調べを進めていくと、発売された当時に購入したという人のサイトを見つけた。 それによると以前、アメリカのオベーション社で作ったパーツを日本に運んで組み立てたと言う事が有ったらしい。 いわゆる 「OVATION JAPAN」と言う訳だ。
なんだかその方が人件費は高い様な気がするのだが、とにかく比較的安い値段でオベーションが売られていたのだ。
主人は全くそのことを知らなかった。 主人、どんなに金がない時であっても楽器屋巡りだけはしていたから新製品の情報は得ていた筈なのである。 いかにも買うような顔をして、アダマスなんかを試奏したりしていたくらいである。 にも拘らず全くこの事は知らなかった。 主人の住む地方には来なかったのだろうか。
謎は謎のままだが、とにかく素性は判明した。 所有者の評判もなかなか良かった。
問題は少々値段が高めと言う事であったが、我輩が予想していた通り、1週間ほど悩んだ挙句、主人は買いに行く事に決めた。
毎度御馴染みのパターンである。
買いに行くと決めた日の前日、何と 大雪が降った。 数年振りの大量の積雪量であった。
そのギターを売っている楽器屋は初めて行くところで、降りる電車の駅も初めてのところだった。
いつものようにルートを調べた主人であったが、心配なのは最寄の駅までの道のりであった。 何しろ行きはまだ良くても、 帰りはギターを積んでバイクを走らせなければならないのである。 果たしてそんな事が可能なのだろうか。 我輩、ギターと心中は真っ平であったが、やはりついていく。
電車を乗り継ぎ、ZB町というと駅に降り立った主人。 散々地図で確かめたとおりに歩く。
主人の家の周りはまだ雪だらけであったのに、ここには全く残っていない。 すっかり地面も乾いていると言うのに、突然我輩の目の前に巨大な白い物体が現れた。 思わず飛び上がったが、良く見ると雪で作られた『ドラえもん』であった。
他にもところどころに雪製の像が商店街の歩道に並んでいる。 なんでも「○○商店街雪まつり」と言うのが有ったらしい。
その企画が行われる時に運良く雪が降ったのか、雪が降ると言うので急遽開催されたのかはわからない。
しかし、この界隈の雪達は、心静かに地面に降り積もる事を許されなかったらしい。 すべからく雪像へと召集されたのであろう。 ただ降り積もるだけでなく民衆の注目を浴びたのだから、その方が良かったのかも知れないが。
さて、そんなものを感心しながら見ていた主人、ものの見事に店がある通りを通り過ぎて行った。 我輩が主人を止めようと思った時には、既に横断歩道を渡ってしまっていた。
まぁ、いいさ。 おっつけ間違いに気付くだろう。
主人、自分が道を間違えた事には気づかなかったが、なんとか目的の店を発見する事に成功した。 意外と大きな店だった。
アコースティック専門の店で、店内には到底主人には買えない様な値段のギターが所狭しと並んでいる。そんな中、異型を放つように陳列されているオベーション・ピナクルがあった。 確かに59,800円の値段が付いている。
主人、取り合えず目的の物があるのを確認して、店の中をゆっくりと見て回る。 アコースティック専門店へ来るのは実に久し振りであったので、なかなか珍しいギターもあり、興味心身で見ている。 だが、いつぞやの様にそんな事をしていて先に買われてしまうのではないかと、我輩気が気でない。
そんな我輩の心遣いも知らないで主人は二階へと上がっていく。 2階はガット・ギターとマーチンなどの高級ギターの売り場であった。
先ほどから聞こえてくるギターの演奏が生演奏であったので主人も我輩もびっくりする。 素晴しい腕前だ。 しかもそれがここの店員らしいかったのでもっと驚いた。 なにか調べているらしい。 一曲弾いてはギターを替えている。 次々に違うギターを弾くのが仕事であるならば、何と素晴しい事であろうか。 そんな仕事なら自分もやりたいと思う主人であったかは、我輩には良くわからなかった。
一通り見て回った主人はいよいよ下の階に降り、目的のギターの試奏を申し出でた。 あぁ、なんだ。 すぐ側で試奏している人がいたので待っていたのか。 妙なところで気を使う主人であった。
近くで見てみるとこのオベーション、いかにも 中古で御座いますとばかりに 汚い。 何やら液体が垂れた痕が数本ある。 しかしボディには 大きな傷はないようだ。 但しヘッドの裏に打痕が3箇所有った。 いずれも小さな物ではあったが。
そして何より驚いたのが トップの板であった。 ネット上の写真を見た時にも少し変な塗装だなと思っていたのだが、このギター、
トップがなんと6枚貼りである。
安いエレクトリック・ギターにはボディが6ピースと言うのが有るが、アコースティックでは珍しい。
こんなの初めて見たと言う主人であった。
しかし、オベーションとあろうものがどうしてこんな事をしたのか。 ひょっとすると、質の良い板の余りを寄せ集めて作って価格を抑えたのかも知れない。 今となっては調べようもない。
とにかく弾いてみない事には何もわからない。 主人はまずロー・コードから鳴らし始めた。
以前のセレブレーションの時もそうだったが、このギターの場合、一にも二にも弾き心地が重要である。
エレクトリック・ギターの様な感覚で弾けるかどうかが鍵である。 主人、ロー・コードからハイ・コード。 そしてゆっくりと短音弾きを始め、ついにはミュートをかけてメオラるまでになった。
チューニングは大体オーケーのようだ。 フレットが汚いのでフィンガリングに多少障害はあるものの、これは磨けば問題無さそうだし、ピエゾもちゃんと作動していた。
音はシャロウ・ボディではあるものの、やはりワン・ホールだけあって音が前に出てくる。 幾分、アコースティックらしい音がする。 問題はない。 買うしかない。
そこで問題となるのが価格であった。 主人の予算、例のセミアコが買えなかったお陰で浮いたお金は5万円なのである。 59,800円では少々オーバーしてしまう。
そこで主人はいつもの如く値引き交渉に入った。
「これ、もう少し安くなりませんかね。」 すると若い店員、苦笑いしながら、
「うーん、どれくらいをご希望ですか?」 おっ、交渉の余地がありそうだ。
「もう5千円くらいどうかな。」 主人、これでも多めに言ったつもりであった。 ところが、
「そーですねー、実は今、決算セール中なんですよ。 ですから、53,000円で如何でしょう?」
我輩耳を疑った。 59,800円から53,000円を引くと、6,800円である。
客が5千円引きを希望していると言うのにこの店員、何を考えたかそれ以上値引きしようと言うのである。
咄嗟に主人、店員が計算を間違えた場合を考慮して、「じゃ、それでお願いします!」と即答した。
どちらが勝ったのか、吾輩は猫なのでわからなかった。
いずれにせよ、このギターは大変珍しい。 店員もそれは認めていた。
しかも、腐ってもオベーションが殆ど無傷で手に入ってしまった。 しかも5万円ほどで。
専用のハード・ケースが付いていた。 セレブリティにも付いているのだが、こちらのは比較にならない程重いようだ。 何もこんなに頑丈にしなくても・・・と思いつつ店を後にする主人。
案の定、すぐ電車に乗らずに帰り道にあった昔の感じの喫茶店に立ち寄り、ギター・ケースを前にしてコーヒーとサンドイッチを食べるのであった。
長年の憧れであったギターを部屋に持ち帰った主人は、いつもの如くスタンドに立てかけてニヤニヤするのかと思ったら、やおら弦を緩め全て外してしまった。 何が始まるのかと思ったらボディを磨くつもりらしい。 なるほど改めて見ると汚い。
主人が塗装磨きに使っているプラスティック用のポリッシュが多めに塗りたくられた。 そして、これまた磨き用に使っているシリコン・クロスの成れの果てでかなり強めに磨き始めた。
いつもの手入れの場合には磨き傷が付くのを恐れてそーっとやる主人であったが、この場合はそんな事を言っている段階でないので、盛大に擦っている。 果たして取れるかどうか心配であった汚れは、比較的簡単に取ることが出来、ボディ表面は再びピカピカに磨きかけられた。 更にフレットも金属磨きでピカピカにされた。
すっかり綺麗になってしまったピナクルは、とても中古品には見えない。 これは我輩の目から見てもお買い得であったと言う他は無い様だ。
主人、すっかりご満悦である。
とうとう、ワン・ホールのオベーションまでもが主人の手に入った。
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きっとあなたはadamasを弾く日が来ますね
2018/12/1(土) 午後 6:48 [ doi*o*kat*uki ]