全体表示

[ リスト ]

 
2週間近くも時間が有れば、独り暮らしの主人とて入院の準備くらいは十分に出来る。
意外と問題だったのは病院まで行く手段であった。
 
いつもはバイクで行っている主人。 しかし、一週間も駐輪場に止めておけないので、別の方法で行くしかない。 ところが交通の便が実に不便だったのである。
 
散々調べた結果、バスを乗り継いで行く事にした主人。 
いよいよ入院の当日。 やけに重くなってしまったバックを肩から掛け、最寄のバス停までの10分くらいの道をえっちらおっちら歩いていく。
『これで心臓発作起こしたら笑うよな。』 主人の考えそうな事である。
 
しかし無事主人は病院までたどり着いた。 入院の手続きは午前10時。 
それ専用の部屋に出向くと、なんと朝から人で一杯だった。 なるほどベッドが満床な訳だ。
 
言い忘れたがこの病院、カテーテルと言うものに関しては随分とやっているのだそうで、年間200例以上もやっているとかで、最近専門のチームを作ったのだそうだ。
果たして『チーム・ドラゴン』か『チーム・バチスタ』かと考える我輩であった。
 
手続きをする。 いきなり10万円取られる。 さながら『敷金』である。
最近はこうやって患者が逃げるのを防いでいるらしい。
 
病室は4Fだった。 ナース・ステーションに出向いた主人は、建物の奥の奥、一番奥の部屋に通された。
満床だとか行って脅かされたが、見るとどの部屋も患者がいない。 『なんだよ、全然ガラガラじゃねーか。』とぶーたれる主人。
 
部屋に入ると患者がひとりだけいた。 主人のベッドは窓際。 これがまた後に、良いのか悪いのか分からない事になる。
 
とにかくジャージに着替える主人。 程なく看護師がやってきて、今日のスケジュールを告げていった。 『採血』、『採尿』、『胸部レントゲン』の他に、「頚動脈エコー」と言うのと「動脈硬化検査」と言うのをやるそうだ。
先の三つは容易に想像がつくが、「頚動脈エコー」と言うのはひょっとして、胃カメラのようなものを飲み込んでやる奴じゃないのか? 確か、カテーテル・アブレーションの体験記に出てきたような・・・。 と、早くもビビリの虫が騒ぐ主人であった。
 
入れ替わりにいつもの担当医が入ってきた。 
おお、この医者、木曜以外にも居たのか。 何しろこの病院、外来の担当が毎日違っていて、週に一度しか同じ医者が出てこないのである。 だから検診の日以外に用が有る場合に困るのだ。
どうやら外来の日以外は別の事をやっているようだ。
 
実は主人、ちょっと前に日本の医者が主人公の小説を読んで、医者にも色々ランクがあると言う事を知った。 『講師』と言うランクが有ると言うことを初めて知った次第である。 この担当医がまさに『講師』だった。 
 
その担当医の後から別の医者が入ってきた。 もっと年嵩の医者。 主人とどっこいかも知れない。 この医者が実際に執刀するのだそうだ。 一番のベテランなんだとか。
 
そのふたりに連れられて別室へと行く主人。 そこで今までよりずっと詳しい説明を受けた。
 
なんでも心臓の冠動脈と言うのは太いものが(とは言っても、直系2mm程度らしいが)
3本あり、その内の真ん中の奴が一番重要で、万が一ここが詰まると一巻の終わりなのだそうだ。
主人の場合はまさにそれ。 そして、その動脈は根元のところで三叉に分かれていて、その内のひとつが狭窄しているとか。 そこにステントを入れる事になるだろうが、これが簡単な事では無いと言われた。
ステントを入れた所為で、他の血管が押されてつぶれる危険があるとか。
状況によっては、ステントではなく、バイパスにした方が良いと言う状況になるかも知れないとも言われた。
 
この期に及んで随分と脅かしてくれるものだ。 しかし、もう主人にはどうすることも出来ない。 患者が努力する余地は全くと言って良いほど無いのである。
まさに「まな板の上の鯉」なのだ。
如何に脅されようともされるがままになるしかない主人であった。
 
 
最近の医者は事故が起こった際の言い訳になるように、とにかくありとあらゆる事を事前に言ってくる。 まぁ、医療事故だと騒ぎ立てる患者遺族が、裁判で何かにつけ、「そんな事聞いてない!」と言う事への対策なのだろうが、これが結構迷惑な話で、いちいちそんな事まで言われなくてもとつい思ってしまうのだ。
100%の安全など保証できるはずが無い。 どんな手術であっても失敗の可能性があり、死ぬ危険は当然ある。 病院で死ぬか自分の家で死ぬかはたまた道端で死ぬかの違いに過ぎない。 
 
我々猫族は人間に死ぬところを見られるのを好まない。 これは野生で生きていた頃の記憶である。 弱みを見せたら最後、自然界では死ぬしかないのだ。
だから我々は、自分の死を直感したならば静かにそっと姿を消す。 そして誰も知らないところで己の死と向かい合うのである。 誰もそれに文句などつけない。
 
しかし人間たちはそう言う自然界の掟を知らぬものだから、医者と言えば患者を助けて当然、病院となれば病気が治って当たり前、手術室と言えば、スーパー・ドクターがどんな難手術も成功させるのが常識と考えているらしい。
だからそれに失敗しようものなら大声で喚く、罵る、泣き叫ぶ。
相手も同じ人間であると言う事を忘れてしまう。
 
我輩にはわかる。 主人は例え手術が失敗で自分が死んでしまったとしても、その責任を医者に追わせようなどとは微塵も思っていない事を。
 
 
採血と採尿はいつもやっているし、胸部レントゲンなどは造作も無い。
問題は頚動脈エコーなる新技である。
 
時間が来てそれを行う部屋へと通される。 ちょっとドキドキしている主人。
しかし、行われたのは心エコーと同じ事を首にされただけであった。
また、動脈硬化の検査と言う奴も、血圧を測る例のギュッと閉まる奴を両手首と両足首にされ、あっちこっち順番に絞められると言うだけの話であった。
 
これにて今日のお勤めは終了。 やれやれと一息つく主人。
 
 
病院はとても綺麗で設備も新しく、実に快適といえるほどだったが、困ったのが食事だった。
なにしろ、検診後の一ヶ月はかなりの量の炭水化物をとるが、後の一ヶ月は極力食べない主人である。 もうその後半に入っているので、普段は米も麺類も食べない時期に入っていた。
然るに出てきた病院食は炭水化物と糖質の塊の様なものであった。 
煮物には間違いなく砂糖が使われている。 菓子類は多少食べる主人だが、料理に砂糖は絶対に使わない。 焼き鳥もタレではまず食べない。 テリヤキなどと言うものも口にしない。 
最近煮物や蕎麦つゆにオリゴ糖で甘みを付けることを覚えたが、砂糖と言うもの自体が台所に無いのである。
また果糖に関しても同じで、果物はまず食べない。 年に一度くらいイチゴを食べる事が有るが、それ以外の果物は食べない主人である。
ところがのっけからパイナップルが出てきた。 煮物も随分と甘い。 これには困った主人であった。 しかも野菜が少ない。 全く少なすぎる。
仕方なく食べられそうなものだけ食べ、殆ど残した主人であった。
 
早速ナースに事情を話し、糖尿病患者用のものに代えてもらった。 ところがその後もご飯が普通に出てくる。 どうやらここではカロリーしか考慮できないらしい。
ナースは、「担当医から、一日1800キロカロリーの指示が出ていますので・・・。」なんて言っていたが、問題はカロリーではないのだ。
例え同じカロリーであっても、炭水化物や糖分を食べた場合と、たんぱく質や脂肪、繊維質を食べた場合とでは血糖の上がり方が全く違うのだ。
病院側はそんな事先刻ご承知だろうが、要するに病院食を作る方が対応出来ないと言う事なのだろうと我輩猫ながら思った。
 
月曜日と火曜日の昼までは炭水化物を避けていた主人であったが、火曜日の夜になって暫くお盆を眺めていた主人は、突然全ての物を食べ始めた。
一口しか口にしなかったご飯も猛然と食い始め、終いにはお茶かけて漬物をぶち込んで食べたりもしていた。
 
いよいよ明日は本番である。 
そのストレスが限界に達したか、これが最後の食事になるかも知れないと思ったのかは、さすがに飼い猫の我輩とと言えども計り知れなかった。
 
 
明日はいよいよ本番である。
予定は2時頃だそうだ。
 
とにかく今はもう早く終わってくれる事だけを願う主人であった。
 
 
に、にゃあ〜

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト『さとふる』
11/30まで5周年記念キャンペーン中!
Amazonギフト券1000円分当たる!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事