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玄関を出て通りに立ち、「あ、そういえばどこへ持ってけばいいんだ?」って
回覧板を見たら、大原さんの欄にだけ ‘見ました’ の 〇 がなかった。
よりによって、大原さん・・・。
娯楽施設といったらカラオケとパチンコとボーリングしかないこの小さな町の、
国道から数多く枝分かれした道の一つは、二つのバス停と三年前に出来たコンビニの前を通り
タバコ屋のポストでY字に分かれている。
右のつきあたりが私の家なら、もう一方のつきあたりが大原邸だ。
そう。邸っていうからには、ご想像の通り、西洋風の屋根も見えないような大きな家で、
おんぼろ平屋のうちと違って、でっかいお屋敷ってこと。
廊下の両側に立ち並ぶ沢山のドア。学校の図書室より大きな書庫、
建物の左側にはサッカーが出来るくらいの庭があるのを私は知ってる。
その庭に面して、花の咲き乱れる暖かいサンルームがあることも。
10年ぶりに門の前に立った私は、三階を見上げた。主人が年老いた今、もう使っていないのだろう。
東の角の窓の奥は黒く、蔦が覆っていた。
ここには昔、私と同い年の子が住んでいた。昔は近所に子どもが少なかったから、
私達はよく一緒に遊んでいた。その子が異人さんに連れられて、外国へ行ってしまうまで…。
「大原 麗」
ポストに名前を見つけた時、心が記憶の再生にストップをかけた。
慌てて回覧板をポストに入れようとしたけど大きすぎて入らない。
焦った私は、門の間から差し込み回覧板を芝生に放ると、踵をかえし、逃げるように駆け戻っていった。
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いろいろ読むのが好きです。ありがとうございました。
2008/7/13(日) 午前 1:19 [ mariko ]