色水あそび

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色水あそび(4)

雲の流れが速かった。

もうすぐ雨が来るからだ。

ああ、面倒くさいことになったなって思いながら、大原邸へとテクテク向かった。

近所のコンビニに行くにも完全防備で行く私だから、途中、うっかりジャージ姿で出て来たことを

後悔したけど、雨がぱらつきだしたから引き返さなかった。

大原邸に着くと、門が少し開いていた。『あ、じゃあないかも』って思ったら、茂みに青いのが見えた。

ああ、やっぱりそのままだ。おばあちゃんだから、気づかなかったんだろう。

とにかく、このままじゃ雨に濡れるから、私は中に入り、芝にうずもれた回覧板を

ジャージのお腹に入れ、ポーチの階段を上がり玄関へ向かった。

インターフォンを押したけど、誰も出てこない。おばあちゃんだから、耳が遠いんだろう。

扉に手をかけたら、あいた。金持ちなのに無用心。おばあちゃんだから、かけ忘れたんだろう。

おばあちゃんっていいな。世間はおばあちゃんに寛容だ。


扉を持つてが震えた。胸がドキドキして。だって、10年ぶりだから。昔、足しげく通っていた場所。

まさか、再び足を踏み入れることがあるなんて、想像もしてなかった。

重い扉を開いた途端あふれ出した音楽室みたいな匂いに、全身を包まれた。

そして真っ先に目に入ったのが、広いホールの中央に居座る大きな階段だった。

それを見た途端、懐かしさが全身の血液をぐるぐる巡った。

階段の紅いカーペットを駆け上がる白いスカートがザッと脳裏をかすめて、ああ、どうしよう。

私は慌てて鼻歌を歌い始めた。


子どもの頃怖がりだった私は、よくイジワルなお姉ちゃんに怖い話をされておびえていた。

それで、怖い話を思い出しそうになった時、思い出さないよう頭を切り替える為に歌を歌うことを

思いついた。夜中のトイレとか、遅くなった冬の帰り道とか、留守番とか。

そしたらいつの間にか癖になってたの。

怖い話に限らず、あんたも恥ずかしいかった出来事とか嫌な思い出とかを思い出しそうになったら、

歌ってみて。あんたが聖徳太子みたいじゃないなら、少しは脳をだませるから。

ちなみに、私のテーマ曲はハイジのオープニング。ここ大事。

人に聞かれても引かれない、かつ、‘機嫌がいいんだな’って思われるような曲にしたほうがいい。


「どちら様?」


ハッと口を閉じ、声の方を見上げたら階段の上に人がいた。

黒いシャツの、知らない若い男。誰こいつ・・・おばあちゃんじゃないじゃん。

「あ!あの、回覧板です」

「・・・」

熱くなった呼吸を整え回覧板を掲げてみせた。

何で?きょとんとした顔で、ぼけーっと立ってる。

「回覧板を持ってきました。雨が降ってきたから濡れると思って・・・門が開いてたんで」

無反応・・・。まさか、金持ちすぎて回覧板を知らないわけじゃあるまいし。

「置いておきますね」

面倒くさいから、脇の空の花瓶ののったテーブルにのせ、さっさと帰ろうとしたとき、

「待って!」

突然でかい声で呼び止められた。吹き抜けの天井まで響き渡るその声。

そして何って私が振り返った次の瞬間、なんと、階段をおりていたそいつが、

途中で足を踏み外し転がり落ち始めたんだ。

ゴロ・・ゴロ・・ゴロ・・・・・ドスン。

ドラム缶、もしくはバレリーナみたいに、きれいに回転して、あれよあれよと言う間に。

そいつは、階段の裾でひっくりかえったまま、動かなくなった。


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