色水あそび

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色水あそび(6)

私は麗が嫌いだ。

ちゃんと理由はある。思い出したくないから、思い出さないけど。


それから二日後くらいのことだった。麗とのことが頭にあったせいで、夢を見たんだ。

誰かに背中を押されて真っ暗な井戸の底に落とされる夢。

井戸の底から見上げた丸い空は、真っ青ですごく綺麗だった。

見とれていたら、黒い影が覗いた。誰?

「約束を守れない子は嫌いよ」

声が聞こえた途端、頭を押さえられておぼれた。ゴボゴボゴボゴボ・・・


両手でもがきながら飛び起きたら、ベッドの下でお姉ちゃんがいびきをかいて寝てた。

まったく、頼りにならない。もう秋だっていうのに、寝汗びっしょりだし。

バイトに行く準備しなきゃ。だるいなって思いながら暗い台所でカルキくさい水を飲んでたら、

玄関で音がして、台所に入ってきたお母さんは、眉間に皺をよせ、

「舞、あんた昨日大原さんの家で何かあったの?」って訊いてきた。

どうやら、狭い町だから、昨日私が救急車に乗り込むところを近所の誰かが見てたらしい。

「そんなことがあったのに、何で黙ってたの!お見舞いに行って来なさい。

麗ちゃんには昔いろいろお世話になったでしょう?」

『麗ちゃん』って。苦笑いの私。今の麗を見たら、お母さんは卒倒するに違いない。

「お母さん、あのね、麗ただのおかまになってたよ」

「何ねぼけたことを言ってるの。ほら、さっさと行って来なさい!」

しかも、顔洗ってたら、「ちゃんと花か果物か持って行くのよ」って。

助けてやった上に、お金まで払ってこいなんて、理不尽な世の中。

結局、病院へ向かったけど、手ぶらで行った。いいんじゃない?

だって、私が何持って行ったって、麗にとってはゴミみたいなものに違いないから。


麗の病室は変わっていた。金持ちの好きな最上階の一番奥。

「こんにちは」ってノックしたら、男の声がして、

「舞ちゃん?」

「そうですけど?」って私。

「少しお待ちになって」

「はぁ」

何様のつもり?5分くらい廊下で待たされて、もう帰ろうかと思ったらまた声がした。

「どうぞ、お入りになって」

戸を開けた途端、唖然とした。薄いピンクで統一された室内。いったいどんだけ改造してるの?!

運び込まれた豪華な家具で、その部屋だけ別世界になってた。

フリフリのシーツ。フリフリのレースがついたカーテン。壁には絵画。

そして棚にずらりと豪華な花かごや果物の数々。ほらね。何も買わなくてよかった。

一体どこにいるのって見渡しながら入っていったら、部屋を仕切る紗のカーテンのむこうに

気配があった。

麗はいた。優雅に足を組み真紅のソファーに腰掛け、ティーカップを手に私を見ていた。

襟のピンとたった白いシルクのシャツに黒いパンツ。ボタンのところがヒラヒラしてる。

ヒラヒラだらけ。っていうか、あんた、病人なのに何でパジャマじゃないわけ?

「お久しぶりね。舞ちゃん」

お姉さますわりの膝からナフキンをすっと取り上げ、しずしずと立ち上がった麗。

面影のかけらもないその顔を、私は下から睨むように見上げた。


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