色水あそび

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色水あそび(7)

「どうぞ、おかけになって。お紅茶でよろしいかしら?・・・ちょっと!」

パンパンって手を叩く麗。

向かいのソファーに腰掛けたら、麗の合図でどこからともなく体格のいい無愛想なおばさんが

ドスドス現われて、そのヒラヒラエプロンのメイド服姿に私はブッって噴出しそうになった。

麗の趣味なんだろう。そりゃ、こんなの着せられたら無愛想にもなる。

お菓子やお茶がどんどん運ばれて、楕円形のテーブルいっぱいに並んだ。

「そうだわ。ランチはおすみになって?帰国して、おいしいイタリアンのお店を見つけたの」

「え?・・・まだ、10時前だけど?」

「ええ、そうね?」って。それが何か?って顔されても困る。しかも、あんた入院してる身でしょ。

でもこういう感じ。確かに麗だって思った。私の知ってる昔の麗は、大胆で自信家で頭もよかった

けどちょっと変わっていた。ずれてるっていうか。

私は改めて目の前の麗を見つめた。ちょっと尖りすぎの細い眉。ツヤツヤの唇に決め細やかな肌。

もしかして、化粧もしてる?

「まぁ、そんなに見ないで!」

視線に気づいた麗が、恥ずかしそうにその体をくねらせた。

ティーカップを持ちあげた手。小指がたってるし! ゲッソリ。


「舞ちゃんにはとても感謝しているの。救急車を呼んでもらったうえに、病院にまでついてきて

くださって。もちろん、退院したら、すぐにお礼に伺うつもりだったのよ。ずっと考えていたの。

舞ちゃんは何が好きだったかしらって。それで」

「何で帰ってきたの?」

話しの流れを無視して訊いた。だって、ほっといたらいつまでも喋り続けそうだったから。

麗は、今大学を休学して、帰国してからはお父さんの会社の研究室で勉強していること。

両親は健在で豪華客船で世界中を旅行中だってことなんかをべらべら話した。

「懐かしくなって、私だけ帰国したのよ」

「あっそ。いい身分だね」

聞こえてないのかしらないけど、私の嫌味を無視して、麗はそれからまた話しはじめた。

10年ぶりに帰国したら、町のあそこが変わっていたとか、〇〇が新しくなったとか。

高揚した顔で身を乗り出し「覚えてる?」って訊かれるたびに、

「さぁ?昔のことはあんまり覚えてない」って紅茶をすすり、お菓子をもくもくと食べる私。

だって、出されたものは食べないと。「どんどん召し上がって」って麗は嬉しそうだし。

捨てなくて済むし、私のお昼代は浮くし。

「そうだわ。舞ちゃんの話がききたいわ」

その言葉を訊くなり、私はバッグを肩にかけ、「ごめん、帰る。バイトがあるから」って立ち上がった。

こいつに話すことなんてない。これ以上、低音の女言葉をきかされるのはごめんだ。

待ってって立ち上がる麗。見上げる私。昔は逆だった。

それだけじゃない。身長も、肩幅も、骨のラインも、手や足のパーツの大きさも、

その努力に反して、麗は明らかに男だったんだ。

変わったねって言葉をやっとこさ飲み込む私に、麗がもじもじしながら言った。

「あのね、退院のお祝いパーティーをする予定なの。それで、舞ちゃんに来てほしくて」

「ごめん。私いそがしいから。あんたと違って」

「あら、渡したいものがあるのよ」

「何?」

「それは来てからの、お・た・の・し・み!」

・・・こいつ、イライラするんですけど。

「もったいぶらないで言いなさいよ」

「そうねぇ・・・そう。舞ちゃんが忘れていたものよ」

「私が忘れていたもの?」

「ええ、そう。忘れていたもの」

にっこりと微笑んだその妙に色けのある怪しげな細い目を見ていたら、突然私の頭が

フラッシュバックした。

回旋塔。おまんじゅう。白い包み。

「日曜の6時に、お待ちしているわ。・・・ちょっと、お送りして」

パンパンって麗の拍手でハッとした。

まだショック状態の私を、押し出すように見送るおばさんメイド。

後ろから麗の「約束よ」って、確認するような声が聞こえた気がしたけど・・・私の頭の中は

さっきの言葉でいっぱいだった。

― 私が忘れていたもの


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