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私は駅前の喫茶店でバイトしている。
高校の時からだから、もう5年になる。
喫茶店の大きな窓から、駅員さんが切符を受け取り、ホームを出入りするのが見える。
小さな町だから、改札機なんかないんだ。
私はいつもそれを、当店自慢の絞りたてオレンジジュースや、実はインスタントのコーヒー
を運びながら、何気なく見ている。
けれど、今週は違った。土曜日になっても、私の脳は、暇さえあれば麗の言葉を繰り返し再生していた。
大原邸には、昔、庭に『回旋塔』があった。
円錐みたいな形の、ぐるぐる回るジャングルジムみたいな遊具。
一番上のネジを覆っているお饅頭みたいなカバーが外れるようになっていた。
小さい頃は、その頂上はとても高くて、なかなか手が届かないように思えたそのてっぺんの
『おまんじゅう』の中に私達は宝物を隠してたんだ。
砂場で拾った水晶のかけらや、キラキラのシールとか、大したものじゃないけど。
そこは、私と麗の宝箱だった。
『舞ちゃんが忘れていたもの』
麗はあのことを言ってるんだろうか?手のひらくらいの、白い布に包まれた包み。
中身は何かって?実は私も知らない。ある人が、中は見ないで大事に隠しておくように言ったから。
あの、おまんじゅうの中に隠しておいたんだ。
麗は知ってたんだ。それが今の私にはとても意味のあるものだってこと。
麗ってちょっといい奴かもって思った。一瞬だけね。
日曜日、玄関で靴を履いてる私に、お母さんが、「これ、持って行きなさい」って紙袋を渡されて
覗いたら、白いマフラーが入ってた。
「生徒さんに教えるために編んだものだけど、麗ちゃんに似合うと思ってね」
毛糸のマフラーなんて、麗がつけるわけないのにって思ったけど、
何も言わずに受け取ろうとしたら、お姉ちゃんがきてさっと取り上げた。
「えっ!麗ちゃんって、大原麗?あの麗が?女の子が欲しかった母親にスカート履かされてた子でし
ょ?あんた仲良かった。帰ってきてるんだ?で?舞、あんた何でそいつのとこ行くわけ?」
あ〜面倒くさい。
「もったいない。お母さん私達には一度も編んでくれたことないのに」
不満げなお姉ちゃん。でも、確かに編んでもらったことはなかったって思う私。そしたら、
「あんたたちは女の子なんだから、自分で編めるでしょ!孫でも産んだら、いくらでも編んであげるんだ
けどね」ってお母さんがお姉ちゃんを小突いた。
「セックスレスで別れようっていってんのに、子どもなんて出来るわけないでしょ!」って叫ぶ
お姉ちゃん。玄関で何言ってんの。最悪。ギャーギャーうるさいうちの家族。仲が悪いのは昔からだ。
紙袋を取り上げてさっさと玄関を出たら、冷たい風がふんわりスカートを吹き抜けた。
寒い。だってもう12月だから。やっぱりジーンズにすればよかった。
さっさともらうものもらって帰ってこよう。
その時はそう思ってた。まさか、あんなのが待ち受けてるとは知らなかったから。
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