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臨時 vol 237 「新型インフルの緊急対策に患者補償と医師免責を導入すべきでないか」
医療ガバナンス学会 (2009年9月10日 06:24)

井上 清成(弁護士)

1 無過失補償制度としての患者補償
 患者と医療者の双方ともが、安心して治療に臨めなければならない。今までは、患者の安心ばかりが強調されていて、医療者の安心が度外視もしくはタブー視されてきた。当り前のことであるが、医療は患者と医療者とで成り立つ。一方が欠けると、他方も成り立たない。だから、医療に伴わざるをえないリスクを、できる限り患者に負担させないようにすると共に、医療者にも負担させないようにするのが合理的であろう。
 無過失補償制度は、発現してしまった医療のリスク(つまり、副反応や事故など)を、たまたま発現した患者に負担させず、そこに生じた損失を経済的に公平に補償しようとする。医療者の過失の有無を問わない。訴訟提起ができる人と諸事情によって訴訟提起ができない人との間の不公平も生じさせないようにする。これをひと口に「患者補償」といってよい。

2 患者補償に対応する医師免責
 医療者を不安にさせるものの筆頭は、医療過誤の責任追及であろう。刑事責任もあれば、民事責任もあるし、行政処分もある。これらの責任追及の不安があるために、時に、積極果敢な医療に踏み切れない。
 たとえば、医師に非常に厳しい最高裁判決として有名な、痘瘡の予防接種で後遺症が残った事例がある。最高裁判所は平成3年4月19日の判決で「被接種者は禁忌者に該当していたと推定する」とし、その最高裁による破棄差戻し後の札幌高等裁判所の判決では、現実に、担当医師の問診義務違反、予見義務違反が認定され、過失ありとされてしまった。これは、多少の限定付きの形を採ってはいるけれども、実際上、副反応が出て後遺症が残ったら、すべて過失ありと認めて損害賠償の形式で補償しようとするに等しい。もともと、最高裁は、何とかして不公平な被害を救済したいという政策的意図の下で、強引に過失損害賠償という法律構成を採った。
 しかし、患者補償が実現するならば、不当に強引な過失の法律構成を採る必要もない。医師免責を認めて何ら差しつかえないであろう。つまり、患者補償と医師免責とは本来、損失補償の両輪として、対応してしかるべきなのである。

3 新型インフルエンザ対策への不安
 ところで、猛威をふるいはじめた新型インフルの対策を、どのようにしていくべきか。今後は厚労省に頼り切らず、医療者皆が自律し主導していくべきであろう。ただ、新型インフルは必ずしも解明されていない点も多く、緊急事態なので備えも十分ではないらしい。国内のワクチンだけでなく、輸入ワクチンも必要といわれる。
 そうなると、近い将来、新型インフルワクチン接種を巡る医療訴訟や医療紛争は、避けられないであろう。もしくは、それらの訴訟などへの不安から、逆に、新型インフル対策が積極果敢に進まないかも知れない。
 医学的・医療的に有効適切な新型インフル対策を医療者が積極果敢に推進していくためには、予防接種禍訴訟の不安を取り除くべきであろう。

4 患者補償と医師免責の緊急立法を
 本来、じっくりと議論して、公的な無過失補償の一般的制度と、医師免責の一般的制度とを導入していくべきである。しかし、それでは、秋から冬にかけての新型インフル対策に間に合わない。かと言って、現行制度のままで積極果敢な対策をとると、副反応や事故をめぐって訴訟・紛争が起こるであろう。
 そうすると、新型インフル関連に限ってでも、緊急の立法措置を講ずる必要がある。今までに前例のないことではあろうが、新型インフルに関しては、その結果の重大性だけをもって公平な患者補償をすべきではないか。そして、患者補償と合わせて、医師免責を導入するのがよい。
 新型インフルの診察、検査、治療に関しては、医師の作為・不作為を問わず、悪意の場合を除いて全面的に免責する。繰り返しになるが、その場合は全面的に患者補償をしてしまう。一見すると、余りにも大胆に感じられるかも知れない。しかし、新型インフルは今までにはないタイプの脅威と被害であろうから、むしろ全面的な患者補償こそが公平であろう。そして、新しいタイプの緊急事態でもあろうから、むしろ全面的な医師免責こそが合理性を有する。こうしてこそ、積極果敢な新型インフル対策が可能となると思う。

5 新型インフル対策に関する緊急措置法の私案概要
 患者補償の財源は専ら国庫とし、公的な無過失補償制度の位置付けとする。新型インフルによる死亡と一定の程度以上の後遺障害に対し、保険診療・自由診療を問わず、結果回避可能性・予見可能性を問わず、新型インフル起因性のみを要件として一元的な補償を行うのがよい。患者補償・医師免責を同意した者のみに限定する方式(患者補償・医師免責の契約方式)も考えられるが、できれば一律の患者補償・医師免責にするのがより公平であろうと思う。ただ、もっと時間をかけて広く無過失補償を議論せねばならないので、今回の緊急措置法は時限立法とする方が適切だと考えられる。最後に、簡略なものではあるが、私案概要を条文の形にして提示したい。議論の一助になれば幸いである。


〈資料〉新型インフル対策に関する緊急措置法〔私案要旨〕
第1条(目的)
 本法は、現在わが国で流行しつつある新型インフルエンザに関し、それが緊急に対策を採らねばならないにもかかわらず、病態等の医学的解明が未だ十分とはいえず、対策の国内準備も甚だ不十分である事態に鑑み、それでもなお積極果敢な対策立案とその実施が可能となるようにするため、臨時の緊急措置として、公平を旨とした患者補償とこれに対応する医師免責を定める。

第2条(患者補償)
 国は、新型インフルエンザによって政令で定めるところの死亡・後遺障害を生じた者に対し、政令で定める金額の患者補償金を支給する。

第3条(医師免責)
 新型インフルエンザに関連して医師が診察・検査・治療を行い、もしくは行わなかった場合については、刑法第209条ないし同法第211条1項並びに民法第415条及び民法第709条を適用しない。但し、医師に故意もしくは悪意が認められる場合はこの限りではない。新型インフルエンザに関連して診療の補助を行った看護師その他の医療従事者、並びに、新型インフルエンザに関連した医薬品の製造ないし供給に関与した者についても、医師と同様に過失責任及びこれに準じる損害賠償責任の一切を免ずる。

第4条(政令への委任)
 本法の施行日及び廃止日並びにその他本法の施行に必要な事項は政令をもって定める。
http://medg.jp/mt/2009/09/-vol-237.html#more

基本的には大賛成です。
金額は大きな問題ですが…
民主党が法案提出を考えているそうですので、期待しています。

医療に伴わざるをえないリスクを、できる限り患者に負担させないようにすると共に、医療者にも負担させないようにするのが合理的であろう。

それによって、

責任追及の不安があるために、時に、積極果敢な医療に踏み切れない。

という、患者側・医療者側双方に困った事となっている「萎縮医療」の現状を何とかしたいものです。
そうすれば、イギリスであった奇跡がおきるかもしれないのです。

患者補償と医師免責とは本来、損失補償の両輪として、対応してしかるべきなのである。

その通りです。
新型インフルエンザ対策をきっかけに医療行為全般に広がって欲しいものです。

本来、じっくりと議論して、公的な無過失補償の一般的制度と、医師免責の一般的制度とを導入していくべきである。

のですから…

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