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3、ゆきと甲子園と…(前半)
試合が終わり、反省会や次期部長の決定などが忙しくゆきの目の前を通り過ぎていく。
引退の感傷に浸る暇はなかった。ゆきは最後まで部長としての役割をこなし、
ちょうど一区切りついたのは八月も中旬に入ったころだった。
気が抜けたように部屋にこもるゆき。これまで打ち込んできたソフトが生活から消え、
どうしていいのか分からなかったのかもしれない。
一応高校受験を考え、これからでもまだ申し込める夏期講習の講座がある塾のパンフレットは
もらってきたのだが、読む気にもならない。
どうしようか考えていると、昼前から雨が降りはじめた。
薄暗い外をぼんやりと自分の机に座り、部屋の窓から見ていると、
いつの間にか眠気が襲ってきて眠ってしまった。
何か夢を見たのだが、あまりいい夢でなかったことしか憶えていない夢だった。
ふと目が覚めて外を見ると、まだ雨は静かに降っている。
涼しい風が窓からやさしく吹き込む。
雨だとグラウンドで練習できないな…と考えかけて、ゆきは苦笑した。
もう引退したのだから、ゆきが練習内容で悩む必要はないのだ。
すっかり自分の一部になったソフトが無くなった、今を思うとゆきの心はまた複雑なものとなる。
ふと、伏せていた机の上を見ると、塾のパンフレットの上に一冊の本が置いてある。
マンガ「火の鳥 鳳凰編」だ。そうじろうが面白いと言って
こなたに読ませてたと言っていた様な気もする。
そうじろうに薦められて読んだ父も珍しく褒めたマンガなので憶えていたのかもしれない。
いつものゆきなら、いまさらマンガなんて、と手に取らなかったかもしれない。
そうじろうが置いたのだろうか?いぶかしりながらも、
塾のパンフレットはもっと手に取る気になれないゆきは、
そのマンガを開いてゆっくりと読み始めた。
物語の舞台は奈良時代と呼ばれた8世紀の日本。片目と片腕を失っている盗賊我王は、
偶然出会った、仏像を彫ることを仕事とする茜丸のきき腕を傷つけ、
その妹を奪ったことから物語は始まる。利き腕を満足に使えなくなった茜丸は、
仏像彫りとしての命が尽きたと嘆く。しかし僧侶に励まされ、
左腕でもう一度仏像を彫ることを始める…
ゆきは物語りに惹きつけられ、夢中になってページをめくった。
雨は変わらず静かに降っていたが、遠くで雷の音が響くようになってきた。
しかしゆきの耳には、もう何も入らなかった。
この日を境にゆきは気持ちを切り替え、パンフレットの塾に入塾すると、受験勉強に打ち込んだ。
2学期に入り担任と面談し、志望高校は野球部古豪の公立に決めた。
私立の野球部強豪高校と迷ったが、家から通うのに難しい距離であったのが決め手となり、
公立に絞ることになったのだ。
野球部の強い高校を選んだのは、ゆきは選手としてでなくマネージャーとして部活に打ち込み、
ソフトを続けたのでは無理な夢、
甲子園の土を野球部員と一緒に踏む夢を追ってやろうと考えたのだ。
部活に振り向けたエネルギーをそのまま勉強に使うことは、ゆきにとって苦も無いことだった。
翌年の春に問題なく合格、野球部マネージャーにも採用され、
毎日朝早くから夜遅くまで部員を陰から支えた。
自身のプレイヤーとしての経験を活かし、一層一途に自分の役割に打ち込むゆき。
プレイヤーとして期待された重みから解放された嬉しさと寂しさが、
ゆきを突き動かしていたのかもしれない。
毎日とにかく必死で、月日はあっという間に過ぎていく。
そんなゆきを両親は何も言わずに支えた。
夏には朝5時前に家を出る娘に弁当を持たせ、
帰りが夜遅くになる日は黙って父が車で迎えに行った。
茜丸は、精進の末にリハビリに成功して、仏像を再び彫り始め、
その出来は名声を高めるのに十分なものだった。その腕を見込まれ、時の権力者橘諸兄に、
永遠に生きる火の鳥・鳳凰の像を彫るよう命じられる。
モデルとなる鳳凰の記録を懸命に求め、全国を巡る茜丸。
しかし決められた刻限までに資料は見つからず、鳳凰の像も彫ることが出来なかった。
権力者の命令を叶えられなかった茜丸は死を覚悟し、
旅の途中で命を救った少女をモデルに渾身の力を込めて仏像を彫る。
その出来に群集は目を見張るのだが、完成間近にして茜丸は役人に捕らえられてしまう。
茜丸は橘諸兄に決然と「無理な命令をなさる権力者はその座に留まることも長くない」と言い放つ。
怒った諸兄に処刑される寸前、諸兄の政敵・吉備真備が茜丸を救い、
正倉院の御物である鳳凰図を見せてやる。
感激した茜丸は一気に鳳凰像を彫り上げ、吉備真備はその像を聖武天皇に献上する。
この出来に茜丸の実力を認めた天皇は、奈良・東大寺の大仏建立の
プロデューサーに茜丸を任命することになる。
茜丸は自身の実力が認められたこと、一度は殺されかけた橘諸兄に気に入られ
お抱えの芸術家になったことに得意になり、
全力で東大寺の大仏建立の成功を目指し力をふるうようになる…
ゆきたちマネージャーの頑張りは選手の励みになった。
ゆきが1年の夏の大会は件大会準決勝で惜しくも敗れたが、
決して甲子園出場が夢ではないと思えるチームの仕上がりだった。
そしてこの経験を活かした新チームは秋の大会以降も快進撃を続け、
ゆきが2回目の高校生の夏を迎えたとき、部はついに甲子園出場の切符を手に入れたのだ。
県大会では圧倒的な強さで他校を寄せ付けず、堂々とした結果だった。ゆきは勿論嬉しかった。
しかし不思議なことに、「次は甲子園で良い結果を!」
という気持ちはゆきの心の中に起こらなかった。
夢は叶ったが、それはもう夢でなくなってしまったのだ。
そして、とたんに夢から醒めたゆきは、次の夢を見つけられないまま、
甲子園出場への準備をどこか遠くの国の出来事のように感じながら、
マネージャーのまとめ役として指示を出し、毎日駆け回った。
何が私をこんなに醒めさせてしまったのだろう、そう自問しながら。
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このブログ、内容の幅が奇妙に広くなりつつあるなぁ…
そんなことを思って書いてます。
前回のかなたの話もそうですが、なるべく
そのキャラが大きくなった時代の漫画やアニメなどを入れて
話を展開するようにしているのです…
という訳で、今回は漫画の神様、手塚治虫先生の大傑作、
火の鳥鳳凰編を関わらせてみました。
画像じゃないので、削除はされないと思いますが…
長くて重い、原作と別物になってますがw
最後までお付き合い下さい!
2007/9/13(木) 午前 0:53 [ 秋山妙子 ]
小説が苦手な私…。(こなたと同じ… 笑)
正直この記事だけは読めないんじゃないかって思ってたんですが
「カナタからコナタへ」は1からココまで読みました♬
すごいシリアスな話ですね!!!
というか文作るのうまいです!!さすが先生☆
コレ同人誌にして売れるんじゃない??って黒い事もかんがえてしまいました(汗;`・∀・)ゝ
挿絵が必要なら私が…笑
2007/9/14(金) 午前 10:13
長いお話なのに読んでくれてありがとうです!!
こんなに褒められると、いい気になっちゃいますヨw
同人…マル子さんが絵を描いてくださるのなら、ゼヒ是非!
2007/9/15(土) 午後 11:54 [ 秋山妙子 ]