腐女子教師の化けの皮の下

受験シーズンも一段落、いよいよ卒業式・終業式。某地方の弱小私立高校講師をしてる腐女子教師の日常をつづります。

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3、ゆきと甲子園と…(後半)


チームが一丸となって毎日繰り返した練習。対戦チームのデータ分析。
マネージャーに家族の大きな大きな支え。
そういった積み重ねが果たした甲子園出場だが、それは他の代表校も同じである。
勝負は無情なものであり、一回戦で福岡のチームに惜敗し、ゆきたちの2回目の夏は終わった。
それまでを考えるとあまりにあっさりとした終わりだった。
ゆきの両親はまさか強豪石川勢が一回戦で敗退するとは思わず、
仕事の関係を無理には調整せず応援には来なかった。
一応受験前のそうじろうは、かなたと一緒に観戦に行こうとしたが、
両親がそれを許さず、結果的に家族の誰も甲子園に観戦にいけなかったのだ。。
中学までのゆきのソフトへの頑張り、
そして高校に入ってからのマネージャーとしての頑張りを知る両親は、
またゆきが家族に甲子園での姿をみせられなかったことをひどく残念がるのを心配した。
しかしゆきには取り立ててどうということでなかった。
敗戦の報告と帰宅までの予定を淡々と電話で語る娘の口調から、
それが強がりでないと分かった両親は、
やはり特別なことは何も言わずゆきにいたわりの言葉をかけ、電話を切った。



一方盗賊の我王は、高僧・良弁上人に命を助けられ、そのお供として諸国を巡る。
その中で重い税金の負担や病、死に苦しむ人々に出会い、その怒りをぶつけるように像を造り始める。
その出来に目を見張った良弁は、我王の中に眠っていた彫刻家としての才能が
開花したことに気づき、喜ぶ。
やがて我王はふとした誤解からある寺に閉じ込められ、苦境に立つ。
その我王をそのままに置いて、良弁は旅を続けに出てしまう。
そんな仕打ちを恨み悩む我王。
しかし長く独り石牢に閉じ込められた我王は、最初出すように暴れまわるが、
じき無駄を悟りその中でも像を彫り続ける。
やがて誤解が解け牢を出された我王は、その腕を見込まれ寺の瓦を造ることになる。
日々瓦を造る我王に、ある時良弁の居場所が知らせられる。
大急ぎでそこに向かった我王は、生きたままミイラとなる即身仏の行を行い、
地中深くに埋められ、空気穴を通してしか会話できない良弁と再会する。
その行の完遂を見届けながら、我王は独り瞑想に耽る。
生きることとは、この己の心に渦巻く怒りとは、人の世を救うという仏とは何か…
静かに考えるのである。



それでもゆきにとって大きな変化があった甲子園出場になった。
一回戦での敗退後、肩を落とし引き上げるもう二度と甲子園を目指せない3年のレギュラー、
小早川先輩に声をかけられたのだ。今日の夜、宿舎裏にきてほしい、と。
2年間見続けた、練習に真剣にひたむきに打ち込んできた先輩の目は、
甲子園を去った今でも変わらずひたむきな光を放っていた。
そのひたむきな光がよりいっそう輝くように見える星空の下、宿舎裏でゆきは先輩に告白されたのだ。
「部活を引退しても、高校を卒業しても、ゆきと逢いたい」
ゆきは今まで先輩を甲子園という夢を一緒に追いかける仲間としか見ていなかった。
しかし、今そのひたむきさな気持ちが野球でなく自分に注がれていることを悟ったゆきは、
とっさに嬉しく思う自分に気付いた。

そんな自分に戸惑いつつ返事を保留し、翌日石川に帰ると、
そうじろうは人が変わったように勉強に打ち込んでいる。
初めて見る兄の頑張り様を不可思議に思いながら、ゆきはまた部屋にこもった。
取り敢えず叶った甲子園の夢。ゆきは次の夢や先輩への返事を考え始めた。
ずっとソフトにマネージャーに、力を入れてきたこれまでから、
いきなり「女の子」の悩みを密かに持った自分に何故かゆきはおかしさを感じ、クスリと笑った。
ふとゆきは窓の外を眺める。秋のきれいな夜月に虫の声。
今更ながら今年の夏はもう終わりに近いことを、
そして高校生活も残り半分だということをゆきは思った。

すぐに雪深い冬がきて、次の春を迎えると先輩は卒業し、新しい進路を進むだろう。
もちろん自分も一年後、すぐに同じ立場になる。
次の夢を何にしようか、醒めない夢はあるのだろうか...
そんなことを繰り返し考えさせるのは焦りか不安か将来への希望か。
ゆきにもその気持ちの名前はまだ分からなかった。


茜丸の尽力で東大寺の大仏は無事完成し、落慶法要が行われる。
責任を果たした茜丸の評判はさらに上がり、パトロンとなった時の権力者橘諸兄の権力も絶頂となる。
茜丸は得意になるが、昔助けた少女は「茜丸は変わってしまった」と言う。
大仏は完成したが、大仏殿の鬼瓦の製作がまだ残っていた。
これを茜丸に行わせようとしたが、東国に天下一の鬼瓦を造ると評判の我王がいると聞き、
茜丸と腕を競わせることに橘諸兄は決め、ふたりはライバルとして運命の再会を迎える…
仏像を造るのには天下随一の茜丸。
しかし、世にはびこる矛盾への怒りを強く抱く我王の造る鬼瓦にはかなうはずもなかった。
勝負に敗れそうになった茜丸は、我王の盗賊であった過去を暴露して、
我王の残っていた右腕を切り落とさせた。
両腕を失った我王は独り野に消え、茜丸の造った鬼瓦が採用されることとなった。



ゆきは、2年前の夏の雨の日に読んだ火の鳥をもう一度読んでいた。
あの時に読んで感じたことと、今読んで感じることの違いにゆきは驚いた。
茜丸にばかり目が行ったのだが、今は不思議と我王に目が行く。
何故だろう…自分の考えや気持ちは、なかなか言葉で捕まえられないことも多い。
経験や年月を重ねれば、そういうことは少なくなるどころか、
むしろどんどん増えていく。
私は…これからの私は何をしたいのだろう?何をすればいいのだろう?


茜丸の鬼瓦により東大寺は完成するが、火災に見舞われることになる。
茜丸はその消火のため、炎の中に飛び込むが、焼死してしまう。
その炎の中、鳳凰を見た茜丸は、今一度人間に生まれ変わり、
その像を完成させることを願うが、彼は二度と人間に転生することないと
火の鳥に告げられるのである。
一方両腕を失った我王は、特に悲しむ風でもなく山中にこもり、口に刀をくわえて
像を彫り始めていた。そんな彼の周りには動物が集まる。自然に溶け込むように
我王はこののちも像を彫りながら、山中に一人生きた。



ゆきは三年が引退した後の部室の整理をし、マネージャーの
秋からの役割分担などを打ち合わせて決めると、夏休みも終わりになった。
先輩が進路決定の準備に入る中、ゆきの心も次第に決まっていった。
ゆきの悩みは、先輩の気持ちを受け入れ、先輩と成り行きに身を任せながら
自然に方向が見えるのを待つ余裕の中に、少しずつ消えていった。
やがて先輩は社会人野球に参加しているチームを持つ会社に、
社会人野球選手として入団し、仕事と野球に打ち込む進路を選んだ。
ゆきはそれを祝福し、ほんの少し遠距離恋愛になることを嫌がり、
そして一年後には自分も先輩の近くに住める短大に進もうと決めた。
自分の先輩を想う気持ちが本当に強いことに、うまい言葉を当てはめることは
出来ないが、その気持ちに素直になることが自分なりに生きることだと想ったからだ。

ゆきの肩は今でももちろん、ソフトのプレーは出来ない肩である。
だが、ゆきの心はソフトで得た幹に枝葉を茂らせ、太く根を張り、
ある時は鳥の宿木に、ある時は実をリスに恵む秋の木に、
様々に姿を変えながら、関わる人々に力を与えられる大きさになった。

高校卒業後、東京の短大で栄養学を学んだゆきは、学業の傍ら
社会人野球の新人王をとった小早川選手を恋人として支え、
短大卒業と同時に、小早川夫人、そして小早川ゆいの母親となった。

(つづく)

3、ゆきと甲子園と…(前半)

試合が終わり、反省会や次期部長の決定などが忙しくゆきの目の前を通り過ぎていく。
引退の感傷に浸る暇はなかった。ゆきは最後まで部長としての役割をこなし、
ちょうど一区切りついたのは八月も中旬に入ったころだった。

気が抜けたように部屋にこもるゆき。これまで打ち込んできたソフトが生活から消え、
どうしていいのか分からなかったのかもしれない。
一応高校受験を考え、これからでもまだ申し込める夏期講習の講座がある塾のパンフレットは
もらってきたのだが、読む気にもならない。

どうしようか考えていると、昼前から雨が降りはじめた。
薄暗い外をぼんやりと自分の机に座り、部屋の窓から見ていると、
いつの間にか眠気が襲ってきて眠ってしまった。
何か夢を見たのだが、あまりいい夢でなかったことしか憶えていない夢だった。

ふと目が覚めて外を見ると、まだ雨は静かに降っている。
涼しい風が窓からやさしく吹き込む。
雨だとグラウンドで練習できないな…と考えかけて、ゆきは苦笑した。
もう引退したのだから、ゆきが練習内容で悩む必要はないのだ。
すっかり自分の一部になったソフトが無くなった、今を思うとゆきの心はまた複雑なものとなる。

ふと、伏せていた机の上を見ると、塾のパンフレットの上に一冊の本が置いてある。
マンガ「火の鳥 鳳凰編」だ。そうじろうが面白いと言って
こなたに読ませてたと言っていた様な気もする。
そうじろうに薦められて読んだ父も珍しく褒めたマンガなので憶えていたのかもしれない。

いつものゆきなら、いまさらマンガなんて、と手に取らなかったかもしれない。
そうじろうが置いたのだろうか?いぶかしりながらも、
塾のパンフレットはもっと手に取る気になれないゆきは、
そのマンガを開いてゆっくりと読み始めた。


物語の舞台は奈良時代と呼ばれた8世紀の日本。片目と片腕を失っている盗賊我王は、
偶然出会った、仏像を彫ることを仕事とする茜丸のきき腕を傷つけ、
その妹を奪ったことから物語は始まる。利き腕を満足に使えなくなった茜丸は、
仏像彫りとしての命が尽きたと嘆く。しかし僧侶に励まされ、
左腕でもう一度仏像を彫ることを始める…


ゆきは物語りに惹きつけられ、夢中になってページをめくった。
雨は変わらず静かに降っていたが、遠くで雷の音が響くようになってきた。
しかしゆきの耳には、もう何も入らなかった。

この日を境にゆきは気持ちを切り替え、パンフレットの塾に入塾すると、受験勉強に打ち込んだ。
2学期に入り担任と面談し、志望高校は野球部古豪の公立に決めた。
私立の野球部強豪高校と迷ったが、家から通うのに難しい距離であったのが決め手となり、
公立に絞ることになったのだ。
野球部の強い高校を選んだのは、ゆきは選手としてでなくマネージャーとして部活に打ち込み、
ソフトを続けたのでは無理な夢、
甲子園の土を野球部員と一緒に踏む夢を追ってやろうと考えたのだ。

部活に振り向けたエネルギーをそのまま勉強に使うことは、ゆきにとって苦も無いことだった。
翌年の春に問題なく合格、野球部マネージャーにも採用され、
毎日朝早くから夜遅くまで部員を陰から支えた。
自身のプレイヤーとしての経験を活かし、一層一途に自分の役割に打ち込むゆき。
プレイヤーとして期待された重みから解放された嬉しさと寂しさが、
ゆきを突き動かしていたのかもしれない。
毎日とにかく必死で、月日はあっという間に過ぎていく。
そんなゆきを両親は何も言わずに支えた。
夏には朝5時前に家を出る娘に弁当を持たせ、
帰りが夜遅くになる日は黙って父が車で迎えに行った。



茜丸は、精進の末にリハビリに成功して、仏像を再び彫り始め、
その出来は名声を高めるのに十分なものだった。その腕を見込まれ、時の権力者橘諸兄に、
永遠に生きる火の鳥・鳳凰の像を彫るよう命じられる。
モデルとなる鳳凰の記録を懸命に求め、全国を巡る茜丸。
しかし決められた刻限までに資料は見つからず、鳳凰の像も彫ることが出来なかった。
権力者の命令を叶えられなかった茜丸は死を覚悟し、
旅の途中で命を救った少女をモデルに渾身の力を込めて仏像を彫る。
その出来に群集は目を見張るのだが、完成間近にして茜丸は役人に捕らえられてしまう。
茜丸は橘諸兄に決然と「無理な命令をなさる権力者はその座に留まることも長くない」と言い放つ。
怒った諸兄に処刑される寸前、諸兄の政敵・吉備真備が茜丸を救い、
正倉院の御物である鳳凰図を見せてやる。
感激した茜丸は一気に鳳凰像を彫り上げ、吉備真備はその像を聖武天皇に献上する。
この出来に茜丸の実力を認めた天皇は、奈良・東大寺の大仏建立の
プロデューサーに茜丸を任命することになる。
茜丸は自身の実力が認められたこと、一度は殺されかけた橘諸兄に気に入られ
お抱えの芸術家になったことに得意になり、
全力で東大寺の大仏建立の成功を目指し力をふるうようになる…



ゆきたちマネージャーの頑張りは選手の励みになった。
ゆきが1年の夏の大会は件大会準決勝で惜しくも敗れたが、
決して甲子園出場が夢ではないと思えるチームの仕上がりだった。
そしてこの経験を活かした新チームは秋の大会以降も快進撃を続け、
ゆきが2回目の高校生の夏を迎えたとき、部はついに甲子園出場の切符を手に入れたのだ。
県大会では圧倒的な強さで他校を寄せ付けず、堂々とした結果だった。ゆきは勿論嬉しかった。
しかし不思議なことに、「次は甲子園で良い結果を!」
という気持ちはゆきの心の中に起こらなかった。
夢は叶ったが、それはもう夢でなくなってしまったのだ。
そして、とたんに夢から醒めたゆきは、次の夢を見つけられないまま、
甲子園出場への準備をどこか遠くの国の出来事のように感じながら、
マネージャーのまとめ役として指示を出し、毎日駆け回った。
何が私をこんなに醒めさせてしまったのだろう、そう自問しながら。

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