6.1 分解定理を無視すれば冷夏年と猛暑年の特徴がよく分かる
ヘルムホルツの分解定理に寄りますと、任意の流れは、発散成分と渦成分に数学的、解析的に分解
でき、流れの発散成分は、速度ポテンシャルから求められる発散風だけを解析すれば良い事になり
ます。
その資料を用いて、上層天気図を解析すると、フィリッピン付近に地球規模の大気発散中心があっ
て、そこから四方に発散する流れがあります。その一部が日本付近にやってきて、収束して下降
気流を持続し、日本の夏をもたらせる事になっています。そして、この付近の積雲対流活動で、そ
の活動が活発になると、日本が猛暑になると説明されます。
しかし、ヘルムホルツの分解定理が間違っていることは、「その1」で数学的に証明していると
おりですし、風の発散解析は実際の風そのものから求めると、猛暑と冷夏の比較がより良く理解で
きることを(その3)で見て来たとおりです。
次にここでは、梅雨から盛夏に移る季節変化を、ヘルムホルツの分解定理を無視して解析するこ
とにより夏の理解がしやすくなることを示します。
6.2 アジア付近の大気大循環の3月から5月までの季節変化
以下に猛暑であった2010年と平均的な(normal)年の3月から5月にかけての月平均図で、春の
変化を見てみましょう。猛暑であった2010年も、季節変化の基本的な模様は、ほとんど平年的
な変化をしていることが分かります。
以下に示す資料は、気象庁から公表されているOLR(前述)の月平均分布図に、同じく気象庁
が公表している月平均上層(200hPa;約12000m)天気図から、アジア付近を切り出し
て、重ね書きをしています。ただし、2010年の資料は公表された格子点の風、高度のデータを用い
て私が描いた天気図です。気象庁の200hPa天気図にも月平均風は示されていますが、特に低
緯度の風が見にくいので、参考のため私の持っている格子点資料のうちから2010年のみ風を示しま
した。
3月から4月
Fig.6.1 3月(上)、4月(下)のアジア付近のOLRと200hPa天気図
(左;2010年、右平年)
日本付近は、偏西風帯の中にあって天気が周期的に変わっているものと考えられます。
日本の南海上の北緯30度以南には、OLRの大きい、すなわち晴天が持続した領域が東西に広く広
がっていて、これは亜熱帯高気圧帯を示しています。この高圧帯の原因は、この領域で上層の流れ
が収束するためで、その上層の流れは、赤道付近に見られるOLRの小さい領域から発散して出て来て
おり、Fig.6.2に示すような、いわゆる典型的なハドレー循環を描くことが出来ます。
Fig.6.2 日本の春季に見られる低緯度のハドレー循環
5月
しかし、5月になると、子午面循環に大きな変化が現れます。
Fig.6.3 5月のアジア付近のOLRと200hPa天気図
(左;2010年、右平年)
5月になってもチベット高原は、春期に続いて、まだ山体の気温が低く、OLRの小さい領域がチベット
高原(Fig.6.3右図で3000m以上の高度が赤い点で示されている)の形状を想像させる領域を形
作っています。
2010年では、このチベット高原のOLRの小さい領域から東に伸び出すようなOLRの小さい領域
が見られますが、これは気象擾乱の停滞を示すものと考えられ、日本の南海上にまで伸びて梅雨前線
と見ることができます。
日本の南海上の東西に伸びていた晴天域(OLRの値が240以上の領域)が、インドシナ半島で分断
されています。これは、インドシナ半島で積乱雲が発達しやすくなって、いわゆる雨期となるためで
す。太陽の高度が上がってきたため陸地部が熱せられ上昇し、これを補給するために海から水蒸気が
補給さ
れて、積乱雲が発達しやすくなります。
上層の高気圧の中心は、春は太平洋西部にあったものが、インドシナ半島に上陸しています。イン
ドシナ半島のこの上層の高気圧の下では、下層の天気図を見ると風が収束しており、下層では低気圧
となっていることが分かります。
下層で低気圧、上層で高気圧があることは、下層から中層にかけて、温度が高いことが必要ですが、
これらの原因は、上昇気流による凝結により潜熱を放出するためだと考えられます。
この上層の高気圧が太平洋からインドシナ半島に上陸するのに伴って、日本の南海上に東西に広が
る晴天域(OLRが240以上の領域=亜熱帯高気圧帯)への上層の流れは、4月まで南からやって来て
いたのが、5月にはインドシナ半島に出来た高気圧の北側を西風としてやってきた風が主となって、
収束する様に変わってきています。この事は、猛暑年でも平年でも同じような変化をしています。
日本の遙か南海上に3,4月までに見られたいわゆるハドレー循環の典型的な循環は無くなり、亜
熱帯高気圧帯の上層の収束を起こす流れの上流は、ベンガル湾やヒマラヤ付近からやってきています。
緯度断面で描くと、ハドレー循環とは言えないような、北からの流れが収束して下降気流を引き起
こして、亜熱帯高気圧を形成しています。この循環を何循環と呼ぶべきか分かりませんが、一般の教
科書に載っているような循環は、5月には崩れています。
この変化は、ほとんど毎年5月に行われています。
Fig.6.4 太平洋高気圧を維持する上層の風は、5月に大きく変わる
6.3 アジア付近の大気大循環の6月から8月までの季節変化
6月から8月の季節変化は、日本の梅雨から盛夏への変化を示しています。Fig.6.5に6から8月
にかけてのアジア付近のOLRと200hPa天気図を示します。図の左は2010年の、右側は平年の月平
均分布図です。
Fig.6.5 6〜8月のアジア付近のOLRと200hPa天気図
(左;2010年、右平年)
日本の多くの所では、6月上旬に入梅する所が多く、6月の平均図は日本の雨期の特徴を示してい
ると言えます。7月は中旬に梅雨明けする所が多く、その後は「梅雨明け10日」と言う言葉がある
通り盛夏となります。7月の平均図は、梅雨明けまでの雨期としての特徴と、その後の盛夏としての
特徴を平均した図となっています。8月は安定した夏型の天気になることが多く、8月の平均図は盛
夏の特徴を示していると言えます。
梅雨の特徴を示す6月と盛夏の特徴を示す8月の平均図の特徴を捉えて、漫画的に描くとFig.6.6の
様に描くことができます。
Fig.6.6 6月(梅雨)と8月(盛夏)の模式図
<平年の6月>
:5月にインドシナ半島に上陸した高気圧は、6月には、チベット高原南端まで
北上します。高気圧の中心が北上することにより、チベット高原の上を流れる偏西風に気圧の峰を定
常的に作り、その風下に定常的な気圧の谷を作っています。気圧の谷の前面(谷の風下側)では、上
層発散が起こりやすくなり、日本付近に帯状に気象擾乱発生域(=梅雨前線)を作ります。これが日
本の梅雨です。
発達した対流活動で上空に運ばれた空気が、西風となって日本の上を東に進んで、南(低緯度)に
向かうため、西風の速度が落ち収束します。これが梅雨期に日本の南にある亜熱帯高気圧(太平洋高
気圧)を維持します。
梅雨前線で持ち上げられた空気が西に戻るような偉い先生の報告が有りますが、ヘルムホルツの分
解定理を信じる人たちの妄想です。
<平年の8月>
上層の高気圧の中心は、6月より更に北西に移動し、東経90度より少し西に定
常的なリッジを、東経110〜120付近に定常的なトラフを作ります。このトラフの前面の朝鮮半島付近
では、上層に発散場が定常的にでき、積雲対流が発達しやすくなります。この上昇発散場からの西風
の流れは日本付近を通過して、ヒマラヤ高気圧の東の端に至り、緯度の低い方に流れて収束を起こし
ます。これが太平洋高気圧を維持しています。
6.4 猛暑年と冷夏年
上層に出来るヒマラヤ高気圧の中心は、平年ですと7月にFig.6.7中段のRの様に移動し、それに連れて、T(気圧の谷の移動)、C(積雲対流域の移動)も移動し、日本の梅雨が明けます。
Fig.6.7 ヒマラヤ高気圧の移動と日本の梅雨から盛夏への変化
この日本の梅雨から盛夏への変化を頭に入れて、猛暑年と冷夏年の特徴を見ていきます。
Fig.6.8に猛暑の1994年と2010年の6月から8月までの月平均図を、またFig.6.9に冷夏の1980年と
1993年の月平均図を、それぞれの図に平年図を右端に付けて示しています。
Fig.6.8 猛暑年と平年の6月から8月までの月平均図の比較(1994年、2010年及び平年)
Fig.6.9 冷夏年と平年の6月から8月にかけての月平均図の比較(1980年、1993年及び平年)
OLR分布図で平年と比較して見ると、猛暑だった月は、1994年の7月、8月と2010年の8月であり、
冷夏となった月は、1980年7月、8月と1993年7月、8月であったことが分かります。参考までに、西
日本の地域平均気温は平年に比べて下の表の通りでした。
猛暑と冷夏の比較
1)200hPa天気図を見ると、ヒマラヤ高気圧の東の端は、くさび状に膨らみ、気圧の峰を東に突き
出すように存在している。西日本の南海上における平年のその位置は、6月北緯23度、7月北緯29度、
8月北緯30度とゆっくり北上する。
猛暑月は、その東に延びる高気圧の峰は、北緯35度以上になっている。
冷夏月は、7月、8月になっても北緯30度以南である。
2)猛暑月は、12450mの等高線が関東以北まで北上し、日本付近の高度は12450m以上
になっているが、冷夏年は、12450mの等高線は瀬戸内付近かそれ以南になっている。
3)猛暑年は、ヒマラヤ高気圧北側の定在波動が明瞭で、ヒマラヤ高気圧の峰の直ぐ下流側の気圧の
谷が東経110度付近にある。平年8月に見られる浅い気圧の谷が東経120度付近に見られるのに比し
て、西にずれて存在する。
これに対し、冷夏月は、定在波の波動は比較的浅く、気圧の谷の位置は東経120度付近又は東側
に出来ている。
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