ヘルムホルツ分解定理

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その4までの話し
 ヘルムホルツの分解定理は、任意の流れの場が連続的な関数で与えられ、その関数は発散のない渦のみ
の流れの関数(流線関数で現すことが出来る)と、渦のない発散だけの流れの関数(速度ポテンシャルで
現すことが出来る)に分解されると言うものです。

 しかし、渦と発散を共に含む関数は分解できないことが、数学的に証明できますし、任意の流れの関数
が分解できるとすると、矛盾があることを証明できます。(その1)。

 従って、渦と発散を共に含む流れには、速度ポテンシャルも流線関数も正しい意味では存在しません。
ところが、元の流れから渦も発散も計算することが出来、それらの分布を、独立して存在することに決め
ると、その時点で流線関数も速度ポテンシャルも計算することが出来ます。こうして得られた流線関数や
速度ポテンシャルを気象庁などは上手に計算し、毎日の気象データに含めて公表しています。(その2)

 流れの発散場の解析が、速度ポテンシャルだけで行われるため、日本の夏に猛暑をもたらせる原
因が、フィリッピン付近の積雲対流活動や、更に西部太平洋の海水温が高いことに求められています。

 ヘルムホルツの分解定理の間違いに気づき、実際の風そのものから発散分布を解析すると、日本に夏を
もたらせているのは、夏の上層に出来るヒマラヤ高気圧の北側の西風が日本の東で急に低緯度に向かうた
め減速し、収束して、下降気流を起こすことだと分かります。日本の夏を決めるのはヒマラヤ高気圧の北
側から東の端の形状によって決まることが分かります。(その3及びその4)

7.1 ヘルムホルツの分解以外の分解

 ヘルムホルツの分解定理と内容的にほぼ等しく、しかも数学的に全く問題の無い分解の方法があります。
元の「風ベクトル」を、全く発散を含まない「地衡風」と、元の風ベクトルから地衡風ベクトルをベクト
ル的に引いた残りの流れ、すなわち「非地衡風ベクトル」に分ける方法です。

 この方法は、風の場が滑らかに連続していることを必要としません。風の場が有りさえすれば、基本的
な数学上の定義に従って決められますので、連続で無くても存在することが保証されています。地衡風は
高度場が滑らかに連続的であれば、得ることが出来、これはある程度現実的であると考えられます。

 ここでは、間違っているかも知れないヘルムホルツの分解定理など用いなくても、発散解析がこの非地
衡風の解析から出来ることを示します。

 面白いことに非地衡風はヘルムホルツの分解定理から出てくる発散風によく似ていますし、地衡風は流
線関数風と大変よく似ています。

 具体例として2011年7月31日12Z(Zはグリニッジ時刻)のデータを用いますので、初めに元になる天気
図として、Fig.7.1に、その時の高度分布と格子点風(実際に吹いていると考えられる解析風と考えること
ができる)の分布を示しておきます。

イメージ 1

         Fig.7.1 等高線と格子点風(2011年7月31日12Z)
 Fig.7.1は水蒸気雲画像に200hPaの高度と風の分布を示した図です。白く見えるところは雲が発達し
ている所で、黒っぽく見えるところは「暗域」と呼ばれ、下降気流があることが分かります。

 格子点風は、基本的に等高線に沿った風になる傾向がありますが、所々で等高線を切る流れになってい
ます。

 例えば、日本の南海上の発達した雲域とその北側に黒っぽく見える領域がありますが、発達した雲域で
は、等高線を横切って高度が下がる方向に流れています。この場合は、気圧傾度力によって加速されて行
きますので風が発散します。一方、雲の北側で黒っぽく見える領域では、高度が登る方向に横切って居ま
す。ここでは、高度を上げるためにエネルギーを使うために減速し風が収束します。

 念のために言っておきますが、風は等温位面に沿って吹きますが、等温位面で見ても下ったり、登った
りしています。横やりが入りそうなのは、分かりますが、ここでは、無視して次に進めます。

<7.1.1 地衡風と流線関数風>

 「地衡風」は、摩擦が無いところで気圧傾度力とコリオリ力が釣り合って安定したときに吹く理論上の風で、等高度線に沿って、等高線間隔に逆比例した風になります。等高線と言う「管」の中を流れる流れになり、非発散風となります。そしてFig.7.1で見られる通り、現実の風は「地衡風近似」の風になっていて、
実際に吹いている風の殆どの成分は地衡風になっています。

 その2で見てきたように、ヘルムホルツの分解定理を信じている人たちが、求めている流線関数から得ら
れる風も、流線に沿って、等値線間隔に逆比例する様に吹いていること、及び元の風の大部分を受け持つこ
となど、等高線は流線関数に非常によく似た性質を持っています。(下の参考図)
イメージ 2


実際の例を見てみましょう。Fig.7.2に、等高線と地衡風を、Fig.7.3に流線関数と流線関数風を示しました。
イメージ 3

         Fig.7.2 等高線と地衡風の例(2011年7月31日12Z)
イメージ 4

         Fig.7.3 流線関数と流線関数風の例(2011年7月31日12Z)
並べてご覧下さい。よく似ていると思います。

<7.1.2 非地衡風と非地衡風運動>

「非地衡風」は、「生の風」から「地衡風」をベクトル的に引いた「残りの風」です。数学的に基本的な定
義に従って差を取るだけですので、全く問題の無い分解です。

 ヘルムホルツの分解定理との比較で言えば、発散風に近い風になっています。つまり、自然の風の中から、
非発散成分である地衡風を取り除いた残りの風ですので、元の風に発散成分があれば、この「残りの風」の
中に発散成分が沢山残っているはずです。

 「非地衡風」とヘルムホルツの分解定理から出てくる「発散風」との一番大きな差は、発散風は渦成分を
全く含んでいないのに対して、「非地衡風」は、渦成分を少しは持っているかも知れない、持っていても特
に差し支えないという点です。

 ただ、風の成分のうち、大部分は地衡風で占めているので、残りには発散成分が多く残っているだろう事
を期待することが出来ます。

 また、ヘルムホルツの分解定理から出てくる「発散風」や「流線関数風」には運動力学が希薄で存在価値
がありませんが、非地衡風には力学が有り、物理学の一分野として立派です。非地衡風の力学に関しては、
拙著「日本の猛暑はどこから来るか」を参照していただければ幸いです。これまでの気象のテキストで非地
衡風の力学を述べたものは私の知る限りありません。

 非地衡風運動についてもう少し知りたい人は、ここをクリックすれば、拙著から「非地衡風運動」の章の抜粋が見られます。

Fig.7.4に先の例の時刻の高度分布と非地衡風及び収束発散分布を示します。
イメージ 5

         Fig.7.4 高度分布と非地衡風及び収束発散分布(2011年7月31日12Z)
Fig.7.4に示される発散分布は、格子点風から求めた発散分布です。日本の南海上の雲の発達域は強い発散
域になっていますが、風の成分から全く発散を起こさない地衡風成分を除いた風が非地衡風ですから、非
地衡風の流れを見ればその発散の様子はよく分かります。

 朝鮮半島にも発達した雲域が見られますが、ここでも発散域になっており、ここでの非地衡風は、非地衡
風運動の特性が良く表れています。

 非地衡風を考えるときは、地衡風と合わせて考えてください。非地衡風が地衡風と反対向いている場合
は、非地衡風の分だけ地衡風バランスより風速が弱く、バランスを取るためのコリオリ力が小さくなって
います。気圧傾度力が実質的に働きますから、高度を下げながら(位置のエネルギーを使って)速度を増
して行きます。速度を増すにつれてコリオリ力が強まり、次第に向きを右方向に曲げ、等高線に並行にな
って行きます。
 
 等高線に並行になったところで地衡風バランスが取れて仕舞うのが地衡風理論ですが、非地衡風理論で
は、(非地衡風流れをする空気が気圧場を変えないとすると)並行になった時点では、地衡風バランスの
2倍の速度になります。すなわち非地衡風が地衡風バランスをとれた風速と同じ速度で描かれることになり
ます。実際は流れる空気自身が気圧場を変えたり、流れる先の空気粒子の”渋滞”などで、2倍になること
は少ないですが、少しでも地衡風方向の成分があると超地衡風になっていることを示します。

 ともかく非地衡風が等圧線に並行に高度の高い方を右に吹いている場合は、地衡風バランスよりも風速
が強くコリオリ力が強くなっていますので、更に右に向きを変えようとして、高度の高い方に向き、強す
ぎる風速を位置のエネルギーを得ることによって次第に落とし、風速を弱めて行きます。

 朝鮮半島の雲発達域の話しに戻しますと、中層以下の大気が対流性の雲の中で上昇して上層に放り出さ
れると、上層の偏西風よりも小さな風速になっており、気圧傾度力にバランスするにはコリオリ力が小さ
く、気圧傾度力が働いて、次第に高度の低い方に力を加えられ、等高線を横切りながら加速します。高度
を下げながら加速し、コリオリ力が次第に大きくなって、次第に等高線に並行になります。並行になった
時点では、地衡風平衡の風より強く吹いているため、コリオリ力が風向を、高度の上がる方向に向けます。

 その様子が、朝鮮半島で発散して日本の上空から南海上にかけて収束する非地衡風流れから読み取るこ
とが出来ます。

<7.1.3 発散風と非地衡風>
ヘルムホルツの分解定理で出てくるとされている発散風は、この非地衡風とよく似た分布になっています。
それは既に述べたように、完全に発散成分のみを取りだしたことになっている発散風と、殆ど発散成分を
取り出した非地衡風であるからです。

 Fig.7.5に気象庁が公開していた速度ポテンシャルとそれから計算した発散風を赤い線で、等高線と非
地衡風を黒い線で示します。
イメージ 6

      Fig.7.5 速度ポテンシャルと発散風(赤い線)、等高線と非地衡風(黒い線)
               (2011年7月31日12Z)
 赤い矢印で示す発散風は、赤い等値線で示される速度ポテンシャルに直角に、ポテンシャルの低い方か
ら高い方に流れ出しています。

 南海上の発達した雲域から発散して北側の暗域に向かう流れが暗域で収束して居る発散風は、非地衡風
とよく似た流れになっています。

 一方、朝鮮半島の発達した雲域からも発散する風が見られます。

 発散風も非地衡風も共に発散分布を示すことが出来ますが、非地衡風には力学があり学問として発展の可能性がありますが、発散風には適応する力学がありません。

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