自由な談話室

今年もよろしくお願いいたします。

書評の間

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さまざまな人からどのような本を読んでいるのかという問い合わせがありましたので、読書日記と書評を兼ね備えた書庫にて良書を紹介して以降と思います。
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 私がこういうタイトルの本を購入するときは、たいてい授業のネタを探すためですが、しばしば
自分が熱中してしまったり、ネタとして使うのが難しすぎたりして、あまり目的を達成できないの
です。この本も、私の目的を満たすものではありませんが、読み物としては十分な魅力を備えて
いると思います。

 本書は、数学において重要な概念を一つ一つ順序だてて解説するというよりは、無限や多次元と
いった、現実として考えると存在し得ないようなものを、数学者はどのようにとらえているのか
ということを丁寧に示すものです。

 たとえば、1/3という数は、ずっと0.333333.....と続いていくわけですが、これに3をかけても
絶対に1とはならないはずです。しかし、1になると考えるのはなぜなのかを正直に教えてくれます。
 つまるところ、「便利だから」というものです。厳密に言えば、絶対に1にならないという結論が
出てきますが、もしこのまま厳密に無限に3が続くと考えてしまうと、この0.3333333......という数
に数をかけたり割ったりしたときの扱いが恐ろしく複雑になります。無限を含ませることにより、無
限を含まない複雑な命題をうまくてなづけるということなのです。ですから、数学者も有限の世界で
このことが成立するとは考えていないわけです。あくまでも、取り決めなのです。
 微分の概念もこれとほぼ同じといえるでしょう。よく無限に小さい時間においての変化量などとい
う、わかりにくい定義がミクロ経済学の効用関数の所に出てくることがありますね。売れ筋商品の
どちらか一方が減少したときに、同じ満足度を満たすためにもう一方の商品がどれだけ必要となるか
という問題が生じた場合に、無限に小さい量だけ商品が減少したと考えると、それを補う量がわかれ
ば、あとはそれを全店舗に拡大することも可能なわけです。

 小学生にはあまり難しい話はできませんので、本書の内容をそのまま授業に使うことはできないで
すね。先生は最低限本書程度のことを理解していればいいと思います。そうすることによって、
授業の幅も広がるでしょう。 

 本棚をひっくり返していたら、懐かしい本が出てきました。本書を手に取ってから、もう20年
近く経ちます。私は趣味で多少ピアノを弾くのですが、長時間練習すると、体が疲れてしまって思
うようになかなか演奏できなくなってしまいます。
 そこで、我流を捨てて、いちからやり直そうと思って読んだのがこの本です。とはいっても、練
習方法があまり詳しく書かれているわけではないので、自分で編み出さなくてはならないところが
多かったのですが。

 本書は、コルトーのお弟子さんである、タリアフェロ女史のピアノメソッドを紹介したものです。
私はタリアフェロというピアニストを聞いたことがありませんでしたし、実際にCD等でお目にか
かる機会もありませんでしたが、90を過ぎても演奏会を行っていたというのですから、ご長寿の秘訣
も、彼女のピアノメソッドにありそうだと思いまして、その点からも興味深く読みました。

 タリアフェロ女史は、生前自分のピアノメソッドが乱用されることを恐れて書物に残すということ
はしませんでした。しかし、その内容はいたって簡単なものです。正しい姿勢と脱力やストレッチの
方法、これらに尽きます。
 演奏するときには、なるべく重力をうまく使う、たとえば腕の重さを使う、いすの高さはやや低め
で、背筋をきちんと伸ばすようにする。足の置き方は右足を前にして、左足をやや後ろに引く。そう
すると、右や左に大きく振られる曲であっても、バランスを崩さなくてすむ。
 仕上げにはバッハの平均律クラビーア曲集ということが述べられている点は興味深いものがありま
す。普通は教本かなにかだと思っていたのですが、創造力を養うには平均律がいいというわけです。
 確かに平均律では、スラーやクレッシェンドなどの指示がなく、自分で考えるようなつくりになっ
ていまして、指示だらけのモーツァルトとは趣が異なります。ショパンも推薦するほどのものですか
ら、ピアニストにとっては必要不可欠なのでしょうね。
 
 ピアノに関する本はたくさんありますし、本書は時代遅れの感を否めません。ピアノをやる心構え
の書として有用でありますが、本格的に練習したいというなら、ビデオ付きの本でも購入されては
いかがでしょうか。

 3ヶ月ぶりぐらいの投稿になります。今年の4月に転勤となりまして、自宅からの勤務となりました。
これからは家族に隠れてやらなくてはならなくなります。仕事のみならずプライベートでもいろいろとやることが多くてなかなか手につかなかった分をなんとか取り戻せればと思います。

 今回の書評は、センの人間の安全保障という新書です。経済学の分野では有名な方でして、アジア
で初のノーベル経済学賞受賞者です。数学的な部分においても目覚しい業績を残されていますが、
わかりやすい文章でも知られている稀有な経済学者です。彼の経済学は資本主義と社会主義といった
カテゴリーには属さずに、むしろ倫理学と経済学を融和させるような立場にあります。
 学生時代には、倫理学や経済学を学んでいた関係で、双方の境界線上の研究を探していたのです
が、先例となるべき人があまり多くなくて苦労したものですが、私のような関心をもつ人間にとって
はとてもありがたい本でした。

 本書のないように触れておきましょう。全体を通して自由と平等がある国では、飢餓などの被害が
少なく、豊かであり、このような政治を実現するために強力な武器になりうるのが、人間の安全保障
という概念であるということを主張していきます。
 人間の安全保障とは、最低限の生活を営めない状態へと陥ることのあらゆる危険を回避するという
概念であり、国の安全保障とは若干違ったニュアンスのあるものです。人権はもとめていくという
側面が強いのですが、人間の安全保障はむしろマイナス面に着目した保険的な思想です。この概念の
達成可能性をさまざまな形で論じていきます。その中でもグローバル化や民主化を論じた部分に一番
著者の持ち味が出ていると思います。
 文明の衝突論というのは一時もてはやされ、先のイラク戦争でも野蛮な独裁制を民主化するという
西洋中心主義的な主張がなされました。民主化に悲観的ないし、反対するグループからは、歴史と伝統
等に照らし合わせて民主化は不可能、あるいは必要ないなどの主張がなされました。
 しかし著者はグローバル化や民主化は必ずしも西洋由来のものではなく、世界史の中で各地域にその
萌芽が存在していたことを論じ、受容可能性はあるということを強調します。
 数学で使われている概念や用語にはインド、イスラムの影響が色濃く出ていますし、民主主義や平等
の概念は古くはギリシャまでさかのぼることができ、チンギスハンや元朝などは、文化の多様性を認め
ておりましたし、多くの為政者は自由な議論ができることを重視していました。一般にこういったこと
は触れられませんし、ここ2世紀足らずの西洋の圧倒的なプレゼンスの前でかき消されてしまった感が
ありますが、アジアの奥深さを再認識させてくれます。
 平易な文章に見えますが、実の所かなり歯ごたえのある内容となっています。慣れていない人が
読むと食傷気味になるかもしれませんね。

 今回ご紹介するアリストテレス入門は、私が過去に読んだ哲学関係入門書の中でもかなりの良書
です。ベスト5に入るくらいかもしれません。

 なんといっても無駄がなく、非常に読みやすい。しかも、かなりの理解のレベルにまでもっていく
ことができるのです。読みやすいからといって理解しやすいわけではないのですが、何度も読みかえ
してじっくり味わうことで理解は深まります。
 
 特に4原因説と現実についての考え方の部分が秀逸です。一般的には4原因説はよく実存主義とか
らめて解説されます。道具は使われるために(目的)材料から(質料)職人によって作られる(始動
・形相)と説明し、道具は目的が実存に先立つといいます。そして、人間は目的は生まれてから生じ
るので実存が目的に先立つということと比較します。道具は目的を定められているが、人間は目的が
ひとつに定められていないため、いろいろなあり方ができるというわけです。確かサルトルだったと
記憶していますが、定かでありません。
 でも、この理解が皮相なものであるということが本書を読むとよくわかります。形相と現実について
の考え方の関連性を見ると、そこから彼の主張の大部分が理解できます。よく生きるということは、
人格者であると同時に正義を実践することであるのですが、人格者であることは第一段階の形相で
あって、それで終了ではないという部分の導き方がその一例です。
 現実へといたる2段階のあり方を基礎として形相を位置づけることで、複合的な視点が出てくると
いう、一種の手品のような論理展開にはっとさせられます。こんなに射程の広いものだったのだと
思うと、2000年以上前の人間だったのだろうかといまさらながらに驚かされます。

 哲学の入門書一般に言えることですが、冗長だったり、簡単すぎて高いレベルの理解にまで達する
ことができなかったり、というものが非常に多い。あとがきで所詮入門書であるなどとえらそうなこ
とを書く前に、本書のような優れた入門書を見習ったほうがいい筆者がどれほどいることか。哲学が
単なる文芸評論と同じレベルになってしまっているのは、結局のところこういう入門書すら書けない
哲学研究者が多いからなのだと思います。つまり、哲学を学ぶ重要性というのをうまく説くことがで
きない人が多いということです。
 もちろん、哲学は非常に難しいですし、わかりやすければいいというものではありません。でも、
本書のような入門書が多く出てくることで、哲学はまだまだその使命を終えていないということが
よくわかるようになるのではないでしょうか。

 本書はロシアや労働運動の記事をたくさん掲載しているTokcaさんのページで紹介されて
おりましたので、手にしてみることにしました。

 まず、予備知識を少々。ワーキングプアとは、年収200万円未満の低賃金労働者のことで、
家族3人暮しだと、東京都で生活保護が受けられる限度額なのだそうです。現在日本には、約
550万人のワーキングプアがいるとされ、労働人口の4人に一人がこのような状態になって
いるそうです。漠然と格差社会といっていますが、もうこんなところまできているわけです。
でも、私たちはそういう現状はきちんと認識し切れていないのではないでしょうか。そういう
人々のための羅針盤とでも言うべき役割を果たすのが本書です。

 手法としては公表されている各種資料(厚生労働省の白書など)を用いて、人口に占める比率
や年齢別の構成を纏め上げ、実感の部分はインタビューでカバーするというものでして、
フリーコノミクスの手法に近いといえるでしょう。文章は読みやすく、週刊誌の記事のような感じ
ですが、言っている内容はとても含蓄のあるものです。

 私は統計資料にはある程度通じているので、資料についてはそれほど新しい発見はありませんが、
インタビューのほうは興味深く読みました。10人程度のかたがたが紹介されていますが、その多
くが文系の人だったことに驚きました。話しぶりなどを見ている限りは、決して悪い大学の出身者
ではなさそうなのですが、どこか生きる力というのでしょうか、そういったものが伝わってこない
気がしました。文系の学問をやることによってそうなったというわけではないのでしょうが、就職
の機会には恵まれていない印象があります。
 世渡りに失敗したという挫折のために、どこか諦観といいますか、やる気を失ってしまって就職
にも悪影響が出ているというところなのだと思います。私は子供たちには理系のほうを薦める様に
しております。文系の学問は生活で用いる言語をベースにしている部分があって習得は割合楽です
が、理系は生活で用いることがあまりない概念を学ばなくてはならないわけでして、習得が非常に
難しいのです。年を取ってからは絶対にできないものです。教育心理学で有名なピアジェや経済学
のアーヴィング・フィッシャーなんかは、もともと物理学を学んでいた人々です。物理で挫折しても
文系の方で大きな成功を収められるという実例です。でも、文系から理系へ転向した人の話は寡聞
にして聞いたことがありません。
 その点理系の人は就職の機会に恵まれていると思います。たとえば、紹介されている人の中には
システムエンジニアの人も含まれていましたが、高齢でなければそれなりに就職ができている人で
ありました。文系の人は就職の機会すらほとんどなく単純労働に従事せざるを得ないわけですが、
手に職を持っている理系はその点再起を図れる可能性が残されているようでした。

 少しばかり筋道がそれました。もっとも大切な部分は統計が語る真実とうそないし乖離、実際に
苦しんでいる人々の現状について述べられているところです。ジニ係数がなぜ現実の感覚とずれる
のか、政府の格差がないという言葉がいかに欺瞞に満ちているか、経済学で用いられる難解な言葉
が現実の問題に対して用いられるとどのような姿になって現れるのか(摩擦的失業、効率性と公平性
のトレードオフの関係など)、ワーキングプアにいつでも陥る可能性など、皆さんが知りたいこと
が満載されていると思います。年末年始の一冊にどうでしょうか?

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