文庫の奥付は1990年7月となっているが,単行本は1980年2月に文藝春秋社から出ている.
つまり文庫版には,あとがきが90年6月に追加されているのだ.
1960年代のドイツは東西ふたつに分割されていたが,西ドイツはようやく第2次大戦後の破壊から立ち上がり復興による高度成長期に入っていた.フォルクスワーゲン社は,すでに後継となるノッチバックのVW1500(タイプ3)を登場させていた時期である.空冷エンジン(タイプ1)のワーゲン・ビートル(かぶと虫)を製造するVWのボルフスブルグ本社工場には,イタリアからの期間作業者であふれていた.破壊から活況に到った工場街.しかしそこは過去の傷みと未来への想いの交鎖する街でもあった.少年兵を戦場で失った自責に悩む元兵士,少数のアジア系労働者との共感と別れ,かつてのロシア兵の暴行をいまだに癒せない男と女…心の雪どけを待つドイツを描く4つの連作集[フォルクスワーゲン18番工場,「グッド・ラック工場長」,「18番工場の冬」,「ベルリンの女」]である.単身でVW工場で働いた日本人の著者が工場現場で体験してきた事実をもとにしたフィクションとなっている.
著者の谷克二(たに・かつじ)さんは,宮崎県延岡市出身の作家で1941年に生まれ,早稲田大学を卒業し西ドイツに渡り,フォルクスワーゲン社に勤務した.その後,ヨーロッパ大陸を歩きまわり,1968年にロンドン大学で歴史経済を学ぶ,1969年に帰国している.その後は創作活動をはじめ,1974年に第一作「追うもの」(ニュージーランドの鹿猪を描いた)で野性時代新人賞を受賞した.
「狙撃者」(1978)で角川小説賞受賞,直木賞候補になった.欧州,米国に取材して,国際的な小説(1997)を発表している.「双頭の鷲のごとく」,「老猿」,「スペインの短い夏」,「マイスターの国」「国際金市場を封鎖せよ」,「暗号名はトロイの木馬」,「アラスカ羆の谷」などがある.
|