原著は1966年に出版され,まず訳書がポケット・ブックで出て9年後に文庫になったようだ.
大型ハリケーンがカリブ海のさびれた小島トレス・サントスに迫っている.冒頭でこの島のおんぼろ航空会社の経営者とパイロットがコニーのトラブルについて話し合い放棄することになる.まず読者に問題を予想させる展開になる.捜索任務中に民間航空巡察隊(CAP)の単発複座の小型機(インターステイト社製L-6連絡機:フランクリン社製102馬力O-200-5エンジンを装備)が不時着する.この小型機のパイロットであるディックとエドは,島民の依頼と神父の助言で,瀕死の火傷を負った少女,急病人を含めた全島民(乗客78人)を米本土に避難させるために,島の飛行場に留置されていた4発のピストン・エンジン(R3350×4基:空冷複列星型18気筒2200馬力)旅客機ロッキード・スーパーコンステレーションに乗り込む.操縦資格も,経験もないエンジンを4基装備した旅客機を,マニュアルを読みながらなんとか2人で離陸させることができた.しかし,彼らはまだ知らない,その飛行機は昇降舵の油圧制御装置が故障しているため,この島に放棄されたことを…….ようやく水平飛行に移り,飛行日記を読むとさらなる問題がわかり....平凡な人々が,偶然迫られる重大な決断により,思いも寄らぬ結果に結びつき,さらに新しい問題に立ち向かって行くパニック冒険小説である.
フライト・シュミレータのゲームでは,気楽にジャンボ・ジェットの操縦桿を握って離着陸のむずかしさを楽しんでいるが,単発機の100馬力と4発機の8800馬力(ジェット・エンジンの推力はさらに高出力だから)という制御しなければならない大型機のパワー・コントロール,尾輪式と前輪式など操作感の違い大きいのだろう.しかしだからシュミレータ・ソフトの人気が衰えない所以でもあろう.
地味な飛行士ディック,陽気なエドの協力,島の神父フェララ,Tバードで寄り添って飛びながら着陸指示を与える,コニーのベテラン機長だったアッシェンブレナー少佐,なによりも恐竜のように消滅した4発のピストン・エンジン旅客機の中でも,優雅さを誇るロッキード・スーパーコンステレーション (コニー)が主役ともいえよう.もちろんロッキードC130もコニーを米軍基地に誘導するために登場する.
著者ジョン・ボール(1911〜1988)は,元米国陸軍の航空機操縦教官出身で,この他にも航空モノ(冒険小説ではないが)として「最後の飛行」という作品もある.シドニー・ポワチエが主演した「夜の大捜査線」の原作「夜の熱気の中で」(ハヤカワポケットミステリ,1967年)が有名だが,これは黒人刑事ヴァージル・ティッブスのシリーズ第1作目である.努力と思いやり,そして鋭い観察眼と推理力をそなえた刑事ティッブスが,通りがかった南部の田舎町で殺人事件の捜査に関わり,人種差別の激しい町に乗り込んでいくストーリで話が始まる.
あとがきでも触れられているが,ボールの作品では少数派(人種だけでなく)が重要な役割(正義の執行者)で登場する.「航空救難隊」では,主役のひとり中国系米国人の操縦士エド・チャンと混血のブラックマン・シムズ(コニーの航空機関士).執筆時期が60年代のため,当時の政治的な雰囲気を反映しているが,原作者の考え方を反映していると思われる.ボールの作品の登場人物は,ほとんどが善人ばかりで構成されている(客観的に正しい決断をしている).多くは対抗して登場する敵役も客観的には正しい判断を下している(不正なことはしていない).古き良き米国人の正義と良識を描いた小説といえよう.それが作品の読後感のすがすがしさに結びついている.