知財屋さんの交渉日記

知財戦争といわれる昨今、交渉三昧の日々の一端をご紹介。

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下記、松浦さんの交渉力テストの結果、最悪でした。
うーん。ちょっと自信なくします…。

ハーバード発の交渉学が日本でも注目され始めているようです。経済学(ゲーム理論)、社会心理学、政策科学、法学などから派生し、体系化されつつある学問です。一般的にNegotiation Theory、単にNegotiationと呼ぶこともあります。下記のように表現される囚人のジレンマなんかが有名なんじゃないでしょうか。

何かの重大事件で二人組の犯人が捕まった。それぞれ別室で取り調べを受けている。この時、Aは迷う。自白すれば、かなり長い刑期が待っていそう。なんとかごまかしてシラを切り通すことはできないだろうか。しかし自分が犯行を否認している間にBの奴が自白し、自分も共犯であると言ったら自分の心証が悪くなる。それよりは先に自白して、反省の念を示し、情状酌量される道を模索したほうが良いのではないか。しかし向こうも頑張っているのに自分が罪を認めてしまうと、もしかしたら証拠不十分で釈放される道を自らつぶしてしまうかも知れない。

当然Bの方も同じように悩み、この精神的圧迫から結局両者とも崩れていき自白に至ってしまいます。このように自分と相手の行動の組合せで良いことと悪いことが極端に転換するケースを「囚人のジレンマ」というようです。 

僕はこのような交渉学ついて学んだことはありません。しかし、とある交渉の仕事をしていたときに、M&Aを専門にやっている米国弁護士が、法学の勉強や契約書作成などの実務的な授業とともにロースクールで習ったと言っていたのが印象的でwebでいろいろ検索するのが好きになりました。

知財の交渉では多くの場合、特許権をその取引対象とするので、通常は最初に特許議論を行うのが一般的なスタイルではないでしょうか。すなわち、典型的な知財交渉では、侵害/非侵害、特許の有効/無効が議論され特許力が評価されると同時に、企業間であれば事業規模の相対的な評価がなされお互いのポジションがだいたい決まります。その結果を背景に具体的な条件交渉に突入するのですが、この条件交渉の際に上述の交渉学のような世界に入っていくように思われます。

しかし、典型的なパレート最適や期待値などの交渉学の理論は必ずしも実際の交渉に当てはまらない場合も多く、交渉学よりも交渉術と表現される個人の資質にも大きく依存するように実感としては感じます。これは製品の製造をやめさせて事業を止めるという差止請求権が特許権者に認められていることに由来します。このため、製品単価の高い、または売り上げの大きい事業をしている非特許権者に対して銃をこめかみに突きつけ交渉するという構図もありえます。

とはいえ、私も初めて参加した交渉で、いわゆる交渉学にいうネゴシエーションダンスらしき経験を体験しました。初めて交渉らしい交渉をしたのは事業売却でした。知財も取引の対象だったからです。このときはこちらが売り手で先方が買い手。しかし、特許権者は事業の売り手であるこちら、実施権者は書いてである先方と言う関係でした。つまり、トカゲの尻尾きりで事業は売るが特許はライセンスだという交渉を展開したのです。通常のライセンス交渉では特許権者は強いはずなのですが、今回は実施権者の方が事業を買っていただくお客様と言うこともあり、きわめて弱い特許権者でした。

特許議論は全くなしで、相手方の設定したタイムスケジュールに追い込まれ(いついつまでに契約できなければ交渉決裂だという脅しをかけてきました)連日条件交渉でした。しかも電話会議の30分前に契約書のドラフトがメールで突きつけてくるというイヤラシイ戦術を取っている相手でしたのでもう大変です。

ところが高速で相手の罠がいっぱいしかけられた契約書案を見ることに慣れ、逆に電話会議中に先方のPCにカウンタードラフトをメールしたりして逆に相手がたじろかせました。そのようなやりとりの間にくるくる合意できる条項からかたづけていき、交渉するたびに契約書の文言が双方の意見を調和させた洗練されたものになっていくという、まさにネゴシエーションダンスでした。

交渉を学問にするあたりがハーバード流なのでしょうが、差止の真剣が空を切る知財交渉においてネゴシエーションダンスを今後もたくさん踊りたいものです。

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キルビー特許

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 米国特許商標庁(USTPO)での面接審査を終えた米国出張最終日、もう仕事もないのでワシントンD.C.のスミソニアン博物館に行こうということになった。
 
 航空博物館では、ライト兄弟に始まり第二次世界大戦中のグラマー戦闘機にゼロ戦、果てはアポロ宇宙飛行船まで数多くの展示物があり、男なら誰でも一回りで興奮状態にさせてくれる。
 中でも、知財部員の僕の心をわしづかみにしたのは、世界最初の半導体チップと、キルビー特許の明細書である。

 キルビー特許。 
 わが国ではキルビー最高裁判決としての方が有名なのではないだろうか。あの権利濫用法理により裁判所でも無効理由の判断ができることを示した有名な判例である。TI社の当時新入社員だったジャック・キルビーの発明した米国特許を原出願として、1960年に日本出願された特許の分割出願は、日本版サブマリン特許として1989年という実に30年近い年月を経て特許査定となり日本企業を震撼させた。TIはこの分割出願で日本企業を攻めたのである。のきなみ和解する大部分の日本企業を尻目に、富士通だけが訴訟という道を選んだ。そして、上記判決を得たのである。
 
 キルビー氏が考え出したモノシリックICは、後にIntelを設立する、当時Faichildに在籍していたロバート・ノイス博士が半年後に出願したプレーナ特許とともに現在の半導体装置、ICの原型を作ったと言われている。かつてTIとFairchildのどちらが真の発明者に当たるかで訴訟合戦になったのであるが、結局のところ米国司法はノイス博士のプレーナ法に軍配を上げた。しかしながら、スミソニアン博物館に提示されていたのはキルビー氏の特許だった。キルビーは1983年に正式にTIを退職し、その後もTIの顧問としてコンサルティングを行った後、ICを発明した功績により、2000年にノーベル物理学賞を受賞し、2005年6月米国ダラスにて癌のため死去した。81歳だった。

 このキルビー判決を条文化したのが平成17年改正で新設された特許法104条の3である。この改正と同時に35条も改正された。その契機はこの時期に複数起きた職務発明をめぐる判決であろう。中でも有名なのは中村修二氏と日亜化学の発明の対価をめぐる争いである。問題になった特許発明は、中村氏によると青色発光ダイオードの基本発明とされるLEDの製造プロセスの特許である。果たして、中村特許はキルビー特許と比較してわが国産業界にどのような影響度をもたらしたのであろう。

 法改正に至るまでのインパクトと言う意味では両者とも同じである。発明の価値としては、ICの基本特許と青色発光ダイオードの基本特許でそのパイオニア度では互角としよう。では、どちらがライセンス料を得ているのか。

 TI社がすごいのはこのような基本特許をガンガン権利行使したところだろう。もちろん中村氏の在籍していた日亜化学も当然LED分野で数々の戦歴があるはずだが、果たして中村特許を積極的に権利行使したのであろうか。この点、包括クロスなどを考えると本当のところは不明だが、中村修二氏との和解に要した報奨金相当額を事業利益ではなくライセンス収入でペイできたのであろうか。

 一般にプロセス特許は権利行使が難しいと言われる。いかに基本特許だったとしても、あるいはいかに生産方法の推定規定や文書提出命令、具体的態様の明示義務などの裁判手続き上のサポートを得たとしても、構造特許に比べるとやはり侵害成立の確信を立証するのは大変な作業であろう。

 無論そのような点ばかりが判断の材料ではないが、スミソニアンに展示されるキルビー特許のように、中村特許もどこかの博物館に展示される日は来るのであろうか。

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ブルーシート弁護士

 地下鉄の霞ヶ関の駅から地上に上がると、複数のテレビカメラが来ているのが見えた。何か大きな刑事事件の判決でも出る日かと思った。あたりには政治団体のメガホンから裁判官を批判する演説がこだましていた。

 今日は、期日だったのだ。期日と言うと知財の侵害訴訟では、裁判官が原告・被告を集めて今後の裁判のスケジュールを決める。いついつに次の期日を行うのでそれまでに準備書面を提出してくださいねとか、実験等の証拠の追加はありますかとか、大体決めてしまう。これも裁判官によるのだと思うが、8月は盆休みがあるので実験結果はまとめられません、とか言うとある程度考慮してくれる。

 裁判官というのは、法曹の中でももちろんトップである。弁護士や検事も敬意を払う存在である。裁判官が民事○部の部屋(期日では法廷には集まらない)に入ってくるまではクライアントとぺちゃくちゃしゃべっていた弁護士連中も、裁判官が入ってきたとたん口をつぐんで、まるで教室に先生が入ってきておとなしくなる悪ガキのようである。
 
 本件訴訟における裁判官は、正に校長先生のような存在で、
「はーいはいはい。原告、被告が同時にしゃべるのだけはやめてくださいね。」
とおだやかにいいながら、論客として喋り好きな弁護士たちをなだめる。
 相手方の代理人は頭がボサボサで常にイカりながらしゃべるおっさんである。その風貌たるやホームレス風で、司法試験に受かっていなければ人生波乱万丈だったことだろう。

 一方、うちの代理人はボサボサ頭とは対照的に七三めがねのボンボン丸出しで、座るとウチマタになる。勉強はできたのであろうがプライドが高く、自分の間違いを受け入れられない人間で時々企業の担当者としては扱いに困る。

 一般的に言って、知財の分野の弁護士と言うのはピンキリである。なぜなら、特許法等の知財法を勉強をしていなくても弁護士であれば弁理士登録も可能であり、訴額の大きさに目が眩んで、明細書作成や特許庁とのやり取りなどの特許実務をせずに、大きな収入が見込める侵害訴訟や審決取消訴訟なんかをやる身の程知らずがいるからだ。
 ほんとに技術や特許のことをわかっているのか?と思うこともある。だから最低で弁理士試験を免除なしで合格した弁理士と抱き合わせで仕事させることが無難である。

 しかし、何の因果かうちの代理人は弁護士が試験なしに弁理士登録したというパターンで、名刺の「弁護士・弁理士」の肩書きにだまされた。相手の方は弁護士は弁護士でも元特許庁OBである。風貌はブルーシート風でも特許庁にいっぱい後輩がいる。

 果たしてどうなるか。
 
 新幹線で家に戻ってくるとカネボウの社長が逮捕されたとのニュースがテレビで流れていた。今日テレビ取材が来てたのは検察庁でこれを取材していたのである。司法とは、公権力である。

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アイスコーヒー交渉

 先日は朝から交渉だった。先方が東京からみえるということで暑いだろうからアイスコーヒーをテイクアウトを注文し持ってきてもらうように新入社員の男の子にお願いした。

 待ち合わせ時間きっかりに特別会議室に入るとすでに先方が来られていたため名刺交換を済ませ、世間話の後、本題の案件について話し始めた。

 とはいえ、対面に座し相手がこちらの目を見て真意を探ろうとするのを、敢えて斜め前の下方向を見つめ、意味ありげにポツリポツリと朴訥にとしゃべるようにした。つまり相手とは目が合わないようにしながら相手がじれていろんなことをしゃべるように誘ってみたわけである。

 先方は、知財、営業、技術の3人組。
 案の定、誘いに乗って営業がここぞとばかりペラペラしゃべるしゃべる。これにより、いろんな情報を得ることができた。このような形で交渉は終始こちらのペース(相手は気づいていないが)であり少し満足していた。

 ひととおり話終わり、先方に宿題を出して返答期限までこちらが設定することができたので、快くお見送りをさせていただいた。
 
 ニュースでは東京方面は台風が迫っているとのことだった。

 最後のご挨拶をして3人組みの背中を見送りひとまずほっとしていると、こちらの一人が私に対して
「コーヒー70杯はどうなったんでしょうね」と言った。

「何の話でしょう?」
「7杯と注文したところ70杯と聞き間違ったらしく…」
「は?」

 私は当初理解できなかった。しばらく考えてやっと、新入社員の男の子がやらかしたことに気がつき、

「で、お金はどうした?」
「7杯分しか払ってません。じゃあ向こうは、持って帰っても仕方ないから
あとの63杯は無料で置いて帰ります、といいました」
「ナヌ?」

 彼は私よりも交渉上手だった。

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中国案件

 今日は、朝から社印をもらうために本社に出張だった。
 中国では、正式な契約書には社印を押すことが法的に有効となる要件だと先方から申し入れがあったため、急遽、社内決裁をとって社印を押してもらいに行くことになったのだ。
 
 とはいえ、契約書は英語で作成したものだ。中国企業を信用しないわけではないが、日本人には簡単に内容を把握することができない中国語による契約書よりも、英語でドラフトをやり取りしたほうが明瞭だし、なんだか漢字だと意味が多義なので後でいろんな解釈をされそうで困る。
 
 だから、英語のサインページに朱色の印鑑。アンバランスかと思いきや、意外にも白い用紙の英文に朱色の大きくて四角く印影が、格調高く見えた。古来、日本の王は中国の皇帝から金印をもらったという。本社からの帰り道、昔歴史の時間に習ったことを思い出し、西欧人のサインなんか原始的だなと思った。しかし、おれも将来、契約書のサインページにサインする日が来るので、かっこいいサインを今から練習しておかなければならないな、などと考え嬉しくなった。夏の暑い中ニヤニヤしながら、駅まで歩いていた。
 
 話を元に戻すと、もともとは、こちらから知財部の所長名で英語のサインをし、先方に送ったのだが、ハンコじゃなきゃだめだと言ってきたのだった。ついでに、こっちは社長がハンコを押すのだから、そっちも所長名じゃなしに、きちんと社長名で社印を押してくれと言ってきた。うちの会社は、特にどっちでもいいのだが、社長名で押印となると決裁が要る。それがめんどくさくて、正直ヤだなと思った。
 しかし、本社ではあまりにもあっけなくハンコを押すのでそのときはちょっと慎重に契約書の中身を見てから押してくれよな、とハンコを管理しているお姉さんに対し、車のローンのときみたいな気持ちになった。

 なんにせよ、わが社の中国企業との知財係争案件は、グローバル、グローバルと言われる現在でも、まだまだだ。

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