|
よくきたわね、キリシマ
あのときと変わらぬ笑顔でおかあさんはキリシマのかおを見てほほえんでいました
(おかあさん!)
ボクはあの日、とさつじょうで目の前がまっくらになって気が付いたらそらを飛んでいました
くもの下にはにいさんたちや、なつかしい人がたくさんてをふっていて
みんなの姿がみえなくなると、こんどはたくさんの子供たちがあらわれたのです
その子供たちはとてもたくさんいて
みんな
みんな
おいしそうになにかを食べていました
とてもしあわせそうな顔をして
ボクはそれを見たときになにかうれしい気持ちになった
するとその子供たちのすがたが消えて、おかあさんが現れたんです
いっしょうけんめいに話すキリシマをおかあさんはかわらぬやさしい顔でうなずいて
(えらかったわね、キリシマ)
さらに言ったのです
その子供たちがおいしそうに食べていたのはキリシマ、あなたの肉よ
えっ、僕の
そう、きっとあなたが見たのはキュウショクの風景ね、そしてその子たちはあなたの肉をよろこんでくれていたんだわ
そう言っておかあさんはキリシマに近づいてきてやさしく、やさしくアタマをなでました
えらかったわね、キリシマ
なつかしいおかあさんのぬくもりをほほに感じたキリシマは大粒のなみだをひとつぶこぼしました
なぜ涙がこぼれたのかじぶんではよくわからなかったけれど、おかあさんにはすべてが理解できました
いいのよ
もうなかなくて
いいの
さあ、涙をふいておかあさんといきましょう
どこへ行くのかとキリシマ問うと
そろそろあなたのお兄さんのサツマやシマズもこちらへやってくるころだからみんなで仲良く暮らしましょう
ずっと一緒にいられるの?
するとおかあさんはゆっくり首をふって
いいえ
つぎに生まれかわる日まで、と言ってキリシマの手をつよくにぎります
わたしたちはね、こうやって何回でも生まれかわるの
でないとあの子供たちの笑顔もみれないでしょ
そのあとふたりは無言でやわらかな金色の道をゆっくり歩きました
どのくらいじかんが過ぎたでしょう
ずっと笑顔のままでなにも言わなかったおかあさんがぽつりとつぶやきました
ねえ、キリシマ
こんど生まれかわるとしたら何になりたいの?
その問いにキリシマは答えませんでした
だって
もう、ことばにしなくてもそれはわかりきっていることだったから
(終)
|
童話「黒豚物語」
[ リスト | 詳細 ]
|
いっしゅんでなにもかも見えなくなったはずなのに
きがつくとキリシマのきもちはゆらゆらとどこかをただよっていました
海のなかのような、雲のあいだのような
あたたかくて心地のいい空間をゆっくりとゆっくりとキリシマはどこかへすすんでいくような感覚をおぼえました
(あ、にいさんたちだ)
おおきく手をふる兄豚のサツマとシマズのすがたが目の前をよこぎったかとおもうときえました
(腿太郎センセイだ)
こんどはふかくうなずいている腿太郎センセイです
シャチョーさん
なかまたち
知事さん
つぎつぎとうかんでは消えるみんなのすがたがありました
そして
キリシマの前に見たこともないおおぜいの子供たちがあらわれたのです
子供たちはみなたのしそうに食事をしています
おおきなわらいごえもきこえてきます
キリシマはその光景のなかにみつけました
トンカツです
子供たちは給食をたべているのです
みんなおいしそうなかおをして
トンカツをほおばっています
キリシマはその光景をみとどけました
ゆっくりと目を閉じてなにか言おうとおもったそのときです
やわらかな真っ白なひかりが目の前にひろがって
ひかりのなかになつかしいひとがわらっていました
キリシマはおもわず声をあげました
おかあさん!と
|
|
とうとうキリシマはとさつじょうにやってきました
たてものの中はものものしい雰囲気につつまれています
じゅんばんに次々とベルトコンベアーにのせられていく仲間たちはみんなおびえていました
なみだを流しているものもいます
おそろしいよ
おそろしいよ
おおきな泣き声がなりひびくなか、キリシマがベルトコンベアーにのせられる番になりました
ふしぎなことに、キリシマのココロはおだやかでした
(みんなによろこんでたべてもらう)
その強いきもちがあるだけで他にはなにもありません
そして
いっしゅん機械の音がおおきくなりひびいたかと思ったしゅんかん
キリシマの目の前にめもくらむような赤いひかりがはてしもなくひろがって
そしてなにもみえなくなりました
|
|
キュウショクに自分の肉をつかってもらう |
|
(キリシマくん!キリシマくんはいるかい?) |





