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(< 1 ) 傍目から見れば、危ないと感じるかも知れないが、レースの様な走り方は一般道路ではやらないし(出来ないと云った方が正しい)、完全装備をしている限りは、余程の事、例えば、車と正面衝突するとか、谷底に落っこちる、等しない限り、大きな怪我をする確率は極めて低いもので、現に、私は中学生時代から、中断している期間はあったが60歳過ぎまで10台のバイクを所有したが、その間に転倒した事も何度かあるが、怪我は一度もしなかった。一般には、子供がバイクにのるのを禁ずる家庭が多いが、私の場合は、むしろ勧めたくらいで、娘も大学への通学にヤマハのアメリカンタイプのビラーゴ(400cc)使っていたし、息子はイタリア製バイクに乗って楽しんでいた。
これまでに乗ったバイクで、最も印象に残るのは、スズキGS650GとBMW1100RSだ。共にシャフトドライブのロングツーリング用バイクだが、これで山野を駆ける楽しさはバイク乗りの醍醐味を味わわせてくれた。早朝、静かな住宅街をバイクを手押しで大通りまで出し、そこからエンジンをかけて走り出し、2時間半程で乗鞍岳の頂上までひとっ走りする等は文字通り朝飯前だった。10年程前までは、上高地も夏以外のシーズンオフ期は河童橋まで一気に乗り入れる事が許されていたから、早朝に家を出て、大正池湖畔で一眠りして昼過ぎには家に帰るツーリングはよくやったものだ。 それ程好きなバイク乗りを止めたのは、60歳の時に患った、網膜剥離が理由だ。治療は目なのに全身麻酔をする大掛かりな手術で、術後の痛みは将に言語に絶するものであったから、眼科の医者から、バイクで転んだりして頭に強い衝撃を受けると、再発する可能性があると脅かされ、あの痛みだけは二度と経験したくないばかりにバイクに乗るのを諦めたわけだ。 処が、網膜剥離の手術で入院中に、妻が買って来た自動車雑誌が、次の“玩具“を購入するきっかけとなったのは皮肉としか云いようがない。スーパーセブン・バーキンがその玩具である。 イギリスには、古くからのスポーツカーが多い。ジャガー、アストンマーチン、MG、ロータス等の名前がすぐに浮かぶだろう。 その中で、ロータスは天才的技術者と云われた、コーリン・チャップマンが独創的な車の数々を世に送り出し、レース界でも度々栄冠を得たブランドだが、その中のスーパーセブンは極めてシンプルな構造で、車が好きでガレージ作業を楽しむ人達向けに作られた組み立て式キットカーだった。しかし、シンプル・イズ・ベストの典型とも云うべき傑作車で人気が高く、完成車として売られ始め、今では全世界に愛好家が居て、本家のロータス社が当車種の製造を中止して数十年経た後もライセンスを得て製造する会社が世界に数社も現存する。 バーキンはその中の一社で南アフリカ連邦にあるが、エンジンやミッション等の主要部分は宗主国イギリス製で、最もオリジナルに近いセブンと云われているので、購入したのだ。 北陸にディラーが無かったので、大阪の代理店まで車の専門家と一緒に出向き、現物を確かめ、試乗した上で購入契約をした。 私は、これまでに十数台の車を愛用したが、乗っていてこれ程に面白い車は初めてであった。感覚的に、バイクと同じで、ドライバーの意思と車の動きが連動するのである。 走り出し、左右に曲がり、停止する事が、自由自在と云うか、意のままなのだ。そんな事は当たり前だ、とお叱りを受けそうだが、他の如何なる車とも違う感覚で、例えば、高速道路を走っていて、前の車を追い越そうと思った瞬間に既に追い越してしまっているのである。一瞬の裡に追い越し車線に出て、追い越し、再び走行車線に戻る動きが意識と連動して可能なのだ。これは正しくスーパーカーでも真似の出来ない性能だが、理由は簡単、徹底した軽量化のなせる技なのだ。 車体はパイプフレームにアルミを張った、屋根もドアも無い車で、車重は僅かに500キロ。軽自動車よりも軽いこのボディーに1700CCツインキャブの135HPエンジンを積むのだから、俊敏この上ないのは当然で、僅かにアクセルを踏むや否や後輪から煙を上げて脱兎の如く飛び出すのである。スタートダッシュだけではなく、100キロのスピードで走行中でも、更なる加速は抜群で、しかもハンドルはクイックで手首を一寸曲げる感じだけでヒョイッと方向を変えるから、追い越して又元の斜線に帰るのが瞬間的に出来る訳だ。運転席から手を垂らせば、指が地面に着く程に車高が低く、車幅は広く、タイヤも幅広、ときているから、ミズスマシの様な動きが出来、しかも車重の軽さが慣性を抑える為に傾いたりタイヤが鳴ったりせずに、スイスイ走れるのだ。追い越された方も、あれっと競り合う間もないのだから競走にもならない。 カヌーにエンジンを載せ、4輪を取り付けた様な車、と云えば判り易く、まさに4輪のバイクだから、これで山野の駆け巡る痛快さは最高で、実に楽しい乗り物だった。特筆すべきは、本来のスポーツカーの持つ、一種のスパルタンな性格が強く残っている点だろう。 フロントウインドウは平面ガラスで直立に近くて小さい上に、左右の窓ガラスもないから、風の巻き込みは物凄く、帽子などは余程きっちり被っていないと簡単に吹き飛んでしまうのだ。帽子どころか、助手席に置いた物でも、軽い物は負圧で空に吸い上げられてしまう事が度々あった。 その点、最近のスポーツカーは空力学的に色々と配慮されているので、オープンカーであっても、殆ど室内に風を巻き込まないのは良いが、私の個人的な好みから云えば、何だか物足りない感じがする。又、安全性に配慮し、ボディーも強化され、エアバックやら何やらいろいろ装備が付けられ、重くなってしまい、本来の俊敏さを失ってしまった。重い車に、どんなに馬力の有るエンジンを載せても、慣性の法則には従わざるを得ないので、直線での走りは兎も角、ワインディングでは軽量なスーパーセブン・バーキンの方が文句なしに身のこなしが早く、操る面白さが勝るのである。 このバーキンは、約4年間程乗ったが、ある時、わき見運転をしていて道路側溝に突っ込み、ボデイーが大破し、廃車にしてしまった。 処で、現在乗っているのは英国ジャガー社製のディムラー4.0で、既に17年間愛用している。優美なボデイーと上品な内装が気に入って長期間の使用となったが、故障も殆ど無く、しかも全く飽きが来ない。運転席に座っているだけで豊かな気分になれるのは、内装が本物のウッドと仕立ての良い皮製シートのなせる技だろうか。 イギリスの田舎道ではよくクラッシックカーに乗った白髪の老夫婦が車をゆっくりと走らせている風景を見掛けるが、中々渋くて良いものだ。私も是非、あやかりたいと思っているのだが、車も建物と同様で古くなるガタが来るし、当方も体力的に反射神経や視力も衰えるから果たして今後、どれだけ運転を続けられるかは判らない。 |
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