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人生の岐路 1

人生の岐路

70歳を超えたが、自覚的には4〜50代のままで、自分が年をとったとは露程も思っていない、とは云うものの、肉体的には、色々と衰えを自覚する所もある。とりわけ、網膜剥離の手術後、目の疲労が酷いのには往生する。朝、新聞を二紙読むのが習慣だが、これで、その日は終日、目が霞むのだ。だから、テニスをやる日は新聞を読むのはプレーの後にしている。テレビやパソコンも悪い。だが、不思議なことに、自然の風景はどれだけ見ていても全く違和感が無い。人工的なものを見て居ると疲れるのは何故だろうか。
いずれにせよ、情報の80%以上は、目から吸収するのだろうから、目が完璧でないのは困ったものである。
さて、ここまでの自分の人生を振り返ると、あれが分かれ道だったのだな、と思う出来事が幾つかある。場合によっては、全く別の人生を送っていたかも知れないのだ。その場面や出来事を思い起こしながら、幾つかの人生を想像するのも一興かも知れない。

その最初は、大学時代にあった。実は、高校3年の末期に、骨髄縁を患い、肋骨を一本切除し、私は危うく死を免れたが、その時に大量に投与されたサルファ剤が原因で肝機能障害を患い、一年留年を余儀なくされ、その後の大学時代はもとより、40歳過ぎまで、体調は非常に悪かったのである。
戦後10年を過ぎ、欧米では既に抗生物質(ペニシリン)の使用が一般化していたが、我が国では、漸く、特効薬として大学病院などが輸入品を試験的に使い始めた頃で、医者もその効果に自信が無かったと見え、平行して、従来からの対症薬であるサルファ剤を大量に注射し、肝臓を極度に損傷させてしまったのだ。
余談だが、それ以来、私の薬品に対する不信感は根強く、余程の事がない限り薬は用いないようにしている。風邪などで、薬を飲むことは、まず、ない。
さて、慶応大学に合格し、上京する際に、医者から云われた事は、「絶対に麻雀には手を出すな」だった。当時の学生の娯楽の筆頭は、麻雀とパチンコだったが、麻雀はのめり込む奴が多く、しかも若さに任せての徹夜マージャンなど当たり前の時代だから、体の弱い者には危険と判断したのだろう。
パチンコは嫌いで、全くやらなかったから、アルバイトもしない学生には授業に出るのが唯一の時間つぶしで、自分で云うのも何だが実に真面目に講義を聞き、勉強したものだ。慶応大学の教授陣は、夫々の分野で著名な学者が多く、自説を強調するので講義も面白いので、熱心に勉強した。だから当然、自分で云うのも何だが成績は良かった。特に、あの教授の“A”(成績はA.B.C.DでDは不合格)は絶対に取れない、と噂される科目は、執念を燃やして勉強したから、軒並み”A“を取って皆に自慢したものだ。大学の各専門科目の講義時間は、春休み、夏休み、期末休み、更には時に欠講があったりして、意外に少なく、真面目に講義に出席していれば、その教授の主張点が良く判った。だから期末試験は、その数項目の中から、直前2年間の試験問題を除けば殆どの出題が予想出来た。故に十分な準備をし、場合に依っては、模範答案まで作って各試験に臨んだから、好成績は当然だったろう。
専攻は国際政治学で、ゼミも優秀な学生が集まっていた藤原ゼミナールに入った。担任教授の藤原博士はハーバード大出身の政党政治学の権威だったが、私が4年に進学した時にフルブライト留学生としてハーバード大へ推薦するがどうかね、と打診があった。同留学制度はアメリカ上院議員、フルブライト氏が中心となって創設された制度で、授業料はもとより生活費に至るまで全額が支給される垂涎の制度だったから、私は勇躍して郷里の父母に伝えた処、案に相違し両親から大反対されてしまった。理由は、私の健康を憂慮したからで、水の違う遠隔地へ行けば、病弱な体がもたないからダメ、と云う。
確かに、航空機で、一眠りする間に飛んで行ける現在と違って、半世紀前の当時は未だ船で数週間かけて渡航するのが一般的で、“あこがれのハワイ航路”なんて流行歌が歌われていた時代だから、アメリカ大陸へ渡るともなれば、“水盃もの“だったのである。両親とすれば、病弱な息子が誰一人身寄りの無い海の向こうで、病気にでもなったら大変、と懸念したに違いない。現代と違って、親父の権威は絶対だったから、私は残念ながら断念せざるを得なかった。今から思えば、実に勿体無い事をしたと思う。そしてこれが人生の転轍機を学者から経済人の方向へ切り替えた瞬間で、もし、あの時に留学していたならば、その後は母校の慶応大学に戻って教授にでもなって、全く別の人生を送っていただろう。どちらが良かったのかは判らないが、少なくとも、自分がやりたかった事が実現しなかった悔いは残った。だから、後年、娘のまゆみが、イギリスへ留学したいと云った際に、本人の意思を尊重し、許したのも、実は自分の過去を思い起こしたからだ。

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