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ペーター・ホフマン

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・ワーグナー:歌劇『ローエングリン』全曲
 ペーター・ホフマン(T:ローエングリン)
 エヴァ・マルトン(S:エルザ)
 レオニー・リザネク(S:オルトルート)
 レイフ・ロール(Br:テルラムント)
 ジョン・マカーディ(Br:国王ハインリヒ)
 アンソニー・ラッフェル(Br:軍令使)、他
 メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団
 ジェイムズ・レヴァイン(指揮)
 演出:アウグスト・エファーディング
 美術:ミン・チョウ・リー
 衣装:ピーター・J・ホール
 映像監督:ブライアン・ラージ
 収録:1986年1月10日 メトロポリタン歌劇場
http://www.youtube.com/watch?v=U6M4LkRZn70
http://www.youtube.com/watch?v=mgHV1tRiXi0

保守的なオペラハウスでは演出家の死後何十年も同じ演出を用いていることがある。ウイーンでは1980年代に入ってもウィーラント・ワーグナーが1965年に演出したエレクトラが演奏されていたようだ(ウィーラントは同年サロメとローエングリンもウイーンで演出している)。ところがワーグナーのメッカであるバイロイト音楽祭では、弟のウォルフガング・ワーグナーはウィーラントが1966年に亡くなった後ウィーラント演出の舞台をそれほど長い間は再演しなかった。指輪は1969年まで、トリスタンも1970年までの上演となり、最後まで残ったパルジファルも1973年までだった。

演出家としてよりもマネージャーとしての才能に優れたウォルフガングは、(恐らく自身の演出では舞台を埋めきれないことから)外部の演出家の招へいに力を入れた。外部の演出家によるバイロイトの上演は、戦後再開された1951年と翌1952年に名演出家ハルトマンの伝統的なマイスタージンガーを上演した例がある。これはウィーラントの象徴的な演出による新しいパルジファルと指輪への風当たりを和らげ、音楽祭が失敗に終わるリスクを分散するのが目的だったと推測される。

1969年にさまよえるオランダ人の演出にエヴァーディングが招へいされたのはそれ以来の事件である。エヴァーディングは1967年にウイーンに登場し(それまでのカラヤン演出に代わる)新しいトリスタンを演出して好評だったのでここで抜擢されたのだろう(指揮はベーム、ニルソンのイゾルデ、ジェス・トーマスがトリスタンでウイーンにデビューした)。

以降ウォルフガングは70年代にゲッツ・フリードリヒ、パトリス・シェロー、クプファーを次々に招へいするが、その先鞭をつけたのがエヴァーディングだったのだ。ひょっとしたらウォルフガングは有能な兄に嫉妬していたのではないだろうかとも勘繰りたくなるが、しかし演出家が亡くなった古い演出をいつまでも繰り返すのではなく、新しい世代の演出家に活躍の場を与えたのは英断だったと言えるのではないだろうか。

その後エヴァーディングはトリスタンをメトでも1971年(この時もニルソンとトーマス)に、バイロイトでも1974年(指揮はクライバー)に演出しワーグナーの名演出家として名を馳せることになる。オランダ人は1989年になってメトでも演出したが残念ながら映像は残っていないようだ。
http://archives.metoperafamily.org/Imgs/ONFliegendeHollander198990.jpg
(追記:メットのオランダ人の写真がたくさんアップされたので紹介しておこう)
http://archives.metoperafamily.org/Imgs/Hollander9192.htm

エヴァーディングの演出は日本でも1986年のウイーン国立歌劇場の来日でトリスタンが上演され、ヨジョーンズとハンヌ・マイヤーがイゾルデを歌ったが私は見ていない。コロが来日予定だったが結局来日しなかった。1988年のバイエルン国立歌劇場の来日時ではマイスタージンガーが演奏され、1979年にウイーンで新演出されたパルジファルも1989年の来日公演で演奏された(エヴァーディング自身も来日した)。いずれも素晴らしい舞台だった。偶然かもしれないがいずれも主役はコロだった。コロはエヴァーディングのお気に入りだったのかもしれない。

このメトのローエングリンの映像はもともとエヴァーディングが1976年に初演したものだ。初演時はコロのタイトルロールだった。その時の様子は下記サイトで見ることができる。
http://archives.metoperafamily.org/Imgs/ONLohengrin197677.jpg

好評だったこのプロダクションはその後何度も再演され、1980年にはホフマンとイエルザレムが主役を、1984/5年のシーズンはドミンゴとSooterが主役を歌った。1985/6年のシーズンでは再びホフマンが主役を演じた。
http://archives.metoperafamily.org/Imgs/ONLohengrin198586.jpg

このビデオが収録された1986年はホフマンの全盛期にあたる。ホフマンには1982年のゲッツ・フリードリヒ演出によるバイロイトの映像もあるが、このメトの上演の方が安定して力強い。1980年代後半からホフマンは病気で体調を崩すことが多くなり、また1990年代以降はミュージカルの舞台に活動の場を移した。ワーグナーテノールとして最良の時期に当たり役の映像が残って良かった。

マルトンのエヴァがやや絶叫型で、純朴なエルザにしては迫力がありすぎるが、ロアのテルラムントとリザネクのオルトルートは適役だ。リザネクは曲の途中なのに拍手喝采を浴びている。ワーグナーでこんなことが起きるのはメトぐらいだろう(笑)。ハインリヒと軍令はバイロイトの映像の方が良い。メトのオケの軽い音とレヴァインのやや楽天的な解釈は指輪やパルジファル、あるいはトリスタンなどでは違和感がある。しかしローエングリンにおいてはそれほど大きな弱点とはならない。

画質、音質ともにまずまず良好だが、この時期に多かったアップ主体の映像のため舞台の全体像がわかりにくいのが難点だ。私が持っているのは以前パイオニアが国内で出していたLDとDVDだが、この映像は現在輸入盤のDVDでのみ手に入るようだ。日本語字幕が入ってないDVDが多くて困る。

エヴァーディングはポネルと共に70年代〜80年代を代表する演出家だったが、映像で残っている作品がそれほど多くなくて残念だ。このローエングリンとサヴァリッシュの魔笛、ベームの後宮、それにヘンゼルとグレーテルの映画ぐらいだろうか。すばらしかったマイスタージンガーとパルジファルの映像はどこかに残っていないものだろうか。

エヴァーディングのインタビューも見つけた
http://www.youtube.com/watch?v=LAGRITQO7ZA
http://www.youtube.com/watch?v=vfe4ED-hLoo&feature=related

シュバルツコプフとの対談も見つけた
http://www.youtube.com/watch?v=K3XBCXZ3TWM&feature=PlayList&p=1F8B731EEAE827C8&index=6

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86年のヴィーン来日の「トリスタン」もエファーディング演出でしたね。私はジョーンズが歌った日に行きました。この演出はバイロイトでクライバーが振った74年からの彼の「トリスタン」より更に古い60年代のベームがプレミエ振ったプロダクションじゃなかったかと思うんですが。当然ヴィーラントの影響が露わな何か中途半端に抽象的な折衷色の強いものだった記憶があります。音楽に即してはいて2幕なんかはそれなりに美しいイメージもありました。エファーディンクの演出の中では肩張らない堅実なプロの仕事である「魔笛」が印象に残ってます。ミュンヘンでは今でも使ってるようですね。
ゴットフリートの親父告発自伝では、ヴィーラントとヴォルフガングの隣接両家は犬猿の仲だったと記されてたような。

2010/1/25(月) 午前 10:47 [ 助六 ]

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キャリアが短かったホフマンは、83年にスカラのアバド/ストレーレルの「ローエングリン」で一度だけ聴いただけでしたが、ローエングリンとしても軽めだった記憶があります。86年は厚みが増してそうですね。彼はトリスタンを舞台で歌ったことはなかったんでしたっけ?ジークフリートは歌ってないですよね。ストレーレル演出は白鳥騎士去来場面のフリジェリオの装置が巧みかつ美しかったんですが、映像記録は残ってないんでしょうかね。

2010/1/25(月) 午前 10:50 [ 助六 ]

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ストレーレルのローエングリンはコロが初日だけで降りた舞台ですね。再演はホフマンだったのですか。トリスタンはバイロイトで86年と87年に歌っています。ポネル演出の再演です。そういえばカラヤンのローエングリンも再演はホフマンで、「再演はホフマン」という舞台が多いような気がします。この時期はコロがいろんなところで喧嘩して舞台を降りているのでホフマンに出番が回ってきたのかも?(笑)
ヴィーラントとヴォルフガングは実はそんなに仲良くなかったのではと思っていましたがやはりそうなのですね。

2010/1/25(月) 午後 9:06 [ たか改め「みんなのまーちゃん」 ]

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86年にウイーンが持ってきたトリスタンもエヴァーディングでしたね。コロが結局来日しませんでしたが誰に代わったのでしたっけ?コロの初来日はベルリンドイツオペラまで持ち越されました。
クライバーの73年のウイーンデビューもこの舞台でした。ホップとリゲンツァでした。

2010/1/26(火) 午前 1:28 [ たか改め「みんなのまーちゃん」 ]

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70年代になって独紙誌で伝えられたヴィーラント・ヴォルフガング両兄弟の発言があります。
ヴィーラントはヴォルフガングの60年の「指環」演出について「全くもってバイロイトであってはならない類のもの」と言ったそうです。ヴェルフガングはヴィーラントについて「違反を多くやらかすほど、皆彼が偉大だと言う。何というナンセンス」とインタヴューで語った由。
ヴォルフガング家の子供達はヴィーラントのプロダクションを見に行くことは禁じられていたそうです。

2010/1/30(土) 午前 11:24 [ 助六 ]

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そうそう、ストレーレルの「ローエングリン」は81年12月のスカラ開幕上演としてプレミエになり、コロが初日と2日目だったかだけ歌って降板したプロダクションでした。翌シーズン再演時はローエングリン役は最初からホフマンでしたが、エルザにM・プライスが予定されていたのが話題でした。でも彼女は結局キャンセル、代役はS・ハスでした。

2010/1/30(土) 午前 11:26 [ 助六 ]

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エファーディングの「トリスタン」はベームやクライバー縁のプロダクションだったんですね。86年来日時のトリスタン役は結局、G・ブレンアイスでした。初日の後すぐ畑中良輔氏の「ところどころ素晴らしく伸びの良い声も出るが、弱点が目立ちすぎる。手で拍子を取りながら歌われたのでは興醒め」もみたいな評が朝日に出たのを憶えてます。私が見た日は、注意されたのか「手拍子」はありませんでしたが、それを楽しみに来てガッカリしてる御仁までいましたわ(笑)。やはりかなり不満の残るレヴェルでしたねぇ。この時は予定されていなかったアダムが突然マルケ王で登場し、まだまだ「腐る前のタイ」でした。
指揮はホルライザーで厳しい日本のヴァーグナー好き聴衆からはかなりのブーが出てました。外来オペラでのブーイングはこれが初めてだったかも。個人的には微温的ではあるけれど、ヴァーグナーの無限旋律を壊さぬように丁寧に鳴らしていて長老の一家言ある指揮と思いましたが。

2010/1/30(土) 午前 11:27 [ 助六 ]

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私はコロには83年にヴィーンでフィデリオで一度接したキリでした。ヴィントガッセンなんかを思い起こせば勿論はるかに明るく軽いとは言え、その後のヴァーグナー・テノールに比べても一際腰の強い強靭な声ではありました。ただ各音符の音程が最終的に決まるまでフラつくような危うさがあって、ヴィーンでは結構ブーを喰らってましたね。

2010/1/30(土) 午前 11:29 [ 助六 ]

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そうでした。86年のトリスタンは結局ブレンアイスでした。ホルライザーのワーグナーにブーイングですか。この時の演奏は聞いていませんが聞き手が分かっていないのではないでしょうか?(笑)89年のウイーンのパルジファルは素晴らしかったですよ。コロの主役、エヴァーディング演出と合わせて一生忘れられない舞台のひとつです。
アダムも88年にザックスを聞きましたが全然良かったですよ。

2010/2/6(土) 午後 9:36 [ たか改め「みんなのまーちゃん」 ]

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アダムのサックスを聞かれましたか(羨)。一生、財産ですね。
私は、83年にリンデンのパリ来演で彼が初日1回だけサックス歌った時にはパリ不在で聞けず、数ヵ月後に彼が再びヴィーンで歌った時には無理して頑張って出掛けたのですがキャンセルで、私には以来彼のザックスは永遠の幻となりました。
当時ミュンヘンに滞在中だった磯山雅氏がやはりアダム目当てで同じ公演を聴きに行かれたようで、レコ芸に「私は配役表の前に呆然と立ちすくんでいた」とか書かれていたのを憶えてます。

2010/2/10(水) 午前 11:37 [ 助六 ]


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