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ソニー元社長の大賀典雄さんが4月に亡くなられた。大賀さんは東京芸術大学出身の声楽家でありながら実業家として成功した異色の経歴の持ち主だ。現ソニーミュージックの初代社長として音楽事業を育て、さらにソニーがゲーム事業への進出や米国のコロンピア映画買収によりソフトビジネスに大きく注力することになったのも、芸術家である大賀さんならではのリーダーシップがあったからだろう。
大賀さんは日本リヒャルト・シュトラウス協会の理事長を長いこと務められた。当時は会長にはサントリーの佐治敬三元会長、名誉会長にサヴァリッシュ、理事には指揮者の朝比奈隆や、岩城宏之、尾高忠明、二期会の中山悌一などそうそうたる顔ぶれが揃っていた。定期会合にはフィッシャー・ディースカウやプライ、ポップなどの名歌手が時折顔を出して、ちょっとしたスピーチをしてからシュトラウスを2曲ぐらい歌ってくれるのが恒例で、今から考えれば信じられない夢のような話だ。
そのような貴重な時間が実現したのも音楽家に広い顔を持つ大賀さんがいらしたからこそだろう。ビジネスと文化振興の両立を目指した大賀さんのご冥福をお祈りしたい。
R.シュトラウス:オーケストラ歌曲集
・献呈
・憩え、わが魂
・ツェツィーリエ
・明日
・子守歌
・親しき幻
・春の祭り
・東から来た三博士
・「4つの最後の歌」
ギネス・ジョーンズ(ソプラノ)
パテルノストロ指揮東京交響楽団
1991年4月29日 サントリーホールでのライブ録音
KOCH SCHWANN CD 314081 H1
このCDに収められたオーケストラ歌曲のリサイタルはちょうどその頃、私がシュトラウスかぶれをしていた時期のものだ。私もサントリーホールで聴いたが大変素晴らしいコンサートだった。この当時シュトラウスの歌曲集のCDはシュバルツコプフとデラ・カーザのものくらいしかまだなく、ツェツィーリエや春の祭りのようなドラマティックな曲は入っていなかったのでこれらの曲は特に印象に残った。
1990年前後、ジョーンズはこのリサイタル以外にもウィーン国立歌劇場やベルリン・ドイツ・オペラの「トリスタンとイゾルデ」、メットの「ワルキューレ」など比較的頻繁に日本を訪れ、日本R.シュトラウス協会の会合にも顔を出してくれた。
FM放送とCDの発売が予定されていることはコンサート当日から聞いていたので首を長くして待っていたのだが.....当日の3割ぐらいの音しか入っていないので大変がっかりした。開館当時のサントリーホールはワンワン鳴るようなセッティングになっていて録音が難しかったことは前に指摘したが、それがもろに音に出てしまった感じだ。
当日のジョーンズの声はホール全体を揺れ動かすような圧倒的な響きだったのに、このCDは声がワウワウ揺れている感じにしか聞こえない。大変残念だ。あまりの失望に中古屋に売ってしまおうかと思ったが、せっかく自分が聴いたコンサートの記録なのだからと思いとどまったので手元に残った。聴くときは記憶を頼りに耳で大幅な補正をかけて聴かなければならないが(笑)。
ジョーンズのソロアルバムは意外に少なく、これ以外には同年にシャンドスに録音したワーグナー・アルバムと1989年にカプリッチョに録音したR.シュトラウスのピアノ歌曲、あとは60年代の若い頃にデッカに録音した2枚のアリア集しかないなので、その意味でも貴重な記録だ。英語のwikiにジョーンズのディスコグラフィーが載っている。
http://en.wikipedia.org/wiki/Gwyneth_Jones_(soprano)
4つの最後の歌の対訳はwikiを参照してほしい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/4%E3%81%A4%E3%81%AE%E6%9C%80%E5%BE%8C%E3%81%AE%E6%AD%8C
それにしてもあの素晴らしいコンサートからもう20年も経つとは。だがジョーンズはいまだに現役で元気に歌っているらしい。うれしい限りだ。レコード芸術の記事によると30歳も若い指揮者と再婚したそうだ。彼女も女神(あるいは魔女?)の領域に近づいているようだ(笑)。ちなみにこのCDの曲順は入れ替えられている。コンサート当日のプログラムは前半がドンファンの後に「四つの最後の歌」、後半がティル・オイレンシュピーゲルの後にチェチーリエ、明日、東から来た三博士、子守歌、春の祭り、アンコールが、憩えわが魂、親しき幻、献呈だった。
ジョーンズがパーソンズのピアノでチェチーリエを歌う1980年の映像をユーチューブで見ることができる。
http://www.youtube.com/watch?v=0IAYW17wNbc&feature=related
ベーレンス同様ジョーンズもエレクトラを得意役とし、昨日紹介した1994年1月のメットのエレクトラは4月にはジョーンズとリザネクの組み合わせですぐに再演されている。youtubeで見られる下記の映像は2階あたりの客席からの盗み撮りだ。音が悪いので正確な判断はできないが、声の威力という点ではベーレンス/ファスベンダー組を上回っているのではないだろうか。ジョーンズはメットにも数多く出演したのにメットでの映像が残っていないのは残念だ。
ジョーンズとリザネクのエレクトラ(1994年4月 メット)
http://www.youtube.com/results?search_query=elektra+jones+met+1994&aq=f
gwyneth jones as elektra.
leonie rysanek as clytemnestra.
Deborah Voight as Chrysothemis.
james levine as the conductor.
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僕がジョーンズを初めて実演で聞いたのは83年にシャトレでのライトナー指揮仏ラジオのオケ(国立管、フィルハーモニーどちらだったか失念)のコンサートでの「4つの最後の歌」でした。
彼女のリートはさすがにピアノ伴リサイタルでは聞いたことがありませんが、オケ伴では他にシャーイ指揮コンセルトヘボウで「角笛」抜粋を聞いたことがあります。
彼女はやっぱりオペラの人で、言葉がはっきりしないしリートで感心したことはないんですが、「4つの最後の歌」は女声を美しく響かせるオケ+声のゴージャス・ピースと考えれば素敵な出来でしたね。
>当日の3割ぐらいの音しか入っていないので大変がっかり
これは当日の録音条件の問題もあるでしょうが、ジョーンズはマイクに声が入りきらず、舞台でのプレスティージュが絶対に録音に反映されない歌手の典型だったと思います。
録音だとヴィブラートと言葉の不明瞭さと荒っぽさばかりが拡大されてしまって。
舞台で聞き手を長く延びるヴィブラートで彼方に運び去ってしまうような彼女の歌と体の存在感は魔術的でしたね。
2011/6/30(木) 午前 10:41 [ 助六 ]
>声の威力という点ではベーレンス/ファスベンダー組を上回っているのではないだろうか。
私は4人とも舞台で聴くチャンスがありましたが、その通りだろうと思います。
2011/6/30(木) 午前 10:42 [ 助六 ]
本当にジョーンズの声はマイクに入りにくいようでなかなか良い録音がありません。この頃のサントリーホールはワンワン鳴ったので声用のマイクを近めに置いてありました。それが最悪だったようです。
特に4つの最後の歌は実際のコンサートでは前半に置かれたので、声がまだ少し安定していない部分ばかりが目立ってしまって聞く気になれません。もしマルチトラックで収録してあればリミックスしなおしたリマスター版を出してほしいところです。
2011/6/30(木) 午後 10:07 [ たか改め「みんなのまーちゃん」 ]