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・シベリウス:ヴァイオリン協奏曲ニ短調
ロジェストヴェンスキー指揮ロンドン響
(1977)
ムーティ指揮フィルハーモニア管
(1982)
シベリウスのコンチェルトはクレーメルの十八番だ。私も東京で素晴らしい演奏を聴くことができた(バックはヤンソンスだった)。クレーメルの右足のリズムの取り方が野球の左バッターのようなフットワークで面白かったことを思い出した。
チャイコフスキーコンクールの最終審査ではチャイコフスキーのコンチェルトに加えてもう一曲弾かなければならないが、1970年に優勝した際にクレーメルが選んだのもシベリウスのコンチェルトだった(第二楽章だけがFMで放送されたらしい)。今度はエルガーでなくて良かった(笑)。
録音も2種類残されている。1976年にカラヤンとブラームスをEMIに録音した翌年にロジェストヴェンスキーと録音した西独のオイロディスク盤と、1982年にムーティと録音したEMI盤だ。いずれもなかなか良い演奏で特にムーティ盤は昨日紹介したシューマン共々私が好きなディスクの1つだ。ただ、バックのオケの性格が全く異なるのでどちらが優れているかの評価は恐らく人により異なると思う。
ロジェストヴェンスキーはオイストラフやシェリングともこの曲を録音しているだけあって、シベリウスに対して多くの人が持つイメージ通りの安定して聞ける演奏だ。クレーメルのソロもその線に沿った余裕を感じさせるものだ。この盤はカップリングがシュニトケの現代作品なのでシベリウスの方はあまり前衛的にならないように配慮した可能性もあるだろう。
一方でムーティ盤は、シベリウスにしてはやや力の入った指揮で少々異色と言えるだろう。(アバドもそうだが)そもそもムーティはシベリウスを振らない人なので、なぜこのディスクでムーティと共演したのか事情は私はよく知らない。この時期クレーメルはカラヤン、バーンスタイン、マゼール、アバドといった西側のメジャー指揮者との共演を重ねていたのでムーティとも一度共演してみたかったのだろう。
クレーメルのソロはムーティ盤の方がよりエッジが立ったシャープな感じになって私には好ましい。クレーメルのそのような変化を考慮すれば、ムーティのやや戦闘的なオケも方向性としては合致しているように思う。EMIへのクレーメルの録音は、これ以外にはカラヤンとのブラームスと最近のアルゲリッチとの共演があるくらいなので、この録音は当時EMI専属だったムーティと共演するために制作された推測される(クレーメルとムーティは1995年にパガニーニの4番も録音している)。
いずれにしても言えることは(昨日紹介したシューマンのコンチェルトもそうだが)、クレーメルがバックのオケによって演奏をかなり変えているということは特筆に値すると思う。彼がいかにデリケートで耳がよい音楽家なのかが分かる。ハイフェッツが誰がオケを振ってもお構いなし、という感じなのとはだいぶ方向性が異なるのだ。このクレーメル盤は最新の「名曲名盤」では1票ずつしか入っていない。ハイフェッツ盤には10人中9票が入れられダントツの首位なのとは大きな開きがあるが、これもぜひ聞いてほしい演奏だ。
余談だが、アバドはムソルグスキーのスペシャリストとして知られ、ムーティはプロコフィエフやスクリャービンの全集まで作っており、共にロシア物は大好きなのにシベリウスやグリーグ、ニールセンあたりの北欧物には目もくれないのは大変不思議な現象だ。
(追記)
詳細不明ながら1990年頃とされるライブ録音をユーチューブで見つけた。
http://www.youtube.com/watch?v=4BIZLNx5miw&feature=related
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アバドとムーティが北欧物に関心を示さないのは分かる気がしますが、確かに前者がムソルグスキー、後者がスクリャービンに大変熱心でしかも目立って優れた成果を上げてるのは面白いですね。
ヴィーンの「ホヴァンシチナ」は私が見たアバドのオペラ上演の中でもニュアンス豊かな最上級の出来でしたし、ムーティはパリでも仏国立管を振って合唱とソロが要るスクリャービンの1番をやってくれたことがありましたが、これはムーティの管弦楽曲演奏の中でも最も印象に残るものでした。
2012/3/31(土) 午前 8:28 [ 助六 ]